2016大学院入試|大阪市立大学 数物系専攻(数学系)|基礎的分野

書評
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2016年度の大阪市立大学 理学研究科 数物系専攻(数学系)の大学院入試問題の「基礎的分野」の解答の方針と解答です.

ただし,採点基準などは公式に発表されていないため,ここでの解答が必ずしも正解とならない場合もあり得ます.ご注意ください.

また,十分注意して解答を作成していますが,論理の飛躍・誤りが残っている場合があります.

なお,過去問は大阪市立大学のサポートセンターで借りて,コピーすることができます.

【参考:大阪市立大学/理学部・理学研究科/大学院入試情報

大阪府立大学との合併により過去問の入手方法は不明です.

問題と解答の方針

問題は3問あり,全3問解答します.試験時間は2時間30分です.

私が打ち出したものですが,問題のPDFはこちらにあります.(H28_基礎的分野)

なお,解答作成には万全を期していますが,論理の飛躍や穴があることは有り得ます.

問1

$c_1,\dots,c_n$を複素数とし,$n$次複素正方行列行列$A$を

    \begin{align*}A=\pmat{0& 1& 0& \dots& 0\\ \vdots& \ddots& \ddots& \ddots& \vdots\\ \vdots& & \ddots& \ddots& 0\\ 0& \dots& \dots& 0& 1\\ c_n& \dots& \dots& c_2& c_1}\end{align*}

により定める.

また$A$の固有多項式を$f(t)$とする.次の各問に答えよ.

(1) $f(t)$を求めよ.

(2) $\alpha$を$A$の固有値とするとき,$A$の固有値$\alpha$に属する固有空間を求めよ.

(3) $f(t)$が$f(t)=(t-\alpha_1)^{m_1}\dots(t-\alpha_r)^{m_r}$と因数分解できるとする.ただし,$\alpha_1,\dots,\alpha_r$は相異なる複素数,$m_1,\dots,m_r$は正の整数とする.このとき$A$のジョルダン標準形を求めよ.

(4) $A$の最小多項式を求めよ.

解答の方針

(1) $f(t)=|tI-A|$を余因子展開により求めればよい.このとき,列に関して展開すれば漸化式ができて容易に展開$f(t)$が求まる.

(2) 行基本変形により$\alpha I-A$を階段行列に変形して,固有値を求めればよい.このとき,$(n,n)$成分から順に第$n$行が全て0になるようにするとうまくいく.

なお,$\alpha$は$A$の固有値,$f(t)$は$A$の固有多項式なので,$f(\alpha)=0$が成り立つことに注意.

(3) (2)で$A$の任意の固有値に関する固有空間は$\C$上1次元であることが分かるから,各固有値に関するジョルダン細胞は1つしか存在しない.

(4) 代数学の基本定理より,$f(t)$は(3)の仮定のように因数分解できる.

解答例


(1) $k=1,\dots,n$に対し,$k$次複素正方行列$A_k(t)$を

    \begin{align*}A_k:=\vmat{ t& -1& 0& \dots& 0\\ \vdots& \ddots& \ddots& \ddots& \vdots\\ \vdots& & \ddots& \ddots& 0\\ 0& \dots& \dots& t& -1\\ -c_k& \dots& \dots& -c_2& t-c_1 }\end{align*}

で定める.$k\ge2$のとき,

    \begin{align*}A_{k}(t) =&t\vmat{ t& -1& 0& \dots& 0\\ \vdots& \ddots& \ddots& \ddots& \vdots\\ \vdots& & \ddots& \ddots& 0\\ 0& \dots& \dots& t& -1\\ -c_{k-1}& \dots& \dots& -c_2& t-c_1 } +(-1)^{k+1}(-c_k)\vmat{ -1& 0& \dots& \dots& 0\\ t& -1& \ddots& & 0\\ \vdots& \ddots& \ddots& \ddots& \vdots\\ \vdots& & \ddots& \ddots& 0\\ 0& \dots& \dots& t& -1 } \\=&tA_{k-1}(t)+(-1)^{k+1}(-c_k)(-1)^{k-1} \\=&tA_{k-1}(t)-c_k\end{align*}

だから,$k=n,n-1,\dots,2$を順に適用して,

    \begin{align*}f(t) =&A_n(t) \\=&tA_{n-1}(t)-c_n \\=&t\bra{tA_{n-2}(t)-c_{n-1}}-c_n \\=&t^2A_{n-2}(t)-c_{n-1}t-c_n \\=&\dots \\=&t^{n-1}A_{1}(t)-c_{2}t^{n-2}-\dots-c_{n-1}t-c_n \\=&t^{n-1}(t-c_1)-c_{2}t^{n-2}-\dots-c_{n-1}t-c_n \\=&t^n-c_1t^{n-1}-c_{2}t^{n-2}-\dots-c_{n-1}t-c_n\end{align*}

が得られる.

(2) $\alpha$は$A$の固有値で,$f(t)$は$A$の固有多項式だから,

    \begin{align*}f(\alpha)=0 \iff \alpha^n-c_1\alpha^{n-1}-c_{2}\alpha^{n-2}-\dots-c_{n-1}t-c_n=0\end{align*}

をみたすことに注意する.

第$n$行の成分が0になるように$(n,n)$成分から順に行基本変形すると,

    \begin{align*}\alpha I-A =&\vmat{ \alpha& -1& 0& \dots& 0\\ \vdots& \ddots& \ddots& \ddots& \vdots\\ \vdots& & \ddots& \ddots& 0\\ 0& \dots& \dots& \alpha& -1\\ -c_n& \dots& \dots& -c_2& \alpha-c_1 } \\\to&\vmat{ \alpha& -1& 0& \dots& 0\\ \vdots& \ddots& \ddots& \ddots& \vdots\\ \vdots& & \ddots& \ddots& 0\\ 0& \dots& \dots& \alpha& -1\\ -c_n& \dots& \dots& -c_2+\alpha(\alpha-c_1)& 0 } \\\to&\dots \\\to&\vmat{ \alpha& -1& 0& \dots& 0\\ \vdots& \ddots& \ddots& \ddots& \vdots\\ \vdots& & \ddots& \ddots& 0\\ 0& \dots& \dots& \alpha& -1\\ f(\alpha)& 0& \dots& 0& 0 } \\=&\vmat{ \alpha& -1& 0& \dots& 0\\ \vdots& \ddots& \ddots& \ddots& \vdots\\ \vdots& & \ddots& \ddots& 0\\ 0& \dots& \dots& \alpha& -1\\ 0& \dots& \dots& 0& 0 }\end{align*}

となるから,$A$の$\alpha$に属する固有空間は

    \begin{align*}\set{A\m{v}=\alpha\m{v}}{\m{v}\in\C^n} =&\set{(\alpha I-A)\m{v}=\m{0}}{\m{v}\in\C^n} \\=&\set{c\bmat{1\\\alpha\\\vdots\\\alpha^n}\in\C^n}{c\in\C}\end{align*}

である.

(3) (2)から$A$の任意の固有値に属する固有空間は$\C$上1次元だから,$A$のJordan標準形の任意の固有値に関するJordan細胞は1個である.

$A$の固有多項式$f(t)$が$f(t)=(t-\alpha_1)^{m_1}\dots(t-\alpha_r)^{m_r}$と因数分解できるとき,$A$の固有値は$\alpha_1,\dots,\alpha_r$で全部だから,$A$のJordan標準形は

    \begin{align*}J_{m_1}(\alpha_1)\oplus \dots\oplus J_{m_r}(\alpha_r) =\bmat{ J_{m_1}(\alpha_1)&O&\dots&O\\ O&J_{m_2}(\alpha_2)&\ddots&\vdots\\ \vdots&\ddots&\ddots&O\\ O&\dots&O&J_{m_r}(\alpha_r) }\end{align*}

である.ただし,$J_{m}(\alpha)$は$\alpha$に関する$m$次のJordan細胞である.

(4) 代数学の基本定理より,相異なる$\alpha_1,\dots,\alpha_r\in\C$と相異なる$m_1,\dots,m_r\in\N$が存在して,$f(t)=(t-\alpha_1)^{m_1}\dots(t-\alpha_r)^{m_r}$と因数分解できる.

このとき,(3)より$A$のJordan標準形は$J_{m_1}(\alpha_1)\oplus \dots\oplus J_{m_r}(\alpha_r)$だから,最小多項式は$f(t)$である.

問2

次の各問いに答えよ.

(1) 広義積分$\dint_0^{\infty}\dfrac{\sin x}{x}\,dx$が収束することを,数列$a_n=\dint_0^{n}\dfrac{\sin x}{x}dx$ $(n\in\N)$がコーシー列であることを示すことにより証明せよ.

(2) 広義積分$\dint_0^{\infty}\abs{\dfrac{\sin x}{x}}\,dx=\dsum_{k=1}^{\infty}\dint_{(k-1)\pi}^{k\pi}\abs{\dfrac{\sin x}{x}}\,dx$は発散することを示せ.

(3) 広義積分$\dint_0^{\infty}\dfrac{\sin^2 x}{x}\,dx$は発散することを示せ.

(4) 広義積分$\dint_0^{\infty}\bra{\dfrac{\sin x}{x}}^2\,dx$は収束することを示せ.

解答の方針

(1) $m,n\in\N$ $(m>n)$に対して,$|a_m-a_n|\to0$ $(n\to\infty)$が成り立つことを示せば良い.

積分範囲は閉区間$[n,m]$なので,$x$が十分大きいところでの可積分性が問題となる.したがって,$\frac{\sin x}{x}$の分母が$x$でなく,$x^2$となってくれれば嬉しい.

そこで,部分積分を用いると,分母が$x^2$となってうまくいく可能性がみえる.

ただし,任意の$n\in\N$に対して$a_n$が有限であることは,$(0,n]$での$\frac{\sin x}{x}$の連続性と,$x\to+0$で$\frac{\sin x}{x}\to1$となることから分かる.

(2) 各$k\in\N$に対し,積分区間を$[(k-\frac{3}{4})\pi,(k-\frac{1}{4})\pi]$に制限して,下から評価すると$\dsum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k}=\infty$により発散が得られる.

(3) (2)と同様に発散が得られる.

(4) $(0,1]$と$[1,\infty)$で積分が有限であることをみれば良い.イメージは(1)と同様である.

解答例


(1) 任意の$n$に対し,$\dfrac{\sin x}{x}$は$(0,n]$で連続であり,$x\to+0$の極限は$n<\infty$だから,$\dfrac{\sin x}{x}$は$(0,n]$で有界である.

よって,$a_n$は有限の値を取る.

任意に$\epsilon>0$をとる.$m,n\in\N$が$m>n>2/\epsilon$をみたすとすると,

    \begin{align*}|a_m-a_n| =&\abs{\int_{n}^{m}\frac{\sin x}{x}\,dx} \\=&\abs{-\int_{n}^{m}\frac{(\cos x)'}{x}\,dx} \\=&\abs{\brc{\frac{\cos x}{x}}_{n}^{m}-\int_{n}^{m}\frac{\cos x}{-x^{2}}\,dx} \\\le&\abs{\frac{\cos m}{m}}+\abs{\frac{\cos n}{n}}+\abs{\int_{n}^{m}\frac{\cos x}{x^{2}}\,dx} \\\le&\frac{1}{m}+\frac{1}{n}+\int_{n}^{m}\abs{\frac{\cos x}{x^{2}}}\,dx \\\le&\frac{1}{m}+\frac{1}{n}+\int_{n}^{m}\frac{1}{x^{2}}\,dx \\=&\frac{1}{m}+\frac{1}{n}+\brc{-\frac{1}{x}}_{n}^{m} \\=&\frac{2}{n} <\epsilon\end{align*}

となるから,$\R$上の列$\{a_n\}_{n\in\N}$はCauchy列,したがって収束列である.

よって,広義積分$\dint_0^{\infty}\dfrac{\sin x}{x}\,dx$は収束する.

(2), (3) $\dsum_{k=1}^{\infty}\dfrac{1}{k}=\infty$だから,

    \begin{align*}\int_{0}^{\infty}\abs{\frac{\sin x}{x}}\,dx =&\sum_{k=1}^{\infty}\int_{(k-1)\pi}^{k\pi}\abs{\frac{\sin x}{x}}\,dx \\\ge&\sum_{k=1}^{\infty}\int_{(k-\frac{3}{4})\pi}^{(k-\frac{1}{4})\pi}\abs{\frac{\sin x}{x}}\,dx \\\ge&\sum_{k=1}^{\infty}\int_{(k-\frac{3}{4})\pi}^{(k-\frac{1}{4})\pi}\frac{1}{\sqrt{2}}\cdot\frac{1}{(k-\frac{1}{4})\pi}\,dx \\=&\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\pi}{2}\cdot\dfrac{1}{\sqrt{2}}\cdot\frac{1}{(k-\frac{1}{4})\pi} \\=&\frac{1}{2\sqrt{2}}\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k-\frac{1}{4}} \\\ge&\frac{1}{2\sqrt{2}}\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k} =\infty, \\\int_{0}^{\infty}\frac{\sin^2 x}{x}\,dx =&\sum_{k=1}^{\infty}\int_{(k-1)\pi}^{k\pi}\frac{\sin^2 x}{x^2}\,dx \\\ge&\sum_{k=1}^{\infty}\int_{(k-\frac{3}{4})\pi}^{(k-\frac{1}{4})\pi}\frac{\sin^2 x}{x}\,dx \\\ge&\sum_{k=1}^{\infty}\int_{(k-\frac{3}{4})\pi}^{(k-\frac{1}{4})\pi}\frac{1}{2}\cdot\frac{1}{(k-\frac{1}{4})\pi}\,dx \\=&\sum_{k=1}^{\infty}\frac{\pi}{2}\cdot\frac{1}{2}\cdot\frac{1}{(k-\frac{1}{4})\pi} \\=&\frac{1}{4}\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k-\frac{1}{4}} \\\ge&\frac{1}{4}\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k} =\infty.\end{align*}

となる.よって,広義積分$\dint_0^{\infty}\abs{\dfrac{\sin x}{x}}dx$, $\dint_0^{\infty}\dfrac{\sin^2 x}{x}\,dx$は発散する.

(4) $\dfrac{\sin x}{x}$は$(0,1]$で連続であり,$x\to+0$の極限は$1<\infty$だから,$\dfrac{\sin x}{x}$は$(0,1]$で有界である.

よって,$M:=\sup\limits_{x\in(0,1]}\dfrac{\sin x}{x}<\infty$とすると,

    \begin{align*}\int_{0}^{1}\bra{\dfrac{\sin x}{x}}^2dx \le\int_{0}^{1}M^2dx =M^2 <\infty\end{align*}

となる.また,

    \begin{align*}\int_{1}^{\infty}\bra{\frac{\sin x}{x}}^2dx \le\int_{1}^{\infty}\frac{1}{x^2}dx =\brc{-\frac{1}{x}}_{1}^{\infty} =1<\infty\end{align*}

となる.よって,広義積分$\dint_0^{\infty}\bra{\dfrac{\sin x}{x}}^2\,dx$は収束する.

問3

次の各問いに答えよ.

(1) $I=[0,1]$(開区間),$J=[0,1)$(半開区間)とする.$I,J$には$\R$の標準的位相(ユークリッド空間としての位相)の相対位相として定まる部分空間の位相を定める.

(a) $J$から$I$への連続な全射をひとつ定義せよ.

(b) $I$から$J$への連続な全射は存在しないことを示せ.

(2) $X$を距離空間とし,$d$をその距離とする.

(a) $X$がハウスドルフ空間であることを示せ.

(b) $X$のコンパクト部分集合$K$と$x\in X-K$に対し,$X$の開集合$U$で

$U\not\ni x$ かつ $U\supset K$

となるものが存在することを示せ.

解答の方針

(1)(a) 単射である必要はない.$f([0,1/2])=I$となるようにとり,$J$で連続であるものは容易に定義できる.

(1)(b) 背理法による.すなわち,連続な全射$f:I\to J$が存在するとして矛盾を導く.$I$はコンパクトで$f$は連続だからHeineの定理より$f$は$I$上で最大値$y$をもつ.$(y,1)\cap J\neq\emptyset$は$f$の全射性に矛盾する.

(2)(a) $x_1,x_2\in X$ $(x_1\neq x_2)$を任意にとる.$x_1\in U_1$, $x_2\in U_2$, $U_1\cap U_2=\emptyset$となる開集合$U_1$, $U_2$をとればよいが,$x_1$, $x_2$$を中心とする十分半径の小さい開円板をそれぞれ$U_1$, $U_2$とすればよい.

(2)(b) Hausdorff空間は$T_1$空間だから一点集合${x}$は閉である.よって,$U:=X-{x}$とすればよい.

解答例


(1)(a) 写像$f:J\to I$を

    \begin{align*}f(x)= \begin{cases} 2x & (x\in [0,\frac{1}{2}])\\ 1 & (x\in (\frac{1}{2},1)) \end{cases}\end{align*}

で定めると,$f$は連続かつ全射である.

実際,$[0,\frac{1}{2})$, $(\frac{1}{2},1]$での連続性は明らかであり,$\lim\limits_{x\to\frac{1}{2}-0}f(x)=\lim\limits_{x\to\frac{1}{2}+0}f(x)=f(\frac{1}{2})$より$\frac{1}{2}\in J$でも連続であるから,$f$は$J$上で連続である.

また,任意の$y\in I$に対し,$f(y/2)=y$であるから$f$は全射である.

(1)(b) 背理法により示す.すなわち,連続な全射$f:I\to J$が存在すると仮定して矛盾を導く.

$I$はコンパクトで$f$は連続だからHeineの定理より$f$は$x\in I$が存在して,$f(x)\in J$は$f$の最大値となる.

一方,$f(x)<1$より$\dfrac{f(x)+1}{2}\in J$だから$x’\in I$が存在して$f(x’)=\dfrac{f(x)+1}{2}$となるが,$f(x)<\dfrac{f(x)+1}{2}$であるから$x$の定め方に矛盾する.

よって,全射$f:I\to J$は存在しない.

(2)(a) $x_1,x_2\in X$ $(x_1\neq x_2)$を任意にとる.このとき,

    \begin{align*}\alpha:=d(x_1,x_2),\quad U_1:=\set{x\in X}{d(x,x_1)<\dfrac{d}{3}},\quad U_2:=\set{x\in X}{d(x,x_2)<\dfrac{d}{3}}\end{align*}

と定めると,$U_1$, $U_2$はともに開集合で,$x_1\in U_1$, $x_2\in U_2$, $U_1\cap U_2=\emptyset$をみたす.

実際,$(X,d)$は距離空間だから$U_1$, $U_2$の定め方からともに開集合である.

また,$x_1\neq x_2$より$\alpha>0$なので$d(x_i,x_i)<\alpha/3$ $(i=1,2)$だから,$x_i\in U_i$ $(i=1,2)$である.

最後に,$z\in U_1\cap U_2$が存在すると仮定すると,

    \begin{align*}\alpha =d(x_1,x_2) \le d(z,x_1)+d(z,x_2) <\dfrac{\alpha}{3}+\dfrac{\alpha}{3} =\dfrac{2\alpha}{3}\end{align*}

から$\alpha<0$となって矛盾するから$U_1\cap U_2=\emptyset$が従う.

よって,距離$d$によって定まる位相を考えたときの位相空間$X$はHausdorff空間である.

(2)(b) Hausdorff空間は$T_1$空間だから,任意のコンパクト部分集合$K\subset X$と$x\in X-K$に対し,$X\setminus\{x\}$は開集合で$x\notin U$かつ$K\subset U$が成り立つ.

よって,$U=X-\{x\}$とすれば題意をみたす$U$となる.

解答を見てわかるように,(2)(b)は条件がやや過剰である(Hausdorff空間まで必要ではなく$T_1$空間で十分).

実際にどうであったかは分からないが,もともと定理「Hausdorff空間のコンパクト集合は閉集合である」を示す問題に近いものだったのではないかと推察する.

示させたい結果を削りすぎて,問題として条件が過剰になったのかも知れない.

参考文献

以下,私も使ったオススメの入試問題集を挙げておきます.

詳解と演習大学院入試問題〈数学〉

[海老原円,太田雅人 共著/数理工学社]

理工系の修士課程への大学院入試問題集ですが,基礎〜標準的な問題が広く大学での数学の基礎が復習できる総合問題集として利用することができます.

実際,まえがきにも「単なる入試問題の解説にとどまらず,それを通じて,数学に関する読者の素養の質を高めることにある」と書かれているように,必ずしも大学院入試を受験しない一般の学習者にとっても学びやすい問題集です.また,構成が読みやすいのも個人的には嬉しいポイントです.

第1章 数え上げと整数
第2章 線形代数
第3章 微積分
第4章 微分方程式
第5章 複素解析
第6章 ベクトル解析
第7章 ラプラス変換
第8章 フーリエ変換
第9章 確率

一方で,問題数はそれほど多くないので,多くの問題を解きたい方には次の問題集もオススメです.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

演習 大学院入試問題

[姫野俊一,陳啓浩 共著/サイエンス社]

上記の問題集とは対称的に問題数が多く,まえがきに「修士の基礎数学の問題の範囲は,ほぼ本書中に網羅されている」と書かれているように,広い分野から問題が豊富に掲載されています.

全2巻で,

1巻第1編 線形代数
1巻第2編 微分・積分学
1巻第3編 微分方程式
2巻第4編 ラプラス変換,フーリエ変換,特殊関数,変分法
2巻第5編 複素関数論
2巻第6編 確率・統計

が扱われています.

地道にきちんと地に足つけた考え方で解ける問題が多く,確かな「腕力」がつくテキストです.入試では基本問題は確実に解けることが大切なので,その意味で試験への対応力が養われると思います.

なお,私自身は受験生時代に計算力があまり高くなかったので,この本の問題で訓練したのを覚えています.

なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.

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