ルベーグ積分3|可測集合の定義と具体例・ルベーグ測度の定義

ルベーグ積分の基本
ルベーグ積分の基本

前々回の記事では「集合の長さ」を外側から測る(ルベーグ)外測度$m^{*}$を定義し,前回の記事ではこの外測度$m^{*}$について本質的に重要な5つの性質

  • 非負値性
  • 平行移動不変性
  • 単調性
  • 劣加法性
  • 区間の外測度

を解説しました.

外測度$m^{*}$はほぼ「集合の長さを測る写像」と言えるものですが,実は少し「不都合」があり理論上このままではうまく話を進められません.

そこで我々は「$m^{*}$の定義域を少し狭めることで『不都合』を排除しよう」という方法を採用します.

こうして$m^{*}$の定義域を狭めて不都合を解消した写像$m$をルベーグ測度といい,このルベーグ測度$m$はルベーグ積分において本質的に重要なものとなります.

この記事では

  • ルベーグ外測度の不都合
  • ルベーグ可測集合の定義と具体例
  • ルベーグ測度の定義

を順に説明します.

なお,この一連の記事では外測度を$m^{*}$で表し,右半開区間$I=[a,b)$の長さを$|I|$で表し$b-a$としています.

ルベーグ積分の参考文献

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ルベーグ積分と関数解析

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ルベーグ外測度の不都合

前回の記事でも少し触れましたが,もし写像$m$が「$\R$の部分集合の『長さ』を測る」ものであれば「$A_1, A_2,\dots$が互いに素($i\neq j$なら$A_i\cap A_j=\emptyset$)なら

   \begin{align*}m\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}=\sum\limits_{n=1}^{\infty}m(A_n)\quad\dots(*)\end{align*}

が成り立つ」という性質を満たしていて欲しいと思うことは自然なことでしょう.つまり,$A_1,A_2,\dots$に「被り」がなければ

  • $A_1,A_2,\dots$を併せて測った左辺$m\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}$
  • $A_1,A_2,\dots$を別々に測って足し合わせた右辺$\sum\limits_{n=1}^{\infty}m(A_n)$

が等しいという性質は自然な性質に思えます.

さて,前回の記事で証明したようにルベーグ外測度

$m^{*}(A)=\inf\set{\dsum_{n=1}^{\infty}|I_n|}{\begin{gathered}A\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}I_n,\\\text{$I_n$は右半開区間}\end{gathered}}$

は次を満たすのでした.

[単調性] 集合$A,B\subset\R$に対して,$A\subset B$なら$m^{*}(A)\le m^{*}(B)$が成り立つ.

[劣加法性] 集合$A_1, A_2,\dots\subset\R$に対して,$m^{*}\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}\le\sum\limits_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)$が成り立つ.

ルベーグ積分2|外測度の本質的に重要な5つの性質
ルベーグ外測度の「非負値性」「単調性」「劣加法性」「平行移動不変性」「区間の外測度」は本質的に重要な性質であり,ルベーグ測度の定義の土台となります.この記事では,これらの性質が重要な理由と,それぞれの性質の説明と証明をしています.

しかし,残念ながら外測度$m^{*}$は上で望んだ性質$(*)$を満たしていません.

つまり,$A_1, A_2,\dots$が互いに素でも,$(*)$で$m$を$m^{*}$に取り替えた等式を満たすとは限りません.

実はルベーグ積分(測度論)においてはこの性質$(*)$が本質的に重要な性質なため,外測度$m^{*}$が性質$(*)$を満たしていないことは話を進めるにあたって致命的となります.これが冒頭でも説明した$m^{*}$の不都合です.

ルベーグ可測集合

そこで,外測度$m^{*}$の定義域である$\R$の冪集合$\mathcal{P}(\R)$を少し狭めることで,上の性質$(*)$を獲得させたいと考えます.

$\R$の冪集合$\mathcal{P}(\R)$とは,$\R$の部分集合全部の集合のことでした.

ルベーグ可測集合の定義

そのために,ここでルベーグ可測集合を定義します.

集合$A\subset\R$がルベーグ可測集合 (Lebesgue measurable set)または単に可測集合であるとは,任意の$X\subset\R$に対して

   \begin{align*}m^{*}(X)=m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c)\quad\dots(\star\star)\end{align*}

を満たすことをいう.ここに,$A^c$は$\R$における$A$の補集合である.

この「任意の$X\subset\R$に対して条件$(\star\star)$を満たす」という$A\subset\R$の条件をカラテオドリ (Carathéodory)の条件という.

この定義から分かるように,$A\subset\R$に対して

  • $A$がルベーグ可測集合
  • $A$がカラテオドリの条件を満たす

は同値ですね.

集合としては

   \begin{align*}X=(X\cap A)\cup(X\cap A^c)\end{align*}

が成り立ちます(右辺は直和).よって,どんな$A$, $X$に対しても

   \begin{align*}m^{*}(X)=m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c)\end{align*}

が成り立ちそう(つまり,どんな$A$もカラテオドリの条件を満たしそう)に思えるかもしれません.

しかし,実はヘンテコな集合$A$に対しては$(\star\star)$を満たさない$X$が存在することがあります.つまり,非可測集合が存在します.

詳しくは後述しますが,実は$m^{*}$の定義域をルベーグ可測集合全体に制限してできる写像は先ほどの性質$(*)$を満たすことが証明でき,こうしてできる写像をルベーグ測度と定義します.

のちの記事で証明することですが,開集合や閉集合は可測集合であり,可測集合の和集合や共通部分も可測集合となります.このことから,非可測集合はそれなりに変なことをしないと簡単には作れそうにないことが分かりますね.

ルベーグ可測集合であるための必要十分条件

ルベーグ測度の前にもう少しルベーグ可測集合について考えましょう.

外測度$m^{*}$は劣加法性「集合$A_1, A_2,\dots\subset\R$に対して$m^{*}\bra{\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n}\le\sum_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)$」で$A_1=X\cap A$, $A_2=X\cap A^c$, $A_3=A_4=\dots=\emptyset$とおくと,

   \begin{align*}m^{*}(X)\le m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c)\end{align*}

が成り立つことが分かります.

そのため,実はルベーグ可測集合であるためには$\ge$の向きの不等式を示せば十分であることが分かりますね.

さらに,$m^{*}(X)=\infty$なら$\ge$は常に成り立ちますから,次が成り立ちますね.

集合$A\subset\R$に対して,次は同値である.

  • $A$はルベーグ可測集合である.
  • $m^{*}(X)<\infty$なる任意の$X\subset\R$に対して$m^{*}(X)\ge m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c)$が成り立つ.

ルベーグ可測集合の具体例

それではルベーグ可測集合の具体例をいくつか見てみましょう.

具体例1

$\R$がルベーグ可測集合であることを示せ.

上の命題より$m^{*}(X)\ge m^{*}(X\cap \R)+m^{*}(X\cap \R^c)$を示せば十分ですが,簡単に等号$=$を直接示せるので等号$=$まで示しましょう.


任意の集合$X\subset\R$に対して

   \begin{align*}m^{*}(X)=m^{*}(X\cap \R)+m^{*}(X\cap \R^c)\end{align*}

が成り立つことを示せばよい.

$X\subset\R$より$X\cap\R=X$, $X\cap \R^c=X\cap\emptyset=\emptyset$であり,外測度の性質$m^{*}(\emptyset)=0$を併せると

   \begin{align*}m^{*}(X\cap \R)+m^{*}(X\cap \R^c)=m^{*}(X)+m^{*}(\emptyset)=m^{*}(X)\end{align*}

が成り立つので,$\R$はルベーグ可測集合である.

具体例2

$A\subset\R$が$m^{*}(A)=0$を満たすとき,$A$がルベーグ可測集合であることを示せ.


任意の集合$X\subset\R$に対して

   \begin{align*}m^{*}(X)\ge m^{*}(X\cap A)+m^{*}(X\cap A^c)\quad\dots(*)\end{align*}

が成り立つことを示せばよい.

$X\cap A\subset A$, $X\cap A^c\subset X$だから,ルベーグ外測度の単調性より

   \begin{align*}&m^{*}(X\cap A)\le m^{*}(A)=0, \\&m^{*}(X\cap A^c)\le m^{*}(X)\end{align*}

が成り立つ.よって,辺々足し合わせて$(*)$が成り立つから$A$はルベーグ可測集合である.

$A\subset\R$が$m^{*}(A)=0$を満たすとき,$A$はルベーグ零集合であるといいます.よって,いまの例は次のようにいうことができますね.

ルベーグ零集合はルベーグ可測集合である.

ルベーグ測度

それではルベーグ測度を定義しましょう.

ルベーグ可測集合全部の集合を$\mathcal{L}$とする.このとき,外測度$m^{*}$の定義域を$\mathcal{L}$に制限してできる写像$m=m^{*}|_{\mathcal{L}}$をルベーグ測度 (Lebesgue measure)という.

また,$A\in\mathcal{L}$に対して$m(A)$を$A$の測度 (measure)という.

$X\subset Y$を満たす集合$X$, $Y$に対して,$Y$を定義域とする写像$f$を考えたとき,$f$の定義域を$X$に制限してできる写像を$f|_{X}$と表しますね.定義域が異なる写像は異なる写像とみなすので,$f$と$f|_{X}$は異なる写像です.

よって,ルベーグ外測度$m^{*}$とルベーグ測度$m$は異なる写像です.

このルベーグ測度$m$は性質$(*)$を満たすことが証明できます.

Lebesgue測度$m$と$A_1, A_2,\dots\in\mathcal{L}$を考える.このとき,$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n\in\mathcal{L}$であり,$A_1, A_2,\dots$のどの2つの共通部分も空集合なら

   \begin{align*}m\bra{\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n}=\sum\limits_{n=1}^{\infty}m(A_n)\quad\dots(*)\end{align*}

が成り立つ.

この$m$の性質$(*)$を完全加法性$\sigma$-加法性などといい,上でも説明したようにこの完全加法性はルベーグ積分(測度論)の基礎となる重要な性質で,完全加法性があることによって様々な性質を証明することができます.

ただし,この完全加法性の証明のためにはルベーグ可測集合の性質について理解しておくことが重要です.

そこで,次の記事ではルベーグ可測集合の基本的な性質を説明します.

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