ルベーグ積分1
外測度とは何か?集合の「長さ」の測り方

大学の微分積分学で学ぶリーマン積分 (Riemann integral)は定義域を細かく分割して長方形近似によって面積を求める積分で,このことからリーマン積分は「縦切りの積分」ということができます.

一方,ルベーグ積分 (Lebesgue integral)はリーマン積分とは対照的に値域に注目して分割する積分で,このことからルベーグ積分は「横切りの積分」と言われることもあります.

Rendered by QuickLaTeX.com

ルベーグ積分は定義までは少々道のりが長いものの,一度整備してしまえば非常に性質がよく扱い易い積分となっています.

さて,ルベーグ積分を考えるには「集合の『長さ』」が鍵となります.

例えば「区間$[0,1]$の長さ」はもちろん$1$ですが,それでは「区間$[0,1]$上の有理数の集合$\Q\cap[0,1]$の長さ」はどのように考えればよいでしょうか?

Rendered by QuickLaTeX.com

集合$\Q\cap[0,1]$は「まばら」な集合なので,我々がこれまで考えてきた「長さ」とは少し考え方を変える必要がありそうですね.そこで,ルベーグ積分では「区間の長さ」を拡張した概念として「集合の測度 (measure)」を定義します.

ただ,一般には測度の前に外測度 (outer measure)を準備し,外測度をもとに速度を定義することが多いです.そこで,この記事では

  • 外測度の定義
  • 集合の外測度の具体例

を順に説明します.具体例では「まばら」な集合$\Q\cap[0,1]$の外測度が$0$であることも証明します.

なお,前もってルベーグ積分がどのような積分か概要を知っておきたい方は,以下のリンクから「ルベーグ積分超入門」の記事もぜひ参照してみてください.

参考文献

以下は参考文献です.この記事の著者も数学教室の集団授業の指定テキストとして使っています.

ルベグ積分入門

[吉田洋一 著/ちくま学芸文庫]

初学者向けに丁寧に書かれたルベーグ積分の入門書です.

初版は1965年でもとは培風館から出版されていましたが,現在は筑摩書房より出版されているロングセラーの教科書です.

現在は文庫ですが内容は培風館の時と同じくきちんと専門的で,文庫になったことで1500円程度とずいぶん安く購入できるようになりました

第1章ではリーマン積分と比べてルベーグ積分がどのように「良い積分」となっているのか説明されているのは初学者がルベーグ積分のイメージをつくる際に役立ちますね.

また,第2章で「集合と写像の基本事項」について説明しており,数学的な基礎が不安な人にも配慮されています.

ルベーグ積分の重要定理である「ルベーグの収束定理」(テキストの表記では「Lebesgueの項別積分定理」)は第5章にあります.

なお,第6章ではルベーグ積分と微分の関係,第7章では多変数のルベーグ積分,第8章以降では測度論の一般論が説明されています.

外測度

外測度とは集合の「長さ」を外側から測るもので,冒頭で説明したように測度を定義するために重要な役割を果たします.

区間の長さ

外測度を定義するために,まずは基本となる区間の長さを定義しておきます.

$a,b\in\R$は$a<b$を満たすとする.このとき,右半開区間$[a,b)$の長さを

\begin{align*} |[b-a)| \end{align*}

と表し$b-a$と定める.

Rendered by QuickLaTeX.com

「なぜ右半開区間なのか」というと,右半開区間であれば$[0,1)\cup[1,3)=[1,3)$のようにピッタリと被ることなく区間を繋げることができたり,簡単に書ける場合が多いためです.

理論上は開区間でも,閉区間でも,左半開区間でも問題ないのですが,この一連の記事では右半開区間に対して長さを定義して話を進めます.

右半開区間と同じように左半開区間も扱い易いのですが,右半開区間を選んだ理由は特にありません.左半開区間が好きな人は左半開区間と思って読み進めても構いません,

外測度の考え方

下図のような集合$A\subset\R$を考えて,この集合$A$の「長さ」を測る方法を考えましょう.

Rendered by QuickLaTeX.com

この集合$A$を右半開区間で覆うことを考えますが,例えば下図のような右半開区間$I_1$, $I_2$によって集合$A$を覆うことができますね.

Rendered by QuickLaTeX.com

このように考えると,集合$A$の「長さ」は右半開区間$I_1$, $I_2$の長さの和以下であると言えそうですね.つまり

$(\text{集合$A$の「長さ」})\le|I_1|+|I_2|$

が成り立つと言えそうです.

ただ,この$I_1$, $I_2$は少し「ゆとり」をもって$A$を覆っているので,もっと「ゆとり」を小さく例えば以下のように覆うこともできますね.

Rendered by QuickLaTeX.com

この覆い方でもやはり

$(\text{集合$A$の「長さ」})\le|I’_1|+|I’_2|+|I’_3|$

が成り立つと言えそうです.

ただ,やはりまだ$I’_2$には余裕がありますが,このように「ゆとり」を小さくしていけば,$|I_n|$たちの和が集合$A$の「長さ」に近付いていくと言えそうですね.

外測度の定義

以上のように,集合$A\subset\R$を右半開区間$I_1,I_2,I_3,\dots$で覆う方法は無数に考えられますが,

\begin{align*} \sum_{n=1}^{\infty}|I_n|=|I_1|+|I_2|+|I_3|+\dots \end{align*}

ができるだけ小さくなるようにしたとき,これは集合$A$の「長さ」と言えそうに思います.

この考え方で集合$A$の「長さ」を測るものを外測度といいます.

定義域を$\mathcal{P}(\R)$とする写像$\mu^{*}$を

$m^{*}(A)=\inf\set{\dsum_{n=1}^{\infty}|I_n|}{\begin{gathered}A\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}I_n,\\\text{$I_n$は右半開区間}\end{gathered}}$

で定める.この写像$m^{*}$をルベーグ外測度または単に外測度と言う.

ただし,$A$を覆う右半開区間が有限個の場合,$\sum_{n=1}^{\infty}|I_n|$は有限和とみなす.

$\mathcal{P}(\R)$は$\R$の部分集合全部の集合です.つまり,外測度$m^{*}$は「$\R$の部分集合を与えるとひとつ($\infty$を含めた)値を返す写像」と言うことができますね.

この$\mathcal{P}(\R)$は$\R$の冪集合 (power set)と言い,$2^{\R}$と表すこともあります.

実数の連続性公理より$\R$の部分集合の下限$\inf$は($\pm\infty$を許して)必ず存在するので,$m^{*}$は任意の$A\subset\R$に対して意味を持ちますね.

なお,外測度という理由は集合を右半開区間で「外」から被覆して「測る」ものだからですね.

この外測度でもほとんど集合の「長さ」を測れているのですが,外測度ではまだ不都合なこともあります(どのような不都合があるかは後の記事で説明します).

外測度の具体例

いくつかの集合の外測度の簡単な具体例を考えましょう.

空集合の外測度

空集合$\emptyset$の外測度が$0$であることを示せ.すなわち,$m^{*}(\emptyset)=0$を示せ.


外測度の定義より$0\le m^{*}(\emptyset)$です.

また,空集合$\emptyset$は任意の集合の部分集合なので,任意の$\epsilon>0$に対して$\emptyset\subset[0,\epsilon)$です.よって,外測度の定義より

\begin{align*} m^{*}(\emptyset)\le|[0,\epsilon)|=\epsilon \end{align*}

なので,$\epsilon$の任意性より$m^{*}(\emptyset)\le0$が成り立ちます.

以上より$m^{*}(\emptyset)=0$が得られました.

可算集合の外測度

可算集合$A\subset\R$の外測度が$0$であることを示せ.すなわち,$m^{*}(A)=0$を示せ.

ただし,ここでの可算集合とは有限集合または可算無限集合のことをいう.


$A=\{a_1,a_2,\dots\}$を可算無限集合とします.外測度の定義より$0\le m^{*}(\emptyset)$です.

また,任意の$\epsilon>0$に対して,$I_n:=\left[a_n,a_n+\frac{\epsilon}{2^n}\right)$とおくと,$A\subset\bigcup_{n=1}^{\infty}I_n$ですね.

Rendered by QuickLaTeX.com

よって,外測度の定義より

\begin{align*} m^{*}(A) \le\sum_{n=1}^{\infty}|I_n| =\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\epsilon}{2^n} =\epsilon \end{align*}

なので,$\epsilon$の任意性より$m^{*}(A)\le0$が成り立ちます.

以上より$m^{*}(A)=0$が得られました.また,有限集合$A=\{a_1,a_2,\dots,a_n\}$に対しても同様に$m^{*}(A)=0$が得られますね.

等比級数$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{2^n}=1$は当たり前にしておきたいですね.

有理数全部の集合$\Q$は可算集合なので

\begin{align*} m^{*}(\Q)=0 \end{align*}

が従いますね.さらに,冒頭で問題提起した集合$\Q\cap[0,1]$も可算集合なので

\begin{align*} m^{*}(\Q\cap[0,1])=0 \end{align*}

も従いますね.