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線形空間(ベクトル空間)の定義|多項式・数列の例も紹介

線形空間の基本
線形空間の基本

2次列ベクトル全部の集合R2上のスカラー倍はそれぞれ

[a1a2]+[b1b2]=[a1+b1a2+b2],k[a1a2]=[ka1ka2]

と定義され,交換法則や分配法則などの「よい性質」を満たします.

R2以外の集合上でも「よい性質」をもつ和とスカラー倍を考えるとR2と同様に扱えることも多く,そのような空間を一般に線形空間といいます.

この記事では

  • 線形空間の定義
  • 線形空間の具体例
  • 零ベクトルと逆ベクトルの一意性

を順に解説します.

線形空間の定義

最初に2次列ベクトル全部の空間R2の和とスカラー倍についての性質を確認し,それを踏まえて線形空間を定義します.

R2の和とスカラー倍の性質

R2スカラー倍は次の8性質を満たしますね.

[1]和について

  1. 任意のa,b,cRnに対し(a+b)+c=a+(b+c)
  2. 零ベクトル0Rnは,任意のaRnに対し0+a=a+0=a
  3. 任意のaRnに対しa+(1)a=0
  4. 任意のa,bRnに対しa+b=b+a

[2]スカラー倍について

  1. 任意のaRn, k,Rに対し(k)a=k(a)
  2. 任意のaRnに対し1a=a

[3]和とスカラー倍について

  1. 任意のa,bRn, kRに対しk(a+b)=ka+kb
  2. 任意のaRn, k,Rに対し(k+)a=ka+a

ここで

  • 加法+はR2の2つのベクトルa, bを与えて,R2の1つのベクトルa+bを返す規則
  • スカラー倍・はRの1つの元kR2の1つのベクトルaを与えて,R2の1つのベクトルkaを返す規則

と言えることに注目しておきましょう.

線形空間の定義

いまみたR2の8性質を満たすような空間は,R2と同じような性質をもちそうに思えます.

そこで,この8性質に対応する性質を満たす空間V線形空間といいます.

最初は以下の定義を見てもピンときにくいと思うので,深く考えず読み流して次の具体例に進んでしまっても良いでしょう.

Fと空でない集合Vに対して

  • Vの元を2つ与えてVの元を1つ返す+
  • F, Vの元を1つずつ与えてVの元1つ返す・

が定まっており,次の8性質を満たすとする.

[1]+について

  1. 任意のu,v,wVに対し(u+v)+w=u+(v+w)
  2. ある0Vが存在して,任意のuVに対し0+u=u+0=u
  3. 任意のuVに対し,あるvVが存在しu+v=0
  4. 任意のu,vVに対しu+v=v+u

[2]・について

  1. 任意のuV, k,Fに対し(k)u=k(u)
  2. 任意のuVに対し1u=u

[3]+と・について

  1. 任意のu,vV, kFに対しk(u+v)=ku+kv
  2. 任意のuV, k,Fに対し(k+)u=ku+u

このとき,VF上の線形空間(linear space)またはベクトル空間(vector space)といい,

  • +をV上の
  • ・をV上のスカラー倍(またはF倍)

という.また,Vの元をベクトル(vector)という.

さらに,性質(2)の0V上の零ベクトル(zero vector)といい,性質(3)のvu逆ベクトル(inverse vector)という.uの逆ベクトルはuと表し,和w+(u)wuと表す.

具体例のあとで零ベクトル0がひとつしか存在しないこと,任意のベクトルに対して逆ベクトルがひとつしか存在しないことを証明します.

スカラー倍の記号・はR2の場合と同じく省略することが多いです.

実線形空間と複素線形空間

Fとしては

のどちらかで考えることが多く,このときの線形空間を次のように呼びます.

実数体R上の線形空間V実線形空間といい,複素数体R上の線形空間V複素線形空間という.

スカラーが実数・複素数の線形空間をそれぞれ実線形空間・複素線形空間と呼ぶわけですね.





線形空間の具体例

具体例として

  1. 列ベクトルの線形空間Rn
  2. 列ベクトルの線形空間Cn
  3. 多項式の線形空間R[x]
  4. 数列の線形空間(R)

を考えましょう.

例1(列ベクトルの線形空間Rn

2次列ベクトル全部の集合R2上で

  • 通常の和[a1a2]+[b1b2]=[a1+b1a2+b2]
  • 通常のRk[a1a2]=[ka1ka2]

を考えると,この和とR倍は線形空間の8性質を満たすのでR2は実線形空間となります.

線形空間の元をベクトルと呼ぶのでしたから,例えば

[12], [31], [22]

などは全てR2のベクトルですね.

一般にRnに通常の和と通常のR倍を定めると,R2と同様にRnは実線形空間となります.

例2(列ベクトルの線形空間Cn

2次列ベクトル全部の集合C2上で

  • 通常の和[a1a2]+[b1b2]=[a1+b1a2+b2]
  • 通常のCk[a1a2]=[ka1ka2]

を考えると,この和とC倍は線形空間の8性質を満たすのでC2は複素線形空間となります.

線形空間の元をベクトルと呼ぶのでしたから,例えば

[12], [i1], [i1i+1]

などは全てC2のベクトルですね.

一般にCnに通常の和と通常のC倍を定めると,C2と同様にCnは実線形空間となります.

例3(多項式の線形空間R[x]

実数係数多項式全部の集合R[x]上で

  • 通常の和(a0+a1x++anxn)+(b0+b1x++bnxn)=(a0+b0)+(a1+b1)x++(an+bn)xn
  • 通常のRk(a0+a1x++anxn)=(ka0)+(ka1)x++(kan)xn

を考えると,この和とR倍は線形空間の8性質を満たすのでR[x]は実線形空間となります(次数が異なる多項式の和は次数の大きい方に合わせて考えます).

線形空間の元をベクトルと呼ぶのでしたから,例えば

1+2x, 2+3x+x2, 1x2

などは全てR[x]のベクトルですね.

高校数学までは向きと大きさをもつものをベクトルと呼んで「矢印」で表していましたが,一般の線形空間のベクトルはまったく「矢印」のようでなくても構いません.ただ線形空間の元をベクトルと呼ぶだけです.

同様の和とC倍を考えると,複素数係数多項式全部の集合C[x]は複素線形空間となります.

例4(数列の線形空間(R)

実数列全部の集合(R)上で

  • {an}+{bn}={an+bn}
  • Rk{an}={kan}

を考えると,この和とR倍は線形空間の8性質を満たすので(R)は実線形空間となります.

(R)に属するひとつひとつの元が数列です.

例えば,

  • 一般項がan=nの数列{an}=(1,2,3,4,)
  • 一般項がbn=(1)nの数列{bn}=(1,1,1,1,)

に対して,和{an}+{bn}

{an+bn}=(1+(1),2+1,3+(1),4+1,5+(1),)=(0,3,2,5,4,)

であり,スカラー倍3{an}

{3an}=(31,32,33,34,35,)=(3,6,9,12,15,)

というわけです.つまり,一般項の和・スカラー倍を考えて新しい数列を作るわけですね.

線形空間の元をベクトルと呼ぶのでしたから,例えば

(1,2,3,4,), (0,0,0,0,), (2,4,8,16,)

などは全て(R)のベクトルですね.

例3の繰り返しになりますが,一般の線形空間の元をベクトルと呼ぶだけで,ベクトルはまったく矢印のようでなくても構いません.

同様の和とC倍を考えると,複素数列全部の集合(C)は複素線形空間となります.





零ベクトルと逆ベクトルの一意性

R2では零ベクトルが[00]だけであることは成分の計算を考えれば分かりますが,線形空間は必ずしもR2のように分かりやすいものとは限りません.

しかし,どんな線形空間であっても零ベクトルと逆ベクトルの一意性が成り立つことを最後に証明しておきましょう.

零ベクトルの一意性

線形空間Vの零ベクトル0はただひとつであり,任意のvVに対して0v=0である.

Vの零ベクトル0,0を任意にとる.零ベクトルは足しても他の元を変えないから

0=0+0=0

が成り立つ.よって,零ベクトルはもとよりひとつしかない.

また,分配法則より

0v=(0+0)v=0v+0v

である.両辺に0vの逆元0vを加えて0v=0を得る.

一意性の証明については,好きに2つとったにも関わらず同じものであることが示されたわけですから,元からひとつしかなかったという論法ですね.この論法は一意性を示す際によく用いられるので知っておくと良いでしょう.

この論法がしっくりこない方は,背理法で「異なる2つの零ベクトル0,0が存在すると仮定したが,0=0が示されたので矛盾」と考えても構いません.

逆ベクトルの一意性

逆ベクトルの一意性も同じ論法で証明することができます.

線形空間Vの任意の元vに対して,vの逆ベクトルはただひとつであり,v=(1)vである.

vVの逆ベクトルu,uを任意にとる.逆ベクトルを足すと零ベクトルになることと,結合法則より

u=u+0=u+(v+u)=(u+v)+u=0+u=u

なので,vの逆ベクトルはもとよりひとつしかない.

また,分配法則より

v+(1)v=1v+(1)v=(1+(1))v=0v=0

だから,逆ベクトルの定義よりv=(1)vを得る.

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プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.公式LINEを友達登録で【限定プレゼント】配布中.

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