留数定理による広義積分の計算|例題から使い方・考え方を解説

複素解析の基本
複素解析の基本

次の積分を考えましょう.

次の広義積分を計算せよ.

    \begin{align*}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx.\end{align*}

真面目に不定積分$\dint\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx$からこの広義積分を求めるのは大変です.

そこでこの広義積分を上手く求める方法があれば嬉しいわけですが,その方法として留数定理を用いる方法があります.

この記事では

  • ローラン展開と留数定理
  • 留数定理の具体例
  • 留数定理の証明

を順に解説します.

複素解析の参考文献

以下は複素解析に関するオススメの教科書です.

複素関数論の要諦

複素解析の基礎を丁寧に解説した初学者向けの入門書です.

留数定理

留数定理を述べるためにローラン展開を確認しておきましょう.

ローラン展開と留数

複素関数$f$の$\alpha\in\C$でのローラン展開とは,$f$を

    \begin{align*}f(z)&=\dots+\frac{c_{-2}}{(z-\alpha)^{2}}+\frac{c_{-1}}{z-\alpha} \\&\quad+c_{0}+c_{1}(z-\alpha)+c_{2}(z-\alpha)^{2}+\dots\end{align*}

と級数で表すことをいうのでした.

複素関数$f$が$\alpha$の近くで正則なら,$f$は$\alpha$でローラン展開可能だったことを思い出しておきましょう.

[ローラン展開可能性]領域$D$から$\alpha\in D$を除いた領域$D’$上の正則関数$f$を考える.$\alpha$中心の円周$C$の周および内部が$D$に含まれるとき,$f$は$C$の内部から$\alpha$を除いた領域でローラン展開可能である.

ただし,$z$は円周$C$の$\alpha$を除く内部の点であり,$(z-\alpha)^k$の係数$c_{k}$は

    \begin{align*}c_{k}=\frac{1}{2\pi i}\int_{C}\frac{f(z)}{(z-\alpha)^{k+1}}\,dz\end{align*}

と一意に表される($k=0,\pm1,\pm2,\dots$).

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係数$c_{k}$について,$k=-1$のときに注目すると

    \begin{align*}\int_{C}f(z)\,dz=2\pi ic_{-1}\end{align*}

が成り立つので,$c_{-1}$は複素積分に密接に関わるものとして留数と呼ばれるのでした.

複素関数$f$の$\alpha$でのローラン展開の$(-1)$次の係数を,$f$の$\alpha$における留数(residue)といい$\mrm{Res}(f,\alpha)$や$\mrm{Res}_{\alpha}f$などと表す.

もし$f$が$\alpha$でも複素微分可能なら$f$は$\alpha$でテイラー展開可能なので,$\alpha$でのローラン展開では負冪の項がなく$c_{-1}=0$となります.よって,このとき$\mrm{Res}(f,\alpha)=0$となりますね.

留数定理

留数定理とは「複素積分がいくつかの留数の和の$2\pi i$倍で求まる」という定理で,詳しく述べると次のようになります.

[留数定理]領域$D$内に有限個の点$\alpha_{1},\dots,\alpha_{n}$があり,$D$内の閉曲線$C$がこれらの点を内部に含むとする.このとき,領域$D\setminus\{\alpha_{1},\dots,\alpha_{n}\}$上の正則関数$f$に対して

    \begin{align*}\int_{C}f(z)\,dz=2\pi i\mrm{Res}(f,\alpha_{1})+\dots+2\pi i\mrm{Res}(f,\alpha_{n})\end{align*}

が成り立つ.ただし,$C$の向きは正方向とする.

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もし$f$が全ての点$\alpha_{1},\dots,\alpha_{n}$が複素微分可能なら

    \begin{align*}\mrm{Res}(f,\alpha_{1})=\dots=\mrm{Res}(f,\alpha_{n})=0\end{align*}

なので,$\dint_{C}f(z)\,dz=0$が成り立ちますが,これはコーシーの積分定理に他なりませんね.

つまり,複素関数が閉積分経路内に正則でない点をもつ場合にコーシーの積分定理を拡張したのが留数定理になっているわけですね.

留数定理の証明はこの記事の最後に遺し,先に留数定理の応用例を見ておきましょう.

留数定理の広義積分への応用

冒頭の問題を龍数定理を用いて解きましょう.

次の広義積分を計算せよ.

    \begin{align*}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx.\end{align*}

いきなり解答を書いても流れが分かりにくいと思うので,まずは解答の方針を説明します.

解答の方針

最初に,問題の広義積分は

    \begin{align*}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx=\lim_{R\to\infty}\int_{-R}^{R}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx\end{align*}

であることを思い出しておきましょう.

方針1(実軸上の線分$L_R$上の複素積分に書き直す)

極限$R\to\infty$をとる前の定積分$\dint_{-R}^{R}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx$は

  • 実軸上の閉区間$[-R,R]$
  • $f(z)=\dfrac{1}{(z^{2}+1)^{6}}$で定まる複素関数$f$

を用いれば,

    \begin{align*}\int_{-R}^{R}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx=\int_{L_R}f(z)\,dx\end{align*}

複素積分で表せますね.ただし,$L_R$の向きは実軸上の負から正に向かう方向としています.

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方針2($L_R$を含む閉曲線$C$をつくる)

原点中心の上半円$C_{R}$を考え,$C_R$と$L_R$を併せた閉曲線を$C$とします.ただし,$C_R$の向きは$L_R$に自然に繋がる方向とします.

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このとき,$z\in C_R$の絶対値は$R$なので,$R$が十分大きければ$C_R$上で

    \begin{align*}|f(z)|=\abs{\frac{1}{(z^{2}+1)^{6}}}\approx\frac{1}{(R^2+1)^6}\end{align*}

と考えられます.いま$C_R$の長さは$\pi R$だから,

    \begin{align*}\abs{\int_{C_R} f(z)\,dz}\approx\frac{\pi R}{(R^2+1)^6}\end{align*}

なので,極限$R\to\infty$をとれば0に近付くことがみてとれますね.

方針3(留数定理と極限$R\to\infty$を考える)

$R>1$なら閉曲線$C$は$f$が正則な領域に含まれ,閉曲線$C$の内部では$i$のみで$f$が複素微分不可能なので,留数定理より

    \begin{align*}\int_{C}f(z)\,dz=2\pi i\operatorname{Res}{(f,i)}\end{align*}

が$R>1$によらず成り立ちます.また

    \begin{align*}\int_{C}f(z)\,dz=\int_{C_R}f(z)\,dz+\int_{L_R}f(z)\,dz\end{align*}

なので両辺で極限$R\to\infty$をとれば,方針1と方針2を併せて

    \begin{align*}2\pi i\operatorname{Res}{(f,i)}=0+\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx\end{align*}

となって,問題の広義積分が得られることになります.

解答例

(再掲)次の広義積分を計算せよ.

    \begin{align*}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx.\end{align*}

ポイントは

  • $\dint_{-R}^{R}\frac{1}{(x^2+1)^6}\,dx$が$\dint_{C}f(z)\,dz$と$\dint_{C_R}f(z)\,dz$を用いて書ける
  • $R>1$なら常に$\dint_{C}f(z)\,dz$は一定
  • $\dint_{C_R}f(z)\,dz$は求められなくても,$R\to\infty$の極限は分かる

の3つです.これらを意識しながら解答を読み進めてください.

複素関数$f$と複素平面上の曲線$L_{R}$, $C_R$と閉曲線$C$を次で定めます:

    \begin{align*}&f(z)=\dfrac{1}{(z^{2}+1)^{6}}, \\&L_R:=\set{z\in\R}{z=x,x\in[-R,R]}, \\&C_R:=\set{z\in\R}{z=R(\cos{t}+i\sin{t}),t\in[0,\pi]} \\&C:=L_R\cup C_R\end{align*}

ただし,$R>1$とします.このとき,

    \begin{align*}\int_{-R}^{R}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx &=\int_{L_{R}}f(z)\,dz \\&=\int_{C}f(z)\,dz-\int_{C_{R}}f(z)\,dz\end{align*}

となりますね.

ステップ1($C_R$上の積分)

$z\in C_{R}$に対して$\dfrac{dz}{dt}=R(-\sin{t}+i\cos{t})$だから,

    \begin{align*} \abs{\int_{C_{R}}f(z)\,dz} &=\abs{\int_{0}^{\pi}\frac{R(-\sin{t}+i\cos{t})}{(R^{2}(\cos{2t}+i\sin{2t})+1)^{6}}\,dt} \\&\le\int_{0}^{\pi}\frac{|R(-\sin{t}+i\cos{t})|}{|R^{2}(\cos{2t}+i\sin{2t})+1|^{6}}\,dt \\&\le\int_{0}^{\pi}\frac{R}{(|R^{2}(\cos{2t}+i\sin{2t})|-1)^{6}}\,dt \\&=\int_{0}^{\pi}\frac{R}{(R^{2}-1)^{6}}\,dt =\frac{\pi R}{(R^{2}-1)^{6}} \end{align*}

となり,$\lim\limits_{R\to\infty}\abs{\dint_{C_{R}}f(z)\,dz}=0$と計算できるので,$\lim\limits_{R\to\infty}\dint_{C_{R}}f(z)\,dz=0$が得られます.

ただし,下から2行目の不等式では三角不等式

    \begin{align*}|R^{2}(\cos{2t}+i\sin{2t})+1|\ge|R^{2}(\cos{2t}+i\sin{2t})|-1\end{align*}

を用いました.

ステップ2($C$上の積分と留数定理)

$f$は領域$\C\setminus\{\pm i\}$で正則で$R>1$だから,留数定理より

    \begin{align*}\int_{C}f(z)\,dz=2\pi i\operatorname{Res}(f,i)\end{align*}

となります.

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よって,

    \begin{align*}\int_{-R}^{R}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx =2\pi i\operatorname{Res}(f,i)-\int_{C_{R}}f(z)\,dz\end{align*}

なので,極限$R\to\infty$をとればステップ1と併せて

    \begin{align*}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx =2\pi i\operatorname{Res}(f,i)\end{align*}

となります.よって,あとは留数$\operatorname{Res}(f,i)$を求めれば,問題の広義積分が得られますね.

ステップ3(留数を求める)

複素関数$g$を

    \begin{align*}g(z):=(z-i)^6f(z)=\frac{1}{(z+i)^{6}}\end{align*}

で定めると,$g$は$i$の近傍の正則関数だから$i$でテイラー展開可能です.よって,

    \begin{align*}&g(z)=c_{0}+c_{1}(z-i)+c_{2}(z-i)^{2}+\dots \\&\iff f(z)=\frac{a_{0}}{(z-i)^{6}}+\dots+\frac{a_{5}}{z-i}+a_{6}+a_{7}(z-i)+\dots\end{align*}

と$f$は$i$でローラン展開可能で$\operatorname{Res}{(f,i)}=a_{5}$となりますね.このローラン展開から

    \begin{align*}\frac{d^{5}g}{dz^{5}}(i)=5!a_{5}\end{align*}

であり,$g(z)=\dfrac{1}{(z+i)^{6}}$から

    \begin{align*}\frac{d^{5}g}{dz^{5}}(z) =\frac{(-6)(-7)\dots(-10)}{(z+i)^{11}} =-\frac{10!}{5!(z+i)^{11}}\end{align*}

だから,

    \begin{align*}\operatorname{Res}{(f,i)} =a_{5} =\frac{1}{5!}\cdot\frac{d^{5}g}{dz^{5}}(i) =-\frac{10!}{(5!)^{2}(i+i)^{11}} =\frac{10!}{(5!)^{2}2^{11}i}\end{align*}

が得られます.

よって,目的の広義積分は

    \begin{align*}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx=\frac{10!}{(5!)^{2}2^{10}}\pi\end{align*}

と計算できました.

留数定理の証明

最後に留数定理を証明しましょう.留数定理は

の2つが理解できていれば簡単に導くことができます.

[留数定理(再掲)]領域$D$内に有限個の点$\alpha_{1},\dots,\alpha_{n}$があり,$D$内の閉曲線$C$がこれらの点を内部に含むとする.このとき,領域$D\setminus\{\alpha_{1},\dots,\alpha_{n}\}$上の正則関数$f$に対して

    \begin{align*}\int_{C}f(z)\,dz=2\pi i\mrm{Res}(f,\alpha_{1})+\dots+2\pi i\mrm{Res}(f,\alpha_{n})\end{align*}

が成り立つ.ただし,$C$の向きは正方向とし,$\mrm{Res}(f,\alpha_{k})$は$f$の点$\alpha_{k}$での留数を表す($k=1,\dots,n$).

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周も内部も$D$内に含まれる$\alpha_k$中心の円周$C_1,\dots,C_n$を,$C_1,\dots,C_n$が互いに外部にあるようにとる.

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閉積分経路$C$を領域$D\setminus\{\alpha_{1},\dots,\alpha_{n}\}$内で連続的に変形して$C_1\cup\dots\cup C_n$に連続的に変形できるから,コーシーの積分定理より

    \begin{align*}\int_{C}f(z)\,dz=\int_{C_1}f(z)\,dz+\dots+\int_{C_n}f(z)\,dz\end{align*}

である.$\dint_{C_k}f(z)\,dz=2\pi i\operatorname{Res}{(f,\alpha_k)}$($k=1,2,\dots,n$)だから

    \begin{align*}\int_{C}f(z)\,dz=2\pi i\mrm{Res}(f,\alpha_{1})+\dots+2\pi i\mrm{Res}(f,\alpha_{n})\end{align*}

が従う.

管理人

プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.公式LINEを友達登録で【限定プレゼント】配布中.

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