行列Aの像Im(A)の定義・考え方|求め方を例題から理解する

線形代数学の基本
線形代数学の基本

$\R^n$の部分空間の中でも行列の像と呼ばれる部分空間はよく用いられます.

例えば,行列$A$を$A=\bmat{1&2\\2&1\\1&0}$とするとき,

    \begin{align*}A\bmat{1\\0}=\bmat{1\\2\\1},\quad A\bmat{0\\1}=\bmat{2\\1\\0}\end{align*}

のように,2次列ベクトルに$A$を左からかけると3次列ベクトルができあがりますね.

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このように,行列$A$を左からかけてできあがる列ベクトルたちを全て集めてできる集合を$A$のといいます.

この記事では

  • 行列の像の定義
  • 行列の像の具体例
  • 行列の像が部分空間であることの証明

を順に説明します.

なお,特に断らない限り以下では実行列・実ベクトルを扱うことにしますが,複素行列など一般のを成分とする行列・ベクトルに対しても同様です.

この記事の内容は一般の線形写像でも同様に成り立ちますが,簡単のためここでは$\R^n$の部分空間に限って話を進めます.

線形代数学の参考文献

以下は線形代数学に関するオススメの教科書です.

大学教養 線形代数(加藤文元 著)

数学科など理論系の学生向けの線形代数の入門書です.平易な例から丁寧に説明されています.

手を動かしてまなぶ 線形代数(藤岡敦 著)

理論と演習のバランスをとりながら勉強したい人にオススメの入門書です.

行列の像$\Ima{A}$の定義と具体例

行列の像$\Ima{A}$の定義を見てから具体例を考えましょう.

定義

$m\times n$行列$A$を考える.$\R^n$の列ベクトルに左から$A$をかけてできる列ベクトル全部のからなる$\R^m$の部分集合を$A$の像(image)といい,$\Ima{A}$と表す:

    \begin{align*}\Ima{A}=\set{A\m{x}\in\R^m}{\m{x}\in\R^n}.\end{align*}

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物理の実験などで凸レンズを通った光で「凸レンズの像」ができあがるように,列ベクトルに行列を左からかけてできあがる集合を「行列の像」というわけですね.

冒頭の行列$A=\bmat{1&2\\2&1\\1&0}$に対しては,例えば

    \begin{align*}A\bmat{1\\0}=\bmat{1\\2\\1},\quad A\bmat{0\\1}=\bmat{2\\1\\0}\end{align*}

なので$\bmat{1\\2\\1},\bmat{2\\1\\0}\in\Ima{A}$ですね.

像$\Ima{A}$は「行列$A$をかけた後の空間」の話であるという点をしっかり意識しましょう.

のちに示すように,行列の像は必ず生成される部分空間となります.

具体例1(3×2行列の像)

冒頭で考えた行列$A$の像を考えましょう.

$A=\bmat{1&2\\2&1\\1&0}$とする.$\Ima{A}$を求めよ.

繰り返しになりますが,行列$A$は2次列ベクトルに左からかけることができ,このとき3次列ベクトルができあがりますね:

    \begin{align*}\bmat{1&2\\2&1\\1&0}\bmat{{*}\\{*}}=\bmat{{*}\\{*}\\{*}}.\end{align*}

このため,$\Ima{A}$は$\R^3$の部分集合となります.

$\m{x}=\bmat{x\\y}\in\R^2$に対して,

    \begin{align*}A\m{x}=\bmat{1&2\\2&1\\1&0}\bmat{x\\y}=\bmat{x+2y\\2x+y\\x}=x\bmat{1\\2\\1}+y\bmat{2\\1\\0}\end{align*}

なので,像の定義より

    \begin{align*}\Ima{A}&=\set{A\m{x}}{\m{x}\in\R^2} \\&=\set{x\bmat{1\\2\\1}+y\bmat{2\\1\\0}}{x,y\in\R} \\&=\spn{\bra{\bmat{1\\2\\1},\bmat{2\\1\\0}}}\end{align*}

となる.すなわち,$\Ima{A}$は$\bmat{1\\2\\1},\bmat{2\\1\\0}$により生成される部分空間である.

ここで,$A$の像$\Ima{A}$を生成する$\bmat{1\\2\\1},\bmat{2\\1\\0}$は,行列$A=\bmat{1&2\\2&1\\1&0}$をなす列ベクトルとなっていることに注目しておきましょう.

具体例2(3次正方行列の像)

$A=\bmat{1&2&3\\2&1&3\\1&0&1}$とする.$\Ima{A}$を求めよ.

この具体例の行列$A$は3次列ベクトルに左からかけることができ,3次列ベクトルになりますから,今回も$\Ima{A}$は$\R^3$の部分集合ですね:

    \begin{align*}\bmat{1&2&3\\2&1&3\\1&0&1}\bmat{{*}\\{*}\\{*}}=\bmat{{*}\\{*}\\{*}}.\end{align*}

やることは具体例1と同じです.

任意の$\m{x}=\bmat{x\\y\\z}\in\R^3$に対して,

    \begin{align*}A\m{x}=\bmat{1&2&3\\2&1&3\\1&0&1}\bmat{x\\y\\z}=x\bmat{1\\2\\1}+y\bmat{2\\1\\0}+z\bmat{1\\0\\1}\end{align*}

なので,像の定義より

    \begin{align*}\Ima{A}&=\set{A\m{x}\in\R^3}{\m{x}\in\R^2} \\&=\set{x\bmat{1\\2\\1}+y\bmat{2\\1\\0}+z\bmat{1\\0\\1}}{x,y\in\R} \\&=\spn{\bra{\bmat{1\\2\\1},\bmat{2\\1\\0},\bmat{1\\0\\1}}}\end{align*}

となる.すなわち,$\Ima{A}$は$\bmat{1\\2\\1},\bmat{2\\1\\0},\bmat{1\\0\\1}$により生成される部分空間である.

この具体例でも$A$の像$\Ima{A}$を生成する$\bmat{1\\2\\1},\bmat{2\\1\\0},\bmat{1\\0\\1}$は,行列$A=\bmat{1&2&3\\2&1&3\\1&0&1}$をなす列ベクトルとなっていますね.

部分空間としての行列の像

いまの例からみてとれるように,行列$A$の像$\Ima{A}$は$A$をなす列ベクトルたちにより生成される部分空間となります.

行列の像が生成される部分空間となることの証明

$m\times n$行列$A=[\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n]$に対して

    \begin{align*}\Ima{A}=\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n)}\end{align*}

となる.よって,$\Ima{A}$は$\R^m$の部分空間である.

任意の$\m{x}=\bmat{x_1\\x_2\\\vdots\\x_n}\in\R^n$に対して,

    \begin{align*}A\m{x}=&[\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n]\bmat{x_1\\x_2\\\vdots\\x_n} \\=&x_1\m{a}_1+x_2\m{a}_2+\dots+x_n\m{a}_n\end{align*}

なので,像の定義より

    \begin{align*}\Ima{A}=&\set{A\m{x}\in\R^m}{\m{x}\in\R^n} \\=&\set{x_1\m{a}_1+x_2\m{a}_2+\dots+x_n\m{a}_n}{x_1,x_2,\dots,x_n\in\R} \\=&\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n)}\end{align*}

となる.$\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n\in\R^m$だから,$\Ima{A}$は$\R^m$の部分空間である.

行列の像の次元

また,生成される空間$\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n)}$の次元が$\rank{[\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n]}$に等しいことに注意すると,次が成り立つことが分かりますね.

行列$A$に対して$\dim{\Ima{A}}=\rank{A}$が成り立つ.

$A=[\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n]$とすると,前命題より

    \begin{align*}\Ima{A}=\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n)}\end{align*}

である.よって,

    \begin{align*}\dim{\spn{(\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n)}}=\rank{[\m{a}_1,\m{a}_2,\dots,\m{a}_n]}\end{align*}

と併せると,$\dim{\Ima{A}}=\rank{A}$が成り立つ.

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