次の問題を考えましょう.
[問題1] 初項$a_{1}=\sqrt{2}$で漸化式
を満たす数列$\{a_{n}\}$は収束するか.収束するなら極限値$X=\lim\limits_{n\to\infty}a_{n}$を求めよ.
漸化式を解くと
となるので,単純に極限をとって$X=\lim\limits_{n\to\infty}a_{n}=2$となります.
しかし,一般に漸化式は解けるとは限らないので,漸化式が解けない場合には別の方法が必要になります.
そのような方法のひとつに単調有界実数列の収束定理を用いる解法があります.
この記事では
- 実数列が収束することが重要な理由
- 単調有界実数列の収束定理
- [問題1]の解答例
を順に説明します.
「微分積分学の基本」の一連の記事
実数列が収束することが重要な理由
詳しい説明は後回しにしますが,単調有界実数列の収束定理とは実数列が極限値をもつことを保証する定理です.
[単調有界実数列の収束定理] 上に有界で広義単調増加する実数列は極限値をもつ.
「上に有界」「広義単調増加」の定義はのちに説明します.
一般には単調収束定理と呼ばれることが多いですが,この記事ではどのような定理か分かりやすい「単調有界実数列の収束定理」と呼ぶことにします.
怪しい解答例1
単調有界実数列の収束定理の重要性を理解するために,冒頭の[問題1]の怪しい解答例から考えていきましょう.
[問題1(再掲)] 初項$a_{1}=\sqrt{2}$で漸化式
を満たす数列$\{a_{n}\}$は収束するか.収束するなら極限値$X=\lim\limits_{n\to\infty}a_{n}$を求めよ.
以下の[怪しい解答例1]の怪しい部分を指摘してください.
[怪しい解答例1]漸化式$a_{n+1}=\sqrt{2a_{n}}$の両辺で極限$n\to\infty$を考えて
である.両辺2乗して$X^{2}-2X=0$より$X=0,2$である.
$X>0$で$X=2$は等式を満たすから極限$X=2$を得る.
怪しい解答例2
もし[怪しい解答例1]の怪しさが分からない場合は,次の問題を同じように考えてみるとどうでしょうか?
[怪しい解答例2]漸化式$b_{n+1}=2b_{n}+1$の両辺で極限$n\to\infty$を考えて
だから$Y=-1$となって,極限$Y=-1$を得る.
この問題の数列$\{b_n\}$は
と無限大に発散しますから,$Y=-1$という答えははっきり誤りですね.
では,なぜ[怪しい解答例2]ではうまくいかなかったのでしょうか?
[問題1]の考え方
[怪しい解答例2]で誤った答えが得られてしまったのは,実数列$\{b_n\}$の極限がそもそも存在していないにも関わらず,漸化式の両辺で極限$n\to\infty$を考えたことが原因です.
つまり,収束が不明にも関わらず漸化式で極限$n\to\infty$をとって,何らかの解が得られたとしてもそれが実際の極限値であるとは限らないわけですね.
よって,「[問題1]の実数列$\{a_n \}$も極限をもたず[怪しい解答例2]と同じことをしている可能性がある」という点で[怪しい解答例1]は怪しいわけですね.
言い方を変えれば,先に実数列$\{a_n \}$も極限が存在していることを示せていれば,[怪しい解答例1]は完全な解答となるわけですね.
このように,漸化式が与えられた数列の一般項を求めなくても,
- 極限値$X:=\lim\limits_{n\to\infty}a_{n}$の存在を示す
- 漸化式で極限$n\to\infty$を考えて,$X$の方程式を解く
という手順で極限値を求められることがあります.
そこで(1)で実数列の収束が保証でき単調有界実数列の収束定理が有用なわけですね.
単調有界実数列の収束定理
それでは,単調有界実数列の収束定理の説明のために,単調性と有界性を定義しましょう.
実数列の単調性
実数列$\{a_{n}\}$に対して,単調性 (monotonousness)を次のように定義する.
- 全ての$n$に対して$a_{n}\le a_{n+1}$が成り立つとき,$\{a_{n}\}$は広義単調増加するという.
- 全ての$n$に対して$a_{n}<a_{n+1}$が成り立つとき,$\{a_{n}\}$は狭義単調増加するという.
- 全ての$n$に対して$a_{n}\ge a_{n+1}$が成り立つとき,$\{a_{n}\}$は広義単調減少するという.
- 全ての$n$に対して$a_{n}>a_{n+1}$が成り立つとき,$\{a_{n}\}$は狭義単調減少するという.
広義と狭義の違いは
- $a_n=a_{n+1}$なる$n$があっても良いのが広義
- $a_n=a_{n+1}$なる$n$があってはならないのが狭義
というわけですね.よって,(名前にも反映されているように)広義単調の方が広い条件になっています.
実数列の有界性
実数列$\{a_{n}\}$に対して,有界性 (boundedness)を次のように定義する.
- ある$L>0$が存在して,全ての$n$に対して$a_{n}\le L$が成り立つとき,$\{a_{n}\}$は上に有界であるという.
- ある$S>0$が存在して,全ての$n$に対して$a_{n}\ge S$が成り立つとき,$\{a_{n}\}$は下に有界であるという.
上に有界かつ下に有界であるときは,単に有界であるという.
実数列$\{a_{n}\}$の項全部の集合$\{a_{1},a_{2},a_{3},\dots\}$についての有界性と同じですね.
定理と証明
[単調有界実数列の収束定理(再掲)] 上に有界で広義単調増加する実数列は極限値をもつ.
「実数列$\{a_n\}$がどこかで頭打ちになり,項が進むにつれ同じ値か増加するしかないなら,どこかに収束するしかない」というのが単調有界実数列の収束定理というわけですね.
一般に実数列$\{a_{n}\}$の項全部の集合$\{a_{1},a_{2},a_{3},\dots\}$の上限を$\sup{a_n}$と表します.
このとき,実数列は単調増加なので収束するなら極限値は$\sup{a_n}$となりそうですね.この考え方をもとに証明しましょう.
上に有界かつ広義単調増加する実数列$\{a_{n}\}$を考える.実数列$\{a_{n}\}$が$\alpha:=\sup{a_n}$に収束することを示す.
任意に$\epsilon>0$をとる.このとき,上限$\sup$の性質から
となる$N\in\N$が存在する.
また,実数列$\{a_{n}\}$は広義単調増加するから,$n>N$なら
が成り立つ.よって,ε-N論法の定義より,実数列$\{a_{n}\}$は収束する.
同様に考えれば,次が成り立つことも分かりますね.
[単調有界実数列の収束定理] 下に有界で広義単調減少する実数列は極限値をもつ.
[問題1]の解答例
それでは単調有界実数列の収束定理を用いて,[問題1]の完全な答案を作りましょう.
単調有界実数列の収束定理による方法
[問題1(再掲)] 漸化式$a_{n+1}=\sqrt{2a_{n}}$を満たす初項$a_{1}=\sqrt{2}$の数列$\{a_{n}\}$の極限値$X=\lim\limits_{n\to\infty}a_{n}$が存在すれば求めよ.
$a_1$から順次求めていくと
となっており,1より大きい実数がどんどんかけられているので単調増加になっていそうですね.
また,もし収束するなら最初の[怪しい解答例1]で考えたように$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=2$となりますから,任意の$n$に対して$a_n\le 2$が成り立ち上に有界になりそうですね.
[ステップ1] 任意の$n\in\N$に対して$a_{n}\le a_{n+1}\le2$が成り立つことを数学的帰納法により示す.
[1] $n=1$のときは
- $a_{1}=\sqrt{2}$
- $a_{2}=\sqrt{2\sqrt{2}}=\sqrt{2}\sqrt[4]{2}$
であることから$a_{n}\le a_{n+1}\le2$が成り立つ.
[2] $n=k$のときに成り立つと仮定する.このとき,
かつ
が成り立ち,$n=k+1$のときにも成り立つことが分かる.
[1], [2]より,実数列$\{a_n\}$は狭義単調増加し上に有界だから,単調有界実数列の収束定理より実数列$\{a_n\}$は収束する.
すなわち,極限値$X=\lim\limits_{n\to\infty}a_{n}$は存在する.
[ステップ2] 漸化式$a_{n+1}=\sqrt{2a_{n}}$の両辺で極限$n\to\infty$を考えて
である.両辺2乗して$X^{2}-2X=0$より$X=0,2$である.
$X>0$で$X=2$は方程式$(*)$を満たすから極限値$X=2$を得る.
最後は極限値は存在するので,$X\neq0$の時点で残った$X=2$は方程式$(*)$を満たすことを確認しなくても解となりますね.
漸化式を変形して解く方法
この記事のテーマとはズレますが,実際に漸化式を変形することでも極限が得られるので,この解法でも極限値$X=2$が得られることを確認しておきましょう.
[問題1(再掲)] 漸化式$a_{n+1}=\sqrt{2a_{n}}$を満たす初項$a_{1}=\sqrt{2}$の数列$\{a_{n}\}$の極限値$X=\lim\limits_{n\to\infty}a_{n}$が存在すれば求めよ.
任意の$n\in\N$に対して$a_{n}>0$が成り立つことを数学的帰納法により示す.
$n=1$のときは$a_n=a_1=1>0$なので成り立つ.
また,$n=k$のときに成り立つと仮定すると,$a_{k+1}=\sqrt{2a_{n}}>0$なので$n=k+1$でも成り立つ.
よって,漸化式の両辺で対数$\log_2$がとれて,$b_n=\log_{2}a_n$とおけば
である.よって,実数列$\{b_n-1\}$は公比$\dfrac{1}{2}$の等比数列なので,
を得る.
なお,$b_{n+1}-1=\frac{1}{2}(b_{n}-1)$をきちんと最後まで解くと
となり,ここから$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=2^{1-0}=2$ともできますね.
より素朴には
なので,指数部分で等比数列の和の公式を用いて$a_n=2^{1-(1/2^{n})}$が得られますね.
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