極限と積分の順序交換をしたいことはよくあります.
例えば,
は文字$n$が入ったまま$\int_{0}^{\infty}\frac{1}{1+x^n}\,dx$を先に計算するのは少々面倒です(留数定理を使うことになるでしょう).
一方で極限$\lim\limits_{n\to\infty}\frac{1}{1+x^n}$が計算できれば,文字$n$が消えて計算が楽になることが見込めます.
しかし,実はいつでも極限と積分は交換可能ではなく,交換すると結果が変わってしまうこともあります.
ルベーグ積分にはこの極限と積分が交換可能であるための十分条件を述べた定理があり,これがこの記事のタイトルにもあるLebesgue(ルベーグ)の収束定理です.
この記事ではLebesgueの収束定理を紹介して,実際に具体例からLebesgueの収束定理の使い方をみます.
ルベーグの収束定理
次の極限と積分の順序交換ができるための定理をLebesgueの優収束定理 (dominated convergence theorem)または単にLebesgueの収束定理といいます.
[ルベーグの優収束定理] 可測集合$A$上の可測関数列$\{f_n\}$は$A$上各点収束するとする.このとき,ある$A$上可積分関数$g$が存在して,任意の$n$に対して
を満たすなら,次の等式が成り立つ:
この定理の中で重要なのは
- 任意の$n$と(ほとんど)全ての$x\in A$に対して$|f_n(x)|\le g(x)$
- $A$上可積分:$\int_{A}g(x)\,dx<\infty$
を満たす関数$g$がとれることですね.
$|f_n|\le g$が成り立つことから,この関数$g$を$\{f_n\}$の優関数といいます.
つまり,$n$がどうなっていようが,$f_n$たちを上からおさえられる可積分関数$g$をとれれば良いわけですね.
この$g$は$n$によらない関数であることに注意してください.
ルベーグの収束定理の具体例
冒頭に挙げた極限をLebesgueの収束定理を用いて求めましょう.
$n\in\N$とする.極限
を求めよ.
広義積分とみて,任意の$\epsilon>0$に対して,積分区間を
と分け,$[0,1-\epsilon)$と$[1+\epsilon,\infty)$上一様収束を示すことで極限と積分の順序交換することもできますが,慣れてしまえばLebesgueの収束定理の方が手軽に感じられるでしょう.
解答例
任意の$n\in\N$に対して$f_n$は連続だから可測関数である.$n\to\infty$を考えるので,$n\ge2$として良い.
関数$g:[0,\infty)\to\R$を次で定める:
(i) $x\in[0,1)$なら
である.よって,$\frac{1}{1+x^{n}}$の$n\to\infty$での極限関数が$x\in[0,\infty)$で存在する.
(ii) $x\in[0,1)$なら
であり,$x\in[1,\infty)$なら
だから,任意の$x\in[0,\infty)$に対して
が成り立つ.
(iii) $g$の$[0,\infty)$での積分は
となって,$g$は$[0,\infty)$で可積分である.
(i)-(iii)から,Lebesgueの収束定理を適用できて
を得る.
$f_n(x)=\frac{1}{1+x^n}$とみて,(i)で$\{f_n\}$が各点収束することを,(ii)で$g$が$\{f_n\}$の優関数であることを,(iii)で$g$が可積分であることを示していますね.
優関数$g$の見つけ方
ポイントは優関数$g$をどうやって見つけるかですが,次の2つを当たり前にしておきましょう.
次が成り立つ.
- $\frac{1}{x^2}$は$1\le x$で可積分:$\dint_{1}^{\infty}\dfrac{1}{x^2}\,dx<\infty$.
- 定数関数$C$は有界区間$I$上で可積分:$\dint_{I}C\,dx<\infty.$
1つ目については,より詳しく$\alpha>1$なら
であることも当たり前にしておきたいところです.
よって,$x\in[1,\infty)$では
が任意の$n$に対して成り立っていて欲しく,実際$n\ge2$なら$x\in[1,\infty)$のとき$x^n\ge x^2$ですから成り立つことが分かりますね.
また,$\frac{1}{1+x^n}\le1$であることはすぐ分かるので,残る有界区間$[0,1)$の部分での優関数として定数1をとれますね.
これらをまとめて,優関数を
ととることができるわけですね.