単調有界実数列の収束定理|具体例から使い方をみる

微分積分学
微分積分学

まずは次の問題を考えましょう.

次の値$X$が存在すれば求めよ.

   \begin{align*}X=\sqrt{2\sqrt{2\sqrt{2\sqrt{\dots}}}}\end{align*}

この問題は漸化式をもつ数列の極限とみなすことで解くことができますが,この極限を考えるためにこの記事のテーマである[単調有界実数列の収束定理]を用います.

高校数学でも学ぶように,数列はいつでも収束するとは限りません.そのため,数列の極限が

  • 収束するか
  • 発散するか

の判定ができることは大切で,[単調有界実数列の収束定理]は数列の収束を保証する基本的な定理となっています.

この記事では,上記の具体例をもとに[単調有界実数列の収束定理]を説明します.

一般には「単調収束定理」と呼ばれることが多いですが,この記事では名前で意味の分かりやすい[単調有界実数列の収束定理]という呼び方を用います.

問題

冒頭の問題を少し書き直しましょう.$\sqrt{2\quad}$が$n$個入れ子になったものを$a_n$と表します:

   \begin{align*} a_n=\sqrt{2\sqrt{2\sqrt{2\sqrt{\dots2}}}}. \end{align*}

このとき,$a_n$に$\sqrt{2\quad}$をガバッと被せると($n+1$)個の$\sqrt{2\quad}$が入れ子になることになるので,

   \begin{align*} a_{n+1}=\sqrt{2a_n} \end{align*}

となりますね.

このことから,冒頭の問題は次のように書き換えられますね.

[問題1] 初項$a_0=1$の数列$\{a_n\}$が漸化式

   \begin{align*} a_{n+1}=\sqrt{2a_n} \end{align*}

を満たすとき,極限値$X=\lim\limits_{n\to\infty}a_n$が存在すれば求めよ.

以下では,この書き換えてできた問題を考えていきましょう.

実は高校数学の範囲でこの数列$\{a_n\}$の一般項$a_n$を求めて,極限$\lim\limits_{n\to\infty}a_n$を直接計算することもできます.この高校数学の範囲の解法はこの記事の最後に載せています.

単調有界実数列の収束定理

ここでは,この記事のテーマの単調有界実数列の収束定理

  • なぜ必要か?
  • どのような定理か?

を説明します.

単調有界実数列の収束定理はなぜ必要か?

[単調有界実数列の収束定理]がなぜ必要か理解するために,まずは[問題1]の誤答例を紹介します.

[誤答1] $X=\lim\limits_{n\to\infty}a_{n}$だから,漸化式$a_{n+1}=\sqrt{2a_n}$の両辺で極限$n\to\infty$を考えて

   \begin{align*} X=\sqrt{2X} \iff&\sqrt{X}\bra{\sqrt{X}-\sqrt{2}}=0 \\\iff& X=0,2 \end{align*}

である.また,数列$\{a_n\}$は単調増加(証明略)だから,$1<X\le2$なので$X=2$を得る.

この解答がなぜ誤答なのか理解するために,同じ方法で次の問題も解いてみましょう.

[問題2] 初項$b_0=1$の数列$\{b_n\}$が漸化式

   \begin{align*} b_{n+1}=2b_n+1 \end{align*}

を満たすとき,極限値$Y=\lim\limits_{n\to\infty}b_n$が存在すれば求めよ.

[誤答2] $Y=\lim\limits_{n\to\infty}b_{n}$だから,漸化式$b_{n+1}=2b_n+1$の両辺で極限$n\to\infty$を考えて

   \begin{align*} Y=2Y+1 \iff Y=-1 \end{align*}

である.

数列$\{b_n\}$の一般項は$b_n=2^n-1$なので,本来は$\lim\limits_{n\to\infty}b_n=\infty$となるはずですから,[誤答2]の$Y=-1$は明らかに誤りです.

では,この[誤答2]のどこが間違っていたかというと,あたかも$Y$が実数として存在するかのように扱っていたところです.

つまり,漸化式の両辺で極限$n\to\infty$をとってできた方程式の解が求まったとしても,それが実際の極限であるかどうか手放しには分からないわけですね.

そのため,[問題2]と同じように,先ほどの[問題1]の$\lim\limits_{n\to\infty}a_n$も$\infty$に発散しているかもしれず,この点を考慮していない点で[誤答1]に数学的なギャップがあるわけですね.

単調有界実数列の収束定理の準備

しかし,もし漸化式の両辺で極限$n\to\infty$をとるより先に極限値$X=\lim\limits_{n\to\infty}a_n$が存在することが既に分かっていたなら,先程の[誤答1]の解法に全く問題はありません.

よって,数列$\{a_n\}$の極限値$X=\lim\limits_{n\to\infty}$が存在することを示す定理があれば嬉しいわけですが,それがこの記事のテーマの単調有界実数列の収束定理です.

[単調有界実数列の収束定理]の前に

  • 実数列の有界性
  • 実数列の単調性

の定義を確認しておきます.

[上に有界] 実数列$\{a_n\}$が上に有界であるとは,集合$\{a_1,a_2,a_3,\dots\}$が上に有界であることをいう.

すなわち,ある$L>0$が存在して,任意の$n$に対して

   \begin{align*} a_n\le L \end{align*}

が成り立つことをいう.

[広義単調増加] 実数列$\{a_n\}$が広義単調増加または非減少であるとは,任意の$n$に対して

   \begin{align*} a_n\le a_{n+1} \end{align*}

を満たすことをいう.

また,実数列$\{a_n\}$が狭義単調増加であるとは,任意の$a_n<a_{n+1}$を満たすことをいいます.

単調有界実数列の収束定理

準備が整ったので[単調有界実数列の収束定理]の主張を述べます.

[単調有界実数列の収束定理] 上に有界広義単調増加する実数列は極限値をもつ.

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$\{a_n\}$は上に有界で広義単調増加するとする.

このとき,集合$\{a_1,a_2,a_3,\dots\}$は上に有界だから,上限$\alpha:=\sup\{a_1,a_2,a_3,\dots\}$が存在する.

以下,この$\alpha$が数列$\{a_n\}$の極限であることを示す.

任意に$\epsilon>0$をとる.上限の性質より,ある$N\in\N$が存在して$\alpha-\epsilon<a_{N}$を満たす.

これと数列$\{a_n\}$は広義単調増加することを併せると,任意の$n>N$に対して

   \begin{align*} \alpha-\epsilon<a_{n} \iff \alpha-a_n<\epsilon \end{align*}

が成り立つ.さらに,上限の定義より$\alpha-a_n>0$だから,$|\alpha-a_n|<\epsilon$を得る.

$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=\alpha$だから,数列$\{a_n\}$は収束する.

なお,上限については前回の記事を参照してください.

微分積分学1|最大・最小より便利な上限・下限
例えば,「5未満の実数全部の集合」には最大値は存在しませんが,「5は最大っぽい値」という気持ちはありますね,そこで,「最大値もしくは最大っぽい値」を併せて上限といい,数学では頻繁に用いられます.同様に下限も定義されます.この記事では,上限とか下限の定義と基本性質を説明しています.

上記の[単調有界実数列の収束定理]と同様に,次の定理も成り立ちます.

[単調有界実数列の収束定理2] 上に有界広義単調増加する実数列は極限値をもつ.

解答

それでは最初の[問題1]の正しい解答を書きましょう.

[問題1] 初項$a_0=1$の数列$\{a_n\}$が漸化式

   \begin{align*} a_{n+1}=\sqrt{2a_n} \end{align*}

を満たすとき,極限値$X=\lim\limits_{n\to\infty}a_n$が存在すれば求めよ.

単調有界実数列の収束定理による解法

問題の数列$\{a_n\}$にこの[単調有界実数列の収束定理]を適用することを考えましょう.まず

   \begin{align*} a_1=\sqrt{2},\quad a_2=\sqrt{2\sqrt{2}},\quad a_3=\sqrt{2\sqrt{2\sqrt{2}}}, \dots \end{align*}

ですから,単調増加していることはみてとれますね.

また,[誤答1]の中で考えたように極限$X$が存在すれば$X=2$でしたから,単調増加することと併せて$a_n\le a_{n+1}\le2$が成り立つと予想できます.

よって,これが証明できれば上に有界であることが分かるので,[単調有界実数列の収束定理]が適用できますね.


任意の非負整数$n$に対して$a_{n}\le a_{n+1}\le2$が成り立つことを数学的帰納法により示す.

[1] $n=0$のときは

   \begin{align*} a_{0}=1<a_{1}=\sqrt{2}<2 \end{align*}

だから成り立つ.

[2] $n=k$のときに成り立つと仮定する.このとき,

   \begin{align*} a_{k+2}-a_{k+1} =&\sqrt{2a_{k+1}}-\sqrt{2a_{k}} \\=&\sqrt{2}\bra{\sqrt{a_{k+1}}-\sqrt{a_{k}}} \ge0 \end{align*}

かつ

   \begin{align*} 2-a_{k+2} =&2-\sqrt{2a_{k+1}} \\=&\sqrt{2}\bra{\sqrt{2}-\sqrt{a_{k+1}}} \ge0 \end{align*}

となって,$n=k+1$のときにも成り立つことが分かる.

[1], [2]より任意の非負整数$n$に対して$a_{n}\le a_{n+1}\le2$が成り立つから,数列$\{a_{n}\}$は上に有界かつ単調増加することが分かる.

よって,[単調有界実数列の収束定理]より,極限

   \begin{align*} X:=\lim\limits_{n\to\infty}a_{n} \end{align*}

が存在する.漸化式の両辺で極限$n\to\infty$を考えて

   \begin{align*} X=\sqrt{2X} \end{align*}

だから,$1<X\le2$に注意して$X=2$を得る.

一般項を求める解法

この問題にでは数列$\{a_n\}$の一般項を求めることもできるので,一般項から得られる極限と一致することもみておきましょう.


$a_0=1>0$と漸化式$a_{n+1}=\sqrt{2a_{n}}$を考えると帰納的に$a_n>0$である.

漸化式の両辺で$\log_2$をとって,

   \begin{align*} \log_{2}{a_{n+1}}=\frac{1}{2}+\frac{1}{2}\log_{2}{a_n} \end{align*}

なので,$b_n=\log_{2}{a_n}$とおくと

   \begin{align*} 2b_{n+1}=1+b_n \iff 2(b_{n+1}-1)=b_n-1 \\\iff&b_n-1=2^{-n}(b_0-1) \end{align*}

を得る.よって,

   \begin{align*} \lim_{n\to\infty}(b_n-1)=0 \iff&\lim_{n\to\infty}b_n=1 \\\iff&\lim_{n\to\infty}\log_{2}a_n=1 \\\iff&\lim_{n\to\infty}a_n=2 \end{align*}

となる.

もっと素朴に考えれば

   \begin{align*} a_n =&2^{1/2}\times2^{1/2^2}\times2^{1/2^3}\times\dots\times2^{1/2^n} \\=&2^{(1/2)+(1/2^2)+(1/2^3)+\dots(1/2^n)} \end{align*}

ですから,極限をとると冪が初項$\frac{1}{2}$,公比$\frac{1}{2}$の無限等比級数となって,

   \begin{align*} \lim_{n\to\infty}a_n =2^{\frac{1/2}{1-(1/2)}} =2 \end{align*}

が得られますね.

参考文献

解析入門

[杉浦光男 著/東京大学出版会]

解析学の教科書としては非常に有名で,理論系で解析がしっかり必要となる人は持っておいてよいテキストです.

  • 第1巻で1変数の微分積分学
  • 第2巻で多変数の微分積分学

を扱っています.本書に対応した演習書「解析演習」も出版されています.

本書の特徴としては

  • 数学的に厳密に書かれている
  • 基本的な微分積分学の知識体系は網羅されている

の2点が挙げられます.

このため,辞書的に使う教科書という位置付けて持っている人も多いようです.

なお,この記事の内容は第1巻に載っています.

微分積分学

[笠原晧司 著/サイエンス社]

微分積分学の教科書として有名な名著です.

具体例を多く扱いイメージを掴むことに重点を置きつつ,議論もきっちりしているため,大学1年生の微分積分学をしっかり学びたい人には心強い味方になると思います.

具体例のレベルは基本的なものに加えて少々難しいものも含まれているので,いろいろな具体例に触れたい人は持っておいてもよいでしょう.

このため,しっかり数学をやりたい人の微分積分学の導入としてオススメできる一冊です.

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