シュワルツ空間の定義と完備性|急減少関数の空間を考える

関数空間
関数空間

$|x|\to\infty$のときに任意の多項式より速く減衰する関数を急減少関数(rapidly decreasing function)といいます.

また,急減少関数全部の集合をシュワルツ(Schwartz)空間といい,フーリエ変換と密接な関係をもつなど重要な関数空間の1つです.

一般に適切な性質をもつ可算個のセミノルムの族を備えた完備な空間をフレシェ(Fréchet)空間といい,実はシュワルツ空間も可算個のセミノルムをもつフレシェ空間となります.

この記事では

  • シュワルツ空間を定義
  • シュワルツ空間を完備性

を順に説明します.

シュワルツ空間の定義

フレシェ空間の定義を確認してから,シュワルツ空間を定義します.

フレシェ空間の定義

まずはセミノルムの確認です.

複素線形空間$V$に対して,関数$\|\cdot\|:V\to\R$がセミノルム(semi-norm)であるとは以下を満たすことをいう.

  1. 斉次性:$\|\alpha \m{v}\|=|\alpha|\|\m{v}\|$ ($\alpha\in\C$, $\m{v}\in V$)
  2. 劣加法性:$\|\m{u}+\m{v}\|\le \|\m{u}\|+\|\m{v}\|$ ($\m{u},\m{v}\in V$)

つまり,ノルムと比べて非退化性($\|\m{u}\|=0\Ra\ \m{u}=\m{0}$)を備えていなくてよいものがセミノルムというわけですね.

ここで,フレシェ空間は次のように定義されます.

複素線形空間$V$上の可算個のセミノルムの族$\{\|\cdot\|_k\}_{k\in K}$は,

    \begin{align*}\brc{\all k\in\{1,2,\dots\}\quad \|\m{v}\|_k=0}\Ra \m{v}=\m{0}\end{align*}

をみたすとする.このとき,$V$は距離空間とみなすことができ,この距離空間が完備であるとき,$V$をフレシェ空間という.

つまり,セミノルムたちがいくつか集まって非退化性をみたして完備となる空間をフレシェ空間というわけですね.

シュワルツ空間の定義

それではシュワルツ空間を定義しましょう.

以下で定まる線形空間$\mathcal{S}(\R^n)$をシュワルツ空間といい,$\mathcal{S}(\R^n)$の元を急減少関数 (rapidly decreasing function)という:

    \begin{align*}\mathcal{S}(\R^n):=\set{f\in C^\infty(\R^n)}{\all\alpha,\beta\in\N_{\ge0}^{n}\quad \|f\|_{\alpha,\beta}:=\sup_{x\in\R^n}\abs{x^{\alpha}\partial^{\beta}f(x)}<\infty}\end{align*}

ただし,$\alpha=(\alpha_1,\dots,\alpha_n)$, $\beta=(\beta_1,\dots,\beta_n)$に対して,

    \begin{align*}x^{\alpha}:=x_1^{\alpha_1}\dots x_n^{\alpha_n},\quad \partial^{\beta}f:=\frac{\partial f}{\partial x_1^{\beta_1}\dots \partial x_n^{\beta_n}}\end{align*}

である.

シュワルツ空間$\mathcal{S}(\R^n)$の名前はフィールズ賞受賞者のLaurent Schwartz氏に由来しており,コーシー-シュワルツの不等式のKarl Hermann Amandus Schwarz氏とは別人です(綴りも異なります).

$f\in\mathcal{S}(\R^n)$の条件で$\beta=0$とすると

    \begin{align*}\sup_{x\in\R^n}|x^{\alpha}f(x)|<\infty\end{align*}

を満たすので,$|x|\to\infty$ではどんな多項式の逆数よりも速く減少していることが分かりますね.

任意の導関数$\partial^{\beta}f$でこのように減衰が強い関数が急現象関数なので,例えば,

    \begin{align*}f:\R\to\R;x\mapsto e^{-x^2}\end{align*}

は急減少関数です.

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$\{\|\cdot\|_{\alpha,\beta}\}_{\alpha,\beta}$はシュワルツ空間$\mathcal{S}(\R^n)$のセミノルムの族であり,シュワルツ空間$\mathcal{S}(\R^n)$はフレシェ空間になります.

シュワルツ空間$\mathcal{S}(\R^n)$はフーリエ変換と相性が非常によく,フーリエ変換の性質を$\mathcal{S}(\R^n)$で証明したのち,稠密性を用いて他の関数空間に拡張することがよく行われます.

$\mathcal{S}(\R^n)$の別のセミノルム

シュワルツ空間$\mathcal{S}(\R^n)$セミノルムの族$Q=\{\|\cdot\|_{k,\alpha}\}$を

    \begin{align*}\|f\|_{k,\alpha}:=\sup_{x\in\R^n}(1+|x|^2)^{k/2}|\partial^{\alpha}f(x)|\end{align*}

で定めます.

このとき,先ほどのシュワルツ空間の定義のセミノルムの族$P=\{\|\cdot\|_{\alpha,\beta}\}$による位相と,セミノルムの族$Q$による位相は一致します.

よって,シュワルツ空間$\mathcal{S}(\R^n)$の定義において,セミノルムの族は$Q$を採用してもよく,実際に$Q$を定義として扱うことも多いです.

シュワルツ空間がフレシェ空間であることの証明

それではシュワルツ空間がフレシェ空間であることを証明しましょう.

$\{\|\cdot\|_{\alpha,\beta}\}_{\alpha,\beta}$はシュワルツ空間$\mathcal{S}(\R^n)$上のセミノルムの族であり,$\mathcal{S}(\R^n)$はフレシェ空間となる.

以下の4つのステップにより示す.

ステップ1($\|\cdot\|_{\alpha,\beta}$はセミノルム)

$\alpha,\beta\in\N_{\ge0}^{n}$とする.任意の$k\in\R$, $f,g\in\mathcal{S}(\R^n)$に対して,$\|\cdot\|_{\alpha,\beta}$は斉次性

    \begin{align*}&\|k f\|_{\alpha,\beta} =\sup_{x\in\R^n}\abs{x^{\alpha}\partial^{\beta}(kf)} \\&=|k|\sup_{x\in\R^n}\abs{x^{\alpha}\partial^{\beta} f} =|k|\|f\|_{\alpha,\beta}\end{align*}

と劣加法性

    \begin{align*}&\|f+g\|_{\alpha,\beta} =\sup_{x\in\R^n}\abs{x^{\alpha}\partial^{\beta}(f+g)(x)} \\&=\sup_{x\in\R^n}\abs{x^{\alpha}\partial^{\beta}f(x)+x^{\alpha}\partial^{\beta}g(x)} \\&\le\sup_{x\in\R^n}\bra{\abs{x^{\alpha}\partial^{\beta}f(x)}+\abs{x^{\alpha}\partial^{\beta}g(x)}} \\&\le\sup_{x\in\R^n}\abs{x^{\alpha}\partial^{\beta}f(x)}+\sup_{x\in\R^n}\abs{x^{\alpha}\partial^{\beta}g(x)} \\&=\|f\|_{\alpha,\beta}+\|g\|_{\alpha,\beta}\end{align*}

をみたすからセミノルムである.

ステップ2($\mathcal{S}(\R^n)$は$\{\|\cdot\|_{\alpha,\beta}\}_{\alpha,\beta}$について距離空間)

任意の$\alpha,\beta\in\N_{\ge0}^{n}$に対して$\|f\|_{\alpha,\beta}=0$をみたすとする.

このとき,$\|f\|_{0,0}$はノルム(より詳しくは一様ノルム)だから,$\|f\|_{0,0}=0$より$f=0$となる.

ただし,添字について$0:=(0,\dots,0)\in\N_{\ge0}^{n}$と表した.

よって,$\mathcal{S}(\R^n)$はセミノルムの族$\{\|\cdot\|_{\alpha,\beta}\}_{\alpha,\beta}$により距離空間となる.

ステップ3($\mathcal{S}(\R^n)$の完備性(前半))

$\mathcal{S}(\R^n)$上の列$\{f_k\}_k$は,セミノルムの族$\{\|\cdot\|_{\alpha,\beta}\}_{\alpha,\beta}$に対してコーシー列であるとする.

すなわち,任意の$\alpha,\beta\in\N_{\ge0}^{n}$と$\epsilon>0$に対して,ある$N\in\N$が存在して,$k,\ell>N$なら$\|f_k-f_\ell\|_{\alpha,\beta}<\epsilon$をみたすとする.

一様ノルム$\sup_{x\in\R^n}|\cdot(x)|$の完備性から,任意の$\beta\in\N_{\ge0}^n$に対して,ある関数$g_{\beta}$が存在して,

    \begin{align*}\partial^{\beta}f_k\to g_{\beta}\quad(k\to\infty)\end{align*}

と一様収束する.とくに$\{f_k\}_k$は$g_0$に一様収束するが,読みやすさのために$f:=g_0$とする.

一般に連続関数の一様収束極限は連続だから$g_{\beta}$は$\R^n$上で連続である.

ここで$\beta_1:=(1,0,\dots,0)$とし,任意に$a=(a_1,a_2,\dots,a_n)\in\R^n$をとる.$x=(x_1,\dots,x_n)\in\R^n$の関数として

    \begin{align*}\int_{a_1}^{x_1}\partial^{\beta_1}f(t,x_2,\dots,x_n)\,dt &=\int_{a_1}^{x_1}\partial_{x_1}f_k(t,x_2,\dots,x_n)\,dt \\&=f_{k}(x)-f_{k}(a)\end{align*}

である.$\partial^{\beta_1}f_k\to g_{\beta_1}$ $(k\to\infty)$は一様収束だったから,極限$k\to\infty$と積分の順序交換ができて,

    \begin{align*}&\int_{a_1}^{x_1}g_{\beta_1}(t,x_2,\dots,x_n)\,dt \\&=f(x)-f(a) \\&=\int_{a_1}^{x_1}\partial^{\beta_1}f(t,x_2,\dots,x_n)\,dt\end{align*}

が成り立つ.ただし,2つめの等号では微分積分学の基本定理も用いた.この両辺を$x_1$で微分して$g_{\beta_1}=\partial^{\beta_1}f$を得る.

同様に考えれば,帰納的に任意の$\beta\in\N_{\ge0}^{n}$に対して$g_{\beta}=\partial^{\beta}f$が従い,$f\in C^{\infty}(\R^n)$であることが分かる.

ステップ4($\mathcal{S}(\R^n)$の完備性(後半))

任意の$\alpha,\beta\in\mathcal{S}(\R^n)$に対して,$k,\ell>N$なら

    \begin{align*}\sup_{x\in\R^n}\abs{x^{\alpha}\partial^{\beta}f_k(x)-x^{\alpha}\partial^{\beta}f(x)} =\|f_k-f_\ell\|_{\alpha,\beta}<\epsilon\end{align*}

なので,任意の$x\in\R^n$に対して

    \begin{align*}\abs{x^{\alpha}\partial^{\beta}f_k(x)-x^{\alpha}\partial^{\beta}f_\ell}<\epsilon\end{align*}

が成り立つ.ここで,$\ell\to\infty$とすると,$k>N$なら任意の$x\in\R^n$に対して

    \begin{align*}\abs{x^{\alpha}\partial^{\beta}f_k(x)-x^{\alpha}\partial^{\beta}f(x)}\le\epsilon\end{align*}

だから,$\|f_k-f\|_{\alpha,\beta}\le\epsilon$が成り立つ.よって,

    \begin{align*}\|f\|_{\alpha,\beta}\le\|f_k\|_{\alpha,\beta}+\epsilon<\infty\end{align*}

だから$f\in\mathcal{S}(\R^n)$である.既に$\|f_k-f\|_{\alpha,\beta}\le\epsilon$だったから,$\{f_k\}_k$は$\mathcal{S}(\R^n)$上の収束列である.

最後にもう一度,最後に流れを確認しておきます.

ステップ1:全ての$\|\cdot\|_{\alpha,\beta}$がセミノルムであること,すなわち斉次性と劣加法性をみたすことを示しています.

ステップ2:セミノルム$\|\cdot\|_{\alpha,\beta}$たちが「協力して」非退化性をみたすことを示しています.

ステップ3:各$\beta\in\N_{\ge0}^{n}$について極限$g_{\beta}$の存在を別々に示し,$g_{\beta}$たちが実は$f=g_{0}$の微分として$g_{\beta}=\partial^{\beta}f$と表されることを示しています(この議論は微分積分学でお馴染みですね).

ステップ4:コーシー列の定義から,全ての$\alpha,\beta\in\N_{\ge0}^{n}$に対して$\|f_n-f\|_{\alpha,\beta}$をみたすことを示しています.

管理人

プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.公式LINEを友達登録で【限定プレゼント】配布中.

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