本記事では
「集合・位相入門」
(松坂和夫 著,岩波書店)
の紹介をする.
1968年の発刊以来,本書は
- 集合論
- 位相空間論
の入門書として,半世紀以上にわたり売れ続けている超ロングセラーの教科書で,今なお多くの大学の集合・位相の授業で教科書として使われている.
なお,2018年に新装版が発売されたことからも,いかに良い教科書であるかが分かるであろう.
目次
第1章:集合と写像
- 集合の概念
- 集合の間の演算
- 対応,写像
- 写像に関する諸概念
- 添数づけられた族,一般の直積
- 同値関係
第2章:集合の濃度
- 集合の対等と濃度
- 可算集合,非可算集合
- 濃度の演算
第3章:順序集合,Zornの補題
- 順序集合
- 整列集合とその比較定理
- Zornの補題,整列定理
- 順序数
- Zornの補題の応用
第4章:位相空間
- $\R^n$の距離と位相
- 位相空間
- 位相の比較,位相の生成
- 連続写像
- 部分空間,直積空間
第5章:連結性とコンパクト性
- 連結性
- コンパクト性
- 分離公理
第6章:距離空間
- 距離空間とその位相
- 距離空間の正規性
- 距離空間の一様位相的性質
- コンパクト距離空間,距離空間の完備化
- ノルム空間,Banach空間
- Urysohnの距離づけ定理
必要な知識
集合論は「数学の言語」のような分野のため,集合論,位相空間論の入門書である本書に必要な知識はほぼない.
ただし,本書では多くの例を扱っており,その中には代数学の知識や関数解析の知識があるとより理解が深まるものもある.
そのため,他の分野の知識を得てから本書を読み返すと新たな発見があろう.
良い点と悪い点
良い点
- 予備知識なく読むことができる.
- とくに集合論の基礎事項についてはかなり丁寧に説明されており,初学者にもイメージから理解しやすい.
- 簡単なものから他の分野と絡めたものまで,例の幅が広いのでイメージを捉えやすい.
- Zornの補題,整列定理,選択公理について,具体例を用いてかなり丁寧に説明がなされている.
- 位相空間論の基礎事項も,例を多く用いて丁寧に解説がなされている.
- 演習問題が豊富である.
不満な点
- 「位相空間」→「距離空間」の順に説明されるが,「距離空間」→「位相空間」の方が位相空間への導入としてわかりやすいのではないかと思う.
全体の感想
本書は集合論,位相空間論をこれから学ぶ人のための入門書である.
集合論は数学の基盤となる分野であり,集合論の概念なくして現代数学は語ることができないと言って良い.
そのため,集合論は大学で数学を専門的に学ぶ人は,とくにしっかり理解しておくことが必要である.
とはいえ,基礎的な分野が簡単であるとは限らず,集合論を使いこなすには一定以上の理解と練度を必要とする.
本書は具体例が多いので,集合論・位相空間論のイメージを理解するには非常に良い教科書と言える.
また,章末問題も豊富なので,自分の手を動かして実際に問題を解くことで,内容の理解を深めることができる.
とくに位相空間論は抽象的な分野のため,実際に様々な例を理解し,問題を解くことが重要である.
位相空間論が抽象的で難しいと感じるのであれば,位相空間は距離空間の一般化の1つなので,先に「距離空間」の章を読んでから「位相空間」の章に戻ってきても良いであろう.
その際,「距離空間」の章に位相空間の言葉が出てくるが,雰囲気を掴んで読み飛ばしても良いであろう.