2014大学院入試|京都大学 数学・数理解析専攻|基礎科目II

京都大学|大学院入試
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2014年度の京都大学 理学研究科 数学・数理解析専攻の大学院入試問題の「基礎科目II」の解答の方針と解答です.

ただし,採点基準などは公式に発表されていないため,ここでの解答が必ずしも正解とならない場合もあり得ます.ご注意ください.

また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.

なお,過去問は京都大学のホームページから入手できます.

過去の入試問題 | Department of Mathematics Kyoto University

問題と解答の方針

問題は7問あり,数学系志願者は問1~問5の5問を,数理解析系志願者は問1〜問7から5問を選択して解答します.試験時間は3時間です.

この記事では問5まで掲載しています.

問1

実数値関数$f(x)$は$[0,\infty)$で連続で,$\lim\limits_{x\to\infty}f(x)=1$とする.このとき

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\dfrac{1}{n!}\dint_{0}^{\infty}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx=1\end{align*}

であることを証明せよ.

解答の方針

問の極限値1は$\lim\limits_{x\to\infty}f(x)=1$の$1$であろうことは想像がつく.

実際これは正しく,任意の$\epsilon>0$に対して,$|f(x)-1|<\epsilon$をみたす$R>0$を定め,積分を$R$の前後で分けて評価すれば良い.

$\dint_{R}^{\infty}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx$は$1-\epsilon<f(x)<1+\epsilon$であることを用いればよく,一方$\dint_{0}^{R}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx$は$f$がコンパクト集合$[0,R]$で連続であることを用いればよい.

どちらも$\dint e^{-x}x^{n}\,dx$の計算に帰着する.

部分積分を繰り返して$\dint e^{-x}x^{n}\,dx$が計算できるが,これはガンマ関数$\Gamma(\alpha)=\int e^{-x}x^{\alpha-1}\,dx$($\alpha>0$)が満たす性質$\Gamma(\alpha+1)=\alpha\Gamma(\alpha)$を示す方法と同様である.

解答例


部分積分を繰り返し行うことにより,

    \begin{align*}&\frac{1}{n!}\int e^{-x}x^{n}\,dx =-\frac{e^{-x}x^{n}}{n!}+\frac{1}{(n-1)!}\int e^{-x}x^{n-1}\,dx \\&=-\frac{e^{-x}x^{n}}{n!}-\frac{e^{-x}x^{n-1}}{(n-1)!}+\frac{1}{(n-2)!}\int e^{-x}x^{n-2}\,dx \\&=\dots \\&=-\frac{e^{-x}x^{n}}{n!}-\frac{e^{-x}x^{n-1}}{(n-1)!}-\dots-\frac{e^{-x}x}{1!}+\frac{1}{0!}\int e^{-x}\,dx \\&=-\frac{e^{-x}x^{n}}{n!}-\frac{e^{-x}x^{n-1}}{(n-1)!}-\dots-\frac{e^{-x}x}{1!}-\frac{e^{-x}}{0!} \\&=-e^{-x}\sum_{k=0}^{n}\frac{x^{k}}{k!}\end{align*}

が分かる.ただし,$0^0=1$とする.

ここで,任意に$\epsilon>0$をとる.$\lim\limits_{x\to\infty}f(x)=1$より,$R>0$が存在して,$x\ge R$なら$\abs{f(x)-1}<\epsilon$が成り立つから,

    \begin{align*}\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty} f(x)e^{-x}x^{n}\,dx <&(1+\epsilon)\brc{-e^{-x}\sum_{k=0}^{n}\frac{x^{k}}{k!}}_{R}^{\infty} \\=&(1+\epsilon)e^{-R}\sum_{k=0}^{n}\frac{R^{k}}{k!} \\\to&(1+\epsilon)e^{-R}e^{R} =1+\epsilon\quad(n\to\infty), \\\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty} f(x)e^{-x}x^{n}\,dx >&(1-\epsilon)\brc{-e^{-x}\sum_{k=0}^{n}\frac{x^{k}}{k!}}_{R}^{\infty} \\=&(1-\epsilon)e^{-R}\sum_{k=0}^{n}\frac{R^{k}}{k!} \\\to&(1-\epsilon)e^{-R}e^{R} =1-\epsilon\quad(n\to\infty)\end{align*}

なので,$\epsilon$の任意性より

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty} f(x)e^{-x}x^{n}\ dx=1\end{align*}

が従う.また,$f$はコンパクト集合$[0,R]$で連続だから,$M:=\max\limits_{x\in[0,R]}\abs{f(x)}$が存在するので,

    \begin{align*}\abs{\frac{1}{n!}\int_{0}^{R} f(x)e^{-x}x^{n}\,dx} \le&\frac{1}{n!}\int_{0}^{R} |f(x)|e^{-x}x^{n}\,dx \\\le&\frac{M}{n!}\int_{0}^{R}e^{-x}x^{n}\,dx \\=&M\bra{-e^{-R}\sum_{k=0}^{n}\frac{R^k}{n!}+1} \\\to&M\bra{-e^{-R}e^{R}+1} =0\quad(n\to\infty)\end{align*}

だから,

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n!}\int_{0}^{R} f(x)e^{-x}x^{n}\,dx=0\end{align*}

が従う.以上より,

    \begin{align*}&\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n!}\int_{0}^{\infty}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx \\=&\lim_{n\to\infty}\bra{\frac{1}{n!}\int_{0}^{R}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx+\frac{1}{n!}\int_{R}^{\infty}f(x)e^{-x}x^{n}\,dx} \\=&1\end{align*}

が従う.

問2

$n$, $m$を正の整数とする.$x$を変数とする$n$次以下の$\C$係数多項式の全体を$V_n$とし,和,差,スカラー倍により$V_n$を$\C$上のベクトル空間とみなす.$m$個の複素数$\alpha_1,\dots,\alpha_m$に対し,線形写像$F:V_n\to\C^m$を$F(f)=(f(\alpha_1),\dots,f(\alpha_m))$で定める.このとき,

(i) $F$が単射になるための必要十分条件を$n$, $m$, $\alpha_1\dots,\alpha_m$のみを用いて述べよ.

(i) $F$が全射になるための必要十分条件を$n$, $m$, $\alpha_1,\dots,\alpha_m$のみを用いて述べよ.

解答の方針

問が曖昧であるが,ここでは$\alpha_1,\dots,\alpha_m$がすべて異なるとは限らないとして解答する.したがって,集合$\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}$の元の個数は$m$以下であるとする.

(i) $F$は線形なので,$F$が単射であることと$\operatorname{Ker}F=\{0\}$であることは同値であることに注意する.

$r:=\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}$とし,$\alpha_1,\dots,\alpha_m$のうち等しいものをまとめたものを$\beta_1,\dots,\beta_{r}$とする.

もし$n\ge r$なら,$f(x)=(x-\beta_1)\dots(x-\beta_r)\in V_n\setminus\{0\}$は$F(f)=0$をみたすから$\mathrm{Ker}F\neq\{0\}$である.

また$n<r$なら,代数学の基本定理により$F$は単射となる.

(ii) $F:V_n\to\C^m$について,$\dim{V_n}=n+1$, $\C^m$なので,$n+1<m$の場合には全射になり得ない.

また,もし$m>\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}$なら,$\alpha_i=\alpha_j$となる$i$, $j$が存在するから全射でない.

逆に,$n+1\ge m$なら,任意の$(\gamma_1,\dots,\gamma_m)\in\C^m$に対して$F(f)=(\gamma_1,\dots,\gamma_m)$となる$f\in V_n$が構成できるから,$F$は全射となる.

解答例


(i) $r:=\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}$とし,$\alpha_1,\dots,\alpha_m$の等しいものを全てまとめて$\beta_1,\dots,\beta_r$とする.

$F$は線形だから,$F$が単射であることと,$\operatorname{Ker}F=\{0\}$であることが同値であることに注意する.

もし$n\ge r$なら

    \begin{align*}f(x)=(x-\beta_1)\dots(x-\beta_r)\in V_n\setminus\{0\}\end{align*}

は$F(f)=(0,\dots,0)$をみたすから,$\operatorname{Ker}F\neq\{0\}$でない.よって,$F$が単射なら$n<r$を満たすことが必要である.

逆に$n<r$とすると,$f(x)\in V_n\setminus\{0\}$なら$\beta_1,\dots,\beta_r$の少なくとも1つを根にもたないので,$F(f)\neq(0,\dots,0)$である.

よって,$\operatorname{Ker}F=\{0\}$となり,$F$は単射である.

以上より,$F$が単射となるための必要十分条件は

    \begin{align*}n<\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}\end{align*}

である.

(ii) もし$m>\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}$なら,$\alpha_i=\alpha_j$, $i<j$なる$i,j\in\{1,\dots,m\}$が存在するから,任意の$f\in V_n$に対し,$F(f)=(\dots,f(\alpha_i),\dots,f(\alpha_j),\dots)$は第$i$成分と第$j$成分が等しいから全射になりえない.

よって,$F$が全射なら$m=\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}$であることが必要である.

また,

  • $\C$上の線形空間$V_{n}$の次元は$n+1$
  • $\C$上の線形空間$\C^{m}$の次元は$m$

だから,$n+1<m$のときは$F$は全射になりえず,$F$が全射であるためには$n+1\ge m$を満たすことが必要である.

逆に,$m=\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}$かつ$n+1\ge m$が成り立つとする.任意の$(\gamma_1,\dots,\gamma_m)\in\C^{m}$に対して,

    \begin{align*}g(x) =& \frac{\gamma_1(x-\alpha_2)(x-\alpha_3)\dots(x-\alpha_m)}{(\alpha_1-\alpha_2)(\alpha_1-\alpha_3)\dots(\alpha_1-\alpha_m)} \\&+\frac{\gamma_2(x-\alpha_1)(x-\alpha_3)\dots(x-\alpha_m)}{(\alpha_2-\alpha_1)(\alpha_2-\alpha_3)\dots(\alpha_2-\alpha_m)} \\&+\dots +\frac{\gamma_m(x-\alpha_1)(x-\alpha_2)\dots(x-\alpha_{m-1})}{(\alpha_m-\alpha_1)(\alpha_m-\alpha_3)\dots(\alpha_m-\alpha_{m-1})}\end{align*}

は$m-1$次の$\C$係数多項式で,$F(g)=(\gamma_1,\dots,\gamma_m)$を満たす.さらに,$m-1\le n$だから$g\in V_n$である.

よって,$F$は全射である.

以上より,$F$が全射となるための必要十分条件は

    \begin{align*}\begin{cases} m=\#\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}\\ n\ge m-1 \end{cases}\end{align*}

である.

問3

$L_R$ $(R>0)$は複素平面において$-R+2i$を始点,$R+2i$を終点とする線分を表す.このとき

    \begin{align*}\lim_{R\to\infty}\int_{L_R}\frac{\cos{z}}{z^2+1}\,dz\end{align*}

の値を求めよ.

解答の方針

形式的には,$z=x+2i$に沿って拡張された複素平面$\C\cup\{\infty\}$を一周するときの積分と考えられるから,$\set{z\in\C}{\Im{z}\ge2}$で被積分関数は正則であることを考えると,Cauchyの積分定理より問の値は0になると予想できる.

したがって,留数が全て打ち消されるようにうまく経路を選べる可能性を感じる.実際,$z=i$を内部に含む2種類の経路をうまく選べば,留数計算すらなしに値が求まる.

解答例


$L_{R}$は

    \begin{align*}L_R=\set{z\in \C}{z=x+2i,x\in[-R,R]}\end{align*}

と表せ,以下$R>2$で考える.

    \begin{align*}&C_R:=\set{z\in \C}{z=R+(2-y)i,y\in[0,2]}, \\&L:=\set{z\in \C}{z=-x,x\in[-R,R]}, \\&C_{-R}:=\set{z\in \C}{z=-R+yi,y\in[0,2]}, \\&C:=\set{z\in\C}{z=Re^{i(\pi-\theta)},\theta\in[0,\pi]}, \\&\Gamma:=L_R\cup C_R\cup L\cup C_{-R}, \\&\Delta:=C\cup L, \\&f(z):=\frac{e^{iz}}{z^2+1}\end{align*}

とする.

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$f$は$\Gamma,\Delta$上で連続だから,

    \begin{align*}\int_{L_R}f(z)\,dz =&\int_{L_R}\frac{\cos{z}}{z^2+1}\,dz+i\int_{L_R}\frac{\sin{z}}{z^2+1}\,dz, \\\int_{C_{R}}f(z)\,dz =&\int_{0}^{2}\frac{e^{i(R+(2-y)i)}}{(R+(2-y)i)^2+1}\,(-idy) \\=&\int_{2}^{0}\frac{e^{i(R+yi)}}{(R+yi)^2+1}\,idy =-\int_{0}^{2}\frac{e^{i(R+yi)}}{(R+yi)^2+1}\,idy \\=&-\int_{0}^{2}\frac{e^{i(R+yi)}}{(R+yi)^2+1}\,idy =\int_{C_{-R}}f(z)\,dz, \\\abs{\int_{C}f(z)\,dz} =&\abs{\int_{0}^{\pi}\frac{e^{iRe^{i(\pi-\theta)}}}{R^2e^{2i(\pi-\theta)}+1}\,\bra{iRe^{i(\pi-\theta)}dz}} \le\int_{0}^{\pi}\frac{Re^{-R\sin{(\pi-\theta)}}}{\abs{R^2e^{2i(\pi-\theta)}+1}}\,dz \\\le&\int_{0}^{\pi}\frac{R}{R^2-1}\,dz =\frac{\pi R}{R^2-1} \to0\quad(R\to\infty)\end{align*}

である.ただし,$\theta\in[0,\pi]$より$-R\sin{(\pi-\theta)}<0$に注意.

$f$は$\Gamma,\Delta$上および$z=i$を除く$\Gamma,\Delta$の内部で正則で,$z=i$は$f$の1位の極である.

$\Gamma,\Delta$はその定め方からともに負の向きが定まる(向きが等しい)から,

    \begin{align*}\int_{\Gamma}f(z)\,dz=\int_{\Delta}f(z)\,dz\end{align*}

が従う.以上より,

    \begin{align*}\lim_{R\to\infty}\int_{L}f(z)\,dz =&\lim_{R\to\infty}\Re\bra{\int_{L_R}f(z)\,dz} \\=&\lim_{R\to\infty}\Re\brb{\bra{\int_{\Gamma}-\int_{C_R}-\int_{L}-\int_{C_{-R}}}f(z)\,dz} \\=&\lim_{R\to\infty}\Re\brb{\bra{\int_{\Gamma}-\bra{\int_{\Delta}-\int_{C}}}f(z)\,dz} \\=&\lim_{R\to\infty}\Re\bra{\int_{\Gamma}f(z)\,dz-\int_{\Delta}f(z)\,dz} =0\end{align*}

を得る.

問4

群$G=(\Z/4\Z)\times(\Z/6\Z)\times(\Z/9\Z)$の指数$3$の部分群の個数を求めよ.

解答の方針

$3G:=\set{3g\in G}{g\in G}$とする.$H$を$G$の指数$3$の部分群とすると,$G$の元の$3$倍は$H$に属する.すなわち,$3G\subset H$である.

よって,$(G/3G)/(H/3G)\cong G/H$なので,$G$の指数$3$の部分群と,$G/3G$の指数$3$の部分群は全単射に対応する.

さらに,準同型定理から$G/3G\cong(\Z/3\Z)\times(\Z/3\Z)$だから,$(\Z/3\Z)\times(\Z/3\Z)$の指数$3$の部分群の個数を求めれば良い.

解答例


$\Z_{n}:=\Z/n\Z$とおき,$G$の指数$3$の部分群を$H$とする.$G$は可換なので$H \lhd G$だから,$G/H$は剰余群である.

$|G/H|=3$は素数なので$G/H\cong \Z_{3}$だから,$g\in G$ならば$3g+H=3(g+H)=H$なので$3g\in H$となる.

よって,$3G:=\set{3g\in G}{g\in G} \subset H$を得る.

$(G/3G)/(H/3G)\cong G/H$なので,$G$の指数3の部分群と,$G/3G$の指数3の部分群は全単射に対応する.

自然な準同型$\phi:G\to\{0\}\times\Z_{3}\times\Z_{3}$は

    \begin{align*}&\operatorname{Im}\phi=\{0\}\times\Z_{3}\times\Z_{3}, \\&\operatorname{Ker}\phi=\Z_4\times\{0,3\}\times\{0,3,6\}=3G\end{align*}

をみたすから,準同型定理により$G/3G\cong\Z_{3}\times\Z_{3}$である.よって,$\Z_{3}\times\Z_{3}$の指数3の部分群の個数を求めればよい.

$\Z_{3}\times\Z_{3}$の指数3の部分群の位数は$|\Z_{3}\times\Z_{3}|/3=3$である.

また,素因数分解$\abs{\Z_{3}\times\Z_{3}}=3^2$により,$\Z_{3}\times\Z_{3}$の任意の真部分群の位数は3だから,$\Z_{3}\times\Z_{3}$の真部分群の数を求めれば良い.

任意の$x\in\Z_{3}\times\Z_{3}\setminus\{(0,0)\}$に対して$2x\neq(0,0)$, $3x=(0,0)$だから,$x$により生成される群$\anb{x}$は位数3の部分群となる.

$|\anb{x}|=3$は素数なので$\anb{x}$は巡回群で,$\anb{x}=\{(0,0),x,2x\}$なので,$\anb{x}=\anb{y}$となる$y\in\Z_{3}\times\Z_{3}\setminus\{(0,0)\}$は2個存在する.

したがって,求める個数は

    \begin{align*}\frac{\abs{\Z_{3}\times\Z_{3}\setminus\{(0,0)\}}}{2}=\frac{3^2-1}{2}=4\end{align*}

である.

問5

$f:S^2\to S^1$を$C^{\infty}$級写像とする.ただし,$S_n$は$n$次元球面

    \begin{align*}\set{(x_0,\dots,x_n)\in\R^{n+1}}{\dsum_{i=0}^{n}x_i^2=1}\end{align*}

表す.このとき,$S^2$上の少なくとも2点において$f$の微分は零写像になることを示せ.

解答の方針

$f$は$S^2$を$S^1$になめらかに貼り付ける写像とみることができる.

このとき,$S^2$は$S^1$の中のどこかで折り返さなければならなず,この折り返しは$S^1$の中での偏角の最小値,最大値であろうことがイメージでき,実際この偏角が最小値,最大値をとるときに微分が0となる.

このことを厳密に扱うために,写像の持ち上げを用いる.

解答例


被覆空間$p:\R\to S^1;x\longmapsto(\cos{2\pi x},\sin{2\pi x})$は$\R$が単連結だから普遍被覆である.また,$S^2$は単連結だから$f$の持ち上げ$\tilde{f}:S^2\to\R$が存在する.

$p:\R\to S^1$は被覆空間で$C^{\infty}$級,$f$はもとより$C^{\infty}$級だから$\tilde{f}$は可微分写像である.

$\tilde{f}$は連続で$S^2$はコンパクトだから,$\tilde{f}(S^2)$は最大値$M$,最小値$m$をもつ.

$a\in\tilde{f}^{-1}(M),b\in\tilde{f}^{-1}(m)$をとる.

$a\in S^2$の座標近傍$(U,\phi),(u,v)\in U$をとり,$(u_0,v_0):=\phi(a)\in \phi(U)\subset\R$とすると,$M=\bra{\tilde{f}\circ\phi^{-1}}(u_0,v_0)$が最大値だから,$\tilde{f}\circ\phi^{-1}:U\to\R$の微分可能性より,

    \begin{align*}\pd{\bra{\tilde{f}\circ\phi^{-1}}}{u}(u_0,v_0) =\pd{\bra{\tilde{f}\circ\phi^{-1}}}{v}(u_0,v_0) =0\end{align*}

である.よって,$\tilde{f}$の$a\in S^2$でのJacobi行列は

    \begin{align*}(J\tilde{f})_{a} =&\brc{\pd{\tilde{f}}{u}(a),\pd{\tilde{f}}{v}(a)} \\=&\brc{\pd{\bra{\tilde{f}\circ\phi^{-1}}}{u}(u_0,v_0),\pd{\bra{\tilde{f}\circ\phi^{-1}}}{v}(u_0,v_0)} \\=&[0,0]\end{align*}

である.$b\in S^2$でも同様にして,$\bra{J\tilde{f}}_b=[0,0]$である.

いま,$f=p\circ\tilde{f}$であるから,$f$の$a,b\in S^2$でのJacobi行列は

    \begin{align*}&(Jf)_{a}=(Jp)_{\tilde{f}(a)}(J\tilde{f})_{a}=0, \\&(Jf)_{b}=(Jp)_{\tilde{f}(b)}(J\tilde{f})_{b}=0\end{align*}

となって,$S^2$上の少なくとも2点において$f$の微分は零写像になる.

参考文献

以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.

詳解と演習大学院入試問題〈数学〉

[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]

理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.

実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.

第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率

一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

演習 大学院入試問題

[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]

上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.

全2巻で,

1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計

が扱われています.

地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.

なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

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