2015大学院入試
京都大学 数学・数理解析専攻
専門科目

大学院入試
大学院入試

2015年度の京都大学 理学研究科 数学・数理解析専攻の大学院入試問題の「専門科目」の解答の方針と解答です.

ただし,公式に採点基準などは発表されていないため,本稿の解答が必ずしも正解になるとは限りません.ご注意ください.

また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.

なお,過去問は京都大学のホームページから入手できます.

過去の入試問題 | Department of Mathematics Kyoto University

問題

問題は12問あり,数学系志願者は問1~問10から選択して2問を,数理解析系志願者は問1〜問12から選択して2問を解答します.試験時間は3時間です.

この記事では問7を掲載しています.

問6

$(X,F,\mu)$を測度空間,$f_{n}\ (n\in\N)$と$f$をその上の可測関数とし,次の(a)と(b)を仮定する.

(a) 全ての$x$で$\lim\limits_{n\to\infty}f_{n}(x)=f(x)$,

(b) $\sup\limits_{n\in\N}\|f_{n}\|_{2}<\infty$.

このとき,以下を示せ.

(i) $\|f\|_{2}<\infty$.

(ii) $\mu(X)=1$ならば,任意の$p\in[1,2)$に対し$\lim\limits_{n\to\infty}\|f_{n}-f\|_{p}=0$.

ただし,$p\in[1,\infty)$と可測関数$g$に対し$\|g\|_{p}=\bra{\dint_{X}|g(x)|^{p}\,d\mu(x)}^{1/p}$とする. 

この問題の背景は有限測度空間で成り立つ項別積分定理であるVitaliの収束定理です.

確率空間$(\Omega,\mathcal{F},\mathbb{P})$上の一様可積分な実数値確率変数列$\{X_{n}\}$が実数値確率変数$X$に概収束するとき,$X$は可積分で

   \begin{align*}\lim_{n\to\infty}\int_{\Omega}|X_{n}(\omega)-X(\omega)|\,\mathbb{P}(x\omega)=0\end{align*}

が成り立つ.

本問もこのVitaliの収束定理と同じように証明することができます.Vitaliの収束定理については以下の記事を参照してください.

一様可積分とヴィタリの収束定理|ルベーグの収束定理の一般化
一様可積分性をもつ確率変数列は,積分と極限の順序交換に関する[Vitaliの収束定理]が成り立つ.[Vitaliの収束定理]は[Lebesgueの収束定理]とは違って優関数をとってこなくても適用できる点が大きなメリットである.

以下の解答ではVitaliの収束定理を使わない解答を掲載しており,補足としてVitaliの収束定理を使う解答も説明しています.

¥700 – 問6の考え方と解答

問7

任意の$f\in L^2(\R)$と$x\in\R$に対し

   \begin{align*}Tf(x)=\int_0^{\infty}\brb{\int_{x-t}^{x+t}f(s)\,ds}\frac{e^{-t}}{t}\,dt\end{align*}

と定める.このとき,以下の問に答えよ.

(i) $T$は$L^2(\R)$から$L^2(\R)$への作用素として定義でき,有界であることを示せ.

(ii) $T$は$L^2(\R)$から$L^2([0,1])$への作用素としてコンパクトであることを示せ.

(i) $\|\cdot\|$を$L^2(\R)$ノルムとして,定義通りある$M>0$が存在して$\|Tf\|\le M\|f\|$となることを示します.

   \begin{align*}\|Tf\|=\bra{\int_{\R}\abs{\int_0^{\infty}\brb{\int_{x-t}^{x+t}f(s)\,ds}\frac{e^{-t}}{t}\,dt}^2\,dx}^{1/2}\end{align*}

なので,$\|f\|$を作り出すためには$x$での$2$乗積分を内側まで入れたいところですが,このためにMinkowskiの不等式を用います.

(i) コンパクトであることを示す際に便利な次の定理を使いましょう.

Hilbert空間$\mathcal{H}$, $\mathcal{H}’$に対して,線形作用素$T:\mathcal{H}\to\mathcal{H}’$を考える.このとき,$\mathcal{H}$上の$0$に弱収束する任意の列$\{f_n\}$に対して,$\{Tf_n\}$が$\mathcal{H}’$上で$0$に強収束するならば,$T$はコンパクトである.

つまり,この問題では「$L^2(\R)$上の$0$に弱収束する任意の列$\{f_n\}$に対して,$L^2([0,1])$が$\mathcal{H}’$上で$0$に強収束する」ことを示せばいいですね.

別解として,(i)はYoungの不等式から証明することもでき,(ii)はAscoli-Arzelàの定理から証明することもできます.

参考文献

以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.

詳解と演習大学院入試問題〈数学〉

[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]

理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.

実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.

第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率

一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

演習 大学院入試問題

[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]

上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.

全2巻で,

1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計

が扱われています.

地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.

なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

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