微分積分学2
数列の極限(ε-N論法)をイメージから解説

微分積分学の基本
微分積分学の基本

高校数学では実数列$\{a_n\}$の極限$\lim\limits_{n\to\infty}a_n$を次のように定義しました.

数列$\{a_n\}$に対して,$n$を限りなく大きくするとき,$a_n$が$\alpha$に限りなく近付くならば,$\{a_n\}$は$\alpha$に収束するという.

この定義は直感的で分かりやすいのですが,数学的には「限りなく大きく」「限りなく近着く」という言葉が曖昧でよくありません.

そこで,数学科などの大学の理論系の学科では数列の極限を厳密に定義する方法として$\m{\epsilon\text{-}N}$論法を学びます.

$\epsilon\text{-}N$論法の考え方はいくつかの前提知識をふまえれば難しいものではありません.

この記事では

  • $\epsilon\text{-}N$論法を理解するための準備
  • $\epsilon\text{-}N$論法による数列の極限の定義
  • $\epsilon\text{-}N$論法の具体例

を順に解説します.

準備

まずはいくつか知っておくとよい知識を整理します.

絶対値

高校数学では絶対値は次のように定義されるのでした.

実数$a$に対して,$a$と原点$0$との距離を$a$の絶対値 (absolute value)といい,$|a|$と表す.

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この定義から次は簡単に得られますね.

実数$a$, $b$に対して,$|a-b|$は$a$と$b$の距離を表す.

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このことから,不等式$|a-b|<c$は「$a$と$b$の誤差は$c$未満」ということができますね.

数列の図示

実数列$\{a_n\}$は$n$を1つ決めれば,1つ実数が決まります.

このことから,実数列$\{a_n\}$は横軸$n$,縦軸$a_n$として以下のように図示することができます.

例えば,一般項$a_n=1+(-1)^{n-1}\dfrac{1}{n}$の実数列$\{a_n\}$は下図のように図示できますね.

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数列$\{a_n\}$の値が$n$を大きくするにつれて$1$に近付いていることも,図を描けば一目瞭然ですね.

数列の極限($\epsilon\text{-}N$論法)

考え方を説明してから,きちんとした定義を述べます.

考え方

例えば,一般項$a_n=1+(-1)^{n-1}\dfrac{1}{n}$の実数列$\{a_n\}$を考えましょう.

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$a_n$はどんどん$1$に近付いていきますが,これは「$a_n$と$1$の誤差$|a_n-1|$がどこまでも小さくなる」ということができますね.

これは「どんなに小さな正の数$\epsilon$に対しても,十分大きい$n$に対して$a_n$と$1$の誤差$|a_n-1|$は$\epsilon$未満になる」と言い換えられます.

ここで,例えば$\epsilon=0.3$として考えてみましょう.いま

   \begin{align*}|a_n-1|=\abs{\bra{1+(-1)^{n-1}\frac{1}{n}}-1}=\frac{1}{n}\end{align*}

ですから,この誤差が$|a_n-1|<0.3(=\epsilon)$となるのは$n=4,5,6,\dots$のときですね.

つまり,$n>3$のとき$|a_n-1|<0.3$となり,下図のように図示できますね.

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同じ要領で考えれば,例えば$\epsilon=0.1$なら$n>10$のとき$|a_n-1|<\epsilon$となりますし,もっと小さい$\epsilon=0.001$なら$n>1000$のとき$|a_n-1|<\epsilon$となりますね.

ここで大切なことは,どんなに小さな正の数$\epsilon$に対しても,十分大きな正の整数$N$があって,$n>N$のとき$|a_n-1|<\epsilon$となってくれるという点です.

定義

以上の考え方をふまえて$\epsilon\text{-}N$論法により数列の極限を定義しましょう.

実数列$\{a_n\}$が$\alpha\in\R$に収束するとは,任意の$\epsilon>0$に対して,ある$N\in\N$が存在して,

   \begin{align*}n>N\Ra|a_n-\alpha|<\epsilon\end{align*}

が成り立つことをいう.また,このとき$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=\alpha$や$a_n\to\alpha\ (n\to\infty)$などと表す.

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全称記号$\forall$と存在記号$\exists$を用いれば,上の定義は

   \begin{align*}\forall\epsilon>0\quad\exists N\in\N\quad\text{s.t.}\quad[n>N\Ra|a_n-\alpha|<\epsilon]\end{align*}

とも表せますね.

少し砕けた言い方をすれば,「どんなに小さな正の数$\epsilon$に対しても,十分大きな正の整数$N$をうまくとって,$n>N\Ra|a_n-\alpha|<\epsilon$が成り立つようにできる」ということになります.

また,上の考え方でもそうでしたが,$N$は$\epsilon$に応じて決めることが大切です.

$\epsilon\text{-}N$論法の具体例

いくつか具体例を考えましょう.

具体例1

一般項$a_n=\dfrac{1}{n}$の実数列$\{a_n\}$が$0$に収束することを,$\epsilon\text{-}N$論法により示せ.

この問題では$n>N$のとき

   \begin{align*}|a_n-0|=\frac{1}{n}<\frac{1}{N}\end{align*}

となります.よって,$n>N$のときに$|a_n-0|<\epsilon$が成り立つには

   \begin{align*}\dfrac{1}{N}<\epsilon\iff N>\frac{1}{\epsilon}\end{align*}

が成り立つように正の整数$N$をとれば良く,例えば$\frac{1}{\epsilon}$以上の最小の整数$\lceil\frac{1}{\epsilon}\rceil$を$N$とすれば良いですね.

一般に$x\in\R$以上の最小の整数は$\lceil\frac{1}{\epsilon}\rceil$と表し,この関数$\lceil\cdot\rceil$を天井関数 (ceiling function)などといいます.

任意に$\epsilon$をとる.この$\epsilon$に対して,$N:=\lceil\frac{1}{\epsilon}\rceil$とおく.

$N\ge\frac{1}{\epsilon}$より$\frac{1}{N}\le\epsilon$に注意すると,$n>N$のとき

   \begin{align*}|a_n-0|=\frac{1}{n}<\frac{1}{N}\le\epsilon\end{align*}

が成り立つ.よって,$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=0$が成り立つ.

このように具体的に$\epsilon\text{-}N$論法を使う場合は,どのように$N$をとれば$n>N\Ra|a_n-\alpha|<\epsilon$が成り立つかを考えることがポイントとなります.

答案の中では$N$が先に定めて$n>N\Ra|a_n-0|<\epsilon$を示していますが,思考プロセスは

  • $|a_n-0|=\frac{1}{n}<\frac{1}{N}$
  • $N>\frac{1}{\epsilon}$となる$N\in\N$をとればよい
  • $N:=\lceil\frac{1}{\epsilon}\rceil$とすればよい

の順番になっていることに注意してください.

具体例2

一般項$a_n=\dfrac{n-2}{n}$の実数列$\{a_n\}$が$1$に収束することを,$\epsilon\text{-}N$論法により示せ.

この問題では$n>N$のとき

   \begin{align*}|a_n-1|=\abs{-\frac{2}{n}}=\frac{2}{n}<\frac{2}{N}\end{align*}

となりますから,$n>N$のときに$|a_n-1|<\epsilon$が成り立つには

   \begin{align*}\dfrac{2}{N}<\epsilon\iff N>\frac{2}{\epsilon}\end{align*}

が成り立つように正の整数$N$をとれば良く,例えば$N=\lceil\frac{2}{\epsilon}\rceil$とすれば良いですね.

任意に$\epsilon$をとる.$N:=\lceil\frac{2}{\epsilon}\rceil$とおくと,$n>N$のとき

   \begin{align*}|a_n-1|=\frac{2}{n}<\frac{2}{N}=\frac{2}{\lceil2/\epsilon\rceil}<\frac{2}{2/\epsilon}=\epsilon\end{align*}

が成り立つ.よって,$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=0$が成り立つ.

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