本記事では
「統計検定2級対応 統計学基礎」
(日本統計学会編,東京図書)
の紹介をする.
統計検定は日本統計学会が実施する検定で,階級としては
- 1級
- 準1級
- 2級
- 3級
- 4級
がある.
本書「統計学基礎」は日本統計学会公式認定の統計検定2級の教科書である.
本書は改訂版が発行されており,より統計検定2級の範囲に即した内容となっている.
目次
第1章:データの記述と要約
- 変数の分類
- 量的データの分布
- ヒストグラムの作成
- そのほかの図表の作成
- 分布の特徴を表す指標
- 平均・分散・標準偏差
- 標準化得点
- 変動係数
- 中央値・最頻値
- 範囲・四分位範囲
- 量的データの要約とグラフ表現
- 5数要約
- 箱ひげ図
- 外れ値
- 質的データの度数分布とグラフ表現
- 2変数データの記述と要約
- 散布図
- 相関係数
- 偏相関係数
- 回帰直線
- 質的データのクロス集計表
- 時系列データの記述と簡単な分析
- 時系列データ
- 指数化と幾何平均
- 時系列データの変動分解
- 自己相関
- 指数の作成と利用
第2章:確率と確率分布
- 事象と確率
- 条件付き確率
- ベイズの定理
- 確率変数と確率分布
- 期待値と分散
- モーメント
- 主な離散型確率分布
- ベルヌーイ分布
- 二項分布
- ポアソン分布
- 幾何分布
- 主な連続型確率分布
- 一様分布
- 正規分布
- 指数分布
- 2変数の確率分布
- 同時分布と周辺分布
- 共分散と相関係数
- 2変量正規分布
- 標本分布
- $\chi^2$分布
- $t$分布
- $F$分布
- 大数の法則と中心極限定理
- チェビシェフの不等式
- 大数の法則
- 中心極限定理
第3章:統計的推定
- 母集団と標本
- 母集団と標本
- 調査と母集団との対応付け
- 統計的な研究の種類
- 実験研究のデザイン
- 観察研究のデザイン
- 標本調査と抽出方法
- 点推定と区間推定
- 点推定
- 区間推定
- 1標本問題:1つの母集団の母数に関する推定−
- 正規分布の母平均の推定
- 母分散が未知の場合の母平均の推定:$t$分布の利用
- 母分散の区間推定
- 母比率の推定
- 2標本問題:2つの母集団の母数に関する推定−
- 2つの母平均の差の区間推定
- 対応のある2標本の場合
- 母分散の比の区間推定
- 母比率の差の区間推定
第4章:統計的仮説検定
- 仮説検定の考え方
- 基本的な仮説検定の構造
- 帰無仮説・対立仮説と有意水準
- 片側対立仮説と両側対立仮説
- 検定統計量と棄却域
- 棄却と受容,2種類の誤り
- 母集団の平均に関する仮説
- 1標本問題:1つの母集団の母数に関する検定−
- 正規分布の母平均に関する検定(母分散が既知の場合,$z$検定)
- 正規分布の母平均に関する検定(母分散が未知の場合,$t$検定)
- 母分散に関する検定
- 母比率に関する検定
- 2標本問題:2つの母集団の母数に関する検定−
- 母平均の差の検定
- 対応のある2標本の場合
- 母分散の比の検定
- 母比率の差の検定
第5章:線形モデル分析
- 線形回帰モデル
- 線形単回帰モデル
- 回帰係数の区間推定
- 回帰係数に関する検定
- 回帰の現象(平均への回帰)
- 線形重回帰モデル
- 自由度調整済み決定係数
- 回帰の優位性の検定と回帰係数に関する検定
- 相関係数の区間推定と検定
- 分散分析モデル
- 1元配置分散分析
- 2元配置分散分析
第6章:その他の分析法−正規性の検討,適合度と独立性の$\chi^2$検定
- 正規性の検討
- 正規$Q-Q$プロット
- 歪度および尖度
- 適合度の検定
- 独立性の検定
第7章:付録
- 確率分布
- 超幾何分布
- 多項分布
- 負の二項分布
- 確率分布の間の近似的な関係
- 仮説検定の基礎的理論
- 検出力と検出力関数
- ネイマン・ピアソンの基本定理
- 分散分析の数理
- コクランの定理
- コクランの定理の応用
- 多重比較
- 検定の多重性
- ボンフェローニの不等式
- 1元配置における各水準の母平均間の多重比較:ボンフェローニ法の応用
- 確率分布表の引き方
- 標準正規分布表
- $t$分布表
- カイ二乗分布表
- $F$分布表
- Rの使い方
- Rのインストール
- Rの基本操作
- ベクトルと行列
- データの読み込み
- Rのコマンド例
- Rエディタ
- 付表1 標準正規分布の上側確率
- 付表2 $t$分布のパーセント点
- 付表3 カイ二乗分布のパーセント点
- 付表4 $F$分布のパーセント点
必要な知識
高校数学程度の計算
高校数学で扱う程度の基本的な計算はできないと,とくに後半では読み進めることが難しくなる.
ただし,前半の計算はそれほど難しくないので,少しずつ計算力を養うようにして,読み進めていくことも不可能ではない.
なんにせよ,数式を追う場合には,ただ読むだけではなく自分の手を動かして計算することは大切である.
数列の和
統計の計算では和を扱う場面が非常に多い.
とくに,数列の基本的な$\sum$計算は必須と言える.
逆に,ある程度の和の計算を追うことができれば,読み進めることはそう難しくない.
微分積分
また,統計の計算では積分を扱う場面も多い.
ただし,具体的に積分の計算を行うことは多くないので,「定積分は面積を表す」といった基本的な積分の考え方が分かっていれば読み進めることはできる.
良い点と悪い点
良い点
- 統計の基礎的な項目が広く扱われているので,この一冊で統計の概観を掴むことが可能といえる.
- 前半では具体例を用いて説明されているので,初学者にもイメージしやすくなっている.
- 統計で必要な用語がしっかり定義されているので,統計の初学者にも読み進めやすい.
- 統計の2つの側面である「記述統計」と「推測統計」の違いに注意して書かれている.
- 各章の最初にその章の流れが説明されているので,各項目の位置付けを理解しやすい.
- 簡単ではあるが,巻末で統計で非常によく用いられるソフトウェアである「R」の導入方法が説明されている.
不満な点
- 統計の概観を広くさらう構成になっている反面,各項目が深くないので(内容を追うことはできても)背景まで理解するのが少々難しい.
- ある程度の計算力を前提としているため,高校数学が怪しい人には読み進めることが難しい.
- 後半に進むほど例が少なくなる.
- 本書は統計の基礎事項を理解することを目的として執筆されているため,練習問題が多くない.そのため,実践で使えるようになるには,別に問題集などでの演習が必要であろう.
全体の感想
私は社会人向けの数学教室で大学数学や統計学を教えているが,最近の統計学への注目度の高さには特筆すべきものがある.
統計学は
- 機械学習
- マーケティング
- 医療
など幅広い分野に応用されており,その関心の高さには驚きがあるというよりむしろ納得である.
実際の私の生徒さんとして,フリープログラマーや医師の方など幅広い領域の方が統計学を学びに数学教室へ通われている.
さて,統計検定2級は「大学基礎課程(1・2年次学部共通)で習得すべきことについて検定」となっているため,高校数学が怪しい人には少々読み進めるのが難しい.
とはいえ,高校数学を深く理解している必要はなく,基本事項さえ理解していれば読み進めることは可能である.
統計検定2級の範囲を1冊にまとめているため,各項目の内容が浅くなっている一方,統計を概観するにはよい教科書である.
そのため,
- 理論の背景までしっかり理解したい人は,別の詳しい教科書を参照する
- とりあえず統計を使えるようにしたい人は,問題集と併用して勉強する
という使い方をすると良い.
いずれにせよ,統計検定2級を受験するためにメインの教科書として持っておくのは良いが,この一冊だけで完結させるのは難しいところといえる.
なお,統計検定について,詳しくは以下の記事を参照してください.
統計検定の公式ホームページです.実施趣旨や試験内容などが説明されています.