3次元ユークリッド空間$\R^3$上の$t$をパラメータとする滑らかな曲線$C:r=r(t)$に対して
- 「進む向き」を表す接ベクトル$v_1(t)$
- 「曲がる向き」を表す法線ベクトル$v_2(t)$
- 「ねじれる向き」を表す従法線ベクトル$v_3(t)$
を考えることができます.
このときの$[v_1(t),v_2(t),v_3(t)]$と$[{v_1}'(t),{v_2}'(t),{v_3}'(t)]$との関係を[Frenet(フルネ)-Serret(セレ)の公式]といいます.
[Frenet-Serretの公式]は
- 1847年にジャン・フレデリック・フルネ(Jean Frédéric Frenet)によって
- 1851年にジョセフ・アルフレッド・セレ(Joseph Alfred Serret)によって
それぞれ独立に発見されました.
この記事では,[Frenet-Serretの公式]を導出します.
準備
パラメータ$t$はある開区間$(\alpha,\beta)$ ($\alpha$, $\beta$は実数)上を動くとします.
$\R^3$の元は太字で書くこともありますが,この記事では太字にはしていません.また,ゼロも零ベクトルもどちらも0で表しますが,混乱のおそれはないでしょう.
内積,ノルム,外積の定義
以下で$\R^3$上の内積,ノルム,外積を定義します.
[定義1] $a=\bmat{a_1\\a_2\\a_3},b=\bmat{b_1\\b_2\\b_3}\in\R^3$に対し,次を定義する.
- 次の$\anb{a,b}$を$a$と$b$の内積 (inner product)という:
- 次の$\|a\|$を$a$のノルム (norm)という:
- 次の$a\times b$を$a$と$b$の外積 (outer product)という:
定義から,内積と外積に関して
が成り立つことが分かります.また,$a$と$b$が直交するとは,$\anb{a,b}=0$となることをいいます.
さらに,外積$a\times b$は以下を満たします(証明略).
- $a$とも$b$とも直交する.
- $a$と$b$のなす角を$\theta$とするとき,$\|a\times b\|=\|a\|\|b\|\sin\theta$が成り立つ.
微分の定義
次に,以下で$\R^3$上の導関数を定義します.
[定義2] パラメータ$t$に関する$\R^3$上の元$p(t)=\bmat{p_1(t)\\p_2(t)\\p_3(t)}$に関して,各成分$p_1(t),p_2(t),p_3(t)$が$t$に関して微分可能であるとする.このとき,$p(t)$は微分可能であるといい,$p(t)$の$t$に関する導関数$p'(t)$を次で定義する:
すなわち,ベクトルの微分は各成分で微分したものと定める.
いくつかの補題
ここでは準備として[補題3],[補題4]を示します.
[補題3] パラメータ$t\in(\alpha,\beta)$に関する$\R^3$上の元$p(t),q(t)$が微分可能であるとする.このとき,次が成り立つ:
$p(t)=\bmat{p_1(t)\\p_2(t)\\p_3(t)}$, $q(t)=\bmat{q_1(t)\\q_2(t)\\q_3(t)}$とする.計算により
と,
が従う.
この[補題3]から,内積,外積の導関数に関して積の微分公式(のようなもの)が成り立つことが分かりますね.
[補題4] パラメータ$t$に関する$\R^3$の元$p(t)$が微分可能で$\|p(t)\|$が$t$によらず常に一定であるとする.このとき,$p(t)$と$p'(t)$は$t$によらず常に直交する.すなわち,次が成り立つ:
$t$によらない定数$C>0$を
で定める.$C^2=\anb{p(t),p(t)}$の両辺を$t$で微分すると,左辺$C^2$が定数であることと,[補題3]から
が分かる.よって,両辺を2で割って$0=\anb{p(t),p'(t)}$が従う.
この[補題4]は[Frenet-Serretの公式]の導出でキーとなる補題です.
Frenet-Serretの公式
$t\in(\alpha,\beta)$をパラメータとする$\R^3$内の曲線$C:r=r(t)$を考えます.ただし,$r$は次の条件を満たしているとします.
- $r$は$C^\infty$級である.
- 任意の$t\in(\alpha,\beta)$に対して,$r'(t)\neq0$である.
- 任意の$t\in(\alpha,\beta)$に対して,$r”(t)\times r'(t)\neq0$である.
条件1は「$r$は$t$に関して何回でも微分可能」,条件2は「$r$の速度は0にならない」,条件3は「曲線$C$の軌跡は曲がっている」ということを述べています.
3つのベクトル
$r$に対し,接線ベクトル,主法線ベクトル,従法線ベクトルを次のように定義します.
[定義5] $v_1(t),v_2(t),v_3(t)\in\R^3$を
で定義し,$v_1(t)$を$C$の接線ベクトル,$v_2(t)$を$C$の主法線ベクトル,$v_3(t)$を$C$の従法線ベクトルという.また,$\kappa(t):=\|{v_1}'(t)\|$を$C$の曲率という.
なお,冒頭で書いた通り
- 接ベクトル$v_1(t)$は曲線$C$の「進む向き」
- 法線ベクトル$v_2(t)$は曲線$C$の「曲がる向き」
- 従法線ベクトル$v_3(t)$曲線$C$の「ねじれる向き」
に相当します.
ここで,次の[命題6]を示します.
[命題6] ${v_3}'(t)$と$v_2(t)$は$t$によらず平行である.
$v_3(t)=v_1(t)\times v_2(t)$より,両辺$t$で微分して
が成り立つ.また,${v_1}'(t)$と$v_2(t)$は平行だから${v_1}'(t)\times v_2(t)=0$なので,
となって,${v_3}'(t)$は$t$によらず$v_1(t)$, ${v_2}'(t)$の両方と直交する.
$\|v_1(t)\|=1$は定数だから[補題4]より$v_1(t)$と${v_1}'(t)$は$t$によらず直交し,さらに$v_2(t)=\dfrac{{v_1}'(t)}{\|{v_1}'(t)\|}$だから,$v_1(t)$と$v_2(t)$は$t$によらず直交する.
また,$\|v_2(t)\|=1$は定数だから[補題4]より$v_2(t)$と${v_2}'(t)$は$t$によらず直交する.
したがって,${v_2}'(t)$は$t$によらず$v_1(t)$, $v_2(t)$の両方と直交する.
いまは$R^3$で考えているので,${v_3}'(t)$と$v_2(t)$は$t$によらず平行である.
[命題6]より,次の[定義7]ができる.
[定義7] ${v_3}'(t)=-\tau(t)v_2(t)$によって定まる$\tau(t)$を$C$の捩率という.
捩率は「接線ベクトル,主法線ベクトルの張る平面からどれくらいの勢いではみ出そうとするのか」ということを表します.
したがって,同一平面上を動く曲線の捩率は0ですね.
[命題8] $t$によらず,$A(t):=[v_1(t),v_2(t),v_3(t)]$は直交行列である.
$\anb{v_i(t),v_j(t)}=\delta_{i,j}$ $(i,j=1,2,3)$を示せば良いが,内積は可換だから$i\ge j$の場合を示せば十分である.
$v_1(t),v_2(t)$の定義から
である.また,定義$v_3(t)=v_1(t)\times v_2(t)$から
である.さらに,
は[命題6]の証明中で示した.
Frenet-Serretの公式
準備が整ったので,[Frenet-Serretの公式]を示します.
[Frenet-Serretの公式] 次の等式が成り立つ.
[命題8]と同じく$A(t):=[v_1(t),v_2(t),v_3(t)]$とする.
である.$\|v_i\|=1$ ($i=1,2,3$)は定数なので,[補題4]より$\anb{v_i(t),{v_i}'(t)}=0$である.また,${v_3}'(t):={v_1}'(t)\times v_2(t)+v_1(t)\times {v_2}'(t)$であり
であることと,
であることから$\anb{v_1(t),{v_3}'(t)}=0$が成り立つ.さらに,
だから,$\anb{v_3(t),{v_1}'(t)}=0$である.次に,
である.また,[命題8]より$\anb{v_1(t),v_2(t)}=0,\anb{v_2(t),v_3(t)}=0$だったから,これらの両辺を$t$で微分して整理すると,
である.[命題8]より$A(t)$は直交行列なので,${A(t)}^{-1}={}^{t}A(t)$である.よって,
が成り立つから,
となって,[Frenet-Serretの公式]が従う.