位相空間$X$に対して,集合$A\subset X$が「ひとまとまりになっていること」を表す概念として
- 連結
- 弧状連結
があります.これらは大雑把には
- 連結は「集合$A$が2つの開集合によって分けられないこと」
- 弧状連結は「集合$A$内の任意の2点を$A$内の曲線で結べること」
として定義されます.
連結性も弧状連結性も「集合に離れた点がないこと」を表す概念ではありますが,実は「弧状連結$\Ra$連結」は成り立つものの逆は成り立ちません.つまり,連結性の方が少し広い性質となっています.
連結性については次の記事に回すとし,この記事では
- 弧状連結性の定義
- 弧状連結性な集合の具体例
を説明します.
「連結性」の一連の記事はこちら
【連結性1|集合が「弧状連結」であることの定義と具体例】←今の記事 【連結性2|集合が「連結」であることの定義と具体例】 【連結性3|連結であっても弧状連結でない集合の具体例】
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「【連結・弧状連結】「集合がひとまとまり」ってどう考える?」(10分50秒)
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弧状連結の定義
この記事では$X$を位相空間としますが,位相空間をよく知らない方は2次元ユークリッド空間$\R^2$($xy$平面)と思って読み進めても内容は理解できます.
弧状連結を定義するには連続曲線が必要なので,
- 連続曲線
- 弧状連結
を順に定義します.
連続曲線
直感的には連続曲線とは「ちぎれていない曲線」のことをいうのですが,数学的にきちんと定義するには次のようになります.
時刻0から時刻1まで集合$A$上を連続的に点が動く状況を考え,時刻$t$での$A$の位置を$f(t)$と表しましょう.
このとき,$f$に任意に$t\in[0,1]$を与えると$A$の元を返してくるので,$f$は連続写像$[0,1]\to A$となっていますね.
$[0,1]$は0以上1以下の実数の集合のことですね:$[0,1]=\set{x\in\R}{0\le x\le1}$.
逆に,先に連続写像$f:[0,1]\to A$を考えて$f(t)$を時刻$t$での点の位置と思えば,$f$は$A$上の曲線を描くと考えてよいですね.
このことから,次のように連続曲線を定義します.
集合$A\subset X$に対して,連続写像$f:[0,1]\to A$を$A$上の連続曲線という.
ただし,$[0,1]$は通常の距離(位相)をもつ$\R$の部分位相空間とする.
「曲線」というと幾何学的な「線」をイメージしますが,厳密には上の定義のように写像のことを「曲線」といいます.
弧状連結
[弧状連結] 集合$A\subset X$が弧状連結であるとは,任意の$a,b\in A$に対して,$a,b$を結ぶ$A$上の連続曲線が存在することをいう.
定義にある「$a,b$を結ぶ$A$上の連続曲線」とは「$f(a)=0$, $f(b)=1$を満たす$A$上の連続曲線」のことですね.
要は集合$A$に属する全ての2点を連続的な移動だけで行き来することができるときに,$A$を弧状連結というわけですね.
もし,下図のように「離れ小島」があれば,異なる「島」に1点ずつとれば連続曲線で結べませんから,弧状連結ではありませんね.
弧状連結な集合の具体例
例1で弧状連結な集合を,例2で弧状連結でない集合を扱います.
例1
$\R^2$は通常の位相が定められた位相空間とする.すなわち,2次元ユークリッド空間とする.$A\subset\R^2$を原点中心,半径1の円周とすると,$A$が弧状連結であることを示せ.
図から分かるように$A$上の任意の2点を結ぶ連続曲線は存在するので弧状連結です.
きちんと示すには,任意の$\m{a},\m{b}\in A$に対して,$f(0)=\m{a}$, $f(1)=\m{b}$を満たす連続曲線$f:[0,1]\to A$をとってくればいいですね.
任意に$\m{a},\m{b}\in A$をとる.
$\m{a}=\bmat{\cos{\theta}\\\sin{\theta}}$, $\m{b}=\bmat{\cos{\phi}\\\sin{\phi}}$ ($\theta,\phi\in[0,2\pi)$)と表せる.
写像$f:[0,1]\to \R^2$を
とすれば,$f$は連続で$f:[0,1]\to A$である.さらに$f(0)=\m{a}$, $f(1)=\m{b}$である.
よって,定義を満たすので$A$は弧状連結である.
例2
$\R^2$は通常の位相が定められた位相空間とする.すなわち,2次元ユークリッド空間とする.$A\subset\R^2$を
とすると,$A$が弧状連結でないことを示せ.
$A$は$x$軸から原点を除いた集合ですね.
このため,$A$は$x>0$の部分と$x<0$の部分が離れているので,弧状連結ではありませんね.
背理法により示す.すなわち,$A$が弧状連結であると仮定して矛盾を導く.
この仮定より$\m{a}=\bmat{1\\0},\m{b}=\bmat{-1\\0}\in A$に対して,$\m{a}$, $\m{b}$を結ぶ$A$上の連続曲線$f$が存在する.
このとき,$f$の第1成分は連続だから,中間値の定理よりある$t\in[0,1]$が存在して$f(t)=\bmat{0\\0}$となるが,$\bmat{0\\0}\notin A$だから$f$が$A$上の曲線であることに矛盾する.
よって仮定は誤りなので,$A$は弧状連結でない.
「連結性」の一連の記事はこちら
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参考文献
集合・位相入門
[松坂和夫 著/岩波書店]
本書は「集合論」「位相空間論」をこれから学ぶ人のための入門書です.
説明が丁寧で行間が少ないのは初学者にありがたいところですね.
実際,本書は1968年に発刊されて以来売れ続けている超ロングセラーで,2018年に新装版が発売されたことからも現在でも教科書として広く使われていることが分かります.
具体例が多く扱われているのも特徴で,新しい概念のイメージも掴みやすいように書かれています.
また,各セクションの終わりに少なくない数の演習問題も載っており,演習書的な使い方もできます.
なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.
本書の目次・必要な知識・良い点と気になる点などをレビューしています.
集合と位相
[鎌田正良 著/近代科学社(現代数学ゼミナール)]
本書はすっきりと書かれた「集合論」「位相空間論」の教科書です.
簡潔な説明が多いので,集合と位相の基本の全体像をさらうのに適しています.
裏返せば簡潔すぎてかえって分かりにくい可能性もありますが,数学をきちんと学びたい人には是非読みこなして欲しいテキストです.
また,演習問題の解説も丁寧に書かれているので,この点は独学で学ぶ場合には重宝します.
背景にある位相の圏論的な性質も踏まえて解説されており,数学系の学生は是非とも理解しておきたい考え方です.
コメント
連結は「集合Aが2つの開集合によって分けられること」
→連結は「集合Aが2つの開集合によって分けられないこと」
だと思います。
ご指摘ありがとうございます!
仰る通り誤植でしたので修正しました.