3次元ユークリッド空間$\R^3$上の滑らかな曲線$C:\m{r}=\m{r}(t)$に対して
- 「進む向き」を表す接ベクトル$\m{v}_1$
- 「曲がる向き」を表す法線ベクトル$\m{v}_2$
- 「ねじれる向き」を表す従法線ベクトル$\m{v}_3$
を考えることができます.
これらのベクトルは正規直交基底をなしており,${\m{v}_1}’$, ${\m{v}_2}’$, ${\m{v}_3}’$を$\m{v}_1$, $\m{v}_2$, $\m{v}_3$の線形結合で表す公式をフルネ-セレの公式といいます.
この記事では,
- 空間曲線の基礎知識
- フルネ-セレの公式のための準備
- フルネ-セレの公式
を順に説明します.
空間曲線の基礎知識
以下,変数$t$は開区間$(\alpha,\beta)$($\alpha<\beta$)上を動くとします.
空間曲線の考え方と定義
曲線とは直観的には「ちぎれていない曲線」のことですが,もう少しきちんと定義しましょう.
時刻$t=\alpha$から時刻$t=\beta$まで連続的に点が動く状況を考え,時刻$t$での点の位置を$\m{r}(t)$と表すことにすると,この$\m{r}$は閉区間$[\alpha,\beta]$で定義された連続写像と考えることができますね.
このことを踏まえて,次のように空間曲線を定義します.
1変数ベクトル値関数$\m{r}:[\alpha,\beta]\to\R^3$を空間曲線という.
この定義で$[\alpha,\beta]$は1次元ユークリッド空間$\R$の部分位相空間,$\R^3$は3次元ユークリッド空間です.つまり,$[\alpha,\beta]$, $\R^3$はどちらもいわゆる「直線距離」を備えた距離空間です.
空間曲線の導関数
空間曲線$\m{p}:(\alpha,\beta)\to\R^3$の各成分が微分可能であるとき,$\m{p}$は微分可能であるといいます.
空間曲線$\m{p}:[\alpha,\beta]\to\R^3$を
と表すとき,$\m{p}$が(開区間$(\alpha,\beta)$上)微分可能であるとは,$p_1,p_2,p_3$がいずれも(開区間$(\alpha,\beta)$上)微分可能であることをいう.また,このとき$\m{p}$の導関数$\m{p}’$を
で定める.
空間曲線の内積の微分公式
[内積の微分公式]微分可能な空間曲線$\m{p},\m{q}:[\alpha,\beta]\to\R^3$を考える.任意の$t\in(\alpha,\beta)$に対して,
が成り立つ.ただし,$\anb{\cdot,\cdot}$は通常の内積(標準内積)である.
通常の関数の積の微分公式$(fg)’=f’g+fg’$と同様の形をしているので覚えやすいですね.
$\m{p}=\bmat{p_1\\p_2\\p_3}$, $\m{q}=\bmat{q_1\\q_2\\q_3}$とすると,内積の定義より
なので,積の微分公式を用いて
が成り立つ.
空間曲線の外積の微分公式
[外積の微分公式]微分可能な空間曲線$\m{p},\m{q}:[\alpha,\beta]\to\R^3$を考える.任意の$t\in(\alpha,\beta)$に対して,
が成り立つ.ただし,$\times$は$\R^3$上の外積である.
内積のときと同じく,外積でも通常の関数の積の微分公式$(fg)’=f’g+fg’$と同様の形をしているので覚えやすいですね.
$\m{p}=\bmat{p_1\\p_2\\p_3}$, $\m{q}=\bmat{q_1\\q_2\\q_3}$とすると,外積の定義より
なので,各成分で積の微分公式を用いて
が従う.
補題(ノルムが一定のベクトル)
次の[補題]はベクトル解析・曲線曲面論ではよく用いられるので,ここで準備しておきます.
[補題]微分可能な空間曲線$\m{r}:[\alpha,\beta]\to\R^3$のノルム$\|\m{r}\|$が一定なら,任意の$t\in(\alpha,\beta)$に対して
が成り立つ.
$\|\m{r}\|$が一定なら,定数$C\ge0$を$C\equiv\anb{\m{r},\m{r}}$で定めることができる.
両辺を微分すると,内積の微分公式より
が分かる.よって,両辺を2で割って$0\equiv\anb{\m{r},\m{r}’}$が従う.
フルネ-セレの公式と曲率・捩率
以下,空間曲線$\m{r}:(\alpha,\beta)\to\R^3$は
- $\m{r}$は$C^\infty$級($\m{r}$は何回でも微分可能)
- $\m{r}’\neq\m{0}$($\m{r}$が動く速さは0にならない)
- $\m{r}^{\prime\prime}\times \m{r}’\neq\m{0}$(曲線の軌跡は曲がっている)
を満たすとします.
単位接ベクトル$\m{v}_1$・主法線ベクトル$\m{v}_2$・従法線ベクトル$\m{v}_3$の定義
空間曲線$C:\m{r}=\m{r}(t)$に対し,
- 単位接ベクトル$\m{v}_1$:曲線$C$の「進む向き」
- 主法線ベクトル$\m{v}_2$:曲線$C$の「曲がる向き」
- 従法線ベクトル$\m{v}_3$:曲線$C$の「ねじれる向き」
を次で定義します.
空間曲線$C:\m{r}=\m{r}(t)$に対し,$\m{v}_1,\m{v}_2,\m{v}_3:\R\to\R^3$を
で定義し,$\m{v}_1$を$C$の単位接ベクトル,$\m{v}_2$を$C$の主法線ベクトル,$\m{v}_3$を$C$の従法線ベクトルという.
$\m{v}_1$, $\m{v}_2$, $\m{v}_3$の正規直交性
これらのベクトル$\m{v}_1,\m{v}_2,\m{v}_3$については,次を当たり前にしておきましょう.
空間曲線$C:\m{r}=\m{r}(t)$の単位接ベクトル$\m{v}_1$,主法線ベクトル$\m{v}_2$,従法線ベクトル$\m{v}_3$は$\R^3$の正規直交基底をなす.
$\m{v}_1$, $\m{v}_2$の定義より,
である.また,$|\m{v}_1\|=1$だから[補題]より
である.さらに,外積の性質より$\m{v}_3=\m{v}_1\times \m{v}_2$は$\m{v}_1$, $\m{v}_2$と直交し,
である.
フルネ-セレの公式
単位接ベクトル$\m{v}_1$,主法線ベクトル$\m{v}_2$,従法線ベクトル$\m{v}_3$が$\R^3$の(正規直交)基底をなすことから,これら3本のベクトル値関数の導関数${\m{v}_1}’$, ${\m{v}_2}’$, ${\m{v}_3}’$を$\m{v}_1$, $\m{v}_2$, $\m{v}_3$の線形結合で一意に表すことができます.
このときの線形結合の公式は
フルネ-セレの公式は
- 1847年にジャン・フレデリック・フルネ(Jean Frédéric Frenet)
- 1851年にジョセフ・アルフレッド・セレ(Joseph Alfred Serret)
によって独立に発見されたのでフルネ-セレの公式といいます.
[フルネ-セレの公式]空間曲線$C:\m{r}=\m{r}(t)$の接ベクトル$\m{v}_1$,主法線ベクトル$\m{v}_2$,従法線ベクトル$\m{v}_3$に対して,ある非負値関数$\kappa:(\alpha,\beta)\to\R_{\ge0}$と実数値関数$\tau:(\alpha,\beta)\to\R$が存在して,任意の$t\in(\alpha,\beta)$に対して
が成り立つ.
フルネ-セレの公式は
と表すこともできますね.
曲率・捩率の定義
上のフルネ-セレの公式の
- 非負値関数$\kappa:\R\to\R_{\ge0}$を空間曲線$C:\m{r}=\m{r}(t)$の曲率
- 実数値関数$\tau:\R\to\R$を空間曲線$C:\m{r}=\m{r}(t)$の捩率
という.
第1式の両辺でノルムをとれば
となるので,曲率は単位接ベクトルの導関数${\m{v}_1}’$のノルムとして定義することもできます.
フルネ-セレの公式の証明
それでは,フルネ-セレの公式を証明しましょう.
[フルネ-セレの公式(再掲)]空間曲線$C:\m{r}=\m{r}(t)$の接ベクトル$\m{v}_1$,主法線ベクトル$\m{v}_2$,従法線ベクトル$\m{v}_3$に対して,ある非負値関数$\kappa:(\alpha,\beta)\to\R_{\ge0}$と実数値関数$\tau:(\alpha,\beta)\to\R$が存在して,任意の$t\in(\alpha,\beta)$に対して
が成り立つ.
任意の$t\in(\alpha,\beta)$に対して$\m{v}_1(t)$, $\m{v}_2(t)$, $\m{v}_3(t)$は$\R^3$の基底をなすことに注意する.
第1式${\m{v}_1}’=\kappa\m{v}_2$の証明
$\m{v}_2$の定義の両辺に$\|{\m{v}_1}’\|$をかけて
が成り立つので,$a_{11}=a_{13}\equiv0$と$a_{12}=\|{\m{v}_1}’\|\ge0$である.
よって,$\kappa=\|{\m{v}_1}’\|$とおけば$\kappa$は非負値で第1式が成り立つ.
第3式${\m{v}_3}’=-\tau\m{v}_2$の証明
${\m{v}_2}’$は$\m{v}_1$, $\m{v}_2$, $\m{v}_3$の線形結合で表せるから,
で$a_{i}:(\alpha,\beta)\to\R$($i=1,2,3$)を定める.$a_{1}=a_{3}\equiv0$を示せばよい.
$\|\m{v}_3\|=1$だから[補題]より$\anb{\m{v}_3,{\m{v}_3}’}\equiv0$が成り立つので
が成り立つ.また,内積の微分公式と,上で示した第1式を併せて
が成り立つ.よって,$\tau=-a_{32}$とおけば第3式が成り立つ.
第2式${\m{v}_2}’=-\kappa\m{v}_1+\tau\m{v}_3$の証明
${\m{v}_2}’$は$\m{v}_1$, $\m{v}_2$, $\m{v}_3$の線形結合で表せるから,
で$b_{i}:(\alpha,\beta)\to\R$($i=1,2,3$)を定める.$b_{2}\equiv0$, $b_{1}=-\kappa$, $b_{3}=\tau$を示せばよい.
$\|\m{v}_2\|=1$だから[補題]より$\anb{\m{v}_2,{\m{v}_2}’}\equiv0$が成り立つので
が成り立つ.また,内積の微分公式と,上で示した第1式を併せて
だから$b_{1}=-\kappa$が成り立つ.さらに,内積の微分公式と,上で示した第3式を併せて
だから$b_{3}=\tau$が成り立つ.よって,第2式が成り立つ.
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