と定義され,交換法則や分配法則などの「よい性質」を満たします.
この記事では
- 線形空間の定義
- 線形空間の具体例
- 零ベクトルと逆ベクトルの一意性
を順に解説します.
「線形空間の基本」の一連の記事
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線形空間の定義
最初に2次列ベクトル全部の空間
の和とスカラー倍の性質
[1]和について
- 任意の
に対し - 零ベクトル
は,任意の に対し - 任意の
に対し - 任意の
に対し
[2]スカラー倍について
- 任意の
, に対し - 任意の
に対し
[3]和とスカラー倍について
- 任意の
, に対し - 任意の
, に対し
ここで
- 加法+は
の2つのベクトル , を与えて, の1つのベクトル を返す規則 - スカラー倍・は
の1つの元 と の1つのベクトル を与えて, の1つのベクトル を返す規則
と言えることに注目しておきましょう.
線形空間の定義
いまみた
そこで,この8性質に対応する性質を満たす空間
最初は以下の定義を見てもピンときにくいと思うので,深く考えず読み流して次の具体例に進んでしまっても良いでしょう.
体
の元を2つ与えて の元を1つ返す+ , の元を1つずつ与えて の元1つ返す・
が定まっており,次の8性質を満たすとする.
[1]+について
- 任意の
に対し - ある
が存在して,任意の に対し - 任意の
に対し,ある が存在し - 任意の
に対し
[2]・について
- 任意の
, に対し - 任意の
に対し
[3]+と・について
- 任意の
, に対し - 任意の
, に対し
このとき,
- +を
上の和 - ・を
上のスカラー倍(または 倍)
という.また,
さらに,性質(2)の
具体例のあとで零ベクトル
スカラー倍の記号・は
実線形空間と複素線形空間
体
- 実数体
- 複素数体
のどちらかで考えることが多く,このときの線形空間を次のように呼びます.
実数体
スカラーが実数・複素数の線形空間をそれぞれ実線形空間・複素線形空間と呼ぶわけですね.
線形空間の具体例
具体例として
- 列ベクトルの線形空間
- 列ベクトルの線形空間
- 多項式の線形空間
- 数列の線形空間
を考えましょう.
例1(列ベクトルの線形空間 )
2次列ベクトル全部の集合
- 通常の和
- 通常の
倍
を考えると,この和と
線形空間の元をベクトルと呼ぶのでしたから,例えば
などは全て
一般に
例2(列ベクトルの線形空間 )
2次列ベクトル全部の集合
- 通常の和
- 通常の
倍
を考えると,この和と
線形空間の元をベクトルと呼ぶのでしたから,例えば
などは全て
一般に
例3(多項式の線形空間 )
実数係数多項式全部の集合
- 通常の和
- 通常の
倍
を考えると,この和と
線形空間の元をベクトルと呼ぶのでしたから,例えば
などは全て
高校数学までは向きと大きさをもつものをベクトルと呼んで「矢印」で表していましたが,一般の線形空間のベクトルはまったく「矢印」のようでなくても構いません.ただ線形空間の元をベクトルと呼ぶだけです.
同様の和と
例4(数列の線形空間 )
実数列全部の集合
- 和
倍
を考えると,この和と
例えば,
- 一般項が
の数列 - 一般項が
の数列
に対して,和
であり,スカラー倍
というわけです.つまり,一般項の和・スカラー倍を考えて新しい数列を作るわけですね.
線形空間の元をベクトルと呼ぶのでしたから,例えば
などは全て
例3の繰り返しになりますが,一般の線形空間の元をベクトルと呼ぶだけで,ベクトルはまったく矢印のようでなくても構いません.
同様の和と
零ベクトルと逆ベクトルの一意性
しかし,どんな線形空間であっても零ベクトルと逆ベクトルの一意性が成り立つことを最後に証明しておきましょう.
零ベクトルの一意性
線形空間
が成り立つ.よって,零ベクトルはもとよりひとつしかない.
また,分配法則より
である.両辺に
一意性の証明については,好きに2つとったにも関わらず同じものであることが示されたわけですから,元からひとつしかなかったという論法ですね.この論法は一意性を示す際によく用いられるので知っておくと良いでしょう.
この論法がしっくりこない方は,背理法で「異なる2つの零ベクトル
逆ベクトルの一意性
逆ベクトルの一意性も同じ論法で証明することができます.
線形空間
なので,
また,分配法則より
だから,逆ベクトルの定義より
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