
本記事では,
「線型代数入門」 (齋藤正彦 著/東京大学出版会)
の紹介をする.
線型代数の入門書.
本書に対応した演習書「線型代数演習」(齋藤正彦 著,東京大学出版会)も出版されている.
線形代数の教科書として半世紀に渡って売れ続けている超ロングセラーの教科書.
本書が発行されて以来,多くの教科書が本書を真似て書かれてきたといっても過言ではないほど,日本の線形代数の指導方針にインパクトを与えた名著である.
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目次
第1章:平面および空間のベクトル
- 平面および空間のベクトル
- 直線と平面
- 平面の回転と行列.線型変換
- 三次行列と
の線型変換
- 行列式およびベクトル積
第2章:行列
- 行列の定義と演算
- 正方行列とくに正則行列
- 行列と線型写像
- 行列の基本変形.階数
- 一次方程式系
- 内積とユニタリ行列・直交行列
- 合同変換
第3章:行列式
- 置換
- 行列式
- 行列式の展開
第4章:線型空間
- 集合と写像
- 線型空間
- 基底および次元
- 線形部分空間
- 線型写像とくに線型変換
- 計量線型空間
第5章:固有値と固有ベクトル
- 固有値と特性根
- ユニタリ空間の正規変換
- 実計量空間の対称変換
- 二次形式
- 二次曲線および二次曲面
- 直交変換とくに三次元空間の回転
第6章:単因子およびジョルダンの標準形
- 単因子
- ジョルダンの標準形
- 最小多項式
第7章:ベクトルおよび行列の解析的取扱い
- ベクトル値ないし行列値函数の微積分
- 行列の冪級数
- 非負行列
附録I:多項式
- 一変数多項式
- 代数方程式.代数学の基本定理
- 多変数多項式
附録II:ユークリッド幾何学の公理
附録III:群および体の公理
- 群の公理
- 体の公理
- 実数体の構成
- 複素数体の構成
必要な知識
集合論
線形写像を理解するために,写像の知識は必要.
ただし,最初の線形空間のあたりは集合の知識があれば十分読むことができる.
解析学
第7章「ベクトルおよび行列の解析的取扱い」の部分で少し必要になるが,微分と上限を理解していれば読める.
良い点と悪い点
良い点
- 予備知識が少ない.
- 厳密で詳しい.
- 第1章,第2章でベクトルと行列を丁寧に扱っている.
- 演習問題が多い.難易度はその分野を理解していれば解けるレベルでそれほど難しくはない.
- Perron-Frobeniusの定理が扱われている(とくに,工学系,経済学系の学生に良い)
不満な点
- 厳密で詳しいがゆえに初学者は消化不良になりやすい.
- 「表現行列」という言葉が載っていない.(内容としては扱っているが,「基底~に関する行列」という表記になっている)
全体の感想
「線型代数をとりあえず使えるようにするための教科書」ではなく,「線形代数を理解するための教科書」である.
そのため,非常に詳しく書かれており,線形代数の初学者がこの本を読みこなすのはやや難しいかも知れない(が,無理ではない).
とはいえ,少なくとも数学系の学生は最終的にこの本の内容は完全に理解しておかなければならないレベルの内容である.
私はこの本を最初に購入して読んだが,真に理解できたのは2周目に入ってからであった.一応は1周目でも読めたが,それだけではまだ理解が甘かったと記憶している.
とくに,高校までの「ベクトル空間」を拡張して,もっと広く「線形空間」を定義しようという部分と,線形変換を行列で表す部分が幾分抽象的で理解するのに少し時間がかかった.
いま読み返しても,少し読みにくいところもあるので,
- 自信がない人は別の本で線形代数の概要を掴んでからこの本を読む
- 1周目は簡単に読み流して概要を掴んで2周目でしっかり読み込む
というスタイルが良いと思う.
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