級数の中でも「全ての項が0以上の級数」を正項級数といい,負の項をもつ級数より収束・発散の判定をしやすい場合が多く,実際に多くの収束判定条件が知られています.
とくに正項級数の3つの収束判定条件「比較定理(比較原理)」「ダランベールの判定法(ratio test)」「コーシーの判定法」は当たり前にしておきたい基本的な条件です.
さらに,どの収束判定条件がどのような良さをもっているのかも併せて理解しておきたいところです.
この記事では
- 正項級数とは全ての項が非負の級数のこと
- 比較定理(比較原理)
- ダランベールの判定法(ratio test)
- コーシーの判定法
を順に解説します.
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正項級数とは全ての項が非負の級数のこと
全ての項が0以上の実数列
例えば,
は全て正項級数です.
全ての項が非負(0以上の実数)なので「非負項級数」というのが正確かもしれませんが,慣習的に正項級数というのが普通です.
絶対収束で考える級数
- 級数
に正項級数の収束条件を適用して収束を示す - 一般に絶対収束する級数は収束するので級数
は収束する
という流れで級数
比較定理(比較原理)
既に収束・発散が分かっている正項級数と比較することで,別の正項級数の収束・発散を示すことができます.
比較定理の主張と証明
[比較定理(比較原理)]正項級数
が収束するなら は収束する. が発散するなら は発散する.
つまり,収束する正項級数で上から抑えられていれば収束し,発散する正項級数で下から浮かされていれば発散ということですね.
(1)と(2)は対偶なので,(1)を示せば十分である.級数
級数
と収束するから実数列
よって,単調有界実数列の収束定理より
比較定理でよく基準として用いられる級数として
- 平方数の逆数和の級数
は収束する - 調和級数(正の整数の逆数和の級数)
は発散する
があります(以下の具体例でも用います).これらの収束・発散は当たり前にしておきましょう.
比較定理(比較原理)の系
最初の有限項は収束・発散に全く影響しませんから,十分大きな
すなわち,次の系が成り立ちます.
正項級数
が収束するなら, は収束する. が発散するなら, は発散する.
この系を比較定理(比較原理)ということもあります.
具体例1(級数 は収束する)
級数
この解答例では,正項級数の説明の最後で説明したように
- 級数
に正項級数の収束条件を適用して収束を示す - 一般に絶対収束する級数は収束するので級数
は収束する
という流れで級数
具体例2(級数 は発散する)
級数
具体例3(級数 は発散する)
級数
本問も
任意の
である.また,調和級数
も発散し,比較定理より級数
ダランベールの判定法(ratio test)
隣り合った項の比を考えることで,収束・発散の判定ができます.
ダランベールの判定法(ratio test)の主張と証明
[ダランベールの判定法(ratio test)]正項級数
- ある
, が存在して が成り立つなら, は収束する. - ある
, が存在して が成り立つなら, は発散する.
(1)は十分大きい
公比
同様に考えれば,(2)では十分大きい
このように,ダランベールの判定法が等比級数を基準にした定理であることが分かっていれば,証明も難しくないでしょう.
(1)の証明
任意の
であり,等比級数
よって,比較定理(比較原理)の系より級数
(2)の証明
任意の
であり,等比級数
よって,比較定理(比較原理)の系より級数
ダランベールの判定法の系
極限
正項級数
なら は収束する. なら は発散する.
この系をダランベールの判定法ということもあります.
具体例4(級数 は収束する)
級数
一般項が
だから,ダランベールの判定法(ratio test)より級数
この問題では
具体例5(級数 は発散する)
級数
一般項が
だから,ダランベールの判定法(ratio test)より級数
この問題でも
なので発散するのは当たり前だと考えられるようになっておけるとなお良いです.
コーシーの判定法
第
コーシーの判定法の主張と証明
[コーシーの判定法]正項級数
- ある
, が存在して が成り立つなら, は収束する. - ある
, が存在して が成り立つなら, は発散する.
ダランベールの判定法と同じく,コーシーの判定法も等比級数と比較することで成り立つことがみてとれます.
(1)は十分大きい
公比
同様に考えれば,(2)では十分大きい
このように,コーシーの判定法が等比級数を基準にした定理であることが分かっていれば,証明も難しくないでしょう.
(1)の証明
任意の
よって,比較定理(比較原理)の系より級数
(2)の証明
任意の
よって,比較定理(比較原理)の系より級数
コーシーの判定法の系
極限
正項級数
なら は収束する. なら は発散する.
この系をコーシーの判定法ということもあります.
具体例6(級数 は収束する)
級数
一般項が
だから,コーシーの判定法より級数
この問題では
具体例7(級数 は発散する)
級数
一般項が
だから,コーシーの判定法(ratio test)より級数
この問題でも
また,解く前に
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