フロベニウスの定理を例題から解説|正方行列と多項式と固有値

線形代数学
線形代数学

多項式$f(x)=a_nx^n+\dots+a_1x+a_0$と正方行列$A$に対して,

    \begin{align*}f(A):=a_nA^n+\dots+a_1A+a_0I\end{align*}

とするとき,$f(A)$は正方行列となりますね($I$は単位行列).

フロベニウス(Frobenius)の定理

  • 行列$A$の固有値
  • 行列$f(A)$の固有値

の関係を述べた定理で,$f(A)$の固有値を求めるのにとても便利です.

なお,この記事で扱うフロべニウスの定理はペロン-フロベニウス(Perron-Frobenius)の定理とは別の定理です.

フロべニウスの定理

フロべニウスの定理は以下の通りです.

[フロべニウスの定理] $f(x)$を多項式,$A$を$n$次正方行列とする.$A$の固有値を重複を許して$\lambda_1,\dots,\lambda_n$とすると,$f(A)$の固有値は重複を許して$f(\lambda_1),\dots,f(\lambda_n)$である.

ただし,$f(A)$の固有値の重複度は$A$の固有値の重複度が保たれる.

具体例を考えましょう.

具体例1

多項式$f(x)=2x-1$と2次正方行列$A=\bmat{1&2\\2&1}$に対して,$f(A)$の固有値と重複度を求めよ.

フロベニウスの定理から$A$の固有値を求め,それを$f(x)$に代入したものが$f(A)$の固有値ですね.

正方行列$A$の固有値は$A$の固有方程式を解くことで得られることを思い出しておきましょう.

$A$の固有多項式

    \begin{align*}|xI-A| =&\vmat{x-1&-2\\-2&x-1} \\=&(x-1)^2-(-2)^2 \\=&(x+1)(x-3)\end{align*}

となるので,$A$の固有方程式$|Ax-I|=0$の解は$x=3,-1$である.

よって,$A$固有値は$3$, $-1$でともに重複度は$1$なので,フロべニウスの定理から$f(A)$の固有値は$f(3)$, $f(-1)$である.

$f(3)=5$, $f(-1)=-3$なので,$f(A)$の固有値は$5$, $-3$でともに重複度は$1$である.

具体例2

次の問題ではフロべニウスの定理の重複度の保存について注意が必要です.

多項式$f(x)=x^2-2x+1$と2次正方行列$A=\bmat{1&2\\2&1}$に対して,$f(A)$の固有値と重複度を求めよ.

例1から$A$の固有値は$3$, $-1$でそれぞれ重複度は$1$である.

よって,フロべニウスの定理から$f(A)$の固有値は$f(3)$, $f(-1)$である.

いま$f(3)=4$, $f(-1)=4$とこれらは等しいから,$f(A)$の固有値は$4$のみで重複度は$2$である.

この例のように,一般に$A$の異なる全ての固有値を$\lambda_1,\dots,\lambda_k$ $(k\le n)$としても,$f(\lambda_1),\dots,f(\lambda_k)$がすべて異なるとは限らず,このときは同じものは重複度が足し合わされることに注意してください.

フロべニウスの定理の証明

最初に行列が相似であることの定義を確認しておきます.

行列$A$と$B$が相似であるとは,ある正則行列$P$が存在して$P^{-1}AP=B$を満たすことをいう.

フロべニウスの定理の証明のキーとなる事実は次の[定理1],[定理2]です.

[定理1] 任意の正方行列$A$は上三角行列と相似である.すなわち,ある正則行列$P$が存在して,

    \begin{align*}P^{-1}AP=\bmat{*&*&\dots&*\\0&*&\ddots&\vdots\\\vdots&\ddots&\ddots&*\\0&\dots&0&*}\end{align*}

となる.

任意の複素正方行列がJordan標準形と相似であることを考えれば,この[定理1]が正しいことが分かります.

そこまで大きな事実を用いなくても基本変形が基本行列をかけることで引き起こせることから地道に示すこともできます.

[定理2] 行列$A$と$B$が相似なら,$A$の固有値と$B$の固有値は重複度も込めて等しい.

つまり,相似な行列同士では固有値が重複度も込めて保存するというわけですね.

それでは[定理1],[定理2]を認めてフロべニウスの定理の証明をしましょう.

$I$を$n$次単位行列とし,

    \begin{align*}f(x):=a_mx^m+\dots+a_1x+a_0\end{align*}

とする.[定理1]よりある$n$次正則行列$P$が存在して,$P^{-1}AP$は上三角行列となる.

このとき,$B:=P^{-1}AP$とおくと,$B^1,B^2,\dots,B^m$も上三角行列だから,$f(B)$も上三角行列である.

また,[定理2]より$A$の固有値と$B$の固有値は重複度も込めて等しいので,$B$の固有値は$\lambda_1,\dots,\lambda_n$である.

よって,$B$の対角成分は$\lambda_1,\dots,\lambda_n$だから,$B^i$の対角成分は

    \begin{align*}{\lambda_1}^i,\dots,{\lambda_n}^i\end{align*}

である($i=1,\dots,m$).

これより$f(B)=a_mB^m+\dots+a_1B+a_0I$の対角成分は$f(\lambda_1),\dots,f(\lambda_n)$なので,$f(B)$も上三角行列であることに注意すると,$f(B)$の固有値は

    \begin{align*}f(\lambda_1),\dots,f(\lambda_n)\end{align*}

である.いま

    \begin{align*}P^{-1}A^iP=(P^{-1}AP)^i=B^i\quad(i=1,\dots,m)\end{align*}

だから,

    \begin{align*}&P^{-1}f(A)P \\&=P^{-1}\left(a_mA^m+a_{m-1}A^{m-1}+\dots+a_0I\right)P \\&=a_m\left(P^{-1}A^mP\right)+a_{m-1}\left(P^{-1}A^{m-1}P\right)+\dots+a_0\left(P^{-1}IP\right) \\&=a_m{B^m}+a_{m-1}{B^{m-1}}+\dots+a_0{I}=f(B)\end{align*}

である.すなわち,$f(A)$と$f(B)$は相似である.よって,$f(A)$の固有値も$f(\lambda_1),\dots,f(\lambda_n)$である.

証明の過程から$A$の固有値の重複度が$f(A)$の固有値の重複度に遺伝することも分かりますね.

参考文献

手を動かしてまなぶ 線形代数

[藤岡敦 著/裳華房]

線形代数の入門書で,説明も非常に丁寧なので初学者にも読み進めやすい教科書です.

数学で初めて出会った概念で詰まった時には,具体例を考えることで理解できるようになることはよくあります.

特に線形代数は高校数学で扱ってきた数学よりも抽象度がやや増すので,いきなり抽象的に理解するよりも「具体例を理解→抽象化」という学び方が効果的です.

本書は具体例と例題が豊富で,実際に手を動かしながらイメージを掴んで抽象的に理解することを目指しています.

また,続巻も発行されていますが,この第1巻だけでも正方行列の対角化(固有値・固有ベクトル)まで学ぶことができます.

線型代数入門

[齋藤正彦 著/東京大学出版会]

線形代数の教科書として半世紀に渡って売れ続けている超ロングセラーの教科書です.

発刊されてから本書の内容の流れが線形代数の教科書のスタンダードとなったほど,日本の線形代数の指導にインパクトを与えた名著です.

その証拠に,著者の齋藤正彦氏は本書で日本数学会出版賞を受賞しています.

「線形代数をとりあえず使えるようにするための教科書」ではなく「線形代数を理解するための教科書」のため,論理的に非常に詳しく書かれているのが特徴です.

また,テキストのレベルとしては少なくとも理論系(特に数学系)の学部生であれば,確実に理解しておきたい程度のものとなっています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

管理人

プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.公式LINEを友達登録で【限定プレゼント】配布中.

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