ルベーグ積分6
ルベーグ測度の本質的に重要な4つの性質

ルベーグ積分の基本
ルベーグ積分の基本

以前の記事で定義したように,ルベーグ外測度$m^{*}$の定義域$\mathcal{P}(\R)$をルベーグ可測集合全体の族$\mathcal{L}$に制限してできる写像をルベーグ測度$m$というのでした.

ルベーグ測度$m$はルベーグ積分において本質的に重要なので,ルベーグ測度$m$の性質を理解しておくことはとても大切です.

さて,$\R$の部分集合全部に対して定義されるルベーグ外測度$m^{*}$は5つの性質「非負値性」「単調性」「平行移動不変性」「劣加法性」「区間の外測度」が成り立つことを以前の記事で説明しました.

一方,ルベーグ測度$m$は定義域をルベーグ可測集合全体の族$\mathcal{L}$という「良い性質をもつ集合たち」に制限しているため,ルベーグ外測度$m^{*}$よりも良い性質を持つことが期待できます.

そこで,この記事ではルベーグ測度$m$の本質的に重要な4つの性質

  1. 非負値性
  2. 平行移動不変性
  3. 完全加法性
  4. 区間の外測度

を説明し,最後に測度空間に触れます.

参考文献(ルベーグ積分)

ルベグ積分入門

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ルベーグ積分と関数解析

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ルベーグ外測度$m^{*}$の5つの性質の復習

以前の記事でルベーグ外測度$m^{*}$は次の5つの性質を満たすことを証明しました.

ルベーグ外測度$m^{*}$は次の5つの性質を満たす.

[非負値性] 集合$A\subset\R$に対して$m^{*}(A)\ge0$が成り立つ.また,$m^{*}(\emptyset)=0$が成り立つ.

[平行移動不変性] 集合$A, B\subset\R$が平行移動で移り合うとき$m^{*}(A)=m^{*}(B)$が成り立つ.

[単調性] 集合$A, B\subset\R$が$A\subset B$を満たすとき$m^{*}(A)\le m^{*}(B)$が成り立つ.

[劣加法性] 集合$A_1, A_2,\dots\subset\R$に対して$m^{*}\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}\le\sum\limits_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)$が成り立つ.

[区間の外測度] 右半開区間$I\subset\R$に対して,$m^{*}(I)=|I|$が成り立つ.

それぞれ言葉で説明すると,次のように言うことができますね:

  • どんな集合$A$の外測度も$0$以上であり,空集合$\emptyset$の外測度は$0$である.
  • 平行移動して移り合う2つの集合$A$, $B$の外測度は等しい.
  • 大きい集合$B$の外測度の方が,小さい集合$A$の外測度より大きいか等しい.
  • 集合たち$A_1, A_2,\dots$の和集合の外測度は,それぞれの外測度の和に等しい.
  • 右半開区間$I$の外測度は,その右半開区間$I$の長さに等しい.
ルベーグ積分2|外測度の本質的に重要な5つの性質
ルベーグ外測度の「非負値性」「単調性」「劣加法性」「平行移動不変性」「区間の外測度」は本質的に重要な性質であり,ルベーグ測度の定義の土台となります.この記事では,これらの性質が重要な理由と,それぞれの性質の説明と証明をしています.

しかし,ルベーグ外測度$m^{*}$は後に説明する(以前の記事でも少し触れた)完全加法性と呼ばれる性質は満たしません.

この「完全加法性を満たさない」という点が,測度論における外測度$m^{*}$の致命的な欠点になっています.

ルベーグ測度$m$の本質的な4つの性質

さて,ルベーグ測度$m$は次の4つの性質を満たします.

ルベーグ測度$m$は次の4つの性質を満たす.

[非負値性] 集合$A\in\mathcal{L}$に対して$m(A)\ge0$が成り立つ.また,$m(\emptyset)=0$が成り立つ.

[平行移動不変性] 集合$A,B\in\mathcal{L}$が平行移動で移り合うとき$m(A)=m(B)$が成り立つ.

[完全加法性] 互いに素な集合$A_1, A_2,\dots\in\mathcal{L}$に対して$m\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}=\sum\limits_{n=1}^{\infty}m(A_n)$が成り立つ.

[区間の外測度] 右半開区間$I\subset\R$に対して,$m(I)=|I|$が成り立つ.

ルベーグ測度$m$は外測度$m^{*}$の定義域を$\mathcal{L}$に制限してできる写像なので,$m$の非負値性,平行移動不変性,区間の外測度はそれぞれ$m^{*}$の非負値性,平行移動不変性,区間の外測度から成り立つことが分かります.

区間の外測度について,任意の区間$I$が可測であることは前回の記事で証明したので,$m(I)$は定義されています.

しかし,完全加法性に相当する性質は外測度$m^{*}$では成り立たないので,$m^{*}$の性質から直ちに成り立つとは言えません.

$m$の完全加法性のための復習

そこで,$m$の完全加法性の証明のために,前々回の記事で示した次の補題を思い出しておきましょう.

$A_1,A_2,\dots\in\mathcal{L}$が互いに素なら,任意の$X\subset\R$と$n\in\N$に対して

   \begin{align*}m^{*}(X\cap B_n)=\sum_{k=1}^{n}m^{*}(X\cap A_k)\end{align*}

が成り立つ.ただし,$B_n=\bigcup\limits_{k=1}^{n}A_k$ ($n\in\N$)である.

また,前々回の記事では次の定理も示しました.

$A_1,A_2,\dots\in\mathcal{L}$に対して,$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n\in\mathcal{L}$が成り立つ.

$m$の定義域はルベーグ可測集合全体の族$\mathcal{L}$でしたから,完全加法性の$m\bra{\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n}$を考えるためには$\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\in\mathcal{L}$でなければなりませんが,この定理はこのことを保証してくれているわけですね.

ルベーグ積分4|可測集合の基本性質のまとめと完全加法族
ルベーグ外測度m*の定義域ルベーグ可測集合全部の族Lに制限してできる写像mをルベーグ測度というのでした.この記事では,Lが完全加法族であることの証明を目標に,基本性質をまとめます.

$m$の完全加法性の証明

上の復習から$m$の完全加法性を示しましょう.

[完全加法性(再掲)] 互いに素な集合$A_1, A_2,\dots\in\mathcal{L}$に対して$m\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}=\sum\limits_{n=1}^{\infty}m(A_n)$が成り立つ.


$A=\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n$, $B_n=\bigcup\limits_{k=1}^{n}A_k$とする.

$m^{*}$の劣加法性より

   \begin{align*}m^{*}(A) =m^{*}\bra{\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n} \le\sum_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)\end{align*}

が成り立つから,逆向きの不等式$m^{*}(A)\ge\sum_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)$を示せば良い.

$B_n\in\mathcal{L}$だから,任意の$X\subset\R$に対して

   \begin{align*}m^{*}(X)=m^{*}(X\cap B_n)+m^{*}(X\cap B_n^c)\end{align*}

が成り立つから,上の復習の補題を第1項目に用いると,

   \begin{align*}m^{*}(X)=\sum_{k=1}^{n}m^{*}(X\cap A_k)+m^{*}(X\cap B_n^c)\end{align*}

が成り立つ.ここで$X=A$とすると,

   \begin{align*}m^{*}(A) =&\sum_{k=1}^{n}m^{*}(A\cap A_k)+m^{*}(A\cap B_n^c) \\\ge&\sum_{k=1}^{n}m^{*}(A_k)\end{align*}

が成り立つ.よって,$n\to\infty$とすれば$m^{*}(A)\ge\sum_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)$が成り立つ.

ルベーグ測度$m$の完全加法性から

  • 単調性:$A,B\in\mathcal{L}$に対して$A\subset B\Ra m(A)\le m(B)$
  • 劣加法性:$A_1, A_2,\dots\in\mathcal{L}$に対して$m^{*}\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}\le\sum\limits_{n=1}^{\infty}m^{*}(A_n)$

が成り立つことはすぐに分かります.しかし,逆に単調性と劣加法性から完全加法性を導くことはできません.

つまり,外測度$m^{*}$で成り立つ単調性と劣加法性より少し良い性質になっているわけですね.

測度空間

前回の記事で$(\R,\mathcal{L})$が可測空間であることを説明しました.

なお,可測空間の定義は以下の通りでしたね.

集合$\Omega$を考える.$\mathcal{F}\subset\mathcal{P}(\Omega)$が次を満たすとき,$\mathcal{F}$を完全加法族 (completely additive class)といい,組$(\Omega,\mathcal{F})$を可測空間 (measurable space)という.

  • $\Omega\in\mathcal{F}$
  • $A\in\mathcal{F}\Ra A^c\in\mathcal{F}$
  • $A_1,A_2,\dots\in\mathcal{F}$に対して$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n\in\mathcal{F}$が成り立つ.

また,測度空間という概念もあり,次のように定義されます.

可測空間$(\Omega,\mathcal{F})$を考える.写像$\mu:\mathcal{F}\to[0,\infty]$が次を満たすとき,$\mu$を測度 (measure)といい,組$(\Omega,\mathcal{F},\mu)$を測度空間 (measure space)という.

  • $\mu(\emptyset)=0$
  • 互いに素な$A_1,A_2,\dots\in\mathcal{F}$に対して$\mu\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}=\sum\limits_{n=1}^{\infty}\mu(A_n)$が成り立つ.

$\mathcal{F}$が完全加法族であることから,$\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n\in\mathcal{F}$なので$\mu\bra{\bigcup\limits_{n=1}^{\infty}A_n}$は問題なく定義されていますね.

ルベーグ測度と同じく2つ目の性質を完全加法性といい,この記事で示したことから$(\R,\mathcal{L},m)$は測度空間ということができますね.

この測度空間$(\R,\mathcal{L},m)$をルベーグ測度空間 (Lebesgue measure space)といいます.

この記事ではこれ以上詳しくは説明しませんが,測度空間は測度論における基本的な概念であり,このためルベーグ測度の完全加法性は測度論的に本質的に重要な性質といえます.

可測関数

この記事までで「どのような集合に対して,集合の長さをどのように測ればよいか?」という問題に対して

  • ルベーグ可測集合に対して
  • ルベーグ測度$m$で測ればよい

という考えまで辿り着きました.

次の記事からは「どのような関数に対して,どのように積分を定義すればよいか?」という新しいステージに突入します.

ルベーグ積分を考えられる関数をルベーグ可測関数といいます.

次の記事では

  • ルベーグ可測関数の定義
  • ルベーグ可測関数の具体例

を順に説明します.

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