本記事では,
「代数学1 群論入門」
(雪江明彦著,日本評論社)
の紹介をする.
本書は群論の入門書であり,続巻として
- 「代数学2 環と体とガロア理論」
- 「代数学3 代数学の広がり」
がある.
具体例が豊富な上に,それぞれが非常に丁寧に解説されており,非常に理解しやすい.
群論の導入書として,強くオススメできる好著である.
目次
第1章:集合論
- 集合と論理の復習
- well-definedと自然な対象
- 選択公理とツォルンの補題
- 集合の濃度
第2章:群の基本
- 群の定義
- 環・体の定義
- 部分群と生成元
- 元の位数
- 準同型と同型
- 同値関係と剰余類
- 両側剰余類
- 正規部分群と剰余群
- 群の直積
- 準同型定理
第3章:群を学ぶ理由
- 3次方程式と4次方程式の解法
- なぜ群を学ぶか
- 群のどのような性質を調べるか
第4章:群の作用とシローの定理
- 群の作用
- 対称群の共役類
- 交換子群と可解群
- $p$群
- シローの定理
- 生成元と関係式
- 位数12の群の分類
- 有限アーベル群
- 交代群
- 正多面体群
必要な知識
集合論
写像の知識は欲しいところだが,第1章で集合論がまとめてあるので,分からなくなったら第1章を読み返せば良い.
ただし,選択公理,ツォルンの補題に関しては,(この本ではほとんど用いないが,理解したいならば)集合論の教科書でしっかり学ぶのが方が良いであろう.
なお,集合論については,例えば以下の教科書も好著として有名である.
集合論の基礎事項についてはかなり丁寧に説明されており,初学者にも理解しやすいように書かれている.また,例も豊富なので,イメージが捉えやすいのも素晴らしい教科書である.
線形代数学
非可換な演算の例として行列がよく例に用いられるので,行列の計算,行列式などには慣れておくことが望まれる.
また,線形代数で行列式を定義する程度で深く考察しなかった置換が,重要な群(対称群や交代群)に登場するので置換もしっかり復習しておきたい.
良い点と悪い点
良い点
- 説明が非常に丁寧で,例が豊富.
- 第1章「集合論」でwell-defined性について詳しく説明している.ここまでwell-defined性を詳しく説明している本は多くないであろう.
- 演習問題が非常に多い.
- 群を学ぶ理由について一つの章を充てている.群論がどのように応用されるかを知ることは,群を学ぶ興味をもつという面でも重要であろう.
不満な点
- 可解群の応用が分かりにくい(が,これについては2巻4章10節の「方程式の可解性」の中で詳しく説明される).
全体の感想
代数は抽象的な部分が多く,定義を読んで即座に理解することは難しい.
しかし,代数は一度分かってしまえば,当たり前に思える事項も多い.代数学の初歩は特にその傾向が顕著である.
そのためか,多くの代数の本は基本的な部分を深く説明することなく,説明を進めてしまっているように私は感じる.
これでは初学者が代数を独学で学ぶにはハードルが高くなってしまう.つまり,多くの代数の本は初学者向けではなく,一度何らかの形で代数を学んだ人向けの本であることが多いように私は感じる.
その点で,本書は基本的な部分から説明が非常に丁寧で行間も少ないのは,初学者にとっても非常に読みやすくなっている.
抽象と具体は表裏一体であり,抽象論を深く理解するために具体例を深く理解することは非常に重要であろう.
書は具体例が非常に豊富なので,代数の抽象的な概念を具体的に理解することができる.
また,章末問題が非常に豊富なのも,本書を推す大きな理由の1つである.例題として扱った問題が自分の手で解けるかの確認として,有効に活用できる.
その意味で,例が豊富なこの「群論入門」は,独学で代数を学ぶ人にも強く勧めることができる.