複素解析8
[留数定理]を使って広義積分を計算する方法

前回の記事ではLaurent(ローラン)展開について説明しました.

複素関数$f$が1点$\alpha$中心,半径$R$の円内部から中心$\alpha$を除いた領域$\set{z\in\C}{0<|z-\alpha|<R}$で正則なら,この領域上で

\begin{align*} f(z)=\dots+\frac{c_{-2}}{(z-\alpha)^2}+\frac{c_{-1}}{z-\alpha}+c_0+c_1(z-\alpha)+c_2(z-\alpha)^2+\dots \end{align*}

と級数で表すことができ,この右辺を$f$の$\alpha$でのLaurent展開というのでした.

このときの係数$c_{-1}$は$f$の$\alpha$での留数と呼ばれ,$\operatorname{Res}{(f,\alpha)}$と表すのでした.この留数$\operatorname{Res}{(f,\alpha)}$については

\begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz=2\pi i\operatorname{Res}{(f,\alpha)} \end{align*}

が成り立つことから,留数は複素積分に密接に関係するものになっています.

さて,講義積分を留数定理という複素解析の重要定理を用いて求めることができる場合があります.

そこで,この記事では留数定理を紹介し,具体的に次の問題を解きます.

次の広義積分を計算せよ.

\begin{align*} \int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx. \end{align*}

解説動画

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【複素解析⑧留数定理】実数の広義積分への応用を具体例を使って解説!

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留数定理

まずは留数定理を説明しますが,そのためには前回の記事で詳しく説明したLaurent展開について復習しておきましょう.

ローラン展開

Laurent展開可能であることを保証する次の定理がベースとなります.

[ローラン展開可能性と一意性] 領域$D$から$\alpha\in D$を除いた領域$D’$上の正則関数$f$を考え,周および内部が$D$に含まれる$\alpha$中心の円周$C$をとる.このとき,$f$は$C$の内部から$\alpha$を除いた領域で

\begin{align*} f(z)=&\dots+\frac{c_{-2}}{(z-\alpha)^{2}}+\frac{c_{-1}}{z-\alpha}+c_{0}+c_{1}(z-\alpha)+c_{2}(z-\alpha)^{2}+\dots \end{align*}

と表せる.すなわち,$\alpha$中心でLaurent展開可能である.また,係数$c_{k}$は

\begin{align*} c_{k}=\frac{1}{2\pi i}\int_{C}\frac{f(z)}{(z-\alpha)^{k+1}}\,dz \end{align*}

と一意に表される.

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係数$c_{k}$について,$k=-1$のときに注目すると

\begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz=2\pi ic_{-1} \end{align*}

が成り立つので,$c_{-1}$は複素積分に密接に関わるものとして次のように定義されます.

[留数] 上のローラン展開の$c_{-1}$を$f$の$\alpha$における留数(residue)といい,$\mrm{Res}(f,\alpha)$や$\mrm{Res}_{\alpha}f$などと表す.

以上について詳しくは前回の記事を参照してください.

留数定理

留数定理は

  • 以上の留数と複素積分の関係
  • Cauchyの積分定理を用いた積分経路の変形

の2つが理解できていれば簡単に導くことができます.

[留数定理] 領域$D$内に有限個の点$\alpha_{1},\dots,\alpha_{n}$があり,$D$内の閉曲線$C$がこれらの点を内部に含むとする.このとき,領域$D\setminus\{\alpha_{1},\dots,\alpha_{n}\}$上の正則関数$f$に対して

\begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz =2\pi i\mrm{Res}(f,\alpha_{1})+\dots+2\pi i\mrm{Res}(f,\alpha_{n}) \end{align*}

が成り立つ.ただし,$C$の向きは正方向とし,$\mrm{Res}(f,\alpha_{k})$は$f$の点$\alpha_{k}$での留数を表す($k=1,\dots,n$).

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周も内部も$D$内に含まれる$\alpha_k$中心の円周$C_k$ ($k=1,\dots,n$)を,$C_1,\dots,C_n$が互いに外部にあるようにとる.

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閉積分経路$C$を領域$D\setminus\{\alpha_{1},\dots,\alpha_{n}\}$内で連続的に変形して$C_1\cup\dots\cup C_n$に連続的に変形できるから,Cauchyの積分定理より

\begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz =&\int_{C_1}f(z)\,dz+\dots+\int_{C_n}f(z)\,dz \\=&2\pi i\mrm{Res}(f,\alpha_{1})+\dots+2\pi i\mrm{Res}(f,\alpha_{n}) \end{align*}

である.$\dint_{C_k}f(z)\,dz=2\pi i\operatorname{Res}{(f,\alpha_k)}$ ($k=1,2,\dots,n$)だから留数定理を得る.

証明の途中で用いた「被積分関数が正則な領域で閉積分経路を連続的に変形しても複素積分が半径しない」ことはCauchyの積分定理から導けます.

詳しくは以下の記事で説明しています.

留数定理の広義積分への応用

それでは冒頭に書いた次の問題を解きましょう.

次の広義積分を計算せよ.

\begin{align*} \int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx. \end{align*}

解答の方針

最初に,問題の広義積分は

\begin{align*} \int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx =\lim_{R\to\infty}\int_{-R}^{R}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx \end{align*}

であることを思い出しておきましょう.

ポイント1

極限$R\to\infty$をとる前の定積分$\dint_{-R}^{R}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx$は,実軸上の閉区間$[-R,R]$と$f(z)=\dfrac{1}{(z^{2}+1)^{6}}$で定まる複素関数$f$を用いれば,

\begin{align*} \int_{-R}^{R}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx=\int_{L_R}f(z)\,dx \end{align*}

と複素積分で表せますね.ただし,$L_R$の向きは実軸上の負から正に向かう方向としています.

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ポイント2

原点中心の虚部が0以上の半円$C_{R}$を考え,$C_R$と$L_R$を併せた閉曲線を$C$とします.ただし,$C_R$の向きは$L_R$に自然に繋がる方向とします.

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このとき,$z\in C_R$の絶対値は$R$なので,$C_R$上で

\begin{align*} |f(z)|=\abs{\frac{1}{(z^{2}+1)^{6}}}\approx\frac{1}{(R^2+1)^6} \end{align*}

と考えられます.よって,$f$を$C_R$上で積分しても$C_R$の長さ$\pi R$をかけた$\dfrac{\pi R}{(R^2+1)^6}$程度なので,$R\to\infty$で0に近付くことがみてとれます.

ポイント3

$R>1$なら閉曲線$C$は$f$が正則な領域に含まれ,閉曲線$C$の内部では$i$のみで$f$が微分不可能なので,留数定理より

\begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz=2\pi i\operatorname{Res}{(f,i)} \end{align*}

が$R$によらず成り立ちます.また

\begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz=\int_{C_R}f(z)\,dz+\int_{L_R}f(z)\,dz \end{align*}

なので両辺で極限$R\to\infty$をとれば,ポイント1とポイント2を併せて

\begin{align*} 2\pi i\operatorname{Res}{(f,i)}=0+\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx \end{align*}

となって,問題の広義積分が得られることになります.

解答例

今考えた方針をもとに解答を書いていきましょう.


複素関数$f$と複素平面上の曲線$L_{R}$, $C_R$と閉曲線$C$を次で定めます:

\begin{align*} &f(z)=\dfrac{1}{(z^{2}+1)^{6}}, \\&L_R:=\set{z\in\R}{z=x,x\in[-R,R]}, \\&C_R:=\set{z\in\R}{z=R(\cos{t}+i\sin{t}),t\in[0,\pi]} \\&C:=L_R\cup C_R \end{align*}

ただし,$R>1$とします.このとき,

\begin{align*} \int_{-R}^{R}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx =&\int_{L_{R}}f(z)\,dz \\=&\int_{C}f(z)\,dz-\int_{C_{R}}f(z)\,dz \end{align*}

となりますね.

[1] $\lim\limits_{R\to\infty}\dint_{C_R}f(z)\,dz=0$を示す.

$z\in C_{R}$に対して$\dfrac{dz}{dt}=R(-\sin{t}+i\cos{t})$だから,

\begin{align*} \abs{\int_{C_{R}}f(z)\,dz} =&\abs{\int_{0}^{\pi}\frac{R(-\sin{t}+i\cos{t})}{(R^{2}(\cos{2t}+i\sin{2t})+1)^{6}}\,dt} \\\le&\int_{0}^{\pi}\frac{|R(-\sin{t}+i\cos{t})|}{|R^{2}(\cos{2t}+i\sin{2t})+1|^{6}}\,dt \\\le&\int_{0}^{\pi}\frac{R}{(|R^{2}(\cos{2t}+i\sin{2t})|-1)^{6}}\,dt \\=&\int_{0}^{\pi}\frac{R}{(R^{2}-1)^{6}}\,dt =\frac{\pi R}{(R^{2}-1)^{6}} \end{align*}

となり,$\lim\limits_{R\to\infty}\abs{\dint_{C_{R}}f(z)\,dz}=0$と計算できるので,$\lim\limits_{R\to\infty}\dint_{C_{R}}f(z)\,dz=0$が得られます.

ただし,下から2行目の不等式では三角不等式

\begin{align*} |R^{2}(\cos{2t}+i\sin{2t})+1|\ge|R^{2}(\cos{2t}+i\sin{2t})|-1 \end{align*}

を用いました.

[2] $\dint_{C}f(z)\,dz$を求める.

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$f$は領域$\C\setminus\{\pm i\}$で正則で$R>1$だから,留数定理より

\begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz=2\pi i\operatorname{Res}(f,i) \end{align*}

となります.ここで,複素関数$g$を

\begin{align*} g(z):=(z-i)^6f(z)=\frac{1}{(z+i)^{6}} \end{align*}

で定めます.$g$は$i$の近傍で正則だから$i$中心でTaylor展開が可能なので

\begin{align*} &g(z)=c_{0}+c_{1}(z-i)+c_{2}(z-i)^{2}+\dots \\\iff&f(z)=\frac{a_{0}}{(z-i)^{6}}+\dots+\frac{a_{5}}{z-i}+a_{6}+a_{7}(z-i)+\dots \end{align*}

の形に$f$の$i$中心のLaurent展開ができることが分かり,このとき$\operatorname{Res}{(f,i)}=a_{5}$となりますね.このLaurent展開から

\begin{align*} \frac{d^{5}g}{dz^{5}}(i)=5!a_{5} \end{align*}

であり,$g(z)=\dfrac{1}{(z+i)^{6}}$から

\begin{align*} \frac{d^{5}g}{dz^{5}}(z) =\frac{(-6)(-7)\dots(-10)}{(z+i)^{11}} =-\frac{10!}{5!(z+i)^{11}} \end{align*}

だから,

\begin{align*} \operatorname{Res}{(f,i)} =a_{5} =\frac{1}{5!}\cdot\frac{d^{5}g}{dz^{5}}(i) =-\frac{10!}{(5!)^{2}(i+i)^{11}} =\frac{10!}{(5!)^{2}2^{11}i} \end{align*}

となって,$\dint_{C}f(z)\,dz=\frac{10!}{(5!)^{2}2^{10}}\pi$が得られます.

以上より,目的の広義積分は

\begin{align*} \int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{(x^{2}+1)^{6}}\,dx =\frac{10!}{(5!)^{2}2^{10}}\pi \end{align*}

と計算できました.

この解答を読めば

  • $\dint_{-R}^{R}\frac{1}{(x^2+1)^6}\,dx$が$\dint_{C}f(z)\,dz$と$\dint_{C_R}f(z)\,dz$を用いて書ける
  • $R>1$なら常に$\dint_{C}f(z)\,dz$は一定
  • $\dint_{C_R}f(z)\,dz$は求められなくても,$R\to\infty$の極限は分かる

という3つのおかげで計算できていることが分かりますね.

参考文献

[新装版]複素関数論の要諦

[堀川穎二 著/日本評論社]

本書は著者が実際に大学の授業で行った授業をもとに書かれており,説明も丁寧で分かりやすいです.

まえがきに「大学1年生の微分・積分の概要を理解している人を想定している」と書いてあるように,初めて複素解析を学ぶ人が基礎を理解するにはちょうど良いレベル感で書かれています.

式変形も丁寧になされており行間が少ないので,これは初学者にとって嬉しいポイントですね.

内容も留数定理,偏角の原理までフォローされているので,ひとまず複素解析が実数の定積分への応用まで学ぶことができます.

また,巻末に実際に授業を行った際のアンケートなどが載っており,学生から見て本書の内容(の授業)がどのようであったかを感じられるのは本書の面白いところです.