数理工学社から発刊されている「詳解と演習 大学院入試問題 <数学> 大学数学の理解を深めよう」(海老原円・太田雅人 著)は,数学系の大学院入試のための問題集です.
各分野の最初に基本的な定理などが解説されており,基本事項の確認をしつつ問題に取り組むことができます.
基本問題と頻出問題を中心に構成されており,大学院入試のための基礎固めとして使いやすいテキストです.
解答例の行間が少なく,考え方のポイントなども解説されているため,基本の復習としても取り組みやすい問題集となっています.
このため,大学院入試のためだけではなく,大学で学ぶ数学全体の概観を復習するためにも利用することができます.
といっても,基本的な簡単な問題ばかりでなく,東京大学や京都大学といった国公立大の問題も数多く掲載されているため,様々なレベルの大学院入試に対応することができます.
実は学部時代の私が実際に大学院入試対策の勉強中に重宝した問題集のひとつです.
目次
以下は本書の目次です.
第1章:数え上げと整数
- 集合と写像
- 順列・組合せ
- 整数の基本的な性質
- 合同式
- 例題PART 1.1 知識と思考力の関係について
- 演習問題
第2章:線形代数
- ベクトルと行列
- 行列の基本変形と階数
- 連立1次方程式
- ベクトルの内積
- 行列式
- 平面ベクトルと空間ベクトル
- 線形空間と線形写像
- 計量線形空間
- 対角化
- 対角化—計量線形空間上で
- 2次形式
- ジョルダン標準形
- 例題PART 2.1 行列の対角化
- 例題PART 2.2 行列の基本変形をめぐって
- 例題PART 2.3 ベクトルの内積と行列
- 例題PART 2.4 線形独立性・基底・次元—あるいは解法の探求
- 例題PART 2.5 2次形式とジョルダン標準形
- 演習問題
第3章:微積分
- 1変数関数の微積分
- 多変数関数の微積分
- 一様連続と一様収束
- 級数
- 極限の順序交換
- 例題PART 3.1 ガウス積分と微分・積分の順序交換
- 例題PART 3.2 累次積分の順序変更
- 例題PART 3.2 極値問題,一様収束と一様連続
- 演習問題
第4章:微分方程式
- 常微分方程式
- 偏微分方程式
- 例題PART 4.1 常微分方程式
- 例題PART 4.2 偏微分方程式
- 演習問題
第5章:複素解析
- 正則関数
- 複素積分
- 関数の展開
- 孤立特異点と留数
- 例題PART 5.1 複素積分と定積分の計算
- 例題PART 5.2 様々な特殊関数
- 演習問題
第6章:ベクトル解析
- 基本的な微分演算
- 線積分と面積分
- 積分定理
- 例題PART 6.1 空間の微積分
- 演習問題
第7章:ラプラス変換
- 定義と基本的な性質
- 定数係数線形常微分方程式への応用
- 例題PART 7.1 常微分方程式・差分方程式への応用
- 演習問題
第8章:フーリエ変換
- フーリエ級数
- フーリエ変換
- 例題PART 8.1 フーリエ級数とフーリエ変換
- 演習問題
第9章:確率
- 事象と確率
- 確率変数と確率分布
- 多次元の確率変数と確率分布
- 確率変数の期待値と分散
- 例題PART 9.1 不確実な現象をとらえる
- 演習問題
第10章:問題演習解答
- 第1章の解答
- 第2章の解答
- 第3章の解答
- 第4章の解答
- 第5章の解答
- 第6章の解答
- 第7章の解答
- 第8章の解答
- 第9章の解答
良い点と気を付けたい点
本書の良い点と気を付けたい点を挙げます.
良い点
- 全体を通して解答・解説が非常に丁寧で理解しやすい.
- 標準的な難易度の問題が揃っている.
- ところどころに「どのような勉強をするべきか」といった学習上のアドバイスがある.
- 理工系の大学院入試で出題される基本的な分野がほとんど網羅されている.
気を付けたい点
- 問題数が少ないわけではないが,十分な量の問題数とも言えない.
- 基礎分野の対策用の問題集であり,専門分野の対策ではない.
全体の感想と使い方
本書のまえがきに「重要かつ標準的な問題をピックアップした.特に,いわゆる頻出問題については,優先的に紙数を割いて解説している.」と書かれているように,広く基本的な問題が扱われているのが特徴です.
重要な定理については紙面を割いて丁寧に説明がなされているので復習用の問題集としても利用できます.
例題の解答は非常に詳しく書かれており,行間が少ない点は学習者にはとてもありがたいですね.
さらに間違いやすいポイントや解法のコツなども書かれており,この点も学習者にとってありがたいポイントと言えます.
また,基本的な問題だけに留まらず東京大学,京都大学といった旧帝大クラスの大学院入試問題も載っており,手応えのある問題も少なくありません.
私は大学院入試にそこそこの自信があったものの,本書で得た新しい知見も多くありました.そのため,大学院入試を受けるかどうかに関わらず,数学系の学生は持っておいて損はないでしょう.
本書は丁寧な解説が特徴なため,それほど多くの問題が扱われていません.
そこで,実際に問題を解くための技術的な側面を鍛える問題集として,私は次の問題集も併せて使いました.
問題を数多く解いて腕力を鍛えたいときにオススメです.
コメント