生成(span)される線形部分空間|具体例から考え方を解説

線形空間の基本
線形空間の基本

例えば,2次列ベクトル全部の線形空間$\R^2$のベクトル$\bmat{1\\0}$と$\bmat{0\\1}$の線形結合

    \begin{align*}a\bmat{1\\0}+b\bmat{0\\1}\end{align*}

について,$a$と$b$を動かせば様々な$\R^2$上のベクトルを表すことができますね.

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このように,いくつかのベクトルの線形結合で表されるベクトル全部の集合は線形部分空間となり,この線形部分空間を生成される部分空間といいます.

この記事では

  • 生成される線形部分空間の定義・具体例
  • $\spn{(\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n)}$が線形空間であることの証明

を順に解説します.

なお,列ベクトルの線形空間$\R^n$の部分空間だけで十分なら,列ベクトルの部分空間に絞って解説した以下の記事が分かりやすいでしょう.

ℝⁿ上のspanされる(生成される)部分空間の基底・次元の求め方
生成される部分空間は線形代数でよく現れる重要な空間で基底を求めたいことはよくあります.この記事では,ℝⁿ上の生成される空間の基底・次元の求め方を具体例から説明します.

生成される線形部分空間の定義・具体例

線形空間上のいくつかのベクトルに対して,それらの線形結合全部の集合は線形部分空間となります.

$\mathbb{F}$上の線形空間$V$に対して,$\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n\in V$の線形結合全部の集合

    \begin{align*}W:=\set{c_1\m{v}_1+c_2\m{v}_2+\dots+c_n\m{v}_n\in V}{c_1,c_2,\dots,c_n\in\mathbb{F}}\end{align*}

は$V$の線形部分空間となる.

この補題の証明はひとまずおいて,生成される部分空間の定義と具体例を見てみましょう.

生成される部分空間の定義

上の補題の空間が本記事のテーマの生成される線形部分空間です.

上の補題の線形部分空間$W$を$\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n$により生成される線形部分空間(generated linear subspace)などといい,

    \begin{align*}\spn{(\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n)}\end{align*}

と表す.

スカラーが$\mathbb{F}$であることを強調して

    \begin{align*}\spn_{\mathbb{F}}{(\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n)}\end{align*}

と表すこともあります.

また,この他にも$\anb{\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n}_V$, $\anb{\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n}$などと表すこともあります.

$\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n$が張る線形空間(span linear)ということもあります.

具体例1($\R^2$での生成部分空間)

2次列ベクトル全部の線形空間$\R^2$に対して,$\sbmat{2\\1}\in\R^2$により生成される線形部分空間$W$は

    \begin{align*}W&=\spn{\bra{\sbmat{2\\1}}} \\&=\set{c\sbmat{2\\1}\in\R^2}{c\in\R}\end{align*}

です.例えば

  • $c=1$とすれば$\sbmat{2\\1}\in W$
  • $c=-1$とすれば$\sbmat{-2\\-1}\in W$
  • $c=2$とすれば$\sbmat{4\\2}\in W$
  • $c=0$とすれば$\sbmat{0\\0}\in W$

となりますね.つまり,$W$は$\sbmat{2\\1}$を実数倍してできる2次列ベクトル全部の集合ですから,$W$は以下のように図示できますね.

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つまり,$\R^2$を$xy$平面とすると,$W$は$y=\dfrac{1}{2}x$のグラフということになります.

具体例2($\R^3$での生成部分空間)

3次列ベクトル全部の線形空間$\R^3$に対して,$\sbmat{1\\0\\0},\sbmat{0\\3\\0},\sbmat{2\\1\\0}\in\R^3$により生成される線形部分空間$W$は

    \begin{align*}W&=\spn{\bra{\sbmat{1\\0\\0},\sbmat{0\\3\\0},\sbmat{2\\1\\0}}} \\&=\set{c_1\sbmat{1\\0\\0}+c_2\sbmat{0\\3\\0}+c_3\sbmat{2\\1\\0}\in\R^2}{c_1,c_2,c_3\in\R}\end{align*}

です.例えば

  • $c_1=1$, $c_2=c_3=0$とすれば$\sbmat{1\\0\\0}\in W$
  • $c_1=0$, $c_2=1$, $c_3=0$とすれば$\sbmat{0\\3\\0}\in W$
  • $c_1=c_2=0$, $c_3=1$とすれば$\sbmat{2\\1\\0}\in W$
  • $c_1=-3$, $c_2=-1$, $c_3=2$とすれば$\sbmat{1\\-1\\0}\in W$

となりますね.このように$c_1$, $c_2$を動かしてできる多項式全部の線形部分空間が$W$です.いま

    \begin{align*}W&=\set{(c_1+2c_3)\sbmat{1\\0\\0}+(3c_2+c_3)\sbmat{0\\1\\0}\in\R^2}{c_1,c_2,c_3\in\R} \\&=\set{s\sbmat{1\\0\\0}+t\sbmat{0\\1\\0}\in\R^2}{s,t\in\R}\end{align*}

ですから,$\R^3$を$xyz$空間とすると,$W$は$xy$平面ということになります.

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具体例3(2次以下の多項式の線形空間$\R[x]_2$での生成部分空間)

2次以下の実数係数の多項式全部の線形空間

    \begin{align*}\R[x]_2=\set{a_0+a_1x+a_2x^2}{a_0,a_1,a_2\in\R}\end{align*}

に対して,$2-x,1+x+x^2\in\R[x]_2$により生成される線形部分空間$W$は

    \begin{align*}W&=\spn{(2-x,1+x+x^2)}\\&=\set{c_1(2-x)+c_2(1+x+x^2)\in\R[x]_2}{c_1,c_2\in\R}\end{align*}

です.例えば

  • $c_1=1$, $c_2=0$とすれば$2-x\in W$
  • $c_1=0$, $c_2=1$とすれば$1+x+x^2\in W$
  • $c_1=2$, $c_2=-1$とすれば$1+3x-x^2\in W$
  • $c_1=0$, $c_2=0$とすれば$0\in W$

が分かります.このように$c_1$, $c_2$を動かしてできる多項式全部の線形部分空間が$W$です.

具体例4(実数列の線形空間$\ell(R)$での生成部分空間)

実数列全部の線形空間

    \begin{align*}\ell(\R)=\set{(a_1,a_2,a_3,\dots)}{a_1,a_2,a_3,\dots\in\R}\end{align*}

に対して,$\{a_n\},\{b_n\}\in\ell(\R)$を$a_n=n$, $b_n=(-1)^n$で定めます:

    \begin{align*}\{a_n\}=(1,2,3,4,\dots),\quad \{b_n\}=(1,-1,1,-1,\dots).\end{align*}

このとき,$\{a_n\},\{b_n\}\in\ell(\R)$により生成される線形部分空間$W$は

    \begin{align*}W&=\spn{(\{a_n\},\{b_n\})}\\&=\set{c_1\{a_n\}+c_2\{b_n\}\in\ell(\R)}{c_1,c_2\in\R}\end{align*}

です.例えば

  • $c_1=1$, $c_2=0$とすれば$\{a_n\}=(1,2,3,4,\dots)\in W$
  • $c_1=0$, $c_2=1$とすれば$\{b_n\}=(1,-1,1,-1,\dots)\in W$
  • $c_1=$, $c_2=1$とすれば$\{a_n+b_n\}=(2,1,4,3,\dots)\in W$
  • $c_1=0$, $c_2=0$とすれば$(0,0,0,0,\dots)\in W$

が分かります.このように$c_1$, $c_2$を動かしてできる数列全部の線形部分空間が$W$です.

$\spn{(\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n)}$が線形空間であることの証明

それでは最初の補題を証明しましょう.

(再掲)$\mathbb{F}$上の線形空間$V$に対して,$\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n\in V$の線形結合全部の集合

    \begin{align*}W:=\set{c_1\m{v}_1+c_2\m{v}_2+\dots+c_n\m{v}_n\in V}{c_1,c_2,\dots,c_n\in\mathbb{F}}\end{align*}

は$V$の線形部分空間となる.

$\m{0}=0\m{v}_1+0\m{v}_2+\dots+0\m{v}_n\in W$なので$W\neq\emptyset$である.

よって,あとは$W$が$V$の和とスカラー倍について閉じていることを示せばよい.

和について閉じていることの証明

任意に$\m{u},\m{v}\in W$をとる.

    \begin{align*}&\m{u}=c_1\m{v}_1+c_2\m{v}_2+\dots+c_n\m{v}_n, \\&\m{v}=d_1\m{v}_1+d_2\m{v}_2+\dots+d_n\m{v}_n\end{align*}

とおくと,線形空間の定義における和の交換法則・$\mathbb{F}$の和とスカラー倍の分配法則により

    \begin{align*}\m{u}+\m{v} &=(c_1\m{v}_1+c_2\m{v}_2+\dots+c_n\m{v}_n)+(d_1\m{v}_1+d_2\m{v}_2+\dots+d_n\m{v}_n) \\&=(c_1\m{v}_1+d_1\m{v}_1)+\dots+(c_n\m{v}_n+d_n\m{v}_n) \\&=(c_1+d_1)\m{v}_1+\dots+(c_n+d_n)\m{v}_n\end{align*}

となる.$\mathbb{F}$は体だから$c_i+d_i\in\mathbb{F}$($i=1,2,\dots,n$)なので,$\m{u}+\m{v}\in W$を得る.

スカラー倍について閉じていることの証明

任意に$k\in\mathbb{F}$, $\m{u}\in W$をとる.

    \begin{align*}&\m{u}=c_1\m{v}_1+c_2\m{v}_2+\dots+c_n\m{v}_n\end{align*}

とおくと,線形空間の定義におけるスカラー倍と$V$の和の分配法則・スカラー倍の結合法則により

    \begin{align*}k\m{u}&=k(c_1\m{v}_1+c_2\m{v}_2+\dots+c_n\m{v}_n) \\&=k(c_1\m{v}_1)+k(c_2\m{v}_2)+\dots+k(c_n\m{v}_n) \\&=(kc_1)\m{v}_1+(kc_2)\m{v}_2+\dots+(kc_n)\m{v}_n\end{align*}

となる.$\mathbb{F}$は体だから$kc_i\in\mathbb{F}$($i=1,2,\dots,n$)なので,$k\m{u}\in W$を得る.

管理人

プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.公式LINEを友達登録で【限定プレゼント】配布中.

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