2017大学院入試|京都大学 数学・数理解析専攻|基礎科目

京都大学|大学院入試
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2017年度の京都大学 理学研究科 数学・数理解析専攻の大学院入試問題の「基礎科目」の解答の方針と解答です.

ただし,採点基準などは公式に発表されていないため,ここでの解答が必ずしも正解とならない場合もあり得ます.ご注意ください.

また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.

なお,過去問は京都大学のホームページから入手できます.

過去の入試問題 | Department of Mathematics Kyoto University

問題と解答の方針

問題は7問あり,数学系志願者は問1~問6の6問を,数理解析系志願者は

  • 問1〜問5の5問
  • 問6,問7から1問

の合計6問を解答します.試験時間は3時間30分です.

この記事では問7まで掲載しています.

問1

次の重積分を求めよ.

    \begin{align*}\iint_{D}e^{-\max\{x^2,y^2\}}\,dxdy\end{align*}

ここで,$D=\set{(x,y)\in\R^2}{0\le x\le1,0\le y\le1}$とする.

解答の方針

$\max\{x^2,y^2\}$を処理するために,$x^2$と$y^2$の大小に応じて$D$を分割すれば良い.

分けた後は積分順序に気を付ける.

解答例


$D_{1}=\set{(x,y)\in D}{x\ge y}$, $D_{2}=\set{(x,y)\in D}{x\le y}$とする.

    \begin{align*}\iint_{D}e^{-\max\{x^2,y^2\}}\,dxdy =&\iint_{D_{1}}e^{-x^2}\,dxdy+\iint_{D_{2}}e^{-y^2}\,dxdy \\=&\int_{0}^{1}\bra{\int_{0}^{x}e^{-x^2}\,dy}\,dx+\int_{0}^{1}\bra{\int_{0}^{y}e^{-x^2}\,dx}\,dy \\=&2\int_{0}^{1}\bra{\int_{0}^{x}e^{-x^2}\,dy}\,dx =\int_{0}^{1}2xe^{-x^2}\,dx \\=&\brc{-e^{-x^2}}_{0}^{1} =1-e^{-1}\end{align*}

を得る.

問2

実行列

    \begin{align*}A=\pmat{ 1&-2&-1&1&0\\ -2&5&3&-2&1\\ 1&1&2&0&-1\\ 5&0&5&3&2}\end{align*}

について,以下の問に答えよ.

(i) 連立1次方程式

    \begin{align*}A\pmat{x_1\\x_2\\x_3\\x_4\\x_5}=\pmat{0\\0\\0\\0}\end{align*}

の解を全て求めよ.

(ii) 連立1次方程式

    \begin{align*}A\pmat{x_1\\x_2\\x_3\\x_4\\x_5}=\pmat{0\\-1\\1\\c}\end{align*}

が解を持つような実数$c$を全て求めよ.

解答の方針

(i) 係数行列$A$を行基本変形することにより求められる.

(ii) 係数行列$A$と連立方程式の拡大係数行列のrankが等しいことが,解を持つための必要十分条件である.

rankは行基本変形により求められる.

解答例


(i) 行基本変形により,

    \begin{align*}A \to&\bmat{1&-2&-1&1&0\\0&1&1&0&1\\0&3&3&-1&-1\\0&10&10&-2&2} \\\to&\bmat{1&0&1&1&2\\0&1&1&0&1\\0&0&0&-1&-4\\0&0&0&-2&-8} \\\to&\bmat{1&0&1&0&-2\\0&1&1&0&1\\0&0&0&-1&-4\\0&0&0&0&0}\end{align*}

だから,与えられた連立1次方程式の解は,

    \begin{align*}\bmat{x_1\\x_2\\x_3\\x_4\\x_5} =\bmat{-t+2s\\-t-s\\t\\-4s\\s} \quad (t,s\in\R)\end{align*}

で与えられる.

(ii) 与えられた連立1次方程式が解を持つための必要十分条件は,

    \begin{align*}\operatorname{rank}\brc{A,\bmat{0\\-1\\1\\c}} =\operatorname{rank}A\end{align*}

である.(i)から$\operatorname{rank}A=3$で,

    \begin{align*}3=&\operatorname{rank}\brc{A,\bmat{0\\-1\\1\\c}} \\=&\operatorname{rank}\bmat{1&-2&-1&1&0&0\\0&1&1&0&1&-1\\0&3&3&-1&-1&1\\0&10&10&-2&2&c} \\=&\operatorname{rank}\bmat{1&0&1&1&2&-2\\0&1&1&0&1&-1\\0&0&0&-1&-4&4\\0&0&0&-2&-8&c+10} \\=&\operatorname{rank}\bmat{1&0&1&0&-2&2\\0&1&1&0&1&-1\\0&0&0&-1&-4&4\\0&0&0&0&0&c+2}\end{align*}

である.よって,求める実数$c$は$c+2=0\iff c=-2$である.

問3

$m$, $n$を正の整数とし,$A$を複素$(n,m)$行列,$B$を複素$(m,n)$行列とする.複素数$\lambda\neq0$について,以下の問に答えよ.

(i) $\lambda$が$BA$の固有値ならば,$\lambda$は$AB$の固有値でもあることを示せ.

(ii) $\C^{m}$, $\C^{n}$の部分空間$V$, $W$をそれぞれ

  • $V=\{\m{x}\in\C^{m}|$ある正の整数$k$に対して$(BA-\lambda I_m)^{k}\m{x}=\m{0}$が成り立つ$\}$
  • $W=\{\m{y}\in\C^{n}|$ある正の整数$l$に対して$(BA-\lambda I_n)^{l}\m{y}=\m{0}$が成り立つ$\}$

で定める.ただし,$I_m$, $I_n$は単位行列,$\m{0}$は零ベクトルを表す.このとき,$\dim{V}=\dim{W}$であることを示せ.

解答の方針

(i) $v$を$BA$の固有値$\lambda$に関する固有ベクトルとすると,$Av$は$AB$の固有値$\lambda$に属する固有ベクトルとなる.

(ii) (i)から,$v\in V$に対して$Av\in W$であることが予想できる.すなわち,行列$A$を左からかける写像$V\to W$が定義できることが予想できる.

さらに,この写像が単射であることを示せば,$\dim{V}\le\dim{W}$が得られる.

同様にして,この逆の不等号も同様にして得られるから題意が従う.

解答例


(i) $BA$の固有値$\lambda$に属する固有ベクトルの1つを$\m{v}$とすると,

    \begin{align*}BA\m{v}=\lambda\m{v}\end{align*}

である.もし$A\m{v}=\m{0}$なら$\lambda\m{v}=0$で,$\lambda\neq0$と併せて$\m{v}=0$となって$\m{v}$が固有ベクトル(したがって$\m{v}\neq0$)であることに矛盾するから,$A\m{v}\neq\m{0}$である.

また,

    \begin{align*}AB(A\m{v})=A(BA\m{v})=A(\lambda\m{v})=\lambda(A\m{v})\end{align*}

となるから,$AB$は固有値$\lambda$をもつ.

(ii) $\m{v}\in V$とすると,ある正の整数$k$が存在して$(BA-\lambda I_m)^{k}\m{v}=\m{0}$をみたすから,

    \begin{align*}&(AB-\lambda I_n)^{k}A\m{v} \\=&\brb{\sum_{m=0}^{k}\pmat{k\\m}(AB)^{k}(-\lambda I_{m})^{k-m}}A\m{v} \\=&\brb{\sum_{m=0}^{k}\pmat{k\\m}(AB)^{k}A(-\lambda I_{m})^{k-m}}\m{v} \\=&A\brb{\sum_{m=0}^{k}\pmat{k\\m}(BA)^{k}(-\lambda I_{m})^{k-m}}\m{v} \\=&A(BA-\lambda I_{m})^{k}\m{v} =\m{0}\end{align*}

だから,$A\m{v}\in W$である.よって,線形写像$f:V\to W;\m{v}\mapsto A\m{v}$が定義できる.

$\m{v}\in\operatorname{Ker}f$なら

    \begin{align*}\m{0} =&(BA-\lambda I_{m})^{k}\m{v} \\=&\brb{\sum_{m=0}^{k}\pmat{k\\m}(BA)^{k}(-\lambda I_{m})^{k-m}}\m{v} \\=&\brb{\sum_{m=1}^{k}\pmat{k\\m}(BA)^{k}(-\lambda I_{m})^{k-m}}\m{v}+(-\lambda)^{k}\m{v} \\=&\brb{\sum_{m=1}^{k}\pmat{k\\m}(BA)^{k-1}B(-\lambda I_{m})^{k-m}}A\m{v}+(-\lambda)^{k}\m{v} \\=&\brb{\sum_{m=1}^{k}\pmat{k\\m}(BA)^{k-1}B(-\lambda I_{m})^{k-m}}\m{0}+(-\lambda)^{k}\m{v} \\=&(-\lambda)^{k}\m{v}\end{align*}

だから,$\m{v}=\mathbf{0}$となって,$\operatorname{Ker}f=\{\m{0}\}$が従う.よって,$f$は単射なので,$\dim{V}\le\dim{W}$が成り立つ.

同様に$\dim{W}\le\dim{V}$だから,

    \[\dim{V}=\dim{W}\]

が従う.

問4

$f$を$I=\set{x\in\R}{x\ge0}$上の実数値連続関数とする.正の整数$n$に対し,$I$上の関数$f_n$を

    \begin{align*}f_n(x)=f(x+n)\end{align*}

で定める.関数列$\{f_n\}_{n=1}^{\infty}$が$I$上で一様収束するとき,以下の問に答えよ.

(i) $I$上の関数$g$を

    \begin{align*}g(x)=\lim_{n\to\infty}f_n(x)\end{align*}

で定める.このとき$g$は$I$上で一様連続であることを示せ.

(ii) $f$は$I$上で一様連続であることを示せ.

解答の方針

(i) $f_n$は$f$を$n$だけ負方向に平行移動した関数である.

関数列$\{f_n\}_{n=1}^{\infty}$が$I$上で一様収束することから,$f$は$\R$が十分大きいところでは周期1の関数に近付くことが予想でき,したがって$g$は周期1の関数であることが予想できる.

これが示されれば,$g$が$[0,2]$上で一様連続であることを示せば十分で,これは$g$の連続性と$[0,2]$のコンパクト性から直ちに得られる(Heine-Cantorの定理).

ただし,$g$の連続性は連続関数列$\{f_n\}_{n=1}^{\infty}$の一様収束極限が$g$であることから得られる.

(ii) $f$は,$\R$が十分大きいところでは$g$に近付くから一様連続で,$\R$がそこまで大きくないところではHeine-Cantorの定理から一様連続である.

解答例


(i) 任意に$\epsilon>0$をとる.任意の$x\in I$に対して,

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}f_{n}(x+1) =&\lim_{n\to\infty}f(x+1+n) \\=&\lim_{n\to\infty}f_{n+1}(x) \\=&g(x)\end{align*}

である.また,

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}f_{n}(x+1)=g(x+1)\end{align*}

でもあるから,極限の一意性より$g(x)=g(x+1)$である.

$f$の連続性から$f_{n}$は連続で,関数列$\{f_n\}_{n=1}^{\infty}$は$I$上で$g$に一様収束するから$g$は連続である.したがって,$g$は閉区間$[0,2]$上でも連続だから,$g$は$[0,2]$上で一様連続である.

すなわち,ある$\delta>0$が存在して,$x,y\in[0,2]$が$|x-y|<\delta$を満たすなら,$|g(x)-g(y)|<\epsilon$が成り立つ.

よって,$|x-y|<\delta$をみたす任意の$x,y\in I$に対して,$x-k,y-k\in[0,2]$なる$k\in\Z$が存在するから,

    \begin{align*}|g(x)-g(y)| =&|g(x-1)-g(y-1)| \\=&|g(x-2)-g(y-2)| \\=&\dots \\=&|g(x-k)-g(y-k)| <\epsilon\end{align*}

が成り立つ.よって,$g$は$I$上一様連続である.

(ii) 任意に$\epsilon>0$をとる.関数列$\{f_n\}_{n=1}^{\infty}$は$I$上で$g$に一様収束する.

すなわち,ある$N\in\N$が存在して,$n>N$なら

    \begin{align*}\sup_{x\in I}|f_{n}(x)-g(x)|<\epsilon\end{align*}

が成り立つ.

[1] $[N,\infty)$上の$f$の一様連続性を示す.

(i)から$g$は$I$上一様連続である.すなわち,ある$\delta\in(0,1)$が存在して,$|x-y|<\delta$なら$|g(x)-g(y)|<\epsilon$が成り立つ.

よって,$x,y\in[N,\infty)$が$|x-y|<\delta$を満たせば,

    \begin{align*}&|f(x)-f(y)| \\=&|f_{N}(x-N)-f_{N}(y-N)| \\\le&|f_{N}(x-N)-g(x-N)| \\&+|g(x-N)-g(y-N)| +|g(y-N)-f_{N}(y-N)| \\\le&2\sup_{x\in I}|f_{N}(x-N)-g(x-N)| +|g(x-N)-g(y-N)| \\<&3\epsilon\end{align*}

が従う.

[2] $[1,N+1)$上の$f$の一様連続性を示す.

$f$は閉区間$[0,N+1]$上連続だから,$f$は$[0,N+1]$上一様連続である.すなわち,ある$\delta’\in(0,1)$が存在して,$|x-y|<\delta’$なら$|f(x)-f(y)|<\epsilon$が成り立つ.

[1], [2]より,$x,y\in I$が$|x-y|<\min\{\delta,\delta’\}$を満たすなら,$|f(x)-f(y)|<\epsilon$が成り立つ.よって,$f$は一様連続である.

問5

$p$を正の実数とし,$f(t)$を$\R$上の実数値連続関数で

    \begin{align*}\int_0^{\infty}|f(t)|\,dt<\infty\end{align*}

を満たすものとする.このとき$\R$上の常微分方程式

    \begin{align*}\od{x}{t}=-px+f(t)\end{align*}

の任意の解$x(t)$に対し$\lim\limits_{t\to\infty}x(t)=0$が成り立つことを示せ.

解答の方針

与えられた常微分方程式は両辺に$e^{pt}$をかけて積分することで,

    \begin{align*}x(t)=e^{-pt}x(0)+\dint_{0}^{t}e^{p(\tau-t)}f(\tau)\,d\tau\end{align*}

が従う.

$t\to\infty$のとき$e^{-pt}x(0)$が$0$に収束することは明らかである.

一方,$f$が可積分であるという仮定から十分大きな$R>0$に対して$\dint_{R}^{\infty}f(\tau)\,d\tau$は十分小さく,この$R$よりもさらに十分大きな$t$をとれば$\dint_{0}^{R}e^{p(\tau-t)}\,d\tau$も十分小さい.

これにより$\dint_{0}^{t}e^{p(\tau-t)}f(\tau)\,d\tau$が$t\to\infty$で$0$に近付くことも分かる.

解答例


与えられた常微分方程式は

    \begin{align*}\od{x}{t}=-px+f(t) \iff&e^{pt}\bra{\od{x}{t}(t)+px(t)}=e^{pt}f(t) \\\iff&\od{}{t}\bra{e^{pt}x(t)}=e^{pt}f(t) \\\iff&e^{pt}x(t)-e^{p0}x(0)=\int_{0}^{t}e^{p\tau}f(\tau)\,d\tau \\\iff&x(t)=e^{-pt}x(0)+\int_{0}^{t}e^{p(\tau-t)}f(\tau)\,d\tau\end{align*}

と解ける.ここで,任意に$\epsilon>0$をとる.

$\dint_{0}^{\infty}|f(t)|\,dt<\infty$だから,Cauchyの条件より,ある$R>0$が存在して

    \begin{align*}\int_{R}^{\infty}|f(t)|\,dt<\epsilon\end{align*}

が成り立つ.また,三角不等式から

    \begin{align*}|x(t)| =&\abs{e^{-pt}x(0)+\int_{0}^{t}e^{p(\tau-t)}f(\tau)\,d\tau} \\\le&e^{-pt}|x(0)|+\int_{0}^{t}e^{p(\tau-t)}|f(\tau)|\,d\tau \\=&e^{-pt}|x(0)|+\int_{0}^{R}e^{p(\tau-t)}|f(\tau)|\,d\tau+\int_{R}^{t}e^{p(\tau-t)}|f(\tau)|\,d\tau \\=&e^{-pt}|x(0)|+e^{p(R-t)}\int_{0}^{R}|f(\tau)|\,d\tau+\int_{R}^{t}|f(\tau)|\,d\tau\end{align*}

と$|x(t)|$を評価できる.よって,

    \begin{align*}\lim_{t\to\infty}|x(t)| \le\int_{R}^{\infty}|f(\tau)|\,d\tau <\epsilon\end{align*}

である.$\epsilon$の任意性から$\lim\limits_{t\to\infty}|x(t)|=0$が従う.

$f$の可積分性の条件から$\lim\limits_{t\to\infty}f(t)=0$は言えないことに注意.

問6

$X$, $Y$を位相空間とし,直積集合$X\times Y$を積位相によって位相空間とみなす.写像$f:X\times Y\to Y$を$f(x,y)=y$で定める.$X$がコンパクトならば,$X\times Y$の任意の閉集合$Z$に対し,$f(Z)$は$Y$の閉集合であることを示せ.

解答の方針

$Y\setminus f(Z)$が開であることを示せば良い.そのために,任意の$p\in Y\setminus f(Z)$に対して,$Y$における$p$の開近傍で$f(Z)$と共通部分を持たないものが存在すれば良い.

任意の$x\in X$に対して$(x,p)\notin Z$で,$(X\times Y)\setminus Z$は開だから,$Z$と共通部分を持たない$(x,p)$の開近傍$U_{x}\times V_{x}$が存在する.ただし,$U_{x}$は$x\in X$の開近傍,$V_{x}$は$p\in Y$の開近傍である.

ここで,$\bigcap_{x\in X}V_{x}$は$p\in Y$の$Y\setminus f(Z)$と共通部分を持たない近傍となっていそうではあるが,有限個の$X$が有限集合でなければ無限個の開集合の共通部分となるため開であるとは限らない.

そこで,$x\in U_{x}$より$X=\bigcup_{x\in X}U_{x}$だから,$X$のコンパクト性から有限個の$x_1,\dots,x_n$が存在して$X=\bigcup_{k=1}^{n}U_{x_k}$となることを用いると,このとき$\bigcap_{k=1}^{n}V_{x_k}$は有限個の開集合の共通部分だから開である.

この$\bigcap_{k=1}^{n}V_{x_k}$が$p$の$f(Z)$と共通部分を持たない開近傍になっていることを示せば良い.

解答例


$Y\setminus f(Z)$が$Y$の開集合であることを示せばよい.そのためには,任意に$p\in Y\setminus f(Z)$をとり,

  • $Y$における$p$の開近傍$V$が存在して
  • $V\cap f(Z)=\emptyset$が成り立つ

ことを示せば良い.

[1] $Y$における$p$の開近傍$V$の構成する.

もし,ある$x\in X$が存在して$(x,p)\in Z$なら$f(x,p)=p\in f(Z)$となって矛盾するから,任意の$x\in X$に対して$(x,p)\notin Z$である.

$Z$は閉だから,$X\times Y\setminus Z$は開である.

よって,積位相の定義より,各$x\in X$に対して,$x\in X$のある開近傍$U_{x}$と$p\in Y$のある開近傍$V_{x}$が存在して,$U_{x}\times V_{x}$は$(x,p)\in X\times Y$の開近傍となり,$(U_{x}\times V_{x})\cap Z=\emptyset$が成り立つ.

各$x\in X$に対して$x\in U_{x}$だから,当然$X=\bigcup_{x\in X}U_{x}$なので,$\{U_{x}\}_{x\in X}$は$X$の開被覆である.$X$はコンパクトだから,有限個の$x_{1},\dots,x_{n}\in X$が存在して,$X=\bigcup_{k=1}^{n}U_{x_{k}}$が成り立つ.

ここで,

    \begin{align*}V:=\bigcap_{k=1}^{n}V_{x_{k}}\end{align*}

とすると,$V$は有限個の開集合の和集合だから開であり,任意の$k\in\{1,\dots,n\}$に対して$p\in V_{x_{k}}$だから$p\in V$である.

よって,$V$は$Y$における$p$の開近傍である.

[2] $V\cap f(Z)=\emptyset$であることを示す.

任意に$q\in f(Z)$をとる.$f$の定義から,ある$r\in X$が存在して$(r,q)\in Z$が成り立つ.

また,$\{U_{x_{k}}\}_{k=1}^{n}$は$X$の被覆だから,ある$K\in\{1,\dots,n\}$が存在して$r\in U_{x_{K}}$となる.このとき,$(U_{x_{K}}\times V_{x_{K}})\cap Z=\emptyset$だから,$q\notin V_{x_{K}}$が成り立つ.

よって,$q\notin V=\bigcap_{k=1}^{n}V_{x_{k}}$となり,$V\cap f(Z)=\emptyset$が従う.

問7

$n$を正の整数とし,$\R^{n}$の2点$x=(x_1,\dots,x_n)$, $y=(y_1,\dots,y_n)$の距離$d(x,y)$を

    \begin{align*}d(x,y)=\sqrt{(x_1-y_1)^2+\dots+(x_n-y_n)^2}\end{align*}

と定める.$\R^{n}$の空でない部分集合$A$に対し,関数$f:\R^n\to\R^n$を

    \begin{align*}f(x)=\inf_{z\in A}d(x,z)\end{align*}

で定めるとき,$\R^{n}$の任意の2点$x$, $y$に対して$|f(x)-f(y)|\le d(x,y)$が成り立つことを示せ.

解答の方針

$x$と$y$の対象性から,$f(x)\ge f(y)$としても一般性を失わない.

もし$f(x)=d(x,z_1)$, $f(y)=d(y,z_2)$を満たす$z_1,z_2\in A$が存在し,さらに$z:=z_1=z_2$でもあれば,示すべき式は$|d(x,z)-d(y,z)|\le d(x,y)$であり,これは三角不等式そのものである.

この問題では,このような$z_1$, $z_2$が存在するとは限らず,存在しても$z_1=z_2$とは限らない.しかし,$f(y)=\inf\limits_{z\in A}d(y,z)\le d(y,z_1)$であることから,結局は三角不等式を用いて解くことができそうである.

つまり,もしこのような$z_1$だけでも存在した場合は,

    \begin{align*}|f(x)-f(y)|=f(y)-f(x)\le d(y,z_1)-d(x,z_1)\le d(x,y)\end{align*}

となって題意が従う.

$z_1$が存在しない場合でも,$f$の定義から任意の$\epsilon>0$に対して$|f(x)-d(x,z_x)|<\epsilon$を満たす$z_x\in A$が存在するから,この$z_x\in A$を$z_1$と思えば同様に考えられる.

解答例


任意に$\epsilon>0$をとる.$f$の定義から,各$x\in\R^{n}$に対して,ある$z_{x}\in A$が存在して

    \begin{align*}|f(x)-d(x,z_{x})|<\epsilon\end{align*}

が成り立つ.

$f(x)\ge f(y)$を満たす任意の$x,y\in\R^{n}$に対して,三角不等式$d(x,z_{y})\le d(x,y)+d(y,z_{y})$に注意すると,

    \begin{align*}|f(x)-f(y)| =&f(x)-f(y) \\=&(f(x)-d(y,z_{y}))+(d(y,z_{y})-f(y)) \\\le&\bra{\inf_{z\in A}d(x,z)-d(y,z_{y})}+|d(y,z_{y})-f(y)| \\\le&(d(x,z_{y})-d(y,z_{y}))+\epsilon \\\le&d(x,y)+\epsilon\end{align*}

を得る.よって,$\epsilon>0$の任意性から$|f(x)-f(y)|\le d(x,y)$が従う.

$f(x)\le f(y)$を満たす任意の$x,y\in\R^{n}$に対しても同様に考えられるから,任意の$x,y\in\R^{n}$に対して$|f(x)-f(y)|\le d(x,y)$が従う.

参考文献

以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.

詳解と演習大学院入試問題〈数学〉

[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]

理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.

実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.

第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率

一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

演習 大学院入試問題

[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]

上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.

全2巻で,

1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計

が扱われています.

地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.

なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

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