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フレシェ空間とは?|セミノルムから距離空間を定義する方法

以下の3つの性質を満たす実(または複素)線形空間$V$上の関数$\|\cdot\|:V\to\R$を$V$上のノルムというのでした:

  1. 非退化性:$\|\m{v}\|=0\Ra\ \m{v}=0$ ($\m{v}\in V$)
  2. 斉次性:$\|\alpha \m{v}\|=|\alpha|\|\m{v}\|$ ($\alpha\in\R\ \mrm{or}\ \C)$, $\m{v}\in V$)
  3. 劣加法性:$\|\m{u}+\m{v}\|\le \|\m{u}\|+\|\m{v}\|$ ($\m{u},\m{v}\in V$)

ノルムを備えたベクトル空間$(V,\|\cdot\|)$をノルム空間といい,ノルム空間は自然に距離空間とみなすことができるのでした.

さて,ノルムの性質のうち非退化性を満たさない関数$V\to\R$をセミノルムといいます.

セミノルムを1つ用意するだけではベクトル空間は距離空間とみなすことはできませんが,適当なセミノルムを用意することによりベクトル空間を距離空間とみなすことができます.

さらに,このセミノルムにより定められた距離空間が完備であるとき,この空間をFréchet(フレシェ)空間といいます.

この記事では,

  • 適当な性質を持つセミノルムの族により複素線形空間は距離空間とみなせることを説明し
  • Fréchet空間の定義と具体例を説明します

なお,この記事では全て複素線形空間で考えますが,実線形空間に対してもFréchet空間は同様に定義できます.

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セミノルムによる距離

まずは

  • セミノルムの定義と基本性質
  • セミノルムとノルム
  • セミノルムによる距離

について説明します.

セミノルムの定義と基本性質

セミノルムの定義は以下の通りです.

複素線形空間$V$に対して,関数$\|\cdot\|:V\to\R$がセミノルム (半ノルム,semi-norm)であるとは以下を満たすことをいう.

  1. 斉次性:$\|\alpha \m{v}\|=|\alpha|\|\m{v}\|$ ($\alpha\in\C$, $\m{v}\in V$)
  2. 劣加法性:$\|\m{u}+\m{v}\|\le \|\m{u}\|+\|\m{v}\|$ ($\m{u},\m{v}\in V$)

ノルムはこれらの条件を満たすのでセミノルムの1つです.

また,例えば$V=\R^2$のとき,

\begin{align*} \|(x,y)\|:=|x-y| \end{align*}

で定まる関数$\|\cdot\|:V\to\R$はノルムではないセミノルムとなります.

セミノルムの以下の性質は基本的です.

複素線形空間$V$上のセミノルム$\|\cdot\|$は以下を満たす.

  1. $\|\m{0}\|=0$
  2. $\big|\|\m{v}\|-\|\m{u}\|\big|\le\|\m{v}-\m{u}\|$ ($\m{v},\m{u}\in V$)
  3. 非負値性:$\|\m{v}\|\ge0$ ($\m{v}\in V$)

(1) 斉次性より

\begin{align*} \|\m{0}\| =\|0\m{0}\| =|0|\|\m{0}\| =0 \end{align*}

が成り立つ.

(2) 任意の$\m{v},\m{u}\in V$に対して,劣加法性より

\begin{align*} \|\m{v}\|-\|\m{u}\| =&\|(\m{v}-\m{u})+\m{u}\|-\|\m{u}\| \\\le&\|\m{v}-\m{u}\|+\|\m{u}\|-\|\m{u}\| \\=&\|\m{v}-\m{u}\| \end{align*}

が成り立つ.同様に$\|\m{u}\|-\|\m{v}\|=\|\m{v}-\m{u}\|$が成り立つから,

\begin{align*} \big|\|\m{v}\|-\|\m{u}\|\big|\le\|\m{v}-\m{u}\| \end{align*}

を得る.

(3) 任意の$\m{v}\in V$に対して,(2)より

\begin{align*} 0\le\big|\|\m{v}\|-\|\m{0}\|\big| \le\|\m{v}-\m{0}\| =\|\m{v}\| \end{align*}

が成り立つ.

セミノルムとノルム

線形空間$V$に適当なセミノルムの族が与えられたとき,$V$上のノルムを定義することができます.

複素線形空間$V$上に定められた有限個のセミノルムの族$\{\|\cdot\|_k\}_{k=1}^{n}$を考え,

\begin{align*} \|\m{v}\|:=\sum_{k=1}^{n}\|\m{v}\|_k \end{align*}

で関数$\|\cdot\|:V\to\R$を定める.このとき,任意の$k\in\{1,\dots,n\}$に対して

\begin{align*} \|\m{v}\|_k=0 \Ra\m{v}=\m{0} \end{align*}

を満たすなら,$\|\cdot\|$はノルムとなる.

$\|\cdot\|$の

  • 非退化性
  • 斉次性
  • 劣加法性

を示せばよい.

[非退化性] セミノルムの性質より,任意の$k\in S$に対して$\|\m{0}\|_k=0$なので

\begin{align*} \|\m{0}\| =\sum_{k=1}^{n}\|\m{0}\|_k =\sum_{k=1}^{n}0 =0 \end{align*}

が成り立つ.

逆に,$\m{v}\in V$が$\|\m{v}\|=0$をみたすとき,セミノルムの非負値性と併せて,任意の$k\in S$に対して$\|\m{v}\|_k=0$が成り立つから,セミノルムの仮定より$\m{v}=\m{0}$が成り立つ.

[斉次性] 任意の$\alpha\in\C$, $\m{v}\in V$に対して,セミノルムの斉次性と$\sum$の線形性より

\begin{align*} \|\alpha \m{v}\| =&\sum_{k=1}^{n}\|\alpha \m{v}\|_k =\sum_{k=1}^{n}|\alpha|\|\m{v}\|_k \\=&|\alpha|\sum_{k=1}^{n}\|\m{v}\|_k =|\alpha||\m{v}\| \end{align*}

が成り立つ.

[劣加法性] 任意の$\m{v},\m{u}\in V$に対して,セミノルムの劣加法性と$\sum$の線形性より

\begin{align*} \|\m{v}+\m{u}\| =&\sum_{k=1}^{n}\|\m{v}+\m{u}\|_k =\sum_{k=1}^{n}(\|\m{v}\|_k+\|\m{u}\|_k) \\=&\sum_{k=1}^{n}\|\m{v}\|_k+\sum_{k=1}^{n}\|\m{u}\|_k =\|\m{v}\|+\|\m{u}\| \end{align*}

が成り立つ.

要するに,セミノルム$\|\cdot\|_k$たちが協力して非退化性を満たしているような状況を考えているわけですね.

さて,セミノルムの族$\{\|\cdot\|_k\}_k$が可算無限個からなる場合には$\sum_{k}\|\m{v}\|_k=\infty$となることがあるため,無条件にセミノルムの和を考えることはできません.

しかし,セミノルムたちが協力して非退化性を満たすようなものを考えること自体はなんら問題ありません.

そこで,そのようなセミノルムの族の条件を以下のように与えましょう.

[条件A] $K=\N$または$K=\{1,\dots,n\}$とする.複素線形空間$V$上のセミノルムの族$\{\|\cdot\|_k\}_{k\in K}$は,

\begin{align*} \brc{\all k\in\{1,2,\dots\}\quad \|\m{v}\|_k=0} \Ra \m{v}=\m{0} \end{align*}

を満たす.

以降,この[条件A]は非常に重要となります.

セミノルムによる距離

定義可算セミノルム系から,以下のように線形空間は距離空間となります.

[セミノルムから定まる距離] [条件A]を満たすセミノルムの族$\{\|\cdot\|_k\}_{k=1}^{\infty}$が定まった複素線形空間$V$に対して,

\begin{align*} d(\m{u},\m{v}) =\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\|\m{u}-\m{v}\|_k}{2^k(1+\|\m{u}-\m{v}\|_k)} \end{align*}

で定まる関数$d:V\times V\to\R$は$V$上の距離である.

$d$の

  • 非退化性
  • 対称性
  • 劣加法性

を示せばよい.

[非退化性] 任意の$\m{v}\in V$に対して

\begin{align*} d(\m{v},\m{v}) =&\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\|\m{v}-\m{v}\|_k}{2^k(1+\|\m{v}-\m{v}\|_k)} \\=&\sum_{k=1}^{\infty}\frac{0}{2^k(1+0)} =0 \end{align*}

が成り立つ.

逆に,$d(\m{u},\m{v})=0$であるとする.

このとき,任意の$k\in\{1,2,\dots\}$に対して,$\frac{\|\m{u}-\m{v}\|_k}{2^k(1+\|\m{u}-\m{u}\|_k)}$が非負値であることと併せて,

\begin{align*} \|\m{u}-\m{v}\|_k=0 \end{align*}

が成り立つ.よって,[条件A]より$\m{u}=\m{v}$が成り立つ.

[対称性] 任意の$k\in\{1,2,\dots\}$に対して,セミノルムの斉次性より

\begin{align*} \|\m{u}-\m{v}\|_k =&\|(-1)(\m{v}-\m{u})\|_k \\=&|-1|\|\m{v}-\m{u}\|_k \\=&\|\m{v}-\m{u}\|_k \end{align*}

が成り立つ.よって,

\begin{align*} d(\m{u},\m{v}) =&\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\|\m{u}-\m{v}\|_k}{2^k(1+\|\m{u}-\m{v}\|_k)} \\=&\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\|\m{u}-\m{v}\|_k}{2^k(1+\|\m{u}-\m{v}\|_k)} \\=&d(\m{v},\m{u}) \end{align*}

[劣加法性] 任意の$k\in\{1,2,\dots\}$と任意の$\m{u},\m{v},\m{w}\in V$に対して,

\begin{align*} \|\m{u}-\m{v}\|_k \le&\|\m{u}-\m{w}\|_k+\|\m{w}-\m{v}\|_k \\\le&\|\m{u}-\m{w}\|_k+\|\m{w}-\m{v}\|_k+\|\m{u}-\m{w}\|_k\|\m{w}-\m{v}\|_k \end{align*}

が成り立つことと,関数$\R_{\ge0}\to\R_{\ge0};x\mapsto\frac{x}{1+x}\bra{=1-\frac{1}{1+x}}$が単調増加であることを併せて

\begin{align*} &d(\m{u},\m{w})+d(\m{w},\m{v}) \\=&\frac{\|\m{u}-\m{w}\|_k}{1+\|\m{u}-\m{w}\|_k}+\frac{\|\m{w}-\m{v}\|_k}{1+\|\m{w}-\m{v}\|_k} \\=&\frac{\|\m{u}-\m{w}\|_k+\|\m{w}-\m{v}\|_k+2\|\m{u}-\m{w}\|_k\|\m{w}-\m{v}\|_k}{1+\|\m{u}-\m{w}\|_k+\|\m{w}-\m{v}\|_k+\|\m{u}-\m{w}\|_k\|\m{w}-\m{v}\|_k} \\\ge&\frac{\|\m{u}-\m{w}\|_k+\|\m{w}-\m{v}\|_k+\|\m{u}-\m{w}\|_k\|\m{w}-\m{v}\|_k}{1+\|\m{u}-\m{w}\|_k+\|\m{w}-\m{v}\|_k+\|\m{u}-\m{w}\|_k\|\m{w}-\m{v}\|_k} \\\ge&\frac{\|\m{u}-\m{v}\|_k}{1+\|\m{u}-\m{v}\|_k} \\=&d(\m{u},\m{v}) \end{align*}

が従う.

これで,線形空間上の適切なセミノルムの族によって,線形空間を距離空間とみなせることが分かりました.

セミノルムによる位相

次に,セミノルムにより定まる位相を考えましょう.

セミノルムによる位相

距離空間$(V,d)$に対しては,集合族$\mathcal{O}$を

\begin{align*} \mathcal{O} :=\set{O\subset V}{\all\m{v}\in O\ \exi\epsilon>0\ s.t.\ B_{\epsilon}(\m{v})\subset O} \end{align*}

で定めると,$(V,\mathcal{O})$は位相空間となるのでした.ここに,$B_{\epsilon}(\m{v})$は$\m{v}\in V$の$\epsilon$近傍です:

\begin{align*} B_\epsilon(\m{v}):=\set{\m{x}\in V}{d(\m{v},\m{x})<\epsilon} \end{align*}

同様に,セミノルムによる位相を以下のように定めることができます.

[セミノルムによる位相] [条件A]を満たすセミノルムの族$\{\|\cdot\|_k\}_{k\in K}$が定まった複素線形空間$V$に対して,$V$の部分集合族$\mathcal{O}$を

\begin{align*} \mathcal{O} :=\set{O\subset V}{\all k\in K\ \all\m{v}\in O\ \exi\epsilon>0\ s.t.\ B_{k,\epsilon}(\m{v})\subset O} \end{align*}

で定めると,$(V,\mathcal{O})$は位相空間となる.ここに,$B_{k,\epsilon}(\m{v})$は

\begin{align*} B_{k,\epsilon}(\m{v}):=\set{\m{x}\in V}{\|\m{v}-\m{x}\|_k<\epsilon} \end{align*}

である.

[1] 明らかに$\emptyset,V\in\mathcal{B}$は成り立つ.

[2] 任意に$O_1,\dots,O_n\in\mathcal{O}$をとり,$O_{*}:=\bigcap\limits_{m=1}^{n}O_m$とし,$O_{*}\in\mathcal{O}$を示す.

任意に$k\in K$と$\m{v}\in O_{*}$をとる.

このとき,$O_{*}$の定義から任意の$m\in\{1,\dots,n\}$に対して$\m{v}\in O_m$なので,$O_m$の定義から$\epsilon_m>0$が存在して$B_{k,\epsilon_m}(\m{v})\subset O_m$をみたす.

よって,$\epsilon_{*}:=\min_{m\in\{1,\dots,n\}}\epsilon_m$とすると,$B_{k,\epsilon_{*}}(\m{v})\subset O_{*}$が成り立つ.

[3] 任意に部分集合族$\{O_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}\subset\mathcal{O}$をとり,$O^{*}:=\bigcup\limits_{m=1}^{n}O_m$とし,$O^{*}\in\mathcal{O}$を示す.

任意に$k\in K$と$\m{v}\in O^{*}$をとる.

このとき,$O^{*}$の定義からある$\lambda_0\in\Lambda$が存在して$\m{v}\in O_{\lambda_0}$なので,$O_{\lambda_0}$の定義から$\epsilon>0$が存在して$B_{k,\epsilon}(\m{v})\subset O_{\lambda_0}\subset O^{*}$が成り立つ.

[1]-[3]より,$(V,\mathcal{O})$は位相空間である.

これで,線形空間にセミノルムによる位相が定義できました.

ということで,ここまでで線形空間$V$上のセミノルムに関する位相は次の2つを考えました:

  • セミノルムから定まる距離$d$による距離空間$(V,d)$の位相
  • セミノルムによる位相

これらは異なる道筋で定義された位相ですが,実は同じ位相であることが示されます.

さて,「位相が等しい」ことは「開集合系が一致する」ことと同値でしたから,以下が成り立つことを示せば良いですね.

[条件A]を満たすセミノルムの族$\{\|\cdot\|_k\}_{k\in K}$が定まった複素線形空間$V$において,$d$をセミノルムによる距離とする:

\begin{align*} d:V\times V\to\R; (\m{u},\m{v})\mapsto\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\|\m{u}-\m{v}\|_k}{2^k(1+\|\m{u}-\m{v}\|_k)} \end{align*}

このとき,2つの開集合系

\begin{align*} &\mathcal{O}_1:=\set{O\subset V}{\all\m{v}\in O\ \exi\epsilon>0\ s.t.\ B_{\epsilon}(\m{v})\subset O}, \\&\mathcal{O}_2:=\set{O\subset V}{\all k\in K\ \all\m{v}\in O\ \exi\epsilon>0\ s.t.\ B_{k,\epsilon}(\m{v})\subset O} \end{align*}

は一致する.ここに,

\begin{align*} &B_\epsilon(\m{v}):=\set{\m{x}\in V}{d(\m{v},\m{x})<\epsilon}, \\&B_{k,\epsilon}(\m{v}):=\set{\m{x}\in V}{\|\m{v}-\m{x}\|_k<\epsilon} \end{align*}

である.

[1] $O\in\mathcal{O}_1$とし,$O\in\mathcal{O}_2$を示す.任意に$k\in K$, $\m{v}\in O$をとる.

このとき,$O\in\mathcal{O}_1$より,ある$\epsilon>0$が存在して$B_{\epsilon}(\m{v})\subset O$をみたす.この$\epsilon>0$に対して,ある$\epsilon’>0$が存在して

\begin{align*} \frac{\epsilon'}{2^k(1+\epsilon')}<\epsilon \end{align*}

をみたす.なお,この$\epsilon’$が存在することは,$\epsilon’\to0$のとき$\epsilon’/2^k(1+\epsilon’)\to0$となることから分かる.

よって,任意の$\m{x}\in B_{k,\epsilon’}(\m{v})$に対して,

\begin{align*} &\|\m{v}-\m{x}\|_k<\epsilon' \\\iff&\|\m{v}-\m{x}\|_k(1+\epsilon')<\epsilon'(1+\|\m{v}-\m{x}\|_k) \\\iff&\frac{\|\m{v}-\m{x}\|_k}{2^k(1+\|\m{v}-\m{x}\|_k)}<\frac{\epsilon'}{2^k(1+\epsilon')} \\\Ra\ &\frac{\|\m{v}-\m{x}\|_k}{2^k(1+\|\m{v}-\m{x}\|_k)}<\epsilon \\\iff&\m{x}\in B_{\epsilon}(\m{v}) \end{align*}

が成り立つ.よって,

\begin{align*} B_{k,\epsilon'}(\m{v})\subset B_{\epsilon}(\m{v})\subset O \end{align*}

が従う.

[2] $O\in\mathcal{O}_2$とし,$O\in\mathcal{O}_1$を示す.任意に$\m{v}\in O$をとる.

このとき,$O\in\mathcal{O}_2$より,ある$\epsilon>0$が存在して$B_{1,\epsilon}(\m{v})\subset O$をみたす.

よって,$\epsilon’:=\frac{\epsilon}{2(1+\epsilon)}$とすると,任意の$\m{x}\in B_{\epsilon’}(\m{v})$に対して,

\begin{align*} \frac{\|\m{v}-\m{x}\|_1}{2(1+\|\m{v}-\m{x}\|_1)} \le&\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\|\m{v}-\m{x}\|_k}{2^k(1+\|\m{v}-\m{x}\|_k)} \\=&d(\m{v},\m{x}) <\epsilon' =\frac{\epsilon}{2(1+\epsilon)} \end{align*}

が成り立つ.このとき,

\begin{align*} &\frac{\|\m{v}-\m{x}\|_1}{2(1+\|\m{v}-\m{x}\|_1)}<\frac{\epsilon}{2(1+\epsilon)} \\\iff&\|\m{v}-\m{x}\|_1(1+\epsilon)<\epsilon(1+\|\m{v}-\m{x}\|_1) \\\iff&\|\m{v}-\m{x}\|_1<\epsilon \end{align*}

なので,$\m{x}\in B_{1,\epsilon}(\m{v})$となる.

よって,$B_{\epsilon}(\m{v})\subset B_{1,\epsilon’}(\m{v})$なので,$B_{\epsilon}(\m{v})\subset O$が従う.

セミノルムによる収束

このように,セミノルムから距離$d$に変換して位相を考えることと,セミノルムのまま位相を考えることは同じなので,セミノルムの収束も距離$d$と同値になるように定義したいところですね.

セミノルムによる収束を以下のように定義しましょう.

[セミノルムの収束] [条件A]を満たすセミノルムの族$\{\|\cdot\|_k\}_{k\in K}$が定まった複素線形空間$V$において,定められた点列$\{\m{v}_n\}_n$が$\m{v}$に収束するとは,任意の$k\in\{1,2,\dots\}$に対して

\begin{align*} \lim_{n\to\infty}\|\m{v}-\m{v}_n\|_k=0 \end{align*}

を満たすことをいう.

この記事では,この収束を$\m{v}_n\xrightarrow[k=1,2,\dots]{\|\cdot\|_k}\m{v}$と表すことにします.

この収束の定義を近傍の言葉を用いるなら,任意の$\epsilon>0$に対して,ある$N\in\N$が存在して,$n>N$なら任意の$k$に対して

\begin{align*} \m{v}_N\in B_{k,\epsilon}(\m{v}) \end{align*}

が成り立つともいえますね.

このとき,

  • セミノルムによる距離$d$の収束
  • セミノルムの収束

が同じものであることを示すことができます.

[条件A]を満たすセミノルムの族$\{\|\cdot\|_k\}_{k=1}^{\infty}$が定まった複素線形空間$V$上の距離

\begin{align*} d(\m{u},\m{v}) =\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\|\m{u}-\m{v}\|_k}{2^k(1+\|\m{u}-\m{v}\|_k)} \end{align*}

を考える.このとき,$V$上の点列$\{\m{v}_n\}_n$と$\m{v}\in V$に対して,次は同値である.

  • $\lim\limits_{n\to\infty}d(\m{v}_n,\m{v})=0$
  • $\m{v}_n\xrightarrow[k=1,2,\dots]{\|\cdot\|_k}\m{v}$

[1] $\lim\limits_{n\to\infty}d(\m{v}_n,\m{v})=0$が成り立つとし,任意に$\epsilon>0$をとる.

このとき,任意の$k\in\{1,2,\dots\}$に対して,ある$N\in\N$が存在して,$n>N$なら

\begin{align*} d(\m{v}_n,\m{v}) <\frac{\epsilon}{2^k(1+\epsilon)} \end{align*}

をみたすから,

\begin{align*} &\frac{\|\m{u}-\m{v}\|_k}{2^k(1+\|\m{u}-\m{v}\|_k)}<\frac{\epsilon}{2^k(1+\epsilon)} \\\iff&\|\m{u}-\m{v}\|_k(1+\epsilon)<\epsilon(1+\|\m{u}-\m{v}\|_k) \\\iff&\|\m{u}-\m{v}\|_k<\epsilon \end{align*}

をみたす.よって,$\m{v}_n\xrightarrow[k=1,2,\dots]{\|\cdot\|_k}\m{v}$が従う.

[2] $\m{v}_n\xrightarrow[k=1,2,\dots]{\|\cdot\|_k}\m{v}$が成り立つとし,任意に$\epsilon>0$をとる.

$k_0\in\{1,2,\dots\}$が存在して$\frac{1}{2^{k_0}}<\frac{\epsilon}{2}$となるから,

\begin{align*} \sum_{k=k_0+1}^{\infty}\frac{1}{2^k} =\frac{1}{2^{k_0}} <\frac{\epsilon}{2} \end{align*}

が成り立つ.また,仮定より,任意の$k\in\{1,\dots,k_0\}$に対して,ある$N_{k}\in\N$が存在して,$n>N_k$なら

\begin{align*} \|\m{u}-\m{v}\|_k<\frac{\epsilon}{2} \end{align*}

が成り立つ.よって,$n>\max_{k\in\{1,\dots,k_0\}}N_k$なら,

\begin{align*} &d(\m{v}_n,\m{v}) \\=&\sum_{k=1}^{k_0}\frac{\|\m{v}_n-\m{v}\|_k}{2^k(1+\|\m{v}_n-\m{v}\|_k)} +\sum_{k=k_0+1}^{\infty}\frac{\|\m{v}_n-\m{v}\|_k}{2^k(1+\|\m{v}_n-\m{v}\|_k)} \\\le&\sum_{k=1}^{k_0}\frac{\epsilon}{2^{k+1}(1+\|\m{v}_n-\m{v}\|_k)}+\sum_{k=k_0+1}^{\infty}\frac{1}{2^k} \\\le&\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\epsilon}{2^{k+1}(1+\|\m{v}_n-\m{v}\|_k)}+\frac{\epsilon}{2} \\\le&\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\epsilon}{2^{k+1}}+\frac{\epsilon}{2} =\frac{\epsilon}{2}+\frac{\epsilon}{2} =\epsilon \end{align*}

をみたす.よって,$\lim\limits_{n\to\infty}d(\m{v}_n,\m{v})=0$が従う.

以上から,複素線形空間$V$上の[条件A]をみたすセミノルムが与えられたとき,わざわざ距離$d$を考えなくても,上でみたセミノルムから定まる位相,収束を考えれば距離空間$(V,d)$を考えていることと同じであるということになります.

線形位相空間

以上で定めたセミノルムによる距離空間は線形位相空間とよばれる空間になっています.

複素線形空間$V$について,

  • 和$V\times V\to V$
  • スカラー倍$\C\times V\to V$

が共に連続であるとき,すなわち

  • $\K$上$\alpha_n\to\alpha$, $\beta_n\to\beta$
  • $V$上$\m{v}_n\to\m{v}$, $\m{u}_n\to\m{u}$

なら

\begin{align*} \alpha_n\m{u}_n+\beta_n\m{v}_n\to\alpha\m{u}+\beta\m{v} \end{align*}

が成り立つとき,$V$を複素線形位相空間 (complex linear topological space)という.同様に実線形位相空間も定義される.

単に線形空間といっただけでは距離などの位相は定まっていませんが,$V$上の和とスカラー倍が連続になるような位相が定まっているような空間を$V$を線形位相空間というわけですね.

例えば,複素ノルム空間$V$はノルムから自然に定義される距離の位相によって,線形位相空間となります.

同様に,[条件A]をみたすセミノルムの族が定まった複素線形空間も以下のように線形位相空間となります.

[条件A]を満たすセミノルムの族$\{\|\cdot\|_k\}_{k\in K}$が定まった複素線形空間$V$において,$V$の和,スカラー倍は連続である.すなわち,

\begin{align*} &\m{u}_n\xrightarrow[k=1,2,\dots]{\|\cdot\|_k}\m{u},\quad \m{v}_n\xrightarrow[k=1,2,\dots]{\|\cdot\|_k}\m{v},\\ \\&\m{\alpha}_n\to\m{\alpha}\ \mrm{in}\ \C,\quad \m{\beta}_n\to\m{\beta}\ \mrm{in}\ \C \end{align*}

なら

\begin{align*} \alpha_n\m{u}_n+\beta_n\m{v}_n\xrightarrow[k=1,2,\dots]{\|\cdot\|_k}\alpha\m{u}+\beta\m{v} \end{align*}

が成り立つ.

任意の$k$に対して,劣加法性より

\begin{align*} \|(\m{u}_n+\m{v}_n)-(\m{u}+\m{v})\|_k =&\|(\m{u}_n-\m{u})+(\m{v}_n-\m{v})\|_k \\\le&\|\m{u}_n-\m{u}\|_k+\|\m{v}_n-\m{v}\|_k \to0 \end{align*}

が成り立ち,劣加法性と斉次性より

\begin{align*} \|\alpha_n\m{u}_n-\alpha\m{u}\|_k =&\|(\alpha_n-\alpha)\m{u}_n-\alpha(\m{u}-\m{u}_n)\|_k \\\le&\|(\alpha_n-\alpha)\m{u}_n\|_k+\|\alpha(\m{u}-\m{u}_n)\|_k \\=&|\alpha_n-\alpha|\|\m{u}_n\|_k+|\alpha|\|\m{u}-\m{u}_n\|_k \\\to&0\|\m{u}\|_k+|\alpha|0 =0 \end{align*}

が成り立つ.よって,これらを併せて命題が従う.

フレシェ空間

最後にFréchet(フレシェ)空間の定義と具体例を説明します.

フレシェ空間の定義

Fréchet空間は以下のように定義されます.

[条件A]を満たすセミノルムの族$\{\|\cdot\|_k\}_{k\in K}$が定まった複素線形空間$V$が完備であるとき,$V$をFréchet空間という.

距離空間が完備であるとは,任意のCauchy列が収束列であることをいうのでした.

[条件A]を満たすセミノルムの族$\{\|\cdot\|_k\}_{k\in K}$はこれらがまとまって距離の役割を果たすことは,先ほどから説明してきた通りです.

よって,$V$上の点列$\{\m{v}_n\}$がCauchy列であるとは,任意の$k\in K$と$\epsilon>0$に対して,ある$N\in\N$が存在して$m,n>N$なら,$\|\m{v}_n-\m{v}_m\|<\epsilon$をみたすことをいうわけですね.

フレシェ空間の具体例

例えば,

  • $I$上$m$階連続微分可能な関数の空間$C^n(I)$
  • Schwartz空間$\mathcal{S}(\R^d)$

はFréchet空間となります.

例1

$I$を有界区間とする.関数空間$C^n(I)$に

\begin{align*} \|f\|_k:=\sup_{x\in I}\frac{d^{k}f}{dx^{k}}(x) \end{align*}

で定まるセミノルムの族$\{\|\cdot\|_k\}_{k=0}^{n}$を定めると,

\begin{align*} \|f\|:=\sum_{k=0}^{n}\|f\|_k \end{align*}

で定まる$\|\cdot\|$は$C^n(I)$上のノルムとなり,このノルムを$m$次ノルムといいます.

このとき,$C^n(I)$上の列$\{f_n\}_n$が$f\in C^n(I)$に収束することは,任意の$k\in\{0,\dots,n\}$に対して${f_n}^(k)$が$f^{(k)}$に収束することと同値ですね.

これより,$m$次ノルムの完備性が得られ,$C^n(I)$はFréchet空間となります.

例2

関数空間$\mathcal{S}(\R^n)$を

\begin{align*} \mathcal{S}(\R^n) :=\set{f\in C^\infty(\R^n)}{\all\alpha,\beta\in\N_{\ge0}^{n}\quad \|f\|_{\alpha,\beta}:=\sup_{x\in\R^n}\abs{x^{\alpha}\pd{f}{x^{\beta}}(x)}<\infty} \end{align*}

で定めると$\mathcal{S}(\R^n)$は線形空間となります.ただし,$\alpha=(\alpha_1,\dots,\alpha_n)$, $\beta=(\beta_1,\dots,\beta_n)$に対して,

\begin{align*} &x^{\alpha}:=x_1^{\alpha_1}\dots x_n^{\alpha_n}, \\&\pd{f}{x^{\beta}}:=\frac{\partial f}{\partial x_1^{\beta_1}\dots \partial x_n^{\beta_n}} \end{align*}

です.このとき,

  • $\mathcal{S}(\R^n)$をSchwartz(シュワルツ)空間
  • $\mathcal{S}(\R^n)$の元を急減少関数 (rapidly decreasing function)

といいます.

Schwartz空間$\mathcal{S}(\R^n)$上の$\{\|\cdot\|_{\alpha,\beta}\}_{\alpha,\beta\in\N_{\ge0}^{n}}$は[条件A]をみたすセミノルムの族となり,完備性も得られます.

よって,Schwartz空間$\mathcal{S}(\R^n)$はFréchet空間となります.

なお,完備性の証明については以下の記事を参照してください.

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