本記事では,
「演習 大学院入試問題[数学]I」
「演習 大学院入試問題[数学]II」
(姫野俊一,陳啓浩 共著,サイエンス社)
の紹介をする.
本書は数学系の大学院入試のための問題集であり,第I巻,第II巻の2巻構成である.
各分野の最初には基本事項が簡単にまとめられており,知識の抜けがないかの簡単なチェックとしても利用できる.
問題数が多く,基本問題が多く扱われているので,大学院入試の基礎固めとして最適と言える.
また,計算が必要となる問題もあるので,基礎的な計算練習としても利用できる.
目次
第I巻で
- 線形代数
- 微分・積分学
- 微分方程式
第II巻で
- ラプラス変換,フーリエ解析,特殊関数,変分法
- 複素関数論
- 確率・統計
が扱われている.
第I巻
第1編:線形代数
- 代数学
- ベクトル
- 行列
- 行列式
- 行列の階数と連立1次方程式
- 線形空間
- 固有値と固有ベクトル
- 行列の対角化
- ヤコビ法による固有値と固有ベクトルの解法
- ジョルダンの標準形
- 2次形式とエルミート形式
- 行列の解析的取扱い
- 幾何学
- ベクトル
- 内積と外積
- 直線の方程式
- 平面の方程式
- 2次曲線と2次曲面
第2編:微分・積分学
- 微分
- 関数の極限と連続性
- 微分法
- 導関数とその応用
- 積分
- 不定積分
- 定積分
- 数列と級数
- 数列
- 級数
- 偏微分
- 多変数の関数の極限
- 偏微分法
- 偏導関数とその応用
- 重積分
- 2重積分
第3編:微分方程式
- 常微分方程式
- 1階常微分方程式
- 高階微分方程式(階数を下げ得る場合)
- 高階線形微分方程式
- 2階線形微分方程式
- 定数係数高階線形微分方程式
- ルンゲ・クッタ法による常微分方程式の解法
- 偏微分方程式
- 1階偏微分方程式
- 2階偏微分方程式
- 偏微分方程式の差分解法
第II巻
第4編:ラプラス変換,フーリエ解析,特殊関数,変分法
- ラプラス変換
- ラプラス変換の定理
- 諸公式
- ラプラス変換の例
- 部分分数分解とヘビサイドの展開定理
- ラプラス変換による定数係数微分方程式の解法
- フーリエ解析
- 直交関数
- フーリエ級数
- フーリエ積分
- 偏微分方程式の解法
- 積分方程式の解法
- 特殊関数
- べき級数による常微分方程式の解法
- ガウス,クンメルの微分方程式と超幾何関数,合流型超幾何関数
- ルジャンドルの微分方程式と球関数
- ベッセルの微分方程式と円柱関数
- エルミートの微分方程式とエルミートの多項式
- ラゲールの微分方程式とラゲールの多項式
- 楕円積分と楕円関数
- ガンマ関数,ベータ関数
- 変分法
- オイラーの方程式
- 直接法
第5編:複素関数論
- 複素数
- 複素数
- 正則関数
- 微分の定義
- 微分公式
- 初等関数
- 複素数列
- 複素級数
- べき級数と無限乗積
- 複素積分
- 複素積分の性質
- コーシーの積分定理
- 不定積分
- コーシーの積分表示(公式)
- その他の定理
- 関数の級数展開
- テイラー展開
- ローラン展開
- 極,零点
- 有理型関数
- 留数
- 留数の定義
- 留数定理
- 無限遠点における留数
- 定積分への応用
- 有理型関数の場合
- 三角関数(複素指数)を含む場合
- 等角写像
- 写像と等角写像
第6編:確率・統計
- 順列・組合せ
- 順列
- 組合せ
- 2項定理と多項定理
- 確率
- 事象
- 確率の基本定理
- 条件付き確率と独立性
- 確率変数
- 平均,分散,標準偏差,積率
- 主要な確率分布
- その他の定理
- 統計
- 資料の整理
- 標本分布
- 確率過程
良い点と悪い点
良い点
- 問題が非常に豊富である.
- 例題の前に基本事項が簡単にまとめられているので,知識の抜けがないか確認ができる.
- 基本問題が例題としてたくさん解説されているので,不安な分野の基礎を確認できる.
- 問題演習のパートでは,実際の大学院で出題された入試問題も出題されている.
- 計算力の必要な問題も少なくないので,数学的なテクニックを鍛える練習としても使える.
- 数学系の学科ではあまり扱われない特殊関数についての問題がある.
- 計算の行間が少ない.
不満な点
- 考え方の解説が少ないので,問題背景などは自分で掴む(か,他の書籍を参考にする)ことになる.
- 行間を少なく丁寧に書こうとするあまりか,冗長な解答になっている部分が散見される.
- 数学の専門的な内容はあまり載っていない(が,これは専門書などで補うべきであろう.)
全体の感想
私が大学院入試を受けるにあたって,計算力が足りないことはひとつの課題であった.
解析系に進む私にとってそれはかなり致命的で,この弱点を補うことができたのは本書のおかげでもある.
本書は大学院入試の基礎科目の範囲をほぼ網羅していると言っても良く,広く多くの問題が扱われているのが特徴である.
そのため,基本的な問題で基本的な技術を身に付けることができる.
例題は基本的であるが,例題の後に待ち構える問題は東京大学大学院,京都大学大学院を始め,旧帝大クラスの大学院入試の過去問が掲載されている.
また,例題の解答は丁寧に書かれているのは,学習者にとってありがたい点であろう.
一方で,数学的な考え方や,問題背景などはあまり解説されていないので,これについては他のテキストで補う必要がある.
なお,本書が技術的な側面を鍛える問題集とすれば,以下は数学的な考え方を深める問題集である.
私は以下の問題集も併用して大学院入試対策を行った.
数学系の大学院入試の問題集である.受験生が間違いやすいポイントや解法のコツなども書かれているので,数学的な考え方を身に付けることができる好著である.