微分積分学6|ボルツァーノ-ワイエルシュトラスの定理

微分積分学の基本
微分積分学の基本

微分積分学ではボルツァーノ-ワイエルシュトラス(Bolzano-Weierstrass)の定理という次の定理を学びます.

[ボルツァーノ-ワイエルシュトラスの定理] 有界実数列は収束する部分列をもつ.

この定理はさまざまな定理を示すために用いられることが多く,「縁の下の力持ち」という言葉がよく似合う定理です.

この証明のためには区間縮小法 (nested intervals)とよばれる微分積分学をはじめとした解析学でよく用いられる論法を用います.

この記事では

  • 区間縮小法
  • 部分列とボルツァーノ-ワイエルシュトラスの定理

を順に説明します.

微分積分学の参考文献

以下は微分積分学に関するオススメの教科書です.

微分積分学(笠原晧司 著)

数学科など理論系の学生向けの微分積分学の入門書です.基本的な例から発展的な例まで扱われており,バランスの良い教科書です.

区間縮小法

ざっくり言えば,区間縮小法とは「入れ子状に区間の長さが0に縮んでいくと極限は1点に潰れる」という定理です.

以下,閉区間$I=[a,b]$の長さ$b-a$を$|I|$と表しましょう.

[区間縮小法] 有界閉区間$I_{1},I_{2},I_{3},\dots\subset\R$が

   \begin{align*}I_{1}\supset I_{2}\supset I_{3}\supset\dots,\quad \lim_{k\to\infty}|I_{k}|=0\end{align*}

を満たすとする.

このとき,共通部分$\bigcap\limits_{k=1}^{\infty}I_{k}$はただ1つの元のみからなり,

   \begin{align*}\bigcap_{k=1}^{\infty}I_{k}=\{\alpha\},\quad I_{k}=[p_{k},q_{k}]\quad(k=1,2,3,\dots)\end{align*}

とすると,$\lim\limits_{k\to\infty}p_{k}=\lim\limits_{n\to\infty}q_{k}=\alpha$が成り立つ.

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証明には「広義単調増加(減少)かつ上に(下に)有界な実数列は収束する」という単調有界実数列の収束定理を用います.

$I_1\supset I_2\supset I_3\supset\dots$より$p_1\le p_2\le p_3\le$かつ$p_k\le q_1$ ($k=1,2,3,\dots$)が成り立つ.すなわち,実数列$\{p_k\}$は広義単調増加かつ上に有界だから,単調有界実数列の収束定理により収束する.

同様に実数列$\{q_k\}$は広義単調減少かつ下に有界だから,単調有界実数列の収束定理により収束する.

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$p=\lim\limits_{k\to\infty}p_{k}$, $q:=\lim\limits_{n\to\infty}q_{k}$とおくと,

   \begin{align*}\lim_{k\to\infty}|I_{k}|=0\iff& \lim_{k\to\infty}(q_k-p_k)=0 \\\iff& q-p=0\iff p=q\end{align*}

が成り立つ.

また,共通部分の定義から,任意の$\alpha\in\bigcap\limits_{k=1}^{\infty}I_{k}$は

   \begin{align*}\alpha\in I_k\iff p_k\le\alpha\le q_k\quad(k=1,2,3,\dots)\end{align*}

をみたすから,極限$k\to\infty$をとって$p\le\alpha\le q$が成り立つ.

よって,$p=q=\alpha$なので$\bigcap\limits_{k=1}^{\infty}I_{k}$はただ1つの元のみからなり,$\{p_k\}$, $\{q_k\}$の極限に一致する.

部分列とボルツァーノ-ワイエルシュトラスの定理

まず数列の部分列を定義して,本題のボルツァーノ-ワイエルシュトラスの定理を証明します.

部分列の定義

数列$\{a_n\}$の部分列とは元の数列$\{a_n\}$から項を「間引いて」できる数列のことで,きちんと定義すると次のようになります.

実数列$\{a_n\}_n$と正の整数の増加列$n_1<n_2<\dots$をとる.このとき,$\{a_{n_k}\}_k$を$\{a_n\}$の部分列 (subsequence)という.

$\{a_n\}_n$や$\{a_{n_k}\}_k$のように添え字をつけると,その文字についての列を意味します.つまり,$\{a_n\}_n$は$a_1,a_2,a_3,\dots$のことを指し,$\{a_{n_k}\}_k$は$a_{n_1},a_{n_2},a_{n_3},\dots$のことを指します.

例えば,実数列$\{a_n\}$に対して,$n_1=3$, $n_2=8$, $n_3=21$, $a_4=28,\dots$のとき,部分列$\{a_{n_{k}}\}$は

   \begin{align*}a_3,\ a_8,\ a_{21},\ a_{28},\dots\end{align*}

となるわけですね.

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定理と証明

[ボルツァーノ-ワイエルシュトラスの定理] 有界実数列は収束する部分列をもつ.

どんなにぐちゃぐちゃな実数列であっても有界でさえあれば,収束する部分列を持つという定理です.

最初は少し怪しく感じるかもしれませんが,有界なので$p_0\le a_n\le q_0$ ($n=1,2,\dots$)となる$p_0,q_0\in\R$が存在し,この$[p_0,q_0]$を半分半分に狭めていけば収束する部分列が作れることが分かります.

有界実数列$\{a_n\}$をとる.

[ステップ1] 有界性よりある$p_0,q_0\in\R$が存在して$p_0\le a_{n}\le q_0$が成り立つ.また,$r_0:=\dfrac{p_0+q_0}{2}$とおく.

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このとき,区間$[p_0,r_0]$, $[r_0,q_0]$の少なくとも一方には実数列$\{a_n\}$の項が無限に属する(もしどちらにも有限個しかなければ,実数列$\{a_n\}$の項が有限個しか存在しないことになり矛盾)から

  • $[p_0,r_0]$に実数列$\{a_{n}\}$の項が無限に属していれば$p_1:=p_0$, $q_1:=r_0$
  • そうでないときは$p_1:=r_0=$, $q_1:=q_0$

と定め,さらに$r_1:=\dfrac{p_1+q_1}{2}$と定める.

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同様に,

  • $[p_1,r_1]$に実数列$\{a_n\}$の項が無限に属していれば$p_2:=p_1$, $q_2:=r_1$
  • そうでないときは$p_2:=r_1$, $q_2:=q_1$

と定め,さらに$r_2:=\dfrac{p_1+q_1}{2}$と定める.

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これを帰納的に繰り返し,有界閉区間$I_{k}=[p_{k},q_{k}]$ ($k=0,1,2,\dots$)を作ると$I_{0}\supset I_{1}\supset I_{2}\supset\dots$かつ$\lim\limits_{k\to\infty}|I_{k}|=0$が成り立つ.

よって,区間縮小法により$\lim\limits_{k\to\infty}p_{k}=\lim\limits_{k\to\infty}q_{k}$を得る.

[ステップ2] 数列$\{a_{n}\}$の部分列$\{a_{n_{k}}\}$を

  • 数列$\{a_{n}\}$の$I_{1}$に属する最初の項を$a_{n_{1}}$
  • 数列$\{a_{n}\}$の$a_{n_{1}}$より後の$I_{2}$に属する最初の項を$a_{n_{2}}$
  • 数列$\{a_{n}\}$の$a_{n_{2}}$より後の$I_{3}$に属する最初の項を$a_{n_{3}}$
  • ……

と帰納的に定める.

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このとき,$a_{n_{k}}\in I_{k}$より$p_{k}\le a_{n_{k}}\le q_{k}$となるので,はさみうちの原理より$\{a_{n_{k}}\}$は極限をもつ.

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