複素解析5
縁の下の力持ち[コーシーの積分公式]を解説

複素関数を複素積分で表す公式としてCauchy(コーシー)の積分公式というものがあります.

このCauchyの積分公式は次の記事で説明するテイラー展開と,さらに次の記事で説明するローラン展開のベースとなる非常に重要な公式です.

Cauchyの積分公式は前回の記事で説明したCauchyの積分定理とは別物ですが,前回のCauchyの積分定理を理解していると今回のCauchyの積分公式が直感的に理解することができます.

この記事では

  • Cauchyの積分公式
  • Cauchyの積分定理の直感的な理解
  • Cauchyの積分定理の証明

を順に説明します.

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【複素解析⑤コーシーの積分公式】関数を積分で表す!テイラー展開とローラン展開のための超重要公式!

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Cauchyの積分公式

さっそく本題のCauchyの積分公式を紹介します.

Cauchyの積分公式は$D$上の正則関数$f$に対して,任意の点$z\in D$での値$f(z)$を$z$の周り(正方向)での複素積分で表す公式です.

Cauchyの積分公式] 領域$D$上で正則な複素関数$f$を考える.任意の$z\in D$に対して,$z$を内部に含む$D$内の閉曲線$C$を考え,$C$の内部でも$f$が正則なら

\begin{align*} f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{C}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta \end{align*}

が成り立つ.ただし,$C$の向きは正方向とする.

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右辺の積分変数は$\zeta$なので,$\zeta$が$z$周りの閉曲線$C$上を動くことに注意してください.

この公式の捉え方としては,もし分母の$\zeta-z$がなければCauchyの積分定理から

\begin{align*} \int_{C}f(\zeta)\,d\zeta=0 \end{align*}

となりますが,分母に$\zeta-z$があるおかげで複素積分$\dint_{C}\dfrac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta$の非積分関数は$z$では微分可能ではなくCauchyの積分定理を使えませんね.

そこで実際に$\dint_{C}\dfrac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta$を計算してみると,

\begin{align*} \int_{C}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta=2\pi if(z) \end{align*}

となり,この両辺を$2\pi i$で割ったものがCauchyの積分公式というわけです.

Cauchyの積分公式の直感的な理解

Cauchyの積分公式を理解するためには,次の2つの補題

  • 複素積分の積分経路の変形
  • $\frac{1}{\zeta}$の原点周りでの複素積分

が鍵となります.

補題1

次の補題はCauchyの積分定理から得られる重要な応用でしたね.

[複素積分の積分経路の変形] 領域$D$上の正則関数$f$,$D$上の閉曲線$C$, $C’$を考える.$C$を$D$内で連続的に変形させて$C’$となるとき,次が成り立つ.

\begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz=\int_{C'}f(z)\,dz. \end{align*}

標語的にいえば「複素関数が正則な領域内では,閉積分経路$C$を連続的に変形させても複素積分の値は変化しない」となりますね.

この補題がCauchyの積分定理からどのように得られるか気になる方は前回の記事を参照してください.

補題2

次の複素積分はよく現れるので覚えておくと便利です.

[$\frac{1}{\zeta}$の原点周りでの複素積分] 複素平面上の原点中心の正方向の円周$C$に対して,次が成り立つ.

\begin{align*} \int_{C}\frac{1}{\zeta}\,d\zeta=2\pi i. \end{align*}

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この補題は単純に複素積分を計算すれば得られます.

前々回の記事で実際に計算しているので,どのように計算するか気になる方は以下の記事を参照してください.

Cauchyの積分公式の直感的な理解

Cauchyの積分公式は次のように考えれば直感的に理解することができます.

まず,$z$を囲む閉曲線$C$を領域$D$上を連続に変形して,$z$中心の円周$C’$に変形することができます.

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このとき,上で紹介した補題1の[複素積分の積分経路の変形]から

\begin{align*} \int_{C}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta =\int_{C'}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta \end{align*}

ですね.この$C’$の半径の大きさによらず成り立ちますから,$C’$の半径を非常に小さくとってもよく,このとき$C’$上の$\zeta$は中心$z$に近いので$f(\zeta)\approx f(z)$と近似できます.

よって,

\begin{align*} \int_{C'}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta \approx\int_{C'}\frac{f(z)}{\zeta-z}\,d\zeta =f(z)\int_{C'}\frac{1}{\zeta-z}\,d\zeta =f(z)\cdot2\pi i \end{align*}

となります.なお,最後の複素積分$\int_{C’}\frac{1}{\zeta-z}\,d\zeta$は,上で紹介した補題2の[$\frac{1}{\zeta}$の原点周りでの複素積分]で関数も積分経路も$z$平行移動した積分となっているので,結果も同じになることを用いました.

以上をまとめると,

\begin{align*} \int_{C}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta\approx f(z)\cdot2\pi i \iff f(z)\approx \dfrac{1}{2\pi i}\dint_{C}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta \end{align*}

が得られます.

この近似等式$\approx$は$C’$の半径を小さくすればするほど誤差が0に近付きますから,実は$\approx$ではなく$=$で成り立つというわけですね.

Cauchyの積分公式の証明

最後にCauchyの積分公式を証明しますが,方針は以上の直感的な説明と同じで近似の部分を厳密に述べたものになっています.

[Cauchyの積分公式(再掲)] 領域$D$上で正則な複素関数$f$を考える.任意の$z\in D$に対して,$z$を内部に含む$D$内の閉曲線$C$を考え,$C$の内部でも$f$が正則なら

\begin{align*} f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{C}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta \end{align*}

が成り立つ.ただし,$C$の向きは正方向とする.

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Cauchyの積分公式で分母を払い

\begin{align*} \int_{C}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta=2\pi i f(z) \end{align*}

を示せばよい.左辺から右辺を引いて絶対値をとれば,

\begin{align*} \abs{\int_{C}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta-2\pi if(z)} =&\abs{\int_{C}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta-\int_{C}\frac{f(z)}{\zeta-z}\,d\zeta} \\=&\abs{\int_{C}\frac{f(\zeta)-f(z)}{\zeta-z}\,d\zeta} \end{align*}

なので$\abs{\dint_{C}\frac{f(\zeta)-f(z)}{\zeta-z}\,d\zeta}=0$を示せば良い.

ここで,任意に$\epsilon>0$をとる.$z$中心の円$C’$の半径$r>0$を十分小さくとれば,次の2つの条件を満たす:

  • $C’$の周と内部が$D$に含まれる.
  • $f$は領域$D$上で正則だから連続なので,$C’$上の$\zeta$に対して$|f(\zeta)-f(z)|<\epsilon$である.

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$C’$は$z$中心,半径$r$の円周なので$\zeta\in C’$は極形式$\zeta-z=r(\cos{t}+i\sin{t})$で表せるから,Cauchyの積分定理と併せると

\begin{align*} \abs{\int_{C}\frac{f(\zeta)-f(z)}{\zeta-z}\,d\zeta} =&\abs{\int_{C'}\frac{f(\zeta)-f(z)}{\zeta-z}\,d\zeta} \\=&\abs{\int_{0}^{2\pi}\frac{f(\zeta)-f(z)}{r(\cos{t}+i\sin{t})}\cdot r(-\sin{t}+i\cos{t})\,dt} \\\le&\int_{0}^{2\pi}\abs{\frac{f(\zeta)-f(z)}{r(\cos{t}+i\sin{t})}\cdot r(-\sin{t}+i\cos{t})}\,dt \\=&\int_{0}^{2\pi}|f(\zeta)-f(z)|\,dt <\int_{0}^{2\pi}\epsilon\,dt =2\pi\epsilon \end{align*}

が成り立つ.以上で$\epsilon>0$の任意性より$\abs{\dint_{C}\dfrac{f(\zeta)-f(z)}{\zeta-z}\,d\zeta}=0$を得る.

参考文献

[新装版]複素関数論の要諦

[堀川穎二 著/日本評論社]

本書は著者が実際に大学の授業で行った授業をもとに書かれており,説明も丁寧で分かりやすいです.

まえがきに「大学1年生の微分・積分の概要を理解している人を想定している」と書いてあるように,初めて複素解析を学ぶ人が基礎を理解するにはちょうど良いレベル感で書かれています.

式変形も丁寧になされており行間が少ないので,これは初学者にとって嬉しいポイントですね.

内容も留数定理,偏角の原理までフォローされているので,ひとまず複素解析が実数の定積分への応用まで学ぶことができます.

また,巻末に実際に授業を行った際のアンケートなどが載っており,学生から見て本書の内容(の授業)がどのようであったかを感じられるのは本書の面白いところです.