線形空間の基底の定義・基本性質|証明のテンプレートも紹介

線形空間の基本
線形空間の基本

例えば,3次列ベクトル全部の線形空間$\R^3$のどんなベクトル$\m{x}$もベクトル

    \begin{align*}\m{e}_1=\bmat{1\\0\\0},\quad \m{e}_2=\bmat{0\\1\\0},\quad \m{e}_3=\bmat{0\\0\\1}\end{align*}

線形結合で表すことができます.

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さらに,ベクトル$\m{e}_1$, $\m{e}_2$. $\m{e}_3$は線形独立になっています.

このような,線形空間全体を生成を生成し,線形独立であるベクトルたちの組を線形空間の基底といいます.

また,線形空間$V$の任意のベクトルも基底をなすベクトルの線形結合による表し方は一通りしかないという基本性質も当たり前にしておきましょう.

この記事では

  • 線形空間の基底の定義と考え方
  • 基底であることの証明のテンプレートと具体例
  • 基底をなすベクトルの線形結合の一意性

を順に解説します.

なお,列ベクトルの線形空間$\R^n$の部分空間だけで十分なら,列ベクトルの部分空間に絞って解説した以下の記事が分かりやすいでしょう.

ℝⁿ上のspanされる(生成される)部分空間の基底・次元の求め方
生成される部分空間は線形代数でよく現れる重要な空間で基底を求めたいことはよくあります.この記事では,ℝⁿ上の生成される空間の基底・次元の求め方を具体例から説明します.

線形空間の基底の定義と考え方

線形空間$V$を捉える際,その$V$がどのようなベクトルたちによって生成されているかが重要な手掛かりとなることがよくあります.

組$(\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n)$が線形空間$V$の基底であることの定義

ざっくり言葉で言えば,線形空間$V$のベクトルたちが,2つの条件

  1. $V$に属する全てのベクトルを線形結合で表せる
  2. 全て線形独立

を満たすとき基底であるといいます.

線形空間$V$に属するベクトルの組$(\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n)$が$V$の基底(basis)であるとは

  1. $\spn{(\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n)}=V$
  2. $\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n$は線形独立

を同時に満たすことをいう.

この記事では特に気にする必要はありませんが,基底は「組」なので順番が違うと異なる基底とみなします.なお,順番が変わっても同じとみなす場合は「組み合わせ」と言いますね.

この基底の定義で意識したいことは

  1. ベクトルが多いほど$V$を生成しやすい
  2. ベクトルが少ないほど線形独立になりやすい

ということです.このことからベクトル$\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n$が多くても少なくても基底にはなれなさそうなことが分かります.

基底であることの証明のテンプレートと具体例

基底の定義が2つの条件からなるので,基底であることを証明するにはこの2つの条件を証明します.

つまり,線形空間$V$に属するベクトルの組$(\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n)$が$V$の基底であることの証明では,

  • 空間の生成:任意の$\m{v}\in V$に対して,$\m{v}=k_1\m{v}_1+k_2\m{v}_2+\dots+k_n\m{v}_n$となる係数$k_1,k_2,\dots,k_n$が取れる
  • 線形独立性零ベクトル$\m{0}\in V$に対して,$\m{0}=k_1\m{v}_1+k_2\m{v}_2+\dots+k_n\m{v}_n$となる係数$k_1,k_2,\dots,k_n$をとると,$k_1=k_2=\dots=k_n=0$が成り立つ

の2つを証明するのがテンプレートです.

具体例1(3次列ベクトル全部の線形空間$\R^3$の基底)

3次列ベクトル全部の線形空間$\R^3$に対して,$\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3\in\R^3$を

    \begin{align*}\m{e}_1=\bmat{1\\0\\0},\quad \m{e}_2=\bmat{0\\1\\0},\quad \m{e}_3=\bmat{0\\0\\1}\end{align*}

で定めると,これらの組$(\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3)$は$\R^3$の基底です.実際,

  • 任意の$\m{x}=\sbmat{a\\b\\c}\in\R^3$は,$\m{x}=a\m{e}_1+b\m{e}_2+c\m{e}_3$と$\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3$の線形結合で表せる
  • $\m{0}=k_1\m{e}_1+k_2\m{e}_2+k_3\m{e}_3$なる$k_1,k_2,k_3\in\R$をとると,$\sbmat{0\\0\\0}=\sbmat{k_1\\0\\0}+\sbmat{0\\k_2\\0}+\sbmat{0\\0\\k_3}$なので,各成分を比較して$k_1=k_2=k_3=0$と分かるから,$\m{e}_1,\m{e}_2,\m{e}_3$は線形独立である

ですね.

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一般に,$\m{e}_k\in\R^n$($k=1,2,\dots,n$)を「第$k$成分が1,他の全ての成分が0のベクトル」とすると,組$\anb{\m{e}_1,\m{e}_2,\dots,\m{e}_n}$は$\R^n$の基底です.この基底を$\R^n$の標準基底といいます.

具体例2($\R^3$の線形部分空間の基底)

3次列ベクトル全部の線形空間$\R^3$の線形部分空間$V$を

    \begin{align*}V=\set{\bmat{x\\y\\z}\in\R^3}{3x+y+3z=0}\end{align*}

で定めます.すなわち,$V$は$xyz$空間上の平面$3x+y+3z=0$ですね.$V$の定義を変形すると

    \begin{align*}V&=\set{\bmat{x\\-3x-3z\\z}}{x,z\in\R} \\&=\set{x\bmat{1\\-3\\0}+z\bmat{0\\-3\\1}}{x,z\in\R} \\&=\spn{\bra{\bmat{1\\-3\\0},\bmat{0\\-3\\1}}}\end{align*}

となり,$V$は$\m{a}_1:=\sbmat{1\\-3\\0}$, $\m{a}_2:=\sbmat{0\\-3\\1}$で生成されることが分かります.

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また,$\m{0}=k_1\m{a}_1+k_2\m{a}_2$なる$k_1,k_2\in\R$をとると,$\sbmat{0\\0\\0}=\sbmat{k_1\\-3k_1\\0}+\sbmat{0\\-3k_2\\k_2}$なので,各成分を比較して$k_1=k_2=0$と分かるから,$\m{a}_1,\m{a}_2$は線形独立である.

以上より,これらの組$(\m{a}_1,\m{a}_2)$は$V$の基底です.

具体例3(2次以下の多項式全部の線形空間$\R[x]_2$の基底)

2次以下の実数係数多項式全部の線形空間$\R[x]_2$に対して,$1,x,x^2\in\R[x]_2$の組$(1,x,x^2)$は$\R[x]_2$の基底です.実際,

  • 任意の$f(x)=a_0+a_1x+a_2x^2\in\R[x]_2$は,$f(x)=a_0\cdot1+a_1\cdot x+a_2\cdot x^2$と$1,x,x^2$の線形結合で表せる
  • $0=k_1\cdot1+k_2\cdot x+k_3\cdot x^2$なる$k_1,k_2,k_3\in\R$をとると,両辺の係数を比較して$k_1=k_2=k_3=0$と分かるから,$1,x,x^2$は線形独立である

ですね.

一般に,組$(1,x,x^2,\dots,x^n)$は$n$次以下の実数係数多項式全部の線形空間$\R[x]_n$の基底です.

線形独立性を示すときの仮定$0=k_1\cdot1+k_2\cdot x+k_3\cdot x^2$の左辺は,実数の0ではなく係数が全て0の多項式です.

具体例4(漸化式を満たす実数列全部の線形空間の基底)

実数列全部の線形空間$\ell(\R)$の線形部分空間$V$を

    \begin{align*}V=\set{\{a_n\}=(a_1,a_2,a_3,\dots)\in\ell(\R)}{a_{n+2}=a_{n+1}+a_{n}}\end{align*}

で定めます.すなわち,$V$は漸化式$a_{n+2}=a_{n+1}+a_{n}$を満たす実数列$\{a_n\}$全部の線形空間です.

このとき,

  • $a_1=1,a_2=0$で定まる$\{a_n\}\in V$
  • $b_1=1,b_2=0$で定まる$\{b_n\}\in V$

で定めると,これらの組$(\{a_n\},\{b_n\})$は$V$の基底です.実際,

  • $\{x_n\}\in V$は$x_1$と$x_2$が定まれば一意に決まるから,任意の$\{x_n\}\in V$は$\{x_n\}=x_1\cdot\{a_n\}+x_2\cdot\{b_n\}$と$\{a_n\},\{b_n\}$の線形結合で表せる
  • $0=k_1\{a_n\}+k_2\{b_n\}$なる$k_1,k_2\in\R$をとると,両辺の初項と第2項を比較して$k_1=k_2=0$と分かるから,$\{a_n\},\{b_n\}$は線形独立である

ことから,組$(\{a_n\},\{b_n\})$は$V$の基底です.

線形独立性を示すときの仮定$0=k_1\{a_n\}+k_2\{b_n\}$の左辺は,実数の0ではなく全ての項が0の実数列です.

基底をなすベクトルの線形結合の一意性

線形空間$V$の基底は,2つの条件

  1. $V$の全てのベクトルを線形結合で表せる
  2. 全て線形独立

を満たすベクトルの組と定義しましたが,条件(2)は線形結合の一意性を用いて言い換えることもできます.

線形空間$V$に対して,$\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n\in V$が$\spn{(\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n)}=V$を満たすとき,次は同値である.

  1. $\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n$は線形独立である
  2. 任意の$\m{x}\in V$に対して,$\m{x}$を$\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n$の線形結合で表すときの係数は一意に定まる

[$(1)\Ra(2)$の証明](1)が成り立つとする.任意に$\m{x}\in V$をとる.

    \begin{align*}\m{x}&=k_1\m{v}_1+k_2\m{v}_2+\dots+k_n\m{v}_n \\&=\ell_1\m{v}_1+\ell_2\m{v}_2+\dots+\ell_n\m{v}_n\end{align*}

を満たすスカラー$k_i$, $k_i$をとる($i=1,2,\dots,n$).このとき,

    \begin{align*}\m{0}=(k_1-\ell_1)\m{v}_1+(k_2-\ell_2)\m{v}_2+\dots+(k_n-\ell_n)\m{v}_n\end{align*}

が成り立つから,$\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n$は線形独立性より$k_i-\ell_i=0\iff k_i=\ell_i=0$が成り立つ.

すなわち,$\m{x}$を$\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n$の線形結合で表すときの係数は一意に定まる.

[$(2)\Ra(1)$の証明](2)が成り立つとすると,零ベクトル$\m{0}$を$\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n$の線形結合で表すときの係数は一意に定まる.

よって,$\m{0}$は自明な線形結合$\m{0}=0\m{v}_1+0\m{v}_2+\dots+0\m{v}_n$でしか表せないから,$\m{v}_1,\m{v}_2,\dots,\m{v}_n$は線形独立である.

管理人

プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.公式LINEを友達登録で【限定プレゼント】配布中.

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