$1$と$-1$を交互に足し続ける級数
は部分和が$1$と$0$を繰り返すので収束しない級数ですね.
しかし,普通の級数の収束を拡張したチェザロ(Cesàro)総和という考え方のもとでは,級数$(*)$が$\dfrac{1}{2}$に総和可能であるということができます.
このように普通の意味では収束していない級数にも,Cesàro総和の意味では和を考えることができる場合があります.
この記事では,この級数の収束の拡張と考えられるCesàro総和を解説します.
ベースとなる問題
冒頭の級数の収束について,きちんと書くと次のようになります.
一般項が$a_{n}=(-1)^{n+1}$で定まる実数列$\{a_{n}\}$の級数
が収束しないことを示せ.
定義より,数列$\{a_{n}\}$の初項から第$n$項までの和を$s_{n}$とすると,問題の級数は
である.いま
だから$s_n$は収束しないので,級数は収束しない.
チェザロ総和の定義と意味
いまみたように級数
は普通の級数としては収束しませんが,Cesàro総和としては意味を持つことを証明することができます.
前提知識
Cesàro総和の定義の意味を理解するために,次の定理が重要です.
[収束列の平均極限] 実数列$\{s_{n}\}$が$s\in\R$に収束するとき,
が成り立つ.
極限をとる前の
は初項から第$n$項までの平均ですね.
実数列$\{s_{n}\}$が$s\in\R$に収束するということから,この平均で極限$n\to\infty$をとったものは「$s$にどこまでも近い項の無限個の平均」と考えられるので,$s$に収束することが直感的にも理解できますね.
これについて詳しくは以下の記事を参照してください.
チェザロ総和の定義
今の定理を踏まえて,次の通りCesàro総和が定義されます.
実数列$\{a_{n}\}$に対して,$s_{n}=a_{1}+a_{2}+\dots+a_{n}$とする.このとき,
が有限の値に収束するとき,$\{a_{n}\}$の級数はチェザロ(Cesàro)総和可能であるといい,この極限をCesàro総和という.
先ほどの[収束列の平均極限]の定理から,実数列$\{a_n\}$の級数が
と収束すれば,$\lim\limits_{n\to\infty}\dfrac{s_{1}+s_{2}+\dots+s_{n}}{n}=s$が成り立つのでした.
よって,$\{a_{n}\}$の級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}a_n$が値$s$に収束すれば,$\{a_{n}\}$はCesàro総和可能でCesàro総和は$s$となりますね.
重要なことはこの逆が成り立たないことです.つまり,Cesàro総和は普通の級数の拡張として捉えることができるわけですね.
チェザロ総和の具体例
それでは最後に,普通の意味では収束しない最初の級数の例が,Cesàro総和可能であることを確かめましょう.
一般項が$a_{n}=(-1)^{n+1}$で定まる実数列$\{a_{n}\}$の級数
はCesàro総和可能で,Cesàro総和が$\dfrac{1}{2}$であることを示せ.
実数列$\{a_{n}\}$の初項から第$n$項までの和$s_{n}$は
なので,
だからCesàro総和可能で,Cesàro総和は$\dfrac{1}{2}$となります.
なお,この$\dfrac{1}{2}$の直感的な理由付けとしては,この級数を$S$とおくと,
となるので,$-1+S=-S$から$S=\dfrac{1}{2}$となります.
ただし繰り返しますが,級数
は普通の意味では発散でしかありません.あくまでCesàro総和で意味をもつだけであることに注意してください.
コメント