2次方程式$ax^2+bx+c=0$の解が
であることはよく知られており,これを[2次方程式の解の公式]といいます.
そこで[2次方程式の解の公式]があるなら[3次方程式の解の公式]はどうなのか,と考えることは自然なことと思います.
歴史的には[2次方程式の解の公式]は紀元前より知られていたものの,[3次方程式の解の公式]が発見されるには16世紀まで待たなくてはなりません.
この記事では,[3次方程式の解の公式]として知られる「カルダノの公式」の歴史と導出について説明します.
目次
16世紀のイタリア
本題の前に[3次方程式の解の公式]が知られた16世紀のイタリアの話を書きましょう.
ジェロラモ・カルダノ
かつてイタリアでは数学の問題を出し合って勝負する公開討論会が行われていた時代がありました.
公開討論会では3次方程式は難問とされており,多くの人によって[3次方程式の解の公式]の導出が試みられました.
そんな中,16世紀の半ばにジェロラモ・カルダノ(Gerolamo Cardano)により著書「アルス・マグナ(Ars Magna)」が執筆され,その中で[3次方程式の解の公式]が示されました.
なお,「アルス・マグナ」の意味は「偉大な術」であり,副題は「代数学の諸法則」でした.
このようにして[3次方程式の解の公式]は世の中の知るところとなったわけですが,この「アルス・マグナ」の発刊に際して重要な
- シピオーネ・デル・フェロ(Scipione del Ferro)
- ニコロ・フォンタナ(Niccolò Fontana)
を紹介しましょう.
デル・フェロとフォンタナ
15世紀後半の数学者であるデル・フェロが[3次方程式の解の公式]を最初に導出したとされています.
デル・フェロは自身の研究をあまり公表しなかったため,彼の導出した[3次方程式の解の公式]が日の目を見ることはありませんでした.
しかし,デル・フェロは自身の研究成果を弟子に託しており,弟子の一人であるアントニオ・マリア・デル・フィオール(Antonio Maria del Fiore)はこの結果をもとに討論会で勝ち続けていたそうです.
そんな折,フォンタナは[3次方程式の解の公式]があるとの噂を聞き,独自に[3次方程式の解の公式]を導出しました.
しかし,フィオールの公式は3次方程式の特別な場合のみしか解くことができなかったため,フォンタナはフィオールが解けないパターンの問題を出題することで勝利しました.
カルダノとフォンタナ
3次方程式の討論会で[3次方程式の解の公式]を使ったフォンタナは有名となりました.
後に「アルス・マグナ」を発刊するカルダノもフォンタナの噂を聞きつけ,フォンタナを訪れます.
カルダノは「公式を発表しない」という約束のもとに,フォンタナから[3次方程式の解の公式]を聞き出すことに成功します.
しばらくして,カルダノはデル・フェロの公式を導出した原稿を確認し,フォンタナの前にデル・フェロが公式を得ていたことを知ります.
そこでカルダノは「公式はフォンタナによる発見ではなくデル・フェロによる発見であり約束を守る必要はない」と考え,「アルス・マグナ」の中で「デル・フェロの解法」と名付けて[3次方程式の解の公式]を紹介しました.
同時にカルダノは最初に自身はフォンタナから教わったことを記していますが,フォンタナは当然のごとく激怒しました.
その後,フォンタナはカルダノに勝負を申し込みましたが,カルダノは受けなかったそうです.
以上のように,現在ではこの記事で説明する[3次方程式の解の公式]は「カルダノの公式」と呼ばれていますが,カルダノによって発見されたわけではなく,デル・フェロとフォンタナによって別々に証明されたわけですね.
3次方程式の解の公式
それでは3次方程式$ax^3+bx^2+cx+d=0$の解の公式を導きましょう.
導出は大雑把には
- 3次方程式を$X^3+pX+q=0$の形に変形する
- $X^3+y^3+z^3-3Xyz$の因数分解を用いる
の2ステップに分けられます.
ステップ1
3次方程式といっているので$a\neq0$ですから,$x=X-\frac{b}{3a}$とおくことができ
となります.よって,
とすれば,3次方程式$ax^3+bx^2+cx+d=0$は$X^3+pX+q=0$となりますね.
ステップ2
$\omega$を1の原始3乗根の1つとすると,因数分解
が成り立ちます.なお,「1の原始3乗根」とは3乗して初めて1になる複素数のことで,$x^3=1$の1でない解はどちらも1の原始3乗根となります.
よって
を満たす$y$, $z$を$p$, $q$で表すことができれば,方程式$X^3+pX+q=0$の解
を$p$, $q$で表すことができますね.
さて,先ほどの連立方程式より
となるので,2次方程式の解と係数の関係より$t$の2次方程式
は$y^3$, $z^3$を解にもちます.一方,2次方程式の解の公式より,この方程式の解は
となります.$y$, $z$は対称なので
として良いですね.これで,3次方程式が解けました.
結論
以上より,3次方程式の解の公式は以下のようになります.
3次方程式$ax^3+bx^2+cx+d=0$の解は
である.ただし,
- $p=\dfrac{-b^2+3ac}{3a^2}$
- $q=\dfrac{2b^3-9abc+27a^2d}{27a^3}$
- $\omega$は1の原始3乗根
である.
具体例
この公式に直接代入して計算するのは現実的ではありません.
そのため,公式に代入して解を求めるというより,解の導出の手順を当てはめるのが良いですね.
方程式$x^3-3x^2-3x-4=0$を解け.
単純に$(x-4)(x^2+x+1)=0$と左辺が因数分解できることから解は
と得られますが,[カルダノの公式]を使っても同じ解が得られることを確かめましょう.
$x=X+1$とおくと,方程式$x^3-3x^2-3x-4=0$は
となる.因数分解
と比較して,
なる$y$, $z$を見つけることができれば,解は
となる.$y^3z^3=8$と$y^3+z^3=-9$だから,2次方程式の解と係数の関係より,$t$の2次方程式
は解$y^3$, $z^3$をもつ.一方,これは$(t+1)(t+8)=0$と左辺を因数分解できるから,解は$t=-1,-8$である.
$y$, $z$の対称性より$(y^3,z^3)=(-1,-8)$としてよく,さらに$yz=2$に注意して$(y,z)=(-1,-2)$としてよい.
以上より,求める解は
である.
なお,最後に$(y,z)=(-2,-1)$や$(y,z)=(-\omega,-2\omega^2)$などとしても,最終的に
- $-y-z$
- $-y\omega-z\omega^2$
- $-y\omega^2-z\omega$
が辻褄を合わせてくれるので,同じ解が得られます.
参考文献
アルキメデス,オイラー,ガウス,ガロア,ラマヌジャンといった数学上の25人の偉人が,時系列順にざっくりとまとめられた伝記です.
カルダノもこの本の中で紹介されています.
しかし,上述したようにカルダノ自身が重要な発見をしたわけではないので,カルダノがなぜ「数学の真理をつかんだ天才」とされているのか個人的には疑問ではあります……
とはいえ,ほとんどが数学界を大きく発展させるような発見をした人物が数多く取り上げられています.
「そんな偉大な人物が実はそんな人間だったのか」と意外な一面を知ることができる一冊です.
コメント
[…] 参考リンク:https://math-note.xyz/algebra/solutions-of-cubic-equation/ […]