ルベーグ積分はどんな関数に対しても定義できるわけではなく,ルベーグ可測関数と呼ばれる関数に限って定義されます.
そのため,ルベーグ積分を考える上でルベーグ可測関数がどのような関数であるかを知っておくことは大切です.
この記事では
- ルベーグ可測関数の定義
- ルベーグ可測関数の具体例
- ルベーグ可測関数であるための必要十分条件
を順に説明します.
「ルベーグ積分の基本」の一連の記事
- ルベーグ積分入門
- ルベーグ測度
- ルベーグ可測関数とルベーグ積分
ルベーグ可測関数の定義
どんな$\alpha\in\R$に対しても$f(x)$が$\alpha$以上となる$x$の集合が可測集合であるとき,関数$f$を可測関数といいます.
可測集合$A$に対して,関数$f:A\to\overline{\R}$が$A$上ルベーグ可測関数または単に可測関数であるとは,任意の$\alpha\in\R$に対して
が可測集合であることをいう.
ただし,$f$の終集合$\overline{\R}$は拡大実数$\R\cup\{\infty,-\infty\}$である.
ここまでで
- ルベーグ可測集合
- ルベーグ可測関数
の2つの「可測」が定義されました.そのため,「可測」とあったときには可測集合なのか可測関数なのか注意してください.
ルベーグ可測関数の具体例
いくつか具体的に可測関数を考えてみましょう.
具体例1(1次関数)
関数$f:\R\to\R$を$f(x)=\frac{1}{2}x$で定めるとき,$f$が$\R$上ルベーグ可測関数であることを証明せよ.
具体例2(対数関数)
$I=[0,\infty)$とする.関数$f:I\to\R$を$f(x)=-\log{x}で定めるとき,$f$が$I$上ルベーグ可測関数であることを証明せよ.
具体例3(2次関数)
関数$f:\R\to\R$を
で定めるとき,$f$が$\R$上ルベーグ可測関数であることを証明せよ.
任意に$\alpha\in\R$をとる.
[1]$\alpha\le0$のとき
である.ただし,最後の$\in\mathcal{L}$では,$\R$は可測集合であることを用いた.
[2]$\alpha>0$のとき
である.ただし,最後の$\in\mathcal{L}$では,一般に区間は可測集合,可測集合の和集合も可測集合であることを用いた.
[1][2]より,任意の$\alpha\in\R$に対して$\set{x\in\R}{f(x)\ge\alpha}$が可測集合であることが分かったから,$f$はルベーグ可測関数である.
具体例4(ディリクレ関数)
関数$f:\R\to\R$を
で定めるとき,$f$が$\R$上ルベーグ可測関数であることを証明せよ.
この関数$f$をディリクレ関数といい,
- $f(4)=f\bra{\frac{1}{2}}=f\bra{\frac{4}{3}}=1$
- $f(-\sqrt{2})=f(\pi)=f(\log_{2}{5})=0$
のように,有理数を代入すると1を返し,無理数を代入すると0を返すような関数です.
任意に$\alpha\in\R$をとる.
[1]$\alpha\le0$のとき
である.ただし,最後の$\in\mathcal{L}$では,$\R$は可測集合であることを用いた.
[2]$0<\alpha\le1$のとき
である.ただし,最後の$\in\mathcal{L}$では,
であることを用いた.
[3]$1<\alpha$のとき
である.ただし,最後の$\in\mathcal{L}$では,空集合$\emptyset$は可測集合であることを用いた.
[1]〜[3]より,任意の$\alpha\in\R$に対して$\set{x\in\R}{f(x)\ge\alpha}$が可測集合であることが分かったから,$f$はルベーグ可測関数である.
ディリクレ関数は$\R$の全ての点で不連続なのでリーマン積分不可能ですが,ルベーグ積分可能な関数の代表例としてよく知られています.
ルベーグ可測関数であるための必要十分条件
ルベーグ可測関数であるための必要十分条件を2つ紹介します.
必要十分条件1(4種類の集合の可測性)
可測集合$A$と関数$f:A\to\overline{\R}$に対して,次は同値である.
- 任意の$\alpha\in\R$に対して$\set{x\in A}{f(x)\ge\alpha}\in\mathcal{L}$
- 任意の$\alpha\in\R$に対して$\set{x\in A}{f(x)>\alpha}\in\mathcal{L}$
- 任意の$\alpha\in\R$に対して$\set{x\in A}{f(x)\le\alpha}\in\mathcal{L}$
- 任意の$\alpha\in\R$に対して$\set{x\in A}{f(x)<\alpha}\in\mathcal{L}$
条件(1)が関数$f$がルベーグ可測関数であることの定義でしたから,条件(2), (3), (4)を示しても関数$f$がルベーグ可測であることになりますね.
一般に可測集合の補集合は可測集合であり,
から$(1)\iff(4)$が成り立つ.同様に$(2)\iff(3)$が成り立つから,あとは$(1)\iff(2)$を示せばよい.
[$(1)\Ra(2)$の証明]任意に$\alpha\in\R$をとる.(1)が成り立つなら
なので,
である.ただし,最後の$\in\mathcal{L}$では,ルベーグ可測集合族$\mathcal{L}$は完全加法族であることを用いた.
[$(2)\Ra(1)$の証明]任意の$\alpha\in\R$をとる.(2)が成り立つなら
なので,
である.ただし,最後の$\in\mathcal{L}$では,一般に可算無限個の可測集合の共通部分も可測集合であることを用いた.
必要十分条件1から導かれる系
これらを組み合わせると,次の系が成り立つことも分かりますね.
$\alpha,\beta\in\R$とする.可測集合$A$と関数$f:A\to\overline{\R}$とに対して,次の集合はいずれも可測集合である.
必要十分条件2(定義より緩い条件)
可測集合$A$と関数$f:A\to\overline{\R}$に対して,次は同値である.
- 任意の$\alpha\in\R$に対して$\set{x\in A}{f(x)\ge\alpha}\in\mathcal{L}$
- 任意の$r\in\Q$に対して$\set{x\in A}{f(x)\ge r}\in\mathcal{L}$
(1)より(2)の方が緩い条件になっていることに注意してください.
条件(1)が関数$f$がルベーグ可測関数であることの定義でしたから,(2)が成り立てば自動的に関数$f$がルベーグ可測関数であることになりますね.
(1)が成り立てば,任意の$r\in\Q\subset\R$に対して$\set{x\in A}{f(x)\ge r}$は可測集合だから(2)が成り立つ.
一方,(2)が成り立つとし,任意に$\alpha\in\R$をとる.
$\R$における$\Q$の稠密性より$\lim\limits_{n\to\infty}r_n=\alpha$となる単調増加有理数列$\{r_n\}$が存在する.(2)より
だから,
である.ただし,最後の$\in\mathcal{L}$では,一般に可測集合の共通部分も可測集合であることを用いた.
コメント
確率論を理解したいので、時間が空いた時に数学を勉強している社会人です。このサイトはとても分かりやすいのでルベーグ積分を理解できそうな気がしてきました。とても助かっています。
コメントをありがとうございます! 分かりやすいとのこと嬉しいです.
そうですね.ルベーグ積分を学んでおくと確率論(測度論)に流用できる考え方も多いので,その順で勉強するのはとても良い戦略だと思います.