集合が「ひとつに繋がっている」「ひとまとまり」であることを表す概念として,弧状連結性と連結性があるのでした.
連結性と弧状連結性は似た概念ではありますが,違いが少しあり,弧状連結な集合は連結となりますが,この逆は成り立ちません.
つまり,連結であっても弧状連結でない集合が存在します.
この記事では
- 弧状連結性と連結性の定義
- 連結だが弧状連結でない集合の具体例
を順に解説します.
なお,この記事では以下$X$を位相空間とします.
位相空間をよく知らない方は$X$をユークリッド空間$\R$, $\R^2$(数直線,$xy$平面)と思って読み進めても内容は理解できます.
連結性と弧状連結性の定義
弧状連結性の定義
集合$A$が弧状連結であるとは,$A$上の任意の2点が曲線で結べることを言います.
集合$A\subset X$が弧状連結であるとは,任意の$a,b\in A$に対して,$a$, $b$を結ぶ$A$上の連続曲線が存在することをいう.
もし「離れ小島」があれば,異なる「島」に1点ずつとれば連続曲線で結べませんから,「ひとつに繋がっている」とは言えないというイメージですね.
連結性の定義
集合$A\subset X$が連結であるとは,次の条件を満たす空でない開集合$U_{1},U_{2}\subset X$が存在しないことをいう:
もし「離れ小島」があれば,異なる「島」は2つの開集合で分けられますから,集合$A$は「ひとまとまり」とは言えないというイメージですね.
このような2つの開集合$U_{1}$, $U_{2}$が存在しないとき,集合$A$は連結であるというわけですね.
連結だが弧状連結でない集合の具体例
弧状連結な集合は連結となるのでしたが,この逆は成り立ちません.
ここでは,連結な集合の閉包に関する定理を証明して,連結だが弧状連結でない集合の具体例を考えましょう.
連結な集合の閉包
連結な集合とその閉包で挟まれている集合も連結となります.つまり,次の定理が成り立ちます.
$A\subset X$は連結であるとする.このとき,$A\subset B\subset\overline{A}$なる任意の$B\subset X$も連結である.
集合$A$の閉包$\overline{A}$は$A$を含む閉集合全ての共通部分なので,$A$を含む最小の閉集合となります.
よって,この定理は「もともとの$A$が『ひとまとまり』なら,$A$を含む最小の閉集合も『ひとまとまり』になっている」ということを主張しているわけですね.
対偶を示す.$A\subset B\subset\overline{A}$なる連結でないある$B\subset X$が存在するとする.
このとき,連結性の定義より
なる空でない開集合$U_{1},U_{2}\subset X$が存在する.
$A\subset B$と$B\subset U_{1}\cup U_{2}$を併せると,$A\subset U_{1}\cup U_{2}$が成り立つ.
ここで,$A\cap U_1=\emptyset$($i=1,2$)であると仮定する.
このとき,$A\subset{U_1}^c$であり,開集合$U_1$の補集合${U_1}^c$は閉集合なので,$\overline{A}={U_1}^c$となる.
よって,仮定$B\subset\overline{A}$と併せて$B\cap U_1=\emptyset$となるが,これは$B\cap U_1\neq\emptyset$に矛盾する.
したがって,$A\cap U_1\neq\emptyset$が成り立つ.同様に$A\cap U_2\neq\emptyset$が成り立ち,$A$は連結でない.
連結⇒弧状連結の反例
それでは,連結だが弧状連結でない集合の具体例を与えましょう.
$\R^2$は2次元ユークリッド空間(通常の$xy$平面)とする.$A\subset\R^2$を
で定め,$B\subset\R^2$を
で定める.このとき,$A\cup B$は連結だが弧状連結ではないことを示せ.
点$(0,0)$が抜けていることから,$A\cup B$は弧状連結ではありません.
一方,$A$と$B_{n}$は$n$を大きくするとどこまでも近くなるため,$A\cup B$を2つの空でない開集合で分割することができませんから,$A\cup B$は連結ですね.
$a\in A$と$b\in B$を$A\cup B$上の連続曲線で結ぶことはできない.よって,弧状連結ではない.
また,$\overline{B}=A\cup B\cup\{(0,0)\}$だから,$B\subset A\cup B\subset \overline{B}$が成り立つ.
さらに,$B$は弧状連結だから連結なので,上の定理より$A\cup B$は連結である.
参考文献
集合・位相入門
[松坂和夫 著/岩波書店]
本書は「集合論」「位相空間論」をこれから学ぶ人のための入門書です.
本書は説明が丁寧で行間が少ないテキストなので,初学者にとっても読みやすくなっています.
実際,本書は1968年に発刊されて以来売れ続けている超ロングセラーで,2018年に新装版が発売されたことからも現在でも広く使われていることが分かります.
具体例が多く扱われているのも特徴で,新しい概念のイメージも掴みやすいように書かれています.
また,各セクションの終わりに少なくない数の演習問題も載っており,演習書的な使い方もできます.
なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.
【オススメの教科書|集合・位相入門(松坂和夫著,岩波書店)】
本書の目次・必要な知識・良い点と気になる点・オススメの使い方などをレビューしています.
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