岩波書店から発刊されている「集合・位相入門」(松坂和夫 著)は,集合論・位相空間論の入門書です.
1968年の発刊以来,半世紀以上にわたり売れ続けている超ロングセラーの教科書で,今なお多くの大学の集合・位相の授業で教科書として使われています.
私も学部(数学科)時代は本書で集合論・位相空間論を学びましたが,簡明でありながら丁寧な説明でとても理解しやすかったことを覚えています.
なお,発刊50年目の2018年に新装版が発売されたことからも,素晴らしい教科書であることが窺えますね.
きちんと数学を学ぶ人に強くおすすめできる入門書です.
目次
以下は本書の目次です.
第1章:集合と写像
- 集合の概念
- 集合の間の演算
- 対応,写像
- 写像に関する諸概念
- 添数づけられた族,一般の直積
- 同値関係
第2章:集合の濃度
- 集合の対等と濃度
- 可算集合,非可算集合
- 濃度の演算
第3章:順序集合,Zornの補題
- 順序集合
- 整列集合とその比較定理
- Zornの補題,整列定理
- 順序数
- Zornの補題の応用
第4章:位相空間
- $\R^n$の距離と位相
- 位相空間
- 位相の比較,位相の生成
- 連続写像
- 部分空間,直積空間
第5章:連結性とコンパクト性
- 連結性
- コンパクト性
- 分離公理
第6章:距離空間
- 距離空間とその位相
- 距離空間の正規性
- 距離空間の一様位相的性質
- コンパクト距離空間,距離空間の完備化
- ノルム空間,Banach空間
- Urysohnの距離づけ定理
必要な知識
集合論は「数学の言語」とも言える分野です.
このため,集合論・位相空間論の入門書である本書に必要な知識はほぼありません(しかし,高校数学程度は知っている必要はあります).
実は私は社会人向け数学教室で講師をやっているので,高校数学をかなり忘れてしまっていた友人がどこまでいけるか実験として本書で集合論を教えさせてもらったことがありました.
結果的には最初に言っていた目標の「『有理数より無理数の方が多い』を対角線論法で証明する」という目標までクリアすることができました.
「ガチ文系で高校数学もかなり忘れてしまっている友人に集合論を教える企画」が結局どうなったか書いてなかったけど,1時間半×8回でちゃんと目標を達成した
直積の部分集合から写像を厳密に定義したし,集合の濃度も数学科がやるレベルでできた
「思ってたより普通に面白かった」とのこと,良かった https://t.co/Y6Lsn2B4an— 山本拓人@速習大学数学(YouTube) (@TKT_Yamamoto) September 30, 2022
このように,(授業をしたとはいえ,)初学者にも学びやすい教科書であることは間違いないでしょう.
良い点と気になる点
本書の良い点と気になる点を挙げます.
良い点
- ほとんど予備知識なく読むことができる.
- 集合論の基礎事項についてはかなり丁寧に説明されており,初学者にもイメージから理解しやすい.
- 簡単なものから他の分野と絡めたものまで,例の幅が広いので集合論の応用まで知ることができる.
- 引っかかりやすい項目では具体例を用いて丁寧に説明している.
- 演習問題が豊富なので,具体例に多く触れることができる.
気になる点
- 演習問題の解答が詳しくないものがある(が,これは書面のスペース上止むを得ない).
- 重要な部分とそれほど重要でない部分が分かりにくい(重要でない部分にも引っかかって悩んでしまう可能性がある).
- 他の分野と絡めた例は難しく感じてしまいがち.
全体の感想と使い方
「集合・位相入門」(松坂和夫 著,岩波書店)は集合論・位相空間論をこれから学ぶ人のための入門書です.
集合論は数学のベースとなる分野であり,とくに大学で数学を専門的に学ぶ人は集合論を学ばずして数学を語ることはできません.
本書は説明が丁寧で演習問題も豊富なので,集合論・位相空間論のイメージを理解するには非常に良い教科書と言うことができます.
実際,私が学部の頃は本書だけで集合論・位相空間論を学びましたし,演習問題をきちんと解くことで基本的な考え方を身に付けることが出来ました.
とくに位相空間論は抽象的な分野なので,実際に様々な例に触れて抽象的な理解を養うことが大切で,理解を深める上で本書の演習問題にかなり助けられた記憶があります.
もし抽象的で難しいと感じるのであれば,本文中の具体例や各セクション末にある演習問題に触れつつ進むのは良い勉強になります.
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