バナッハ空間とヒルベルト空間の完備でない部分空間の例

   

完備なノルム空間をBanach(バナッハ)空間といい,完備な内積空間をHilbert(ヒルベルト)空間という.

Banach空間(Hilbert空間)はもとより線型空間なので,線型空間としての部分空間を考えることができる.この部分空間に元の空間と同じノルム(内積)を与えたものはノルム空間(内積空間)となるが,完備性を持つとは限らない.

すなわち,Banach空間の部分空間が同じノルムでBanach空間になるとは限らないし,Hilbert空間の部分空間が同じ内積でHilbert空間になるとは限らない.

本稿では,Hilbert空間の部分ノルム空間で完備でないものの例を考える.その際,以下の事実に注意する.

一般に,Banach空間,Hilbert空間の部分空間が同じノルムで完備であるためには,部分空間が閉であることが必要十分である.したがって,Banach空間,Hilbert空間の閉でない部分ノルム空間は完備でない.

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シュレディンガー方程式のストリッカーツ評価の導出

   

本稿では,Schrödinger(シュレディンガー)方程式に関する不等式評価であるStrichartz評価とその証明を解説する.

Strichartz(ストリッカーツ)評価は,波動方程式に関する不等式評価であるStrichartz-Brenner評価に対応し,歴史的にはStrichartz-Brenner評価の方が古い.

Strichartz評価の証明のためには,「自由Schrödinger発展作用素e^{it\Delta}の分散型評価(分散評価)」と「Hardy-Littlewood-Sobolervの不等式」を用いることになる.

なお,自由Schrödinger発展作用素e^{it\Delta}は,初期値u_0に対して自由Schrödinger方程式

i\partial_t{u}+\Delta{u}=0

の解e^{it\Delta}u_0を表す作用素e^{it\Delta}のことである.

【参考記事:自由シュレディンガー方程式の解の性質

Strichartz評価はSchrödinger方程式の評価をする上で,非常に重要な役割を果たす.

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ハメル基底とf(x+y)=f(x)+f(y)をみたす関数

 
 

「Hamel(ハメル)基底」は「体\Q上のベクトル空間\Rの基底」のことをいい,選択公理を認めると「Hamel基底の存在」を証明することができる.

【参考記事:ベクトル空間の基底とハメル基底の存在の証明

さて,「Hamel基底が存在したら何が分かるのか」ということだが,Hamel基底を用いれば「任意のx,y\in\Rに対して,f(x+y)=f(x)+f(y)をみたす関数f:\R\to\Rf(x)=ax (a\in\R)に限られるか」という問題に対する反例を挙げることができる.

すなわち,f(x)=axならf(x+y)=f(x)+f(y)をみたすことは簡単に分かるが,Hamel基底の存在によりf(x)=axの形をしていないf(x+y)=f(x)+f(y)をみたす関数が存在することを示すことができるのである.

この記事では,Hamel基底を説明したあと,「f(x+y)=f(x)+f(y)をみたす関数f:\R\to\Rf(x)=ax (a\in\R)に限られるか」という問題に対する反例を考える.

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ベクトル空間の基底とハメル基底の存在の証明

   

Zorn(ツォルン)の補題は選択公理と同値な存在定理である.

選択公理を認めないとする立場もあるが,この記事では選択公理を認めてZornの補題を用いることで「基底」の存在を証明する.ここでの「基底」とは次の2つを指している.

  1. ベクトル空間における基底
  2. Hamel基底

これらの定義はのちに述べるが,ともかくこの両者の存在はZornの補題によって証明される.すなわち,選択公理を認めれば

  1. \{0\}でない任意のベクトル空間は基底を持つ
  2. Hamel基底が存在する

を証明することができる.

なお,Hamal基底のイメージなどについては以下の記事で触れています.

【参考記事:ハメル基底とf(x+y)=f(x)+f(y)をみたす関数

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群と環と体の定義とそれらの例

   

代数学は数学の構造を研究する分野であり,群(group),環(ring),体(field)上において理論が展開されることが非常に多い.

群,環,体といった代数構造を定義するためには,「集合」と「演算」が必要となる.

例えば,整数の集合\Zは通常の加法+によって「群」となり,実数の集合\Rは通常の加法+と乗法\cdotによって「体」となる.また,実数係数の1変数多項式\R[x]の集合は通常の加法+と乗法\cdotによって「環」となる.

この記事では,最初に「2項演算」を説明し,そのあとに群,環,体の定義とそれらの例を挙げる.

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弱Lp有界性とマルチンキーヴィッツの実補間定理

   

関数空間の補間定理として,[Marcinkiewicz(マルチンキーヴィッツ)の実補間定理]がある.

定義はのちに述べるが,作用素のL^p有界性には,(普通の)L^p有界性と弱L^p有界性がある.言葉からも分かるように,作用素TL^p有界であれば,弱L^p有界である.

[Marcinkiewiczの実補間定理]は,ある種の三角不等式を満たす作用素Tが弱L^1有界性と弱L^q有界性(1<q)をもつとき,任意のp\in(1, q)に対して作用素TがL^p有界性をもつことを保証する定理である.

つまり,両端L^1L^qで弱有界であれば,その間でL^p有界となる.「両端は弱でよい」というのが[Marcinkiewiczの実補間定理]の優れた点である.

また,非線形作用素にも適用できる点も優れている.

なお,Marcinkiewiczは様々な発音で読まれるが,「マルチンキェーヴィツ」がMarcinkiewiczの正確な発音に近いようである.

【参考記事:リース-ソリンの複素補間定理

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ラグランジュの未定乗数法の直感的な理解と証明

   

N次元ユークリッド空間R^N上の有界閉集合(コンパクト集合)D上で定義された連続関数fは最大値,最小値を持つ(Heineの定理)ことはよく知られており,このときのfが最大点,最小点は次のいずれかである.

  1. fの全ての偏微分係数が存在して,\pd{f}{x_1}(a)=\dots=\pd{f}{x_N}(a)=0となる点a\in D^i
  2. fが微分可能でない点a\in D^i
  3. \partial D上の点

ただし,D^iDの内部(interior),\partial DDの境界である.

D^iが開集合であることから,D^iでの最大点,最小点の候補はfの導関数を考えることで絞ることができる.これが1,2である.

残る3であるが,\partial Dは一般に有限集合ではないため,\partial Dからさらに有限個に候補を絞りたい.ここで,境界\partial D上での関数fの極大点,極小点の候補を絞る[Lagrange(ラグランジュ)の未定乗数法]が非常に有効にはたらく.

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自由シュレディンガー方程式の解の性質

   

自由Schrödinger(シュレディンガー)方程式の初期値問題

\begin{cases} i\partial_{t}u(t,x)+\Delta_x u(t,x)=0& (t,x)\in\R\times\R^{N}\\ u(0,x)=u_{0}(x)& x\in\R^{N} \end{cases}

を考える.ここに,iは虚数単位,\partial_{t}=\frac{\partial}{\partial t}\Delta_x=\sum_{i=1}^{N}\frac{\partial^2}{\partial x_{i}^2}である.

自由Schrödinger方程式の初期値問題の解uは,[Stoneの定理]を用いてu(t,x)=e^{it\Delta}u_0(x)と表すことができ,このe^{it\Delta}を自由Schrödinger発展作用素という.

この記事では,自由Schrödinger発展作用素e^{it\Delta}の基本性質について説明する.

ただし,本稿ではFourier変換\mathcal{F},逆Fourier変換\mathcal{F}^{-1}をそれぞれ次で定義する:

\hat{u}(\xi)=\mathcal{F}_{x}[u](\xi)=\f{1}{(2\pi)^{N/2}}\dint_{\R^N}e^{-ix\cdot\xi}u(x)\,dx
\check{u}(x)=\mathcal{F}_{\xi}^{-1}[u](x)=\f{1}{(2\pi)^{N/2}}\dint_{\R^N}e^{ix\cdot\xi}u(\xi)\,d\xi

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ペロン-フロベニウスの定理

   

[Perron-Frobenius(ペロン-フロベニウス)の定理]とは,全ての成分が正または非負である正方行列の最大固有値に関する定理である.

歴史的には,全ての成分が正の行列に対する定理をOskar Perronが示し,後にFerdinand Georg Frobeniusが全ての成分が非負の行列に対する同様の定理を示した.

また,この[Perron-Frobeniusの定理]の応用範囲は非常に広い.

なお,多項式に行列を代入したときの固有値に対するFrobeniusの定理は以下を参照されたい.

【参考記事:フロベニウスの定理

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