線形代数9|「行列式」は線形代数の要!定義と性質を解説

前々回の記事で正方行列$A$の行列式$|A|$の図形的なイメージについて説明し,前回の記事で行列式を定義するために必要となる置換について説明しました.

以前の記事から示唆していたように,行列式$|A|$を考える大きな目的の1つに正方行列$A$の正則性を判定することが挙げられます.

結論から言えば,「行列式$|A|$が0でないこと」と「$A$が正則であること」が同値となります(詳しい解説は次の記事).

この記事では,前々回と前回の記事を踏まえて

  • 行列式の定義
  • 行列式の基本性質

を説明します.

なお,この記事では実数$\R$を中心に説明しますが,複素数$\C$など一般のに対しても同様です.

行列式の定義

前回の記事で説明した置換を用いるので,置換が危うい読者は前回の記事を参照しながら読み進めてください.

なお,この記事では,$S_n$は$\{1,2,\dots,n\}$の置換全体の集合とします.

$A\in\Mat_{n}(\R)$に対して

\begin{align*} \sum_{\sigma\in S_n}\sgn(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)} \end{align*}

を$A$の行列式 (determinant)といい,$|A|$や$\det{A}$と表す.

例1

2次正方行列$A=\bmat{a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}}\in\Mat_{2}(\R)$の行列式$|A|$を考えます.

$S_2$は$\{1,2\}$の置換全体の集合だから

\begin{align*} S_2=\brb{\sigma_{1}:=\pmat{1&2\\1&2},\sigma_{2}:=\pmat{1&2\\2&1}} \end{align*}

です.

$\sgn(\sigma_{1})=1$, $\sgn(\sigma_{2})=-1$より

\begin{align*} |A| =&\sgn(\sigma_{1})a_{1\sigma_{1}(1)}a_{2\sigma_{1}(2)}+\sgn(\sigma_{2})a_{1\sigma_{2}(1)}a_{2\sigma_{2}(2)} \\=&a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21} \end{align*}

となります.

これは前々回の記事で説明した2次正方行列の行列式に一致しますね.

例2

3次正方行列$A=\bmat{a_{11}&a_{12}&a_{13}\\a_{21}&a_{22}&a_{23}\\a_{31}&a_{32}&a_{33}}\in\Mat_{3}(\R)$の行列式$|A|$を考えます.

3次の置換の集合$S_3$は

\begin{align*} S_3=\left\{ \sigma_{1}:=\pmat{1&2&3\\1&2&3}, \sigma_{2}:=\pmat{1&2&3\\1&3&2}, \sigma_{3}:=\pmat{1&2&3\\2&1&3}, \right.& \\\left. \sigma_{4}:=\pmat{1&2&3\\2&3&1}, \sigma_{5}:=\pmat{1&2&3\\3&1&2}, \sigma_{6}:=\pmat{1&2&3\\3&2&1} \right\} & \end{align*}

で,$\sgn(\sigma_{1})=1$, $\sgn(\sigma_{2})=-1$, $\sgn(\sigma_{3})=-1$, $\sgn(\sigma_{4})=1$, $\sgn(\sigma_{5})=1$, $\sgn(\sigma_{6})=-1$より

\begin{align*} |A| =&\sgn{(\sigma_{1})}a_{1\sigma_{1}(1)}a_{2\sigma_{1}(2)}a_{3\sigma_{1}(3)}+\sgn{(\sigma_{2})}a_{1\sigma_{2}(1)}a_{2\sigma_{2}(2)}a_{3\sigma_{2}(3)} \\&+\sgn{(\sigma_{3})}a_{1\sigma_{3}(1)}a_{2\sigma_{3}(2)}a_{3\sigma_{3}(3)}+\sgn{(\sigma_{4})}a_{1\sigma_{4}(1)}a_{2\sigma_{4}(2)}a_{3\sigma_{4}(3)} \\&+\sgn{(\sigma_{5})}a_{1\sigma_{5}(1)}a_{2\sigma_{5}(2)}a_{3\sigma_{5}(3)}+\sgn{(\sigma_{6})}a_{1\sigma_{6}(1)}a_{2\sigma_{6}(2)}a_{3\sigma_{6}(3)} \\=&a_{11}a_{22}a_{33}+a_{12}a_{23}a_{31}+a_{13}a_{21}a_{32} \\&-a_{11}a_{23}a_{32}-a_{13}a_{22}a_{31}-a_{12}a_{21}a_{33} \end{align*}

となります.

これも前々回の記事で説明した3次正方行列の行列式に一致しますね.

行列式の性質

それでは行列式の性質を述べていきます.

なお,前々回の記事で説明した「$A=[\m{a}_1,\dots,\m{a}_n]$の行列式が$\m{a}_1,\dots,\m{a}_n$が張る$n$次元平行多面体の向き付きの体」に一致すること」を念頭においていれば,当たり前に思える性質も多いでしょう.

転置行列の行列式

行列式は転置行列にしても変わりません.

正方行列$A$に対して,$|A|=|A^{T}|$が成り立つ.


$A=(a_{ij})\in\Mat_{n}(\R)$とする.任意の$\sigma\in S_{n}$に対して$\{1,\dots,n\}=\{\sigma(1),\dots,\sigma(n)\}$だから

\begin{align*} a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)} =a_{\sigma^{-1}(1)1}a_{\sigma^{-1}(2)2}\dots a_{\sigma^{-1}(n)n} \end{align*}

なので

\begin{align*} |A| =&\sum_{\sigma\in S_n}\sgn{(\sigma)}a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)} \\=&\sum_{\sigma\in S_n}\sgn{(\sigma)}a_{\sigma^{-1}(1)1}a_{\sigma^{-1}(2)2}\dots a_{\sigma^{-1}(n)n} \\=&\sum_{\sigma\in S_n}\sgn{(\sigma)}a_{\sigma(1)1}a_{\sigma(2)2}\dots a_{\sigma(n)n} =|A^{T}| \end{align*}

が従う.

なお,3行目最初の等号について,前回の記事で説明したように$S_{n}=\{\sigma^{-1}|\sigma\in S_{n}\}$だから和としては等しい.

この命題から行列式について行で成り立つ性質は列でも成り立つということが分かり,逆に行列式について列で成り立つ性質は行でも成り立つことも分かりますね.

行列式の交代性

行列式の次の命題の性質を交代性 (反対称性, antisymmetry)といいます.

$A=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]\in\Mat_{n}(\R)$と$\sigma\in S_{n}$に対して,以下が成り立つ.

\begin{align*} |A|=\sgn{(\sigma)}|\m{a}_{\sigma(1)},\dots,\m{a}_{\sigma(n)}| \end{align*}


$A=(a_{ij})$とする.置換の性質より

\begin{align*} &\sgn{(\sigma)}|\m{a}_{\sigma(1)},\dots,\m{a}_{\sigma(n)}| \\=&\sgn{(\sigma)}\sum_{\tau\in S_{n}}\sgn(\tau)a_{1,\tau\sigma(1)}\dots a_{n,\tau\sigma(n)} \\=&\sum_{\tau\in S_{n}}\sgn{(\tau\sigma)}a_{1,\tau\sigma(1)}\dots a_{n,\tau\sigma(n)} =|A| \end{align*}

が従う.

この命題から,次の系が容易に得られます.

等しい2つの列をもつ正方行列の行列式は0である.


$A=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]\in\Mat_{n}(\R)$について,$i,j\in\{1,\dots,n\}$ ($i<j$)が$\m{a}_{i}=\m{a}_{j}$をみたすとする.

互換$\sigma:=(i,j)\in S_{n}$について,行列式の交代性から

\begin{align*} |A| =&\sgn(\sigma)|\m{a}_{\sigma(1)},\dots,\m{a}_{\sigma(i)},\dots,\m{a}_{\sigma(j)},\dots,\m{a}_{\sigma(n)}| \\=&-|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{j},\dots,\m{a}_{i},\dots,\m{a}_{n}| \\=&-|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{i},\dots,\m{a}_{j},\dots,\m{a}_{n}| =-|A| \end{align*}

だから,$|A|=0$が従う.

行列式の線形性

行列式の次の命題の性質を線形性 (linearity)といいます.

$\alpha,\beta\in\R$とする.$n$次行列の行列式について,以下が成り立つ.

\begin{align*} &|\m{a}_{1},\dots,\alpha\m{a}_{i_{1}}+\beta\m{a}_{i_{2}},\dots,\m{a}_{n}| \\=&\alpha|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{i_{1}},\dots,\m{a}_{n}|+\beta|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{i_{2}},\dots,\m{a}_{n}| \end{align*}


任意の$k=1,\dots,i_{1},i_{2},\dots,n$に対して,$\m{a}_{k}:=[a_{k1},\dots,a_{kn}]^{T}$とすると

\begin{align*} &|\m{a}_{1},\dots,\alpha\m{a}_{i_{1}}+\beta\m{a}_{i_{2}},\dots,\m{a}_{n}| \\=&\sum_{\sigma\in S_{n}}\sgn(\sigma)a_{1\sigma(1)}\dots(\alpha a_{i_{1}\sigma(i)}+\beta a_{i_{2}\sigma(i)})\dots a_{n\sigma(n)} \\=&\alpha\sum_{\sigma\in S_{n}}\sgn(\sigma)a_{1\sigma(1)}\dots a_{i_{1}\sigma(i)}\dots a_{n\sigma(n)} \\&+\beta\sum_{\sigma\in S_{n}}\sgn(\sigma)a_{1\sigma(1)}\dots a_{i_{2}\sigma(i)}\dots a_{n\sigma(n)} \\=&\alpha|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{i_{1}},\dots,\m{a}_{n}|+\beta|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{i_{2}},\dots,\m{a}_{n}| \end{align*}

が従う.

積の行列式

任意の$A,B\in\Mat_{n}(\R)$に対し,$|AB|=|A||B|$が成り立つ.


$A=(a_{ij})=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]$, $B=(b_{ij})=[\m{b}_{1},\dots,\m{b}_{n}]$とすると,行列式の線形性より

\begin{align*} |AB| =&\abs{[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]\bmat{b_{11}&\dots&b_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\b_{n1}&\dots&b_{nn}}} \\=&\abs{\sum_{k_{1}=1}^{n}b_{k_{1}1}\m{a}_{k_{1}},\dots,\sum_{k_{n}=1}^{n}b_{k_{n}n}\m{a}_{k_{n}}} \\=&\sum_{k_{1}=1}^{n}\dots\sum_{k_{n}=1}^{n}b_{k_{1}1}\dots b_{k_{n}n}|\m{a}_{k_{1}},\dots,\m{a}_{k_{n}}| \end{align*}

である.

もし$k_{1},\dots,k_{n}$の中に同じものがあれば,交代性の系から$|\m{a}_{k_{1}},\dots,\m{a}_{k_{n}}|=0$だから

\begin{align*} |AB| =&\sum_{\sigma\in S_{n}}b_{\sigma(1)1}\dots b_{\sigma(n)n}|\m{a}_{\sigma(1)},\dots,\m{a}_{\sigma(n)}| \\=&\sum_{\sigma\in S_{n}}\sgn{(\sigma)}b_{\sigma(1)1}\dots b_{\sigma(n)n} \cdot\sgn{(\sigma)}|\m{a}_{\sigma(1)},\dots,\m{a}_{\sigma(n)}| \\=&|A|\sum_{\sigma\in S_{n}}\sgn{(\sigma)}b_{\sigma(1)1}\dots b_{\sigma(n)n} =|A||B^{T}| =|A||B| \end{align*}

となる.

この命題から逆行列の行列式について,以下が得られます.

正則行列$A\in\Mat_{n}(\R)$に対して,$|A^{-1}|=|A|^{-1}$が成り立つ.


$AA^{-1}=I$だから$|A||A^{-1}|=|AA^{-1}|=|I|=1$となって,$|A^{-1}|=|A|^{-1}$が成り立つ.

行列式の計算

以下の命題は,行列式を具体的に求める際に非常に有用な性質です.

$a_{1j}=0$ ($j=2,\dots,n$)をみたす$A=(a_{ij})\in\Mat_{n}(\R)$について,以下が成り立つ.

\begin{align*} |A| =\vmat{a_{11}&0&\dots&0\\a_{21}&a_{22}&\dots&a_{2n}\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\a_{n1}&a_{n2}&\dots&a_{nn}} =a_{11}\vmat{a_{22}&\dots&a_{2n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{n2}&\dots&a_{nn}} \end{align*}


仮定より$\sigma(1)\neq1$なら$a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)}=0$なので

\begin{align*} |A| =&\sum_{\sigma\in S_n}\sgn(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)} \\=&a_{11}\sum_{\substack{\sigma\in S_n\\\sigma(1)=1}} \sgn(\sigma)a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)} \end{align*}

である.

$\set{\sigma\in S_n}{\sigma(1)=1}$は$\{2,\dots,n\}$の置換全体の集合なので,$S_{n-1}$と同一視できるから

\begin{align*} a_{11}\sum_{\substack{\sigma\in S_n\\\sigma(1)=1}} \sgn(\sigma)a_{2\sigma(2)}\dots a_{n\sigma(n)} =a_{11} \vmat{a_{22}&\dots&a_{2n}\\ \vdots&\ddots&\vdots\\ a_{n2}&\dots&a_{nn}} \end{align*}

となる.

この命題を用いるには$a_{1j}=0$ ($j=2,\dots,n$)であることが必要なので,行列式をこの形に変形する必要がありますね.

そこで,行列の基本変形に関する次の命題が非常に便利です.

行列式について,次が成り立つ.

  1. 2つの列を入れ替えると,行列式の値は$-1$倍になる.
  2. 任意の列を$c$倍すると,行列式の値は$c$倍になる.
  3. 任意の列に他の列の何倍かを加えても行列式の値は変わらない.

(1)は行列式の交代性より成り立ち,(2)は行列式の線形性より成り立つ.

(3) $c\in\R$, $k,\ell\in M_{n}$ ($k\neq\ell$)に対して,$A=[\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}]$の第$k$列の$c$倍を第$\ell$列に加えた行列の行列式は,行列式の線形性と交代性の系より

\begin{align*} &|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{\ell}+c\m{a}_{k},\dots,\m{a}_{n}| \\=&|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{\ell},\dots,\m{a}_{n}|+c|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{k},\dots,\m{a}_{k},\dots,\m{a}_{n}| \\=&|\m{a}_{1},\dots,\m{a}_{n}|+c\cdot 0 =|A| \end{align*}

となる.

例えば,行列式$\vmat{-11&-5&-6\\-11&-1&-14\\11&9&17}$を計算したいときは,いまみた2つの命題を使えば

\begin{align*} \vmat{-11&-5&-6\\-11&-1&-14\\11&9&17} =&11\vmat{-1&-5&-6\\-1&-1&-14\\1&9&17} \\=&11\vmat{1&5&6\\1&1&14\\1&9&17} =11\vmat{0&4&-8\\1&1&14\\0&8&3} \\=&-11\vmat{1&1&14\\0&4&-8\\0&8&3} =-11\cdot1\vmat{4&-8\\8&3} \\=&-11\cdot\{4\cdot3-(-8)\cdot8\} =-836 \end{align*}

と計算できますね.

参考文献

線型代数入門

[齋藤正彦 著/東京大学出版会]

線形代数の教科書として半世紀に渡って売れ続けている超ロングセラーの教科書です.

発刊されてから本書の内容の流れが線形代数の教科書のスタンダードとなったほど,日本の線形代数の指導にインパクトを与えた名著です.

その証拠に,著者の齋藤正彦氏は本書で日本数学会出版賞を受賞しています.

「線形代数をとりあえず使えるようにするための教科書」ではなく「線形代数を理解するための教科書」のため,論理的に非常に詳しく書かれているのが特徴です.

また,テキストのレベルとしては少なくとも理論系(特に数学系)の学部生であれば,確実に理解しておきたい程度のものとなっています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

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