上極限と下極限のイメージ
具体例から定義と性質を理解する

微分積分学
微分積分学

実数列$\{a_n\}$に対して極限$\lim\limits_{n\to\infty}a_n$を考えることはよくありますが,極限はいつでも存在するとは限らず,これによって数列の扱いが面倒になることは少なくありません.

そこで,極限の一歩手前のものとして

  • 上極限$\varlimsup\limits_{n\to\infty}a_n$ $\bra{\limsup\limits_{n\to\infty}a_n}$
  • 下極限$\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n$ $\bra{\liminf\limits_{n\to\infty}a_n}$

があり,上極限と下極限は($\pm\infty$を許せば)いつでも存在するという良さがあります.

上極限と下極限の定義は一見してややこしそうに見えますが,具体例を考えるとイメージはすぐに理解できるでしょう.

この記事では

  • 上極限と下極限の定義
  • 上極限と下極限の具体例
  • 上極限と下極限の性質

を順に説明します.

上極限と下極限

まずは上極限と下極限の定義を説明し,具体例を考えます.

定義

定義のためには上限下限が必要です.上限と下限について詳しくは以下の記事を参照してください.

微分積分学1|最大・最小より便利な上限・下限
例えば,「5未満の実数全部の集合」には最大値は存在しませんが,「5は最大っぽい値」という気持ちはありますね,そこで,「最大値もしくは最大っぽい値」を併せて上限といい,数学では頻繁に用いられます.同様に下限も定義されます.この記事では,上限とか下限の定義と基本性質を説明しています.

実数列$\{a_n\}$に対して,

   \begin{align*} \lim\limits_{n\to\infty}\biggl(\sup_{p\ge n}a_p\biggr),\quad \lim\limits_{n\to\infty}\biggl(\inf_{p\ge n}a_p\biggr) \end{align*}

をそれぞれ$\varlimsup\limits_{n\to\infty}a_n$, $\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n$と表し,数列$\{a_n\}$のじょう極限極限という.

上極限の$\sup\limits_{p\ge n}a_p$は$\sup\{a_n,a_{n+1},a_{n+2},\dots\}$のことで,下極限の$\inf\limits_{p\ge n}a_p$は$\inf\{a_n,a_{n+1},a_{n+2},\dots\}$のことですね.

つまり,

  • $a_1$以降の上限,$a_2$以降の上限,……と続けていったときの近付き先が上極限
  • $a_1$以降の下限,$a_2$以降の下限,……と続けていったときの近付き先が下極限

というわけですね.

上極限を$\limsup\limits_{n\to\infty}a_n$,下極限を$\liminf\limits_{n\to\infty}a_n$と表すこともあります.

具体例1

まずは簡単な例で丁寧に上極限と下極限を求めましょう.

一般項が$a_n=\dfrac{1}{n}$の数列$\{a_n\}$の上極限と下極限を求めよ.

数列$\{a_n\}$を初項から順に書き並べると

   \begin{align*}1,\ \frac{1}{2},\ \frac{1}{3},\ \frac{1}{4},\ \frac{1}{5},\dots\end{align*}

である.

Rendered by QuickLaTeX.com

[1] 上極限について

   \begin{align*} &\sup_{p\ge 1}a_p=1,\ \sup_{p\ge 2}a_p=\frac{1}{2},\ \sup_{p\ge 3}a_p=\frac{1}{3},\dots \end{align*}

である.つまり,$\sup\limits_{p\ge n}a_p=\dfrac{1}{n}$なので,

   \begin{align*}\varlimsup_{n\to\infty}a_n=\lim_{n\to\infty}\biggl(\sup_{p\ge n}a_p\biggr)=0\end{align*}

である.

[2] 下極限について

   \begin{align*} &\inf_{p\ge 1}a_p=0,\ \inf_{p\ge 2}a_p=0,\ \inf_{p\ge 3}a_p=0,\dots \end{align*}

である.つまり,$\inf\limits_{p\ge n}a_p=0$なので,

   \begin{align*}\varliminf_{n\to\infty}a_n=\lim_{n\to\infty}\biggl(\inf_{p\ge n}a_p\biggr)=0\end{align*}

である.

普通の極限$\lim\limits_{n\to\infty}a_n$も存在して$0$ですね.実は一般に

  • 上極限と下極限がともに$\alpha\in\R$に収束すること
  • 普通の極限が$\alpha\in\R$に収束すること

は同値です(のちに示します).

具体例2

一般項が$a_n=(-1)^n$の数列$\{a_n\}$の上極限と下極限を求めよ.

数列$\{a_n\}$を初項から順に書き並べると

   \begin{align*}-1,\ 1,\ -1,\ 1,\ -1,\dots\end{align*}

である.

Rendered by QuickLaTeX.com

[1] 上極限について

   \begin{align*}1=\sup_{p\ge 1}a_p=\sup_{p\ge 2}a_p=\sup_{p\ge 3}a_p=\dots\end{align*}

となり$\sup\limits_{p\ge n}a_p=1$だから,$\varlimsup\limits_{n\to\infty}a_n=0$である.

[2] 下極限について

   \begin{align*}-1=\inf_{p\ge 1}a_p=\inf_{p\ge 2}a_p=\inf_{p\ge 3}a_p=\dots\end{align*}

となり$\inf\limits_{p\ge n}a_p=-1$だから,$\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n=-1$である.

普通の極限$\lim\limits_{n\to\infty}a_n$は存在しませんが,上極限と下極限は存在していますね.

冒頭でも書いたように,実数列の上極限と下極限は($\pm\infty$を許せば)必ず存在します(のちに示します).

具体例3

一般項が

   \begin{align*}a_n=(-1)^n\bra{1+\frac{1}{n}}\end{align*}

の数列$\{a_n\}$の上極限と下極限を求めよ.

数列$\{a_n\}$を初項から順に書き並べると

   \begin{align*} -2,\ \frac{3}{2},\ -\frac{4}{3},\ \frac{5}{4},\ -\frac{6}{5},\ \frac{7}{6},\ -\frac{8}{7},\ \dots \end{align*}

である.

Rendered by QuickLaTeX.com

[1] 上極限について

   \begin{align*}&\sup_{p\ge 1}a_p=\sup_{p\ge 2}a_p=\frac{3}{2}, \\&\sup_{p\ge 3}a_p=\sup_{p\ge 4}a_p=\frac{5}{4}, \\&\sup_{p\ge 5}a_p=\sup_{p\ge 6}a_p=\frac{7}{6},\dots\end{align*}

となり,$\varlimsup\limits_{n\to\infty}a_n=1$である.

[2] 下極限について

   \begin{align*}&\inf_{p\ge 1}a_p=-2, \\&\inf_{p\ge 2}a_p=\sup_{p\ge 3}a_p=-\frac{4}{3} \\&\sup_{p\ge 4}a_p=\sup_{p\ge 5}a_p=-\frac{6}{5},\dots\end{align*}

となり,$\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n=-1$である.

上極限と下極限の性質

それでは,上極限と下極限の性質を説明します.

存在

以下,見やすくするため$\sup\limits_{p\ge n}a_p$を$\overline{a_n}$で表し,$\inf\limits_{p\ge n}a_p$を$\underline{a_n}$で表しましょう.

このとき,上極限は$\lim\limits_{n\to\infty}\overline{a_n}$と下極限は$\lim\limits_{n\to\infty}\underline{a_n}$と表せますね.

任意の実数列$\{a_n\}$に対して,上極限と下極限は($\pm\infty$を許せば)常に存在する.


便宜上,$\pm\infty$も実数として扱うと

  • $\{\overline{a_n}\}$は広義単調減少な数列
    $\{\underline{a_n}\}$は広義単調増加な数列

である.一般に広義単調する数列は($\pm\infty$を許して)極限をもつから,$\lim\limits_{n\to\infty}\overline{a_n}$, $\lim\limits_{n\to\infty}\underline{a_n}$が存在する.

すなわち,上極限と下極限が存在する.

$\pm\infty$を実数に加えた集合$\R\cup\{\pm\infty\}$を拡大実数といいます.上記の証明のように(一定の規則のもとで)拡大実数上では$\pm\infty$も実数のように扱うことが正当化できます.

不等式

普通の極限と同様に次が成り立ちます.

[命題1] 実数列$\{a_n\}$と$c\in\R$について,次が成り立つ.

  • ある$N\in\N$が存在して,$n>N$で$c\ge a_n$なら$c\ge\varlimsup\limits_{n\to\infty}a_n$が成り立つ.
  • ある$N\in\N$が存在して,$n>N$で$c\le a_n$なら$c\le\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n$が成り立つ.

$n>N$とする.$c\ge a_n$の両辺で上限$\sup\limits_{p\ge n}$をとって,極限$n\to\infty$をとると

   \begin{align*}c\ge\lim_{n\to\infty}\overline{a_n}=\varlimsup_{n\to\infty}a_n\end{align*}

を得る.

同様に$c\le a_n$の両辺で下限$\inf\limits_{p\ge n}$をとって,極限$n\to\infty$をとると$c\le\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n$が得られる.

上極限と下極限について,次は基本的な不等式です.

[命題2] 実数列$\{a_n\}$に対して,$\varlimsup\limits_{n\to\infty}a_n\ge\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n$が成り立つ.


一般に実数の集合$S$に対して$\sup S\ge \inf S$が成り立つから,任意の$n\in\N$に対して

   \begin{align*}&\sup\{a_n,a_{n+1},\dots\}\ge\inf\{a_n,a_{n+1},\dots\}\iff\overline{a_n}\ge\underline{a_n}\end{align*}

が成り立つ.よって,両辺で極限$n\to\infty$をとれば

   \begin{align*}\varlimsup\limits_{n\to\infty}a_n\ge\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n\end{align*}

が得られる.

極限と上極限・下極限

上極限と下極限を用いて,極限が存在するための必要十分条件を述べることができます.

実数列$\{a_n\}$に対して,次は同値である.

  • 上極限$\varlimsup\limits_{n\to\infty}a_n$と下極限$\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n$がともに収束して一致する
  • 極限$\lim\limits_{n\to\infty}a_n$が存在する

上極限$\varlimsup\limits_{n\to\infty}a_n$と下極限$\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n$がともに収束して一致するとき,不等式

   \begin{align*}\underline{a_n}\le a_n\le\overline{a_n}\end{align*}

で極限$n\to\infty$をとると,はさみうちの原理から極限$\lim\limits_{n\to\infty}a_n$が存在する.

逆に極限$\lim\limits_{n\to\infty}a_n$が存在するとする.$\alpha:=\lim\limits_{n\to\infty}a_n$とし,任意に$\epsilon>0$をとる.

このとき,ある$N\in\N$が存在して,

   \begin{align*}n>N\Ra \alpha-\epsilon<a_n<\alpha+\epsilon\end{align*}

が成り立つ.よって,先ほどの[命題1]から

   \begin{align*}\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n\ge\alpha-\epsilon,\quad \varlimsup_{n\to\infty}a_n\le\alpha+\epsilon\end{align*}

が成り立つから

   \begin{align*}\varlimsup\limits_{n\to\infty}a_n-\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n\le2\epsilon\end{align*}

を得る.

また,先ほどの[命題2]より$0\le\varlimsup\limits_{n\to\infty}a_n-\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n$であることを併せると,$\epsilon$の任意性より$\varlimsup\limits_{n\to\infty}a_n=\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n$が成り立つ.

この証明から,さらに次が成り立つことまで言えますね.

実数列$\{a_n\}$と$\alpha\in\R$に対して,次は同値である.

  • $\varlimsup\limits_{n\to\infty}a_n=\varliminf\limits_{n\to\infty}a_n=\alpha$
  • $\lim\limits_{n\to\infty}a_n=\alpha$

解析入門

[杉浦光男 著/東京大学出版会]

解析学の教科書としては非常に有名で,理論系で解析がしっかり必要となる人は持っておいてよいテキストです.

  • 第1巻で1変数の微分積分学
  • 第2巻で多変数の微分積分学

を扱っています.本書に対応した演習書「解析演習」も出版されています.

本書の特徴としては

  • 数学的に厳密に書かれている
  • 基本的な微分積分学の知識体系は網羅されている

の2点が挙げられます.

このため,辞書的に使う教科書という位置付けて持っている人も多いようです.

なお,この記事の内容は第1巻に載っています.

微分積分学

[笠原晧司 著/サイエンス社]

微分積分学の教科書として有名な名著です.

具体例を多く扱いイメージを掴むことに重点を置きつつ,議論もきっちりしているため,大学1年生の微分積分学をしっかり学びたい人には心強い味方になると思います.

具体例のレベルは基本的なものに加えて少々難しいものも含まれているので,いろいろな具体例に触れたい人は持っておいてもよいでしょう.

このため,しっかり数学をやりたい人の微分積分学の導入としてオススメできる一冊です.

コメント

タイトルとURLをコピーしました