複素解析3
複素平面で積分しよう!複素積分の具体例も紹介

複素解析の基本
複素解析の基本

前回の記事では複素関数(複素変数の複素数値関数)の微分について説明しました.

複素解析は複素関数の微分と積分を考える分野なので,この記事では複素関数の積分である複素積分(または複素線積分ともいう)考えていきます.

微分積分学で学ぶリーマン積分は実数変数$x$を区間$[a,b]$で動かして考える積分$\dint_{a}^{b}f(x)\,dx$でした.

これに対して,複素解析で学ぶ複素積分は複素変数$z$を複素平面上の曲線$C$上で動かして考える積分$\dint_{C}f(z)\,dz$です.

実はリーマン積分と複素積分の違いはこれだけで,リーマン積分の定義を理解していれば複素積分の定義も同様に理解することができます.

この記事では

  • リーマン積分の考え方
  • 複素積分の定義
  • 複素積分の具体例

を順に説明します.

リーマン積分と複素積分

最初にリーマン積分がどのような考え方の積分だったかを確認し,そのあとに複素積分を定義します.

リーマン積分の復習

微分積分学で学ぶ基本の積分はリーマン積分で,長方形で面積を近似する考え方の積分なのでした.

下図の水色領域の面積をリーマン積分の考え方で考えてみましょう.

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区間$[a,b]$上の有界関数$f$を用意します.区間$[a,b]$を

   \begin{align*} x_{0}<x_{1}<x_{2}<\dots<x_{n}\quad(a=x_{0},b=x_{n}) \end{align*}

と分割し,全ての小区間$[x_{i-1},x_{i}]$上に代表点$\xi_{i}$をとります($i=1,\dots,n$).

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このときの各小区間$[x_{i-1},x_{i}]$でできる長方形の面積を足し合わせたものは

   \begin{align*} \sum_{i=1}^{n}f(\xi_{i})(x_{i}-x_{i-1})\quad\dots(*) \end{align*}

となりますね.この$(*)$は目標としている最初の水色部分の面積の近似になっており,この和をリーマン和というのでした.

しかし,今の状態ではあくまで近似でしかありません.そこで,小区間$[x_{i-1},x_{i}]$の幅$x_{i}-x_{i-1}$が全て0に近付くように極限をとると,誤差はどんどん小さくなり最初の水色部分の面積に収束しそうに思えます.

そこで,代表点$\xi_{i}$の取り方によらず$(*)$が同じ値に近付くなら,$[a,b]$上で$f$はリーマン可積分であるといい,その値を

   \begin{align*} \int_{a}^{b}f(x)\,dx \end{align*}

と表し,これを$[a,b]$上の$f$のリーマン積分というのでした.

高校数学で学ぶ区分求積法は小区間$[x_{i-1},x_{i}]$の幅が全て同じで代表点を左端$\xi_{i}=x_i$(または右端$\xi_{i}=x_{i-1}$)にとるという考え方なので,リーマン積分の考え方の特別な場合になっていますね.

関数$f$によってはリーマン積分が存在しないことがありますが,ここでは次の事実を押さえておきましょう.

[連続関数のリーマン積分] 関数$f$が$[a,b]$上の連続なら,$[a,b]$上で$f$はリーマン可積分である.

複素積分の定義

リーマン積分は数直線上の区間$[a,b]$上で変数$x$を動かして考える積分でしたが,複素積分は複素平面上の曲線$C$上で変数$z$を動かして考える積分です.

以下,複素積分の定義は少し長いですが,やっていることはリーマン積分の定義と同じです.

[複素積分] 複素平面上の有限の長さをもつ曲線$C$と$C$上で連続な複素関数$f$を考える.$C$は向き付きとし,$C$の始点を$\alpha$,終点を$\beta$とする.

曲線$C$を

   \begin{align*} z_{0},z_{1},z_{2},\dots,z_{n}\quad(\alpha=z_{0},\beta=z_{n}) \end{align*}

で順に分割する.

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さらに,曲線$C$上の$z_{i-1}$から$z_{i}$の間(端点含む)の点$\xi_{i}$をとる($i=1,\dots,n$).

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このとき,和

   \begin{align*} \sum_{i=1}^{n}f(\xi_{i})(z_{i}-z_{i-1})\quad\dots(*) \end{align*}

で$z_{i}-z_{i-1}$が全て0に近づくように極限をとったとき,$\xi_i$の取り方によらず和$(*)$は一定の値に近付き,この値を積分経路$C$上の$f$の複素積分(または複素線積分)といい

   \begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz \end{align*}

と表す.

先ほど紹介したように連続関数のリーマン積分は必ず存在するのでした.複素積分でも和$(*)$の極限が必ず収束することは$f$が$C$上で連続関数であるという仮定から,リーマン積分と同様に示すことができます.

リーマン積分と複素積分では「区間$[a,b]$」が「始点$\alpha$から終点$\beta$までの曲線$C$」に変わっているだけで,和が

   \begin{align*} \sum_{i=1}^{n}f(\xi_{i})(x_{i}-x_{i-1}) \quad\leftrightarrow\quad \sum_{i=1}^{n}f(\xi_{i})(z_{i}-z_{i-1}) \end{align*}

と対応しているのが分かりますね.

つまり,複素積分の積分経路$C$を実軸上の区間$[a,b]$とすると,まさにリーマン積分を考えていることになります.

言い換えれば,実数上だけで変数を動かして考えるリーマン積分を,複素平面上で変数を動かして考える積分に拡張したものが複素積分ということになりますね.

複素積分自体に「面積」を求めるという役割はありませんが,のちに「実数の関数の微分積分」に応用することができます.

その応用において,この一連の記事の目標である留数定理が役立ちます.

複素積分の基本性質

定義が同様なだけあって,リーマン積分と同様の性質が複素積分でも成り立ちます.

以下のものは全て証明も同様なので,証明は実数の場合を参照して頂くとして主張のみ書きます.

[線形性] 複素平面上の曲線$C$上で連続な複素関数$f$, $g$と,任意の$k,\ell\in\C$に対して

   \begin{align*} \int_{C}(kf(z)+\ell g(z))\,dz =k\int_{C}f(z)\,dz+\ell\int_{C}g(z)\,dz \end{align*}

が成り立つ.

次の命題はリーマン積分の$\dint_{a}^{b}f(x)\,dx=\dint_{a}^{c}f(x)\,dx+\dint_{c}^{b}f(x)\,dx$に対応しています.

複素平面上の2曲線$C$, $C’$について,$C$の終点と$C’$の始点は等しいとする.

$C$と$C’$を繋げた曲線$C\cup C’$上で連続な複素関数$f$に対して

   \begin{align*} \int_{C\cup C'}f(z)\,dz =\int_{C}f(z)\,dz+\int_{C'}f(z)\,dz \end{align*}

が成り立つ.

次の命題はリーマン積分の$\dint_{a}^{b}f(x)\,dx=-\dint_{b}^{a}f(x)\,dx$に対応しています.

複素平面上の曲線$C$上で連続な複素関数$f$に対して

   \begin{align*} \int_{C}f(z)\,dz =-\int_{-C}f(z)\,dz \end{align*}

が成り立つ.ただし,$-C$は$C$の向きを逆にした曲線を表す.

複素積分の具体例

それでは具体的に複素積分を計算してみましょう.

$, $z$の複素積分

複素平面上の有限の長さをもつ曲線$C$の始点と終点をそれぞれ$\alpha$, $\beta$とする.このとき,次の複素積分を求めよ.

   \begin{align*} &(1)\int_{C}\,dz &(2)\int_{C}z\,dz \end{align*}

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定義に従って計算しましょう.

$f$も$g$も複素平面$\C$全体で連続なので,代表点$\xi_i$の取り方によらず和$\dsum_{i=1}^{n}f(\xi_{i})(z_{i}-z_{i-1})$は収束します.よって,$\xi_i$として$\xi_i=z_i$や$\xi_i=z_{i-1}$としても収束することに注意してください.


$f(z)=1$, $g(z)=z$とし,曲線$C$を

   \begin{align*} z_{0},z_{1},z_{2},\dots,z_{n}\quad(\alpha=z_{0},\beta=z_{n}) \end{align*}

で順に分割します.

(1) 和$\dsum_{i=1}^{n}f(z_{i})(z_{i}-z_{i-1})$は多くの項が打ち消し合い

   \begin{align*} \sum_{i=1}^{n}f(z_{i})(z_{i}-z_{i-1}) =\sum_{i=1}^{n}1\cdot(z_{i}-z_{i-1}) =z_n-z_0 =\beta-\alpha \end{align*}

となりますから,複素積分の定義より$z_{i}-z_{i-1}$が全て0に近づくように極限をとると

   \begin{align*} \int_{C}\,dz=\beta-\alpha \end{align*}

と計算できました.

(2) 複素積分の定義より,$z_{i}-z_{i-1}$が全て0に近づくように極限をとると

   \begin{align*} &I:=\sum_{i=1}^{n}g(z_{i})(z_{i}-z_{i-1})=\sum_{i=1}^{n}z_{i}(z_{i}-z_{i-1}), \\&I\!I:=\sum_{i=1}^{n}g(z_{i-1})(z_{i}-z_{i-1})=\sum_{i=1}^{n}z_{i-1}(z_{i}-z_{i-1}) \end{align*}

はどちらも$\dint_{C}z\,dz$に収束しますね.また,多くの項が打ち消し合い

   \begin{align*} I+I\!I =&\{({z_1}^2-z_1z_0)+({z_2}^2-z_2z_1)+\dots+({z_n}^2-z_nz_{n-1})\}\\ &\quad+\{(z_0z_1-{z_0}^2)+(z_1z_2-{z_1}^2)+\dots+(z_{n-1}z_n-{z_{n-1}}^2)\} \\=&{z_n}^2-{z_0}^2 =\beta^2-\alpha^2 \end{align*}

となりますから,$z_{i}-z_{i-1}$が全て0に近づくように極限をとると

   \begin{align*} 2\int_{C}z\,dz=\beta^2-\alpha^2 \end{align*}

となって$\dint_{C}z\,dz=\dfrac{1}{2}(\beta^2-\alpha^2)$と計算できました.

複素積分の計算方法

上の2つの例では積分経路によらず値が求まりましたが,積分経路は具体的に与えられていることもよくあります.

$n$を$-1$でない整数とし,$R>0$とする.複素平面上の曲線$C$を原点中心,半径$R$の円周とする.このとき,次の複素積分を求めよ.

   \begin{align*} &(1)\int_{C}z^{n}\,dz &(2)\int_{C}\frac{1}{z}\,dz \end{align*}

ただし,積分経路$C$の向きは反時計回りとする.

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積分経路が具体的に与えられている場合には$z\in C$を実数に変数変換して実数の積分に帰着させることができます.

この問題では$C$は原点中心,半径$R$の円周なので,$z\in C$は$z=R(\cos{t}+i\sin{t})$ ($0\le t\le2\pi$)と極形式で表せますね.

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この等式は$z$を$t$に置換していることになっていますから,両辺を$t$で微分して

   \begin{align*} \od{z}{t}=R(\sin{t}-i\cos{t}) \end{align*}

なので,リーマン積分の置換積分と同様に

  • $z=R(\cos{t}+i\sin{t})$
  • $dz=R(\sin{t}-i\cos{t})\,dt$
  • $t$は$0\le t\le2\pi$を動く

と書き換えることができます.

複素積分がリーマン積分と同様に定義されているので,複素積分でも置換積分できることはリーマン積分と同様に証明できます.


$z\in C$は$z=R(\cos{t}+i\sin{t})$ ($0\le t\le2\pi$)と極形式で表せる.$\od{z}{t}=R(-\sin{t}+i\cos{t})$なので

   \begin{align*} (1)\quad&\int_{C}z^{n}\,dz \\=&\int_{0}^{2\pi}R^{n}(\cos{nt}+i\sin{nt})\cdot R(-\sin{t}+i\cos{t})\,dt \\=&R^{n+1}\int_{0}^{2\pi}\{(-\sin{nt}\cos{t}-\cos{nt}\sin{t})+i(\cos{nt}\cos{t}-\sin{nt}\sin{t})\}\,dt \\=&R^{n+1}\int_{0}^{2\pi}\{-\sin{(n+1)t}+i\cos{(n+1)t}\}\,dt =0, \\(2)\quad&\int_{C}\frac{1}{z}\,dz =\int_{C}\frac{\overline{z}}{|z|^{2}}\,dz =\frac{1}{R^{2}}\int_{C}\overline{z}\,dz \\=&\frac{1}{R^{2}}\int_{0}^{2\pi}R(\cos{t}-i\sin{t})\cdot R(-\sin{t}+i\cos{t})\,dt \\=&\int_{0}^{2\pi}i(\cos^{2}{t}+\sin^{2}{t})\,dt =\int_{0}^{2\pi}i\,dt =2\pi i \end{align*}

である.

この問題の面白いところは,円周$C$の半径$R$がどんな値であっても積分の値が同じであるという点です.

また,(1)にいたっては$n$が$-1$でない整数なら常に複素積分の値は0です.

このことは偶然ではなく背景にはコーシーの積分定理が背景にあります(さらに言えばローラン展開).次の記事では,コーシーの積分定理について説明します.

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