線形代数1
線形代数は「多変数バージョンの比例」という話

線形代数学の基本
線形代数学の基本

線形代数学は理系大学生の多くが大学初年度に学ぶことになります.

線形代数では行列ベクトルが線形代数の最初に定義され,行列のイメージが掴めないまま抽象的な議論に進んでしまい,ずるずると線形代数を苦手としてしまうパターンはかなり多いように思います.

しかし,線形代数とは「中学校以来扱ってきた比例$y=ax$の変数$x$を複数の変数(多変数)にするとどうなるのか」ということを考える分野で,そのことが理解できると色々なところが見通しよく考えられるようになります.

そのため,この記事では

  • 行列とベクトルがどのようなものか
  • 線形代数がどういう意味で「多変数の比例」といえるのか

を説明します.

参考文献(線形代数)

手を動かしてまなぶ 線形代数

線形代数の入門書で,説明も非常に丁寧なので初学者にも読み進めやすい教科書です.

線型代数入門

理論系でガッツリ線形代数を学ぶ人のための入門書です.

多変数の「比例」

比例とは次のように定義されるものでした.

$a$を実数とする.このとき$x$と$y$が

   \begin{align*}y=ax\end{align*}

の関係にあるとき,「$y$は$x$に比例する」といい,$a$を比例係数というのでした.

様々ある関数の中でも$f(x)=ax$で定まる比例の関数$f$は非常に分かりやすい関数ですね.

ここで,この比例を「拡張」することを考えます.例えば,2つの等式

   \begin{align*}\begin{cases} y_1=x_1+2x_2+3x_3\\ y_2=4x_1+5x_2+6x_3 \end{cases}\end{align*}

を考えましょう.

比例$y=ax$では$x$と$y$が1つずつでしたが,この2つの等式では

  • $x$が$x_1$, $x_2$, $x_3$の3つ
  • $y$が$y_1$と$y_2$の2つ

に増えているわけですね.

あとできちんと定義しますが,これを線形代数では

   \begin{align*}\bmat{y_1\\y_2}=\bmat{1&2&3\\4&5&6}\bmat{x_1\\x_2\\x_3}\end{align*}

のように右辺を係数部分と変数部分に分けて表します.

このとき,

  • 左辺を$\m{y}:=\bmat{y_1\\y_2}$
  • 右辺の係数部分を$A:=\bmat{1&2&3\\4&5&6}$
  • 右辺の変数部分を$\m{x}:=\bmat{x_1\\x_2\\x_3}$

とおくと,上の等式は

   \begin{align*} \m{y}=A\m{x} \end{align*}

と表すことができ,あたかも$A$を「比例定数」とし$\m{y}$は$\m{x}$に「比例」していると捉えることができます.

これについて,

  • $\m{x}$, $\m{y}$のように一列に数を並べたものを数ベクトル
  • $A$のように長方形型に数を並べたものを行列

といいます.

行列とベクトルの定義

次に,いま紹介した行列ベクトルをきちんと定義しておきましょう.

行列の定義

横に$n$個,縦に$m$個の数を並べたものを$m\times n$行列 (matrix)という:

   \begin{align*}\bmat{a_{11}&\dots&a_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{m1}&\dots&a_{mn}}\quad \bra{\begin{gathered} a_{ij}\in S;\\ i=1,\dots,m,\\ j=1,\dots,n \end{gathered}}.\end{align*}

この行列を$(a_{ij})_{1 \le i \le m,1 \le j \le n}$や単に$(a_{ij})$などと表すことも多い.

とくに$n\times n$行列を$n$次正方行列 (square matrix)または単に$n$次行列といいます.

また,この行列に対して

  • $a_{pq}$を第$(p,q)$成分 (element)
  • $\bmat{a_{q1}&\dots&a_{qn}}$を第$p$行 (row)
  • $\bmat{a_{1p}\\\vdots\\a_{np}}$を第$q$列 (column)

という.

この一連の記事では

  • 成分が集合$S$の元である$m\times n$行列全部の集合を$\Mat_{mn}(S)$
  • 成分が集合$S$の元である$n$次正方行列全部の集合を$\Mat_{n}(S)$

と表します.

例1

$A:=\bmat{1&2&3\\4&5&6}$は$2\times3$行列で

  • $A$の第$(1,2)$成分は$2$
  • $A$の第$2$行は$\bmat{4&5&6}$
  • $A$の第$3$列は$\bmat{3\\6}$は

ですね.

例2

線形代数を学ぶ段階では行列の成分は実数または複素数であることがほとんどで,そのことを強調してそれぞれ実行列 (real matrix)複素行列 (complex matrix)ということも多いです.

例えば,

  • $A:=\bmat{1&2&3\\4&5&6}$は$2\times3$実行列で
  • $B:=\bmat{1&2+i&3-i\\2-i&5&0\\3+i&0&9}$は$3$次複素正方行列

ですね.

ベクトルの定義

$n\times1$行列$\bmat{x_1\\x_2\\\vdots\\x_n}$を$n$次列ベクトル (column vector)といい,$1\times n$行列$[x_1,x_2,\dots,x_n]$を$n$次行ベクトル (row vector)という.

列ベクトルと行ベクトルを併せて数ベクトルという.

高校数学では「『向き』と『長さ』を持ったものをベクトルという」と学んで「矢印」で表しましたが,線形代数では「成分を並べたベクトル」である数ベクトルを基本的なベクトルとして扱います.

線形代数を学び進めると「成分を並べたもの」でないベクトルも登場し,そこでは高校で学ぶ「矢印」の図形的なベクトルは幾何ベクトルと呼ばれます.

例1

$S$成分の$n$次列ベクトルを$S^{n}$と表す($S^{n}:=\Mat_{n1}(S)$)と表します.

列ベクトルについて

   \begin{align*} \bmat{1\\2\\3}\in\N^{3},\quad \bmat{\sqrt{3}\\\sqrt{3}\\\sqrt{3}}\in\R^{3},\quad \bmat{1\\i\\0\\-i}\in\C^{4} \end{align*}

です.

行列と同様に$\R^{n}$の元を実ベクトル (real vector),$\C^{n}$の元を複素ベクトル (complex vector)といいます.

例2

行ベクトルはコンマ“,”を用いて,$[a_{11},\dots,a_{1n}]$のように表すことも多いです.たとえば,

   \begin{align*} [1,2,3]\in\Mat_{13}(\N),\quad [\sqrt{3},\sqrt{3},\sqrt{3}]\in\Mat_{13}(\R),\quad [1,i,0,-i]\in\Mat_{14}(\C) \end{align*}

ですね.

例3

$\R^n$は$n$本の座標軸のある直交座標として考えることができます.

例えば,$\m{a}:=\bmat{3\\1}\in\R^2$は

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と$xy$平面上に表せます.

例4

行列を並べることによって,行列を表すこともよくあります.

例えば,行列$A:=\bmat{1&2&3\\4&5&6\\7&8&9}$は

  • 行列$A_1:=\bmat{1&2\\4&5}$, $A_2:=\bmat{3\\6}$, $A_3:=[7,8]$, $A_4:=[9]$によって,

       \begin{align*}A=\bmat{A_{1}&A_{2}\\A_{3}&A_{4}}\end{align*}

  • 行ベクトル$\m{b}_1=[1,2,3]$, $\m{b}_2=[4,5,6]$, $\m{b}_3=[7,8,9]$によって,

       \begin{align*}A=\bmat{\m{b}_{1}\\\m{b}_{2}\\\m{b}_{3}}\end{align*}

などと表すことができます.

このような行列の表し方を行列の区分けということもあります.

重要な行列とベクトル

この記事の最後に,頻繁に現れる重要な行列とベクトルを紹介しておきます.

零行列・零ベクトル

零行列零ベクトルは実数や複素数でいう0に相当する行列・ベクトルです.

成分が全て$0$の行列をれい行列 (zero matrix)またはゼロ行列という:$\bmat{0&0&\dots&0\\0&0&\dots&\vdots\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\0&\dots&0&0}$.

また,成分が全て$0$のベクトルをれいベクトル (zero vector)またはゼロベクトルという:$\bmat{0\\0\\\vdots\\0}$.

零ベクトルは$\m{0}$,零行列は$O$と表すことが多く,次数を明示するときには

  • $\m{0}_{n}$:$n$次零ベクトル
  • $O_{mn}$:$m\times n$次零行列
  • $O_{n}$:$n$次零行列

などと添字で表すことが多いです.

次の記事で行列の和を定義しますが,行列の和について$A+O=O+A=A$,ベクトルの和について$\m{a}+\m{0}=\m{0}+\m{a}=\m{a}$が成り立ちます.

対角行列と単位行列

$n$次正方行列$A$について,第$(k,k)$成分 ($k=1,\dots,n$)を$A$の対角成分 (diagonal element)といい,対角成分以外の成分が$0$なら$A$を対角行列 (diagonal matrix)という.

第$(k,k)$成分が$a_{k}$の対角行列を$\diag{(a_{1},\dots,a_{n})}$などと表す:

   \begin{align*} \diag{(a_{1},\dots,a_{n})}:=\bmat{a_{1}&0&\dots&0\\0&a_{2}&\dots&\vdots\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\0&\dots&0&a_{n}}. \end{align*}

とくに,対角成分が全て1の対角行列$\diag{(1,\dots,1)}$を単位行列 (identity matrix)という.

単位行列は$I$や$E$で表すことが多く,次数を明示するときには

  • $I_{n}$:$n$次単位行列
  • $E_{n}$:$n$次単位行列

などと添字で表すことが多いです.

例えば

  • $\diag{(1,2)}=\bmat{1&0\\0&2}$
  • $\diag{(\sqrt{2},-\sqrt{2},\sqrt{2})}=\bmat{\sqrt{2}&0&0\\0&-\sqrt{2}&0\\0&0&\sqrt{2}}$
  • $\diag{(1,-1,0)}=\bmat{1&0&0\\0&-1&0\\0&0&0}$

はいずれも対角行列であり,

  • $I_2=\bmat{1&0\\0&1}$
  • $I_3=\bmat{1&0&0\\0&1&0\\0&0&1}$

はいずれも単位行列ですね.

転置行列

行列$A$の第$(i,j)$成分を第$(j,i)$成分にとり直した行列を$A$の転置行列 (transposed matrix)といい,${}^{t}A$, $A^{T}$などと表す.

すなわち,$A=(a_{ij})$とすると,$A^{T}={}^{t}A=(a_{ji})$である.

たとえば,$A=\bmat{1&2\\3&4\\5&6}$, $B=\bmat{2\\-3\\1}$に対して

  • ${}^{t}A=A^{T}=\bmat{1&3&5\\2&4&6}$
  • ${}^{t}B=B^{T}=[2,-3,1]$

ですね.転置行列については次が成り立ちますね.

任意の行列$A$に対して,$A$の転置行列の転置行列は$A$である.すなわち,$(A^{T})^{T}=A$である.

行列の演算

次の記事では行列にはを定義します.

行列の和は$m\times n$行列$A=\bmat{a_{11}&\dots&a_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{m1}&\dots&a_{mn}}$, $B=\bmat{b_{11}&\dots&a_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\b_{m1}&\dots&b_{mn}}$に対して

   \begin{align*}A+B=\bmat{a_{11}+b_{11}&\dots&a_{1n}+b_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{m1}+b_{m1}&\dots&a_{mn}+b_{mn}}\end{align*}

と定義されます.

一方,行列の積については$m\times n$行列$A=\bmat{a_{11}&\dots&a_{1n}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{m1}&\dots&a_{mn}}$, $n\times\ell$行列$B=\bmat{b_{11}&\dots&b_{1m}\\\vdots&\ddots&\vdots\\b_{\ell1}&\dots&b_{\ell m}}$に対して,$AB$の第$(i,j)$成分を

   \begin{align*}a_{i1}b_{1j}+\dots+a_{in}b_{nj}\end{align*}

と定義します.

次の記事では和と積をこのように定めると都合が良い理由を説明します.

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