普通の6面サイコロは均等な割合で1,2,3,4,5,6の目が出ます.
この6面サイコロの出目のように,等しい確率で値1,2,……,$n$となる確率変数が従う確率分布を$\{1,2,\dots,n\}$上の離散型一様分布といいます.
この記事では
- 離散型一様分布の定義と具体例
- 離散型一様分布の期待値・分散・確率母関数
を順に説明します.
「重要な確率分布」の一連の記事
- 離散型確率分布の定義と期待値・分散・母関数
- 1 離散型一様分布|6面サイコロの出目の確率分布 (今の記事)
- 2 ベルヌーイ分布|コインの裏表の確率分布
- 3 二項分布|ベルヌーイ試行の成功回数の確率分布
- 4 幾何分布|初めて成功するまで諦めない確率分布
- 負の二項分布|k回成功するまで諦めない確率分布(準備中)
- ポアソン分布|二項分布が分布収束する確率分布(準備中)
- 超幾何分布|引いたクジを戻さない確率分布(準備中)
- 連続型確率分布の定義と期待値・分散・母関数
- 連続型一様分布(準備中)
- 正規分布(準備中)
- カイ二乗分布(準備中)
- ガンマ分布(準備中)
- ベータ分布(準備中)
- t分布(準備中)
- F分布(準備中)
離散型一様分布の定義・基本性質・具体例
まずは離散型一様分布の定義を説明し,そのあと一様分布に従う確率変数の具体例を紹介します.
定義($X\sim\mrm{Uni}(\{1,2,\dots,n\})$)
離散型確率変数$X$の確率関数$p_X$は
と定義される関数のことのでした.つまり,$X=k$となる確率を$p_X(k)$と表すことを思い出しておきましょう.
$n$を正の整数とする.離散型確率変数$X$が$\{1,2,\dots,n\}$上の離散型一様分布(discrete uniform distribution)に従うとは,$X$の確率関数$p_X$が
を満たすことをいう.また,このとき$X\sim\mrm{Uni}(\{1,2,\dots,n\})$などと表す.
つまり,離散型一様分布に従う確率変数$X$とは,均等な確率で1から$n$までの整数の値をとるような確率変数のことをいうわけですね.
期待値$E[X]$・分散$V[X]$・確率母関数$G_X(s)$
のちに導出するように,離散型一様分布の期待値・分散・確率母関数は次のようになります.
$X\sim\mrm{Uni}(\{1,2,\dots,n\})$に対して,期待値$E[X]$,分散$V[X]$,確率母関数$G_X(s)$は
である.
単に「一様分布」と呼ぶこともありますが,連続型一様分布もあるので混同しないように注意してください.
具体例1(6面サイコロ)
冒頭で紹介したように,各目が均等に出る6面サイコロの出目は離散型一様分布に従います.
各目が均等に出る6面サイコロの出目を確率変数$X$とする.$X$はどのような離散型一様分布に従うか?
$X$は1,2,3,4,5,6のいずれかの値をとる.
また,どの値もいずれも等しい確率でとることから,$k=1,2,3,4,5,6$に対して,
となる.よって,$X$は$\{1,2,3,4,5,6\}$上の離散型一様分布に従う.すなわち,
である.
具体例2(クジ引き)
箱A, B, Cの中に1,2,3のいずれかの数が書かれたクジが以下のように入っている:
- 箱A:1と書かれたクジが4枚,2と書かれたクジが5枚
- 箱B:1と書かれたクジが1枚,3と書かれたクジが3枚
- 箱C:1と書かれたクジが1枚,2と書かれたクジが2枚,3と書かれたクジが3枚
最初に均等に目が出る6面サイコロを振り,出目に応じて
- 1,2,3の目が出たら箱Aから
- 4,5の目が出たら箱Bから
- 6の目が出たら箱Cから
一本のクジを無作為に引く.クジに書かれた値を確率変数$X$とすると,$X$が離散型一様分布に従うことを示せ.
複雑に感じるかも知れませんが,
- 1と書かれたクジを引く確率$p_X(1)$
- 2と書かれたクジを引く確率$p_X(2)$
- 3と書かれたクジを引く確率$p_X(3)$
を丁寧に求めるといずれも$\frac{1}{3}$となっており,この確率変数$X$は一様分布に従うことが分かります.
$X$は1,2,3のいずれかの値をとる.$X=1$となる(1と書かれたクジを引く)パターンは
- サイコロで1,2,3の目が出て,箱Aから引く(確率$\frac{3}{6}\cdot\frac{4}{9}=\frac{2}{9}$)
- サイコロで4,5の目が出て,箱Bから引く(確率$\frac{2}{6}\cdot\frac{1}{4}=\frac{1}{12}$)
- サイコロで6の目が出て,箱Cから引く(確率$\frac{1}{6}\cdot\frac{1}{6}=\frac{1}{36}$)
のいずれかであり,これらは排反なので,これらの確率を合算して
となる.同様に
だから,$X$は$\{1,2,3\}$上の離散型一様分布に従う($X\sim\mrm{Uni}(\{1,2,3\})$).
離散型一様分布の期待値・分散・確率母関数の導出
それでは離散型一様分布の期待値・分散・確率母関数を定義から求めましょう.
期待値$E[X]$の導出
$X\sim\mrm{Uni}(\{1,2,\dots,n\})$の期待値は$E[X]=\dfrac{n+1}{2}$である.
1から$n$までの整数の値を均等な確率でとるのであれば,直感的に期待値は「真ん中」の値になりそうです.
「1から$n$までの整数の平均値」は$\frac{n+1}{2}$なので,$E[X]=\frac{n+1}{2}$となることは自然に思えますね.
1から$n$までの整数の和は$\frac{n(n+1)}{2}$である:
よって,$X$の期待値$E[X]$の定義と併せて
である.
分散$V[X]$の導出
$X\sim\mrm{Uni}(\{1,2,\dots,n\})$の分散は$V[X]=\dfrac{(n+1)(n-1)}{12}\bra{=\dfrac{n^2-1}{12}}$である.
$X$の分散は$V[X]=E[X^2]-E[X]^2$で求まる.$E[X]=\frac{n+1}{2}$は上で求めたから,あとは$E[X^2]$を求めればよい.
1から$n$までの整数の2乗和は$\frac{n(n+1)(2n+1)}{6}$である:
よって,$X^2$の期待値$E[X^2]$の定義と併せて
となる.よって,
である.
確率母関数$G_X(s)$の導出
$X\sim\mrm{Uni}(\{1,2,\dots,n\})$の確率母関数$G_X(s)$は
である.
初項$s$,公比$s$の等比数列の和の公式より
なので,確率母関数$G_X(s)$の定義より
である.
$s=e^{t}$と置き換えれば積率母関数
が得られ,$s=e^{it}$と置き換えれば特性関数
が得られますね.
参考文献
以下は参考文献です.
統計学
[久保川達也 著/東京大学出版会]
現代の統計学は社会学・心理学・機械学習など様々な分野に応用されている極めて実学的な分野です.
本書は統計学の基礎を基礎から丁寧に解説した初学者向けのテキストで,大きく
- 第1部:統計データの整理と記述のための基礎事項
- 第2部:統計学で必要となる確率の知識
- 第3部:統計的推測の基礎事項
- 第4部:社会・経済・時系列データ
の4部構成になっています(本書「はしがき」より).
著者が大学2年生に向けて行った講義に基づいて書かれており,数理的な計算はしっかり追いつつも分かりやすさを重視した記述になっています.
難易度としては統計検定の2級を少し超えたくらいになっており,部分的には準1級レベルの箇所もあります.
章末問題も豊富にあり,統計検定の2級対策としても利用できます.
さらに,著者による章末問題の略解がウェブにアップロードされているのも独学者にはありがたい点です.
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