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線形代数の初学者のための道案内|線形代数のイメージを知る

「線形代数学」は大学以降の数学の基盤になる基礎的な分野で,多くの理系大学生が1年生で習うことになります.

線形代数学は他のほとんどの数学の分野で使われると言ってもいいほど大切な分野なので,とくに理論系の学科の人はここでコケてしまうと2年生以降がかなり厳しくなってしまいます.

定義や定理を覚えることは大切ですが,以上で説明した大枠のイメージを持っていれば,丸覚えすることなく自然に理解し覚えることができます.

数学では定義や定理は抽象的に表されることが多いですが,その裏には「やりたいこと」があります.

この「やりたいこと」のイメージを理解しておかないと,一体何をやっているのか分らなくなってしまいます.数学は数式が先にあるのではなく,やりたいことが最初にありそれを表現するために数式を用いるだけです.

さて,どこかに道案内をしてもらう時には,どの建物に行くのか分かった状態で付いて行くのと,目的地がわからないまま付いて行くのでは安心感が違います.

これは何かを学ぶときでも同じで,最初にどういうことをするのか分かった状態で学ぶ方が,効率的に身に付きます.

大学の学部で学ぶ線形代数学はJordan標準形あたりまでで終了することが多いので,この記事では線形代数学の初学者に線形代数のイメージと目指す方向を知ってもらうために,Jordan標準形あたりまでの線形代数学の全体像を見ていきます.

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行列とベクトル

線形代数は行列とベクトルを用いて話が進められます.

多変数の「比例」

実数aに対してy=axが成り立つとき,「yxに比例する」といい,aを比例係数というのでした.

様々にある関数の中でも,f(x)=axで定まる比例の関数fは非常に分かりやすい関数のため,他の関数よりも比較的容易に理解することができます.

この意味で,中学数学でも最初に習う関数が比例の関数であることは妥当でしょう.

さて,「比例」を少し拡張してみましょう.

たとえば,2つの等式

\begin{align*} \begin{cases} y_1=x_1+2x_2+3x_3\\ y_2=4x_1+5x_2+6x_3 \end{cases} \end{align*}

を考えます.比例の世界ではxyが1つずつでしたが,xx_1, x_2, x_3の3つになりyy_1y_2の2つになりました.

比例の世界ではxに値を代入すればyの値が分かったように,x_1, x_2, x_3に値を代入すればy_1, y_2の値が分かるという状況です.

線形代数の世界では,これを

\begin{align*} \bmat{y_1\\y_2}=\bmat{1&2&3\\4&5&6}\bmat{x_1\\x_2\\x_3} \end{align*}

のように表します.

  • 左辺を\m{y}:=\bmat{y_1\\y_2}
  • 右辺の係数部分をA:=\bmat{1&2&3\\4&5&6}
  • 右辺の変数部分を\m{x}:=\bmat{x_1\\x_2\\x_3}

とおくと,上の等式は\m{y}=A\m{x}と表すことができ,あたかもAを「比例定数」とし\m{y}\m{x}に「比例」していると捉えることができます.

Aのように数を長方形に並べたものを行列といい,\m{x}, \m{y}のように数を縦に並べたものを(列)ベクトルといいます.

m行,横n列の実数成分からなる行列をm\times n次行列といい,この集合を\Mat_{m,n}(\R)などと表します(「実数の集合」は\Rと表します).m=nのときにはn次正方行列といい,この集合を\Mat_n(\R)などと表します.

また,行列の第i行,第j列の成分を第(i,j)成分といいます.

n個の実数成分からなる列ベクトルの集合を\R^nと表します.ここでは

  • \R^2xy平面
  • \R^3xyz空間

くらいの認識で十分で,\R^nは軸がn本ある直交座標空間と考えればよいです.

xからyへの1変数関数の中で比例の関数f(x)=axが最も基本的な関数であったように,多変数\m{x}の値から多変数\m{y}の値を出す関数の中で関数f(\m{x})=A\m{x}が最も基本的な関数なので,この関数を考えようというのは自然な発想ですね.

この行列とベクトルについて考えるのが線形代数学で,言い換えれば線形代数学は多変数での「比例」に相当する\m{y}=A\m{x}について考える分野ということになります.

行列の積

上で見たように,行列とベクトルの積については,B\in\Mat_{mn}(\R)\m{x}\in\R^nに対して,B\m{x}\in\R^mとなります.

よって,B\m{x}にさらに左からA\in\Mat_{m\ell}(\R)をかけるとA(B\m{x})\in\R^{\ell}となります.

\begin{align*} \begin{matrix} \R^n & \to & \R^m & \to & \R^\ell \\ \rotatebox[origin=c]{90}{$\in$} &  & \rotatebox[origin=c]{90}{$\in$} &  & \rotatebox[origin=c]{90}{$\in$} \\ \m{x} & \mapsto & B\m{x} & \mapsto & A(B\m{x}) \end{matrix} \end{align*}

さて,ここで行列ABの積ABをするとき,結合法則A(B\m{x})=(AB)\m{x}が成り立っていて欲しいと思うのは自然なことでしょう.

たとえば,A=\bmat{2&2\\-3&1}, B=\bmat{-2&0\\3&1}, \m{x}=\bmat{x\\y}の場合を考えると,

\begin{align*} A(B\m{x}) =&A\bra{\bmat{-2&0\\3&1}\bmat{x\\y}} =A\bmat{-2x\\3x+y} \\=&\bmat{2&2\\-3&1}\bmat{-2x\\3x+y} =\bmat{2(-2x)+2(3x+y)\\-3(-2x)+(3x+y)} \\=&\bmat{2x+2y\\9x+y} =\bmat{2&2\\9&1}\bmat{x\\y} =\bmat{2&2\\9&1}\m{x} \end{align*}

となるから,AB=\bmat{2&2\\9&1}と定義されていれば,結合法則A(B\m{x})=(AB)\m{x}が成り立ります.

このように,行列の積が結合法則をもつように定義しようとすると,行列の積の定義は以下のようになります.

A\in\Mat_{mn}(\R)の第(i,j)成分をa_{ij}B\in\Mat_{n\ell}(\R)の第(i,j)成分をb_{ij}とする.このとき,積ABを以下で定義する.

\begin{align*} AB :=&\bmat{ \sum_{k=1}^{n} a_{1k}b_{k1}&\dots&\sum_{k=1}^{n} a_{1k}b_{k\ell}\\ \vdots&\ddots&\vdots\\ \sum_{k=1}^{n} a_{mk}b_{k1}&\dots&\sum_{k=1}^{n} a_{mk}b_{k\ell} } \end{align*}

多くの教科書で行列の積がこのように定義されるのを学んで,どうしてこのように定義するのか戸惑う人は多くいますが,上のような事情があるわけですね.

行列の積の計算はできるようにならなければいけませんが,この記事では計算よりもイメージを重視して説明しているので,この記事を読む範囲では行列の定義式を覚えておく必要はありません.

さて,上で説明したように行列の積は結合法則を満たしますが,実は交換法則が成り立ちません.すなわち,積ABBAは必ずしも一致しません.

また,行列の積の計算は少々煩雑で,たとえば正方行列Aに対して,一般にAべきA^n=A\times A\times\dots\times Aを直接計算により求めるのは現実的ではありません.

ただし,行列の固有値と固有ベクトルを学ぶことにより,行列の冪を簡単に計算できる場合がありますが,この説明は後に回すことにします.

連立方程式と行列

連立方程式を考えます.例えば,x, y, zの連立方程式

\begin{align*} \begin{cases} x+2y+3z=1\\ 4x+5y+6z=2\\ 7x+8y+9z=3 \end{cases} \end{align*}

は上でみた行列とベクトルを用いると

\begin{align*} \bmat{1&2&3\\4&5&6\\7&8&9}\bmat{x\\y\\z}=\bmat{1\\2\\3} \end{align*}

と表せます.このように,行列A,変数ベクトル\m{x},ベクトル\m{c}を用いて,A\m{x}=\m{c}と表される等式は連立方程式となります.

さて,連立方程式の解が存在するかどうかを考えたいとき,どのように考えれば良いでしょうか?

もちろん,この連立方程式を実際に解くことによっても解の存在は確かめられますが,別の方法を考えてみましょう.

この連立方程式は

\begin{align*} x\bmat{1\\4\\7}+y\bmat{2\\5\\8}+z\bmat{3\\6\\9}=\bmat{1\\2\\3} \end{align*}

と表すことができるので,「\m{a}_1:=\bmat{1\\4\\7}x倍したベクトル,\m{a}_2:=\bmat{2\\5\\8}y倍したベクトル,\m{a}_3:=\bmat{3\\6\\9}z倍したベクトルを繋ぎ合わせて,ベクトル\m{c}:=\bmat{1\\2\\3}になる」と解釈できます.

一般に,ベクトル\m{a}_1,\dots,\m{a}_nに対して,c_1\m{a}_1+\dots+c_n\m{a}_nと表されるベクトルを\m{a}_1,\dots,\m{a}_n線形結合といいます.

したがって,A=[\m{a}_1,\dots,\m{a}_n]と表すと,「連立方程式A\m{x}=\m{c}を解く問題は\m{a}_1,\dots,\m{a}_nの線形結合で\m{c}を表す問題」だと考えることができます.

線形独立と逆行列

0でない実数aに対しては逆数が存在し,これをa^{-1}\dfrac{1}{a}などと表すのでした.

正方行列に対してはこの逆数に相当する逆行列があり,正方行列Aの逆行列をA^{-1}と表します.

ただ,零行列(成分が全て0の行列)でなくても行列に逆行列が存在するとは限らないところが実数の場合と異なり,逆行列をもつ行列のことを正則行列といいます.

1変数の場合の1次方程式ax=c (a\neq0)は両辺にa^{-1}をかければx=\dfrac{c}{a}となって解xが分かります.

これと同様に,正方行列Aが逆行列A^{-1}を持つなら,連立方程式A\m{x}=\m{c}の両辺に左からA^{-1}をかけることで\m{x}=A^{-1}\m{c}と解\m{x}が分かります.

さて,A=\bmat{1&0&0\\0&1&0\\1&1&0}, \m{x}=\bmat{x\\y\\z}, \m{c}=\bmat{c_1\\c_2\\c_3}の場合には,連立方程式A\m{x}=\m{c}はベクトル\m{a}_1:=\bmat{1\\0\\0}, \m{a}_2:=\bmat{0\\1\\0}, \m{a}_3:=\bmat{0\\1\\0}の線形結合で\m{c}を表す問題であり,

\begin{align*} \begin{cases} x+0+z=c_1\\ 0+y+z=c_2\\ 0+0+0=c_3 \end{cases} \end{align*}

だから,これが解を持つにはc_3=0でなければなりません.

\m{a}_3=\m{a}_1+\m{a}_2なので,\m{a}_1\m{a}_2さえあれば,\m{a}_3はあってもなくても線形結合で表せるベクトルは変わりません.

こう考えると,A=[\m{a}_1,\dots,\m{a}_n]とするとき,ベクトル\m{a}_1,\dots,\m{a}_nの「どのベクトルも他のベクトルの線形結合で表せない(=バラバラに違う方向を向いた)」ベクトルであってくれれば,\m{x}の連立方程式A\m{x}=\m{c}は様々な\m{c}に対して解をもちそうです.

このように「ベクトル\m{a},\dots,\m{a}_nがバラバラに違う方向を向いていること」を\m{a}.\dots,\m{a}_n線形独立であるといいます.

さて,「行列A=[\m{a}_1,\dots,\m{a}_n]について,ベクトル\m{a}_1,\dots,\m{a}_nがバラバラなほど,多くの\m{c}に対して連立方程式A\m{x}=\m{c}が解をもちそう」という予想について,実は以下の定理が成り立ちます.

n次正方行列A=[\m{a}_1,\dots,\m{a}_n]に対して,次は同値である.

  • \m{a}_1,\dots,\m{a}_nが線形独立である.
  • Aは正則である.すなわち,任意の\m{c}\in\R^nに対して,\m{x}の連立方程式A\m{x}=\m{c}は解\m{x}=A^{-1}\m{c}をもつ.

このように,行列Aの列ベクトルの線形独立性と,連立方程式A\m{x}=\m{c}の解の存在が密接に関わっていることが示されます.

行列式

次に,列ベクトル\m{a}_1,\dots,\m{a}_nが線形独立であるかどうかを判定する方法を,連立方程式の考え方とは別の方法で考えましょう.

まず,2次正方行列AA=\bmat{a&b\\c&d}=[\m{a}_1,\m{a}_2]とします.

上でみたように,Aが正則であることと\m{a}_1\m{a}_2が線形独立であるということは同値です.

さらに\m{a}_1\m{a}_2が線形独立であるということは,言い換えれば\m{a}_1\m{a}_2バラバラに違う方向を向いている”ということなので,\m{a}_1\m{a}_2が張る以下の平行四辺形の面積が0でないことは同値です.

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\m{a}_1=\bmat{a\\c}, \m{a}_2=\bmat{b\\d}なので,この平行四辺形の面積は|ad-bc|ですから,Aが正則であることとad-bc\neq0であることは同値となります.

よって,A=\bmat{a&b\\c&d}の正則性を判定したければ,ad-bcの値が0か否かをみれば良いことになり,単なる行列成分の四則演算だけで正方行列の正則性が判定できることが分かりました.これはありがたいですね.

さて,A=\bmat{a&b\\c&d}に対して,ad-bcA行列式といい,|A|と表します.

では,3次行列A=\bmat{a_{11}&a_{12}&a_{13}\\a_{21}&a_{22}&a_{23}\\a_{31}&a_{32}&a_{33}}=[\m{a}_1,\m{a}_2,\m{a}_3]ではどう考えればよいでしょうか?

結論を言えば,列ベクトル\m{a}_1, \m{a}_2, \m{a}_3が張る以下のような平行六面体の体積を|A|とすれば,|A|が0か否かをみれば\m{a}_1, \m{a}_2, \m{a}_3の線形独立性が分かりますね.

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さて,この平行六面体の体積は

\begin{align*} a_{11}a_{22}a_{33}+a_{12}a_{23}a_{31}+a_{13}a_{21}a_{32}-a_{13}a_{22}a_{31}-a_{12}a_{21}a_{33}-a_{11}a_{23}a_{32} \end{align*}

で表されるので,これがA=\bmat{a_{11}&a_{12}&a_{13}\\a_{21}&a_{22}&a_{23}\\a_{31}&a_{32}&a_{33}}の行列式|A|です.

同様にn次正方行列A=[\m{a}_1,\dots,\m{a}_n]では,Aの行列式|A|\m{a}_1,\dots,\m{a}_nの張る平行多面体のn次元体積で定義します.これにより,やはり行列式|A|が0か否かで\m{a}_1,\dots,\m{a}_nの線形独立性が判定できます.

しかし,我々はn次元体積をイメージすることが難しく,このn次元の平行多面体の体積を求めようとするのは少し難があります.

そこで,結果としてはn次元の平行多面体の体積に一致するが,体積を持ち出さずに|A|を定義する方法を採ります.

普通,A=[\m{a}_1,\dots,\m{a}_n]の行列式は置換を用いて定義されるため,何をやっているのかよく分からな句なってしまいがちですが,実は列ベクトル\m{a}_1,\dots,\m{a}_nの張るn次元の平行多面体の体積に一致する量を定義したいだけなのです.

線形空間と線形写像

さて,ここまでで空間\R^nと行列Aについて考えてきましたが,これを一般化することを考えます.

結論から言えば,

  • \R^nを一般化したものを線形空間
  • 行列を一般化したものを線形写像

といいます.

線形空間

例えば,実数係数の2次以下の整式(多項式または単項式)の集合

\begin{align*} \R[x]_2:=\set{a_0+a_1x+a_2x^2}{a_0,a_1,a_2\in\R} \end{align*}

を考えます.このとき,a_0+a_1x+a_2x^2,b_0+b_1x+b_2x^2\in\R[x]_2, \alpha\in\Rに対して,自然な計算により

  • (a_0+a_1x+a_2x^2)+(b_0+b_1x+b_2x^2)=(a_0+b_0)+(a_1+b_1)x+(a_2+b_2)x^2
  • \alpha(a_0+a_1x+a_2x^2)=(\alpha a_0)+(\alpha a_1)x+(\alpha a_2)x^2

となります.これらはいずれも実数係数の2次以下の整式なので,\R[x]_2に属します.

このように,集合V

  • \R

が定義されていて,さらに(ここで詳しくは書きませんが)いくつかの条件を満たすとき,V\R上の線形空間といいます.

ここまで考えてきた\R^nや,いまみた\R[x]_2などは\R上の線形空間の例です.

この意味で,線形空間は\R^nの拡張ということができます.

線形写像

n行の行列Aは,任意の\m{a},\m{b}\in\R^n, \alpha\in\Rに対して

  • A(\m{a}+\m{b})=A\m{a}+A\m{b}
  • A(\alpha\m{a})=\alpha (A\m{a})

を満たします.このように,\R上の線形空間U, Vに対して,写像f:U\to Vが任意の\m{u},\m{u}'\in U, \alpha\in\Rに対して

  • f(\m{u}+\m{u}')=f(\m{u})+f(\m{u}')
  • f(\alpha \m{u}=\alpha f(\m{u})

を満たすとき,f線形写像といいます.すなわち,

  • 和をfで移したものと,fで移したものの和が等しい
  • \R倍をfで移したものと,fで移したものの\R倍が等しい

という2つの性質を満たす\R上の線形空間の間の写像を線形写像というわけです.

例えば,左から行列Aをかける写像をfとすると,上で見たことから

  • f(\m{a}+\m{b})=A(\m{a}+\m{b})=A\m{a}+A\m{b}=f(\m{a})+f(\m{b})
  • f(\alpha \m{a})=A(\alpha \m{a})=\alpha (A\m{a})=\alpha f(\m{a})

となって,fは線形写像であると分かります.

この意味で,線形写像は行列の拡張ということができます.

線形空間の同型

先ほど,a_0+a_1x+a_2x^2,b_0+b_1x+b_2x^2\in\R[x]_2, \alpha\in\Rに対して,

  • (a_0+a_1x+a_2x^2)+(b_0+b_1x+b_2x^2)=(a_0+b_0)+(a_1+b_1)x+(a_2+b_2)x^2
  • \alpha(a_0+a_1x+a_2x^2)=(\alpha a_0)+(\alpha a_1)x+(\alpha a_2)x^2

が成り立つことをみましたが,この係数に注目すると,\R^3での

  • \bmat{a_0\\a_1\\a_2}+\bmat{b_0\\b_1\\b_2}=\bmat{a_0+b_0\\a_1+b_1\\a_0+b_0}
  • \alpha\bmat{a_0\\a_1\\a_2}=\bmat{\alpha a_2\\\alpha a_1\\\alpha a_0}

という計算と対応していることが分かります.すなわち,

  • a_0+a_1x+a_2x^2\in\R[x]_2
  • \bmat{a_0\\a_1\\a_2}\in\R^3

を同じものとみなすことにより,\R[x]_2\R^3は全く同じものとして同一視することができます.

このように,線形空間U, Vが同一視できるとき,UV同型であるといい,U\cong Vと表します.

線形空間Vに対して,有限個の\m{v}_1,\dots,_m{v}_n\in Vが存在して,任意の\m{v}\in V

\begin{align*} \m{v}=c_1\m{v}_1+c_2\m{v}_2+\dots+c_n\m{v}_n \end{align*}

と表されるとき,Vは有限次元といいます.有限次元ベクトル空間については,次の定理が非常に重要です.

任意の\R上の有限次元ベクトル空間Vに対して,あるn\in\Nが存在して,V\cong\R^nとなる.

「線形空間は和と\R倍が定義され,いくつかの性質を満たすもの」で,\R^n\R[x]_2などはそのうちの1つだと説明しましたが,実は見た目が全く違う線形空間Vでも,Vが有限次元でさえあれば,ある次元の\R^nと同一視できるというわけです.

\R^nはこれまで学んできた分かりやすい空間ですから,有限次元の線形空間Vが分かりにくい空間であれば,全て\R^nに置き換えて考えればよいということになります.

表現行列

有限次元線形空間U, Vと線形写像f:U\to Vを考えます.

いまみたように,UVはある次元の\R^nと同一視できるので,U\cong\R^m, V\cong\R^kとすると,線形写像f:U\to Vは線形写像f:\R^m\to\R^kと同一視できることになりますね.

また,実は任意の線形写像f:\R^m\to\R^kは,あるk\times m次行列Aによって,f(\m{a})=A\m{a}と表すことができます.

ここで,\m{a}\in\R^mに左からk\times m次行列Aをかけると\R^kの元になることに注意しておきます.

これらのことから,線形写像f:U\to Vはある行列Aを左からかける写像と同一視できます.

このように線形写像が同一視できるような行列のことをf表現行列といいます.

固有値と固有ベクトル

一般に,正方行列Aに対して,一般にAべきA^nを直接計算により求めるのは,現実的ではありませんが,固有値固有ベクトルを考えることによって,A^nを簡単に求められる場合があります.

このような行列の冪の計算は,固有値と固有ベクトルを考える大きな目的の1つです.

ベクトルの平行

例えば,\R^3のベクトル\m{a}:=\bmat{1\\2\\3}, \m{b}:=\bmat{2\\4\\6}

\begin{align*} \m{b}=2\m{a} \end{align*}

を満たします.

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このように,2つのベクトル\m{a}\m{b}がともに零ベクトル(成分が全て0のベクトル)でなく,一方の定数倍が他方に一致するとき,\m{a}\m{b}平行であるといいます.

さて,これまで\R成分の行列やベクトルを主に扱ってきましたが,成分が複素数の行列やベクトルを扱うこともよくあります.

「複素数の集合」は\Cで表すので,\C^nは複素数成分のn次列ベクトルの集合を表します.ただ,成分が\Rから\Cになっても,これまで説明したことは本質的に変わりません.

いまみた\R^nの平行と同様に,\m{a},\m{b}\in\C^nがともに零ベクトルでなく,\m{a}=\lambda\m{b}となる\lambda\in\Cが存在するとき,\m{a}\m{b}は平行であるといいます.

固有値と固有ベクトル

n次正方行列A\m{a}\in\C^nを考えます.

このとき,\m{a}A\m{a}は「平行」であるとは限りませんが,たまたま\m{v}A\m{v}が平行になることもあります.

このとき,ある\lambda\in\Cが存在して

\begin{align*} A\m{a}=\lambda\m{a} \end{align*}

が成り立ちますが,このときの\lambdaA固有値といい,\m{a}Aの固有値\lambdaに属する固有ベクトルといいます.

すなわち,うまく\m{v}を選んでA\m{v}\m{v}となるとき\m{v}を固有値といい,そのときの伸び率\lambdaを固有値というわけですね.

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対角化

正方行列の第(k,k)成分を対角成分といい,対角成分以外の成分が0の行列を対角行列といいます.

たとえば,A=\bmat{2&0&0\\0&1&0\\0&0&-3}とすると,行列の積の定義から

\begin{align*} &A^2=\bmat{2&0&0\\0&1&0\\0&0&-3}\bmat{2&0&0\\0&1&0\\0&0&-3}=\bmat{4&0&0\\0&1&0\\0&0&9}, \\&A^3=A^2 A=\bmat{4&0&0\\0&1&0\\0&0&9}\bmat{2&0&0\\0&1&0\\0&0&-3}=\bmat{8&0&0\\0&1&0\\0&0&-27}, \\&A^4=A^3 A=\bmat{8&0&0\\0&1&0\\0&0&-27}\bmat{2&0&0\\0&1&0\\0&0&-3}=\bmat{16&0&0\\0&1&0\\0&0&81}, \end{align*}

となります.これを続ければ,

\begin{align*} A^n=\bmat{2^n&0&0\\0&1^n&0\\0&0&(-3)^n} \end{align*}

であることが推察できますね.実際,このように任意の対角行列は冪が簡単に計算できます.

一般に行列の積の計算は煩雑になりますが,対角行列は冪が簡単に計算できるのがが対角行列の特徴です.

そこで,もし正則行列PによってB:=P^{-1}APが対角行列になったとしましょう.このとき,両辺をm乗すると,

\begin{align*} B^{m} =&(P^{-1}AP)^{m} \\=&(P^{-1}AP)(P^{-1}AP)\dots(P^{-1}AP) \\=&P^{-1}A(PP^{-1})A(PP^{-1})A\dots A(PP^{-1})AP \\=&P^{-1}A^{m}P \end{align*}

が成り立ち,これよりPB^{m}P^{-1}=A^{m}が成り立ちます.

Bは対角行列なのでB^{m}は容易に計算でき,あとはPB^{m}P^{-1}を計算することにより,A^{m}が得られます.

このように,正方行列Aに対してP^{-1}APが対角行列となるような正則行列Pが存在するとき,A対角化可能であるといいます.

よって,我々は正方行列を対角化する正則行列Pを見つける方法が知りたいわけですね.

そして,これについては以下の基本定理が成り立ちます.

n次正方行列Aが異なるn個の固有値\lambda_1,\dots,\lambda_nをもつとき,Aは対角化可能である.特に,i=1,\dots,nに対して,\m{v}_iを固有値\lambda_iに属する固有ベクトルとすると,P=[\m{v}_1,\dots,\m{v}_n]によりA\bmat{\lambda_1&0&\dots&0\\0&\lambda_2&\ddots&0\\\vdots&\ddots&\ddots&\vdots\\0&0&\dots&\lambda_n}に対角化される:

\begin{align*} \bmat{\lambda_1&0&\dots&0\\0&\lambda_2&\ddots&0\\\vdots&\ddots&\ddots&\vdots\\0&0&\dots&\lambda_n} =P^{-1}AP. \end{align*}

このように,n次正方行列が異なるn個の固有値\lambda_1,\dots,\lambda_nをもてば,\lambda_1,\dots,\lambda_nを対角成分にもつ対角行列に対角化できるというわけですね.

さらに,このときのAを対角化させる正則行列Pは固有ベクトルを並べてできた行列になっています.

このように,固有値と固有ベクトルを求めることによって,簡単に対角化が分かる場合があります.

Jordan標準形

全ての正方行列が対角化可能であるとは限りませんが,対角化可能でない場合でも,対角行列に似た形であるJordan標準形にすることはいつでもできます.

以下ように

  • 対角成分が\alpha
  • (k,k-1)成分が1

の行列を,固有値\lambdanJordan細胞といいます:

\begin{align*} J_{n}(\lambda) =\bmat{\lambda&1&0&\dots&0&0\\0&\lambda_2&1&\dots&0&0\\0&0&\lambda_3&\ddots&0&0\\\vdots&\vdots&\ddots&\ddots&\ddots&\vdots\\0&0&0&\dots&\lambda_{k-1}&1\\0&0&0&\dots&0&\lambda_n}. \end{align*}

そして,このJordan細胞を対角成分に並べてできる行列をJordan標準形といいます.

\begin{align*} \bmat{J_{n_1}(\lambda_1)&0&\dots&0\\0&J_{n_2}(\lambda_2)&\ddots&0\\\vdots&\ddots&\ddots&\vdots\\0&0&\dots&J_{n_k}(\lambda_k)} \end{align*}

対角行列はJordan細胞の字数が全て1のJordan標準形なので,対角行列もJordan標準形ですね.

対角行列ほどではありませんが,Jordan標準形も冪の計算がしやすい行列なので,「準対角化」といった気持ちで良いでしょう.

参考文献

線型代数入門 (齋藤正彦 著,東京大学出版会)

線形代数の教科書として半世紀に渡って売れ続けている超ロングセラーの教科書です.

本書が発行されて以来,多くの教科書が本書を真似て書かれてきたといっても過言ではないほど,日本の線形代数の指導方針にインパクトを与えた名著です.

「線型代数をとりあえず使えるようにするための教科書」ではなく「線形代数を理解するための教科書」のため,論理的に非常に詳しく書かれているのが特徴である.

内容のレベルも理論系(特に数学系)の学部生であれば,確実に理解しておきたい.

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