上限と下限
最大・最小になれなかった値にも名前を付けたい

集合$A$, $B$を

  • $A$:5以下の実数全部の集合
  • $B$:5未満の実数全部の集合

とするとき,集合$A$, $B$の最大値はなんでしょうか?

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「実数の集合$X$の最大値が$x$である」というためには値$x$が集合$X$に属していないといけないので,答えは「$A$の最大値は$5$, $B$の最大値は存在しない」となりますね.

このように$5$は集合$B$の最大値の定義には当てはまりませんが,$B$でも「$5$が最大っぽい値」になっているという気持ちはあります.

これら「最大値もしくは最大っぽい値」を上限といい,数学では頻繁に用いられます.同様に「最小値もしくは最小っぽい値」を下限といいます.

この記事では

  • 上限と下限の定義
  • 上限と下限の具体例
  • 上限と下限の基本性質
  • 上限と下限の存在性

を順に説明します.

なお,数学では一般に実数全部の集合を$\R$で表し,この記事でも$\R$をこの意味で用います.

解説動画

この記事の解説動画をYouTubeにアップロードしています.

「お前も上限にならないか?なぜお前が至高の領域に踏み入れないのか教えてやろう」【上限・下限】(17分41秒)

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上限と下限

ここでは集合の上限下限の定義と具体例を説明します.

上限と下限の定義

まずは上限の定義のために必要な上界を定義しましょう.

[上界] 集合$A\subset\R$を考える.$m\in\R$が$A$の上界 (upper bound)であるとは,任意の$a\in A$に対して

\begin{align*} a\le m \end{align*}

を満たすことをいう.

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集合$A\subset\R$を考える.$A$の上界が存在するとき,$A$は上に有界であるという.

上限の具体例を考えましょう.

集合$A$, $B$を

  • $A$:5以下の実数全部の集合
  • $B$:5未満の実数全部の集合

とするとき,集合$A$, $B$の上界を全てを求めよ.

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$A$の上界も$B$の上界も$5$以上の全ての実数である.

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この例で大切なことは,$5$は集合$B$の最大値ではありませんが,集合$A$, $B$のどちらも$5$が上界の中で最小のものとなっています.

このことをもとに,次のように上限が定義されます.

[上限] $A$が上に有界であるとき,上界の最小値を$A$の上限 (supremum)または最小上界といい

\begin{align*} \sup{A} \end{align*}

と表す.一方,$A$が上に有界でないとき,$\sup{A}=\infty$と定める.

この記事で定義した言葉を使わずに表現するなら,「『任意の$a\in A$に対して$a\le m$』を満たす実数$m$のうち最小のもの」が上限ですね.

同様に,下限も次のように定義されます.

下界,下限
$s\in\R$が$A\subset\R$の下界であるとは,任意の$a\in A$に対して

\begin{align*} a\ge s \end{align*}

を満たすことをいい,$A$の下界が存在するとき$A$は下に有界であるという.

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また,$A$が上に有界であるとき,$A$の下界の最大値を$A$の下限 (infimum)または最大下界といい

\begin{align*} \inf{A} \end{align*}

と表す.一方,$A$の下界が存在しないときは$\inf{A}=-\infty$と定める.

この記事で定義した言葉を使わずに表現するなら,「『任意の$a\in A$に対して$s\le a$』を満たす実数$s$のうち最大のもの」が下限ですね.

上限と下限の具体例

具体例を考えてみましょう.

次の$\R$の部分集合それぞれの下限と上限を求めよ.

  1. $-2$以上$3$未満の実数上の区間$I$
  2. 正の整数全部の集合$\N$
  3. $0\le x\le 1$なる有理数$x$全部の集合$X$

(1) $\inf{I}=-2$, $\sup{I}=3$である.

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(2) $\inf{\N}=1$, $\sup{I}=\infty$である.

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(3) $\inf{X}=0$, $\sup{X}=1$である.

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最大値が存在するときは最大値と上限は一致し,最小値が存在するときは最小値と下限は一致しますね.

上限と下限の基本性質

次に上限と下限に関する次の基本性質を示しておきましょう.

上に有界な$A\subset\R$に対して$\alpha=\sup{A}$とおく.このとき,任意の$\epsilon>0$に対して,ある$x\in A$が存在して

\begin{align*} \alpha-\epsilon<x\le\alpha \end{align*}

が成り立つ.

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背理法により示す.すなわち,ある$\epsilon>0$が存在して,任意の$x\in A$に対しても

\begin{align*} \alpha-\epsilon<x\le\alpha \end{align*}

が成り立たないと仮定して矛盾を導く.

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この仮定のもとでは,例えば$\alpha-\epsilon$が$A$の上界となっている.

一方,上限の定義から$\alpha$は最小の上界であるが,$\alpha-\epsilon<\alpha$なのでこれは矛盾である.

下限についても同様の定理が成り立ちますが,証明は上限の場合と同様なので省略します.

下に有界な$B\subset\R$に対して$\beta=\inf{B}$とおく.このとき,任意の$\epsilon>0$に対して,ある$x\in B$が存在して

\begin{align*} \beta\le x<\beta+\epsilon \end{align*}

が成り立つ.

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上限と下限の存在

集合$A\subset\R$の上限$\sup{A}$は$A$の上界の最小のものとして定義されましたが,$A$が上に有界なら$A$の上界の最小のものはいつでも存在するのでしょうか?

実はこの答えは“Yes”で次が成り立ちます.

[上限の存在] 集合$A\subset\R$が上に有界なら,必ず$A$の上限$\sup{A}$が$\R$上に存在する.

この性質を上限性質という.

「公理」と書いたように,実は実数は「上限性質を満たす順序体を実数体$\R$といい,実数体の元を実数という」と定義されます.

そのため,この上限性質は実数が満たす性質のひとつなので,$A\subset\R$が上に有界な集合であれば安心して上限$\sup{A}$があるとして良いわけですね.

この上限性質は同値な別の述べ方をされることもあります.それら同値な述べ方も併せて実数の連続性公理といいます.

実数の定義について詳しくは次の記事を参照してください.

上限性質は上限についてしか述べていませんが,上限性質から次のように下限の存在も示すことができます.

集合$A\subset\R$が下に有界なら,必ず$A$の下限$\inf{A}$が$\R$上に存在する.