2015大学院入試|大阪市立大学 数物系専攻(数学系)|基礎的分野

大阪市立大学|大学院入試
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2015年度の大阪市立大学 理学研究科 数物系専攻(数学系)の大学院入試問題の「基礎的分野」の解答の方針と解答です.

ただし,採点基準などは公式に発表されていないため,ここでの解答が必ずしも正解とならない場合もあり得ます.ご注意ください.

また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.

なお,過去問は大阪市立大学のサポートセンターで借りて,コピーすることができます.

【参考:大阪市立大学/理学部・理学研究科/大学院入試情報

大阪府立大学との合併により過去問の入手方法は不明です.

問題と解答例

問題は3問あり,全3問解答します.試験時間は2時間30分です.

私が打ち出したものですが,問題のPDFはこちらにあります.(H27_基礎的分野)

問1

$\alpha$は複素数とし,行列$A=\pmat{0&1&0&-1\\1&0&\alpha&0\\0&\alpha&0&-\alpha\\-1&0&-\alpha&0}$の固有値はすべて0であるとする.このとき次の各問に答えよ.

(1) $\alpha$の値を求めよ.

(2) $A$のジョルダン標準形を求めよ.

解答の方針

(1) $A$の固有値が0に限ることから,固有多項式$|xI-A|$の根が0に限るように$\alpha$を定めれば良い.

(2) $\rank{A}$, $\rank{A^2}$を求めることで$A$のJordan標準形が求まる.

解答例


(1) 計算により$A$の固有多項式は

    \begin{align*}|xI-A| =&\vmat{x&-1&0&1\\ -1&x&-\alpha&0\\ 0&-\alpha&x&\alpha\\ 1&0&\alpha&x} \\=&x\vmat{x&-\alpha&0\\-\alpha&x&\alpha\\0&\alpha&x} -(-1)\vmat{-1&0&1\\-\alpha&x&\alpha\\0&\alpha&x} -1\vmat{-1&0&1\\x&-\alpha&0\\-\alpha&x&\alpha} \\=&x\brb{(x^3+0+0)-(0+\alpha^2x+\alpha^2x)} \\&+\brb{(-x^2-\alpha^2+0)-(0-\alpha^2+0)} \\&-\brb{(\alpha^2+x^2+0)-(\alpha^2+0+0)} \\=&x^2(x^2+2\alpha^2)-2x^2 \\=&x^2\bra{x^2-2(\alpha^2+1)}\end{align*}

である.

また,$A$の固有値がすべて0であることと$A$が4次正方行列であることから,$A$の固有多項式は$x^4$なので,

    \begin{align*}\alpha^2+1=0\iff\alpha=\pm i\end{align*}

である.

(2) $\alpha=\pm i$のとき,複号同順で

    \begin{align*} rank{A} =&\rank{\bmat{0& 1& 0& -1\\1& 0& \pm i& 0\\0& \pm i& 0& \mp i\\-1& 0& \mp i& 0}} \\=&\rank{\bmat{0& 1& 0& -1\\1& 0& \pm i& 0\\0& 0& 0& 0\\0& 0& 0& 0}} =2, \\\rank{A^2} =&\rank{\bmat{2& 0& \pm 2i& 0\\0& 0& 0& 0\\\pm 2i& 0& -2& 0\\0& 0& 0& 0}} \\=&\rank{\bmat{2& 0& \pm 2i& 0\\0& 0& 0& 0\\0& 0& 0& 0\\0& 0& 0& 0}} =1 \end{align*}

である.

Jordan標準形としてありうるものは,$\rank{A}=2$より$J_2(0)\oplus J_2(0)$, $J_3(0)\oplus J_1(0)$に限られ,さらに$\rank{A^2}=1$より$J_3(0)\oplus J_1(0)$に限る.

よって,$A$のJordan標準形は$J_3(0)\oplus J_1(0)$である.

問2

次の各問いに答えよ.

(1) $f\in C^1(\R)$は$f(0)\neq0$かつ$f'(0)\neq0$をみたすとする.このとき

    \begin{align*}F(x)= \begin{cases} f(x)&(x\ge0)\\ a_1f(-x)+a_2f(-2x)&(x<0) \end{cases}\end{align*}

で定められる関数$F$が$C^1(\R)$に属するような定数の組$(a_1,a_2)$を求めよ.

(2) $f\in C^2(\R)$は$f^{(k)}(0)\neq0$ ($k=0,1,2$)をみたすとする.このとき

    \begin{align*}F(x)= \begin{cases} f(x)&(x\ge0)\\ b_1f(-x)+b_2f(-2x)+b_3f(-3x)&(x<0) \end{cases}\end{align*}

で定められる関数$F$が$C^2(\R)$に属するような定数の組$(b_1,b_2,b_3)$を求めよ.

(3) $m$を正の整数とする.$f\in C^{m-1}(\R)$は$f^{(k)}(0)\neq0\ (k=0,1,\dots,m-1)$をみたすとする.このとき

    \begin{align*}F(x)= \begin{cases} f(x)&(x\ge0)\\ \dsum_{k=1}^{m}c_kf(-kx)&(x<0) \end{cases}\end{align*}

で定められる関数$F$が$C^{m-1}(\R)$に属するような定数の組$(c_1,c_2,\dots,c_m)$がただ一つ存在することを示せ.

解答の方針

$C^n(\R)$は$n$回までの導関数が全て存在して連続であるような$\R$上の関数の集合のことであった.

(1) $F$が$C^1(\R)$に属するためには,$F$の0への右極限,左極限が一致することと,$F$の1階導関数$F’$の0への右極限,左極限が一致することが必要十分である.

(2) (1)と同様にすればよい.(1)と異なる点は$F”$の0での連続性を考えなければならないことだけである.

(3) (1),(2)と同様に考えれば,ある$n$次連立方程式がただ1つの解のみ持つことを示すことに帰着される.この連立方程式の係数行列の行列式はVandermondeの行列式なので0でないことが分かる.

解答例


(1) $0\in\R$以外での$F$, $F’$の連続性は成り立つ.

よって,$F\in C^1(\R)$であるためには,$\lim\limits_{x\to+0}F(x)=\lim\limits_{x\to-0}F(x)$かつ$\lim\limits_{x\to+0}F'(x)=\lim\limits_{x\to-0}F'(x)$であることが必要十分である.

$f(0),f'(0)\neq0$だから,

    \begin{align*}\begin{cases} \lim\limits_{x\to+0}F(x)=\lim\limits_{x\to-0}F(x)\\ \lim\limits_{x\to+0}F'(x)=\lim\limits_{x\to-0}F'(x) \end{cases} \iff&\begin{cases} f(0)=a_1f(0)+a_2f(0)\\ f'(0)=-a_1f'(0)-2a_2f'(0) \end{cases} \\\iff& \begin{cases} 1=a_1+a_2\\ 1=-a_1-2a_2 \end{cases} \\\iff& \begin{cases} a_1=3\\ a_2=-2 \end{cases}\end{align*}

である.したがって,$F\in C^{1}(\R)$となるような組$(a_1,a_2)$は$(a_1,a_2)=(3,-2)$である.

(2) $0\in\R$以外での$F^{(k)}$ ($k=0,1,2$)の連続性は成り立つ.

よって,$F\in C^1(\R)$であるためには,$\lim\limits_{x\to+0}F^{(k)}(x)=\lim\limits_{x\to-0}F^{(k)}(x)$ ($k=0,1,2$)であることが必要十分である.

$f^{(k)}(0)\neq0$ ($k=0,1,2$)だから

    \begin{align*}\begin{cases} \lim\limits_{x\to+0}F(x)=\lim\limits_{x\to-0}F(x)\\ \lim\limits_{x\to+0}F'(x)=\lim\limits_{x\to-0}F'(x)\\ \lim\limits_{x\to+0}F''(x)=\lim\limits_{x\to-0}F''(x) \end{cases} \iff& \begin{cases} f(0)=b_1f(0)+b_2f(0)+b_3f(0)\\ f'(0)=-b_1f'(0)-2b_2f'(0)-3b_3f'(0)\\ f''(0)=b_1f''(0)+4b_2f''(0)+9b_3f''(0) \end{cases} \\\iff& \begin{cases} 1=b_1+b_2+b_3\\ 1=-b_1-2b_2-3b_3\\ 1=b_1+4b_2+9b_3 \end{cases} \\\iff& \begin{cases} b_1=6\\ b_2=-8\\ b_3=3 \end{cases}\end{align*}

である.したがって,$F\in C^{2}(\R)$となるような組$(b_1,b_2,b_3)$は$(b_1,b_2,b_3)=(6,-8,3)$である.

(3) $0\in\R$以外での$F^{(k)}$ ($k=0,1,\dots,m-1$)の連続性は成り立つ.

よって,$F\in C^{m-1}(\R)$であるためには,$\lim\limits_{x\to+0}F^{(k)}(x)=\lim\limits_{x\to-0}F^{(k)}(x)$ ($k=0,1,\dots,m-1$)であることが必要十分である.

$f^{(k)}(0)\neq0$ ($k=0,1,\dots,m-1$)だから

    \begin{align*}& \begin{cases} \lim\limits_{x\to+0}F(x)=\lim\limits_{x\to-0}F(x)\\ \lim\limits_{x\to+0}F'(x)=\lim\limits_{x\to-0}F'(x)\\ \hspace{3em}\vdots\\ \lim\limits_{x\to+0}F^{(m-1)}(x)=\lim\limits_{x\to-0}F^{(m-1)}(x) \end{cases} \\\iff& \begin{cases} f(0)=c_1f(0)+c_2f(0)+\dots+c_mf(0)\\ f'(0)=(-1)c_1f'(0)+(-2)c_2f'(0)+\dots+(-m)c_mf'(0)\\ \hspace{3em}\vdots\\ f^{(m-1)}(0)=(-1)^{m-1}c_1f^{(m-1)}(0)+(-2)^{m-1}c_2f^{(m-1)}(0)+\dots+(-m)^{m-1}c_mf^{(m-1)}(0) \end{cases} \\\iff& \begin{cases} 1=c_1+c_2+\dots+c_m\\ 1=(-1)c_1+(-2)c_2+\dots+(-m)c_m\\ \hspace{3em}\vdots\\ 1=(-1)^{m-1}c_1+(-2)^{m-1}c_2+\dots+(-m)^{m-1}c_m \end{cases}\end{align*}

である.$c_1,c_2,\dots,c_m$に関する係数行列の行列式

    \begin{align*}\vmat{ 1&1&\dots&1\\ -1&-2&\dots&-m\\ \vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\ (-1)^{m-1}&(-2)^{m-1}&\dots&(-m)^{m-1} }\end{align*}

はVandermondeの行列式だから正則だから,連立方程式(1)はちょうど一つ解$(c_1,c_2,\dots,c_m)$をもつ.

したがって,$F\in C^{m-1}(\R)$となるような$(c_1,c_2,\dots,c_m)$の組がちょうど一つ存在する.

問3

$(X,d)$を距離空間,$A$を$X$の空でない部分集合とする.このとき次の各問いに答えよ.

(1) $A$が開集合であること,および$A$が閉集合であることの定義をそれぞれ述べよ.

(2) $A$の点列$\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$が$X$のある点$a$に収束しているとする.$A$が閉集合ならば,$a$は$A$の点であることを示せ.

(3) $X$の点$x$に対して,$d_{A}(x)=\inf\set{d(a,x)}{a\in A}$と定める.$A$が閉集合のとき,$d_{A}(x)=d(a,x)$となる$A$の点$a$は常に存在するか.存在するならば証明し,存在しないならばその例を一つ挙げよ.

解答の方針

(1) 距離空間の開集合は全ての開近傍を含む集合族である.閉集合は開集合の補集合である.

(2) 背理法による.すなわち,$a\in X\setminus A$として矛盾を導く.$A$が閉集合であることから,$A$上の点列は$A$上に極限を持つ.一方,$a\in X\setminus A$だから,$$の近傍ですっぽり$X\setminus A$に含まれるものが存在する.これは矛盾.

(3) 常に存在するとは限らない.

$\R$を成分とする数列空間を考える.この数列空間は$x_1$軸上,$x_2$軸,……と可算無限個の軸が存在する空間で,第$n$成分が$x_n$軸上にあるというイメージで理解できる.

そこで,$x_n$軸上$1+(1/n)$の位置にある点を$\alpha_n$というように定めると,$\alpha_1$と原点の距離,$\alpha_2$と原点の距離,$\alpha_3$と原点の距離,……は1に近づくが1にはならない.

この集合は孤立点のみからなるため閉なので,これらの集合$\{\alpha_1,\alpha_2,\dots\}$が反例になっている.

解答例


$U_{r}(a):=\set{x\in X}{d(a,x)<r}$と定める.

(1) $A$が開集合であるとは,任意の$a\in A$に対し,ある$r>0$が存在して$U_{r}(a)\subset A$をみたすことをいう.

$A$が閉集合であるとは,$A$の補集合$A^{c}=X\setminus A$が閉集合であることをいう.

(2) 背理法により示す.すなわち,$a\notin A$と仮定して矛盾を導く.

このとき,$a\in X\setminus A$で$X\setminus A$は開集合だから,ある$r>0$が存在して,$U_{r}(a)\subset X\setminus A$をみたす.

一方, $\lim\limits_{n\to\infty}a_n=a$より,上の$r$に対して

    \begin{align*}\exi n_0\in\N\quad s.t.\quad \brc{n>n_0\ \Ra\ d(a_n,a)<r}\end{align*}

が成り立つが, 各$n$に対して$a_n\in A$だったから, これは矛盾である.

(3) 存在しない. 反例を以下で構成する.

$X$を実成分の数列全体の集合とし, $a=\{a_n\}_{n\in\N}$, $b=\{b_n\}_{n\in\N}\in X$に対して

    \begin{align*}d(a,b)=\sum_{n=1}^{\infty}|a_n-b_n|\end{align*}

によって写像$d:X\to\R$を定める.このとき,$a,b,c\in X$として

    \begin{align*}d(a,a)=0,\quad d(a,b)=d(b,a),\quad d(a,c)\le d(a,b)+d(b,c)\end{align*}

が成り立つから,$d$は$X$上の距離となり,

    \begin{align*}x:=(0,0,0,\dots)\quad A:=\set{x_n:=\bra{0,\dots,0,1+\frac{1}{n},0,0,\dots}\in X}{n\in\N}\end{align*}

(すなわち,$A$は第$n$項の値が$1+\dfrac{1}{n}$で他の項の値が0である数列$x_n$全体の集合)は反例である.

[1] $A$が閉集合であることを示す.

$A$上の任意の収束列$\{a_n\}_{n\in\N}$に対して,$a_n\to a$ ($n\to\infty$)なる$a\in X$が存在する.

収束列の定義から,

    \begin{align*}\exi n_0\in\N\quad s.t.\quad \brc{n>n_0\ \Ra\ d(a_{n},a)<1}\end{align*}

みたす.また,$a,b\in X$が$a\neq b$なら$d(a,b)>2$なので,ある$n_0\in\N$が存在して,$n>n_0$のとき$a=a_n$となる.

よって,$a\in A$を得る.$\{a_n\}_{n\in\N}$は$A$の任意の列だったから$A$は閉集合.

[2] $d_{A}(x)=d(a,x)$なる$a\in A$が存在しないことを示す.

$d(x_n,x)=1+\dfrac{1}{n}$より$d_{A}(x)=1$であるが,任意の$a\in A$に対して$d(a,x)>1$となるから,$d_{A}(x)=d(a,x)$をみたす$a\in A$は存在しない.

以上より,この集合$X$, 部分集合$A\subset X$, 点$x\in X$は反例になっている.

参考文献

以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.

詳解と演習大学院入試問題〈数学〉

[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]

理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.

実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.

第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率

一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

演習 大学院入試問題

[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]

上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.

全2巻で,

1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計

が扱われています.

地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.

なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

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