オススメの教科書|線型代数入門(齋藤正彦著,東京大学出版会)

4.0
書評
書評

東京大学出版会から発刊されている「線型代数入門」(齋藤正彦 著)は線形代数学の入門書です.

1966年の発刊以来,半世紀以上にわたり売れ続けている超ロングセラーの教科書で,今なお多くの大学の線形代数学の授業で教科書として使われています.

線形代数の教科書としては

  1. 線形代数を理論から理解するための教科書
  2. 線形代数を使えるようになるための教科書

の2タイプがよくありますが,本書は(1)のタイプで理論系の学生なら理解しておきたい内容です.

実は本書を基準として多くの線形代数の教科書が書かれてきたと言って良いほど日本の線形代数の指導方針にインパクトを与えた名著でもあり,著者は本書によって「日本数学会出版賞」を受賞しています.

本書に対応した演習書として「線型代数演習」もあります.

目次

第1章:平面および空間のベクトル

  1. 平面および空間のベクトル
  2. 直線と平面
  3. 平面の回転と行列.線形変換
  4. 三次行列と$V^3$の線形変換
  5. 行列式およびベクトル積

第2章:行列

  1. 行列の定義と演算
  2. 正方行列とくに正則行列
  3. 行列と線形写像
  4. 行列の基本変形.階数
  5. 一次方程式系
  6. 内積とユニタリ行列・直交行列
  7. 合同変換

第3章:行列式

  1. 置換
  2. 行列式
  3. 行列式の展開

第4章:線形空間

  1. 集合と写像
  2. 線形空間
  3. 基底および次元
  4. 線形部分空間
  5. 線形写像とくに線形変換
  6. 計量線形空間

第5章:固有値と固有ベクトル

  1. 固有値と特性根
  2. ユニタリ空間の正規変換
  3. 実計量空間の対称変換
  4. 二次形式
  5. 二次曲線および二次曲面
  6. 直交変換とくに三次元空間の回転

第6章:単因子およびジョルダンの標準形

  1. 単因子
  2. ジョルダンの標準形
  3. 最小多項式

第7章:ベクトルおよび行列の解析的取扱い

  1. ベクトル値ないし行列値函数の微積分
  2. 行列の冪級数
  3. 非負行列

附録

附録I:多項式

  1. 一変数多項式
  2. 代数方程式.代数学の基本定理
  3. 多変数多項式

附録II:ユークリッド幾何学の公理

附録III:群および体の公理

  1. 群の公理
  2. 体の公理
  3. 実数体の構成
  4. 複素数体の構成

必要な知識

集合論

集合論は数学のベースとなる分野であり,集合論を学ばずして数学を語ることはできません.

本書を読むためには集合と写像の知識は必須ですが,序盤に本書に必要な集合論の基礎知識がまとめてあります.

このため,必要に応じて序盤を参照しながら読み進めることも可能です.

なお,理論系できちんと数学を学びたい人は,例えば集合論の教科書として以下の本は超ロングセラーの好著でオススメです.

オススメ入門書|集合・位相入門(松坂和夫著,岩波書店)
集合論・位相空間論の入門書です.集合論は数学のベースとなる分野で,本書では具体例を用いての説明が多く,初学者には非常に読みやすいのが嬉しい点です.また,章末問題も多いので,理解を深める助けになります.

微分積分学

第7章「ベクトルおよび行列の解析的取扱い」の部分を読む際に,微分積分学の基礎知識も必要となります.

とはいえ,微分と上限程度の内容を理解していれば読むことができるので,必要に応じて調べながら進めてもそれほど問題ないでしょう.

良い点と気を付けたい点

良い点

  • 必要な予備知識が少なくても読める.
  • 厳密で詳しい.
  • 第1章,第2章でベクトルと行列を丁寧に扱っている.
  • 演習問題が多い.難易度はその分野を理解していれば解けるレベルでそれほど難しくはない.
  • Perron-Frobeniusの定理が扱われている(とくに工学系,経済学系の学生に良い).

気を付けたい点

  • 厳密で詳しいがゆえに初学者は消化不良になりやすい.
  • 「表現行列」という言葉が載っていない(内容としては扱っているが,「基底~に関する行列」という表記になっている).
  • 単因子を用いてジョルダン標準形を説明しているが,この説明はそれほど一般的ではなくジョルダン標準形の直感が少々湧きにくい.

全体の感想

現代の線形代数学の教科書は

  1. 行列とベクトル
  2. 行列式
  3. 線形空間
  4. 対角化(固有値・固有ベクトル)
  5. ジョルダン標準形

と進むものが多いのですが,実はこの雛型を作ったのが本書とされています.

正直なところ本書の説明は分かりにくいところもいくつかあります.しかし,敢えて本書を薦めるのは

  • 理論系の学生であれば,本書を読める程度の力が欲しい
  • スペクトル分解や二次形式などまで扱われており,内容面が充実している
  • (発刊当時は線形代数の標準的な教科書がなく,その後の線形代数の教科書の道標となっている)

という理由があります.

本書は線形代数の教科書として理論面が詳しく書かれている(し説明が難しい部分もある)ため,線形代数の初学者が一度でこの本を読みこなすのは難しいかもしれません.

本書の本書の前半(第4章まで)の大きな目標のひとつに「数ベクトル空間$\R^n$の一般化が線形空間であり,行列の一般化が線形写像である」というが挙げられます.

そのため,本書の前半はこのことを理解することを目標に進めていくのが分かりやすくていいかもしれません.

そこで,本書の使い方として

  • 自信がない人は別の本で線形代数の概要を掴んでからこの本を読む
  • 1周目は簡単に読み流して概要を掴み,2周目でしっかり読み込む

などの方法をオススメします.

また,併せて発刊されている「線型代数演習」には演習問題が豊富に載っているので,多く演習したい方はこちらもおすすめです.

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