フーリエ変換は「関数を波の和で表す」という発想に基づいた変換であり,理工系の様々な分野で重宝されています.また,
で定まる関数$G:\R\to\R$を1次元のガウス(Gauss)関数といいます.
このガウス関数$G$は確率・統計の分野では,$A=\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}$のとき平均$\mu$,分散$\sigma^2$の正規分布の確率密度関数としても有名ですね.
$\mu=0$の場合のガウス関数には,フーリエ変換を施しても再び$\mu=0$のガウス関数になるという性質があります.
詳しくは,$G(x)=e^{-\eta x^2}$で定まるガウス関数$G:\R\to\R$のフーリエ変換は
となります.
この記事では
- フーリエ変換とガウス関数
- 1変数のガウス関数のフーリエ変換の計算
- 1変数のガウス関数のフーリエ変換の計算
を順に説明します.
なお,微分方程式を解くことでガウス関数のフーリエ変換を計算する方法もあり,この方法については以下の記事を参照してください.
フーリエ変換とガウス関数
まずはこの記事の主役であるフーリエ変換とガウス関数の基本を確認しておきましょう.
フーリエ変換
形式的に,関数$f$のフーリエ変換は
で定義されます.
性質の良くない関数$f$に対してはフーリエ変換が定義できないこともありますが,簡単な目安としてルベーグ積分可能な関数$f$に対してはフーリエ変換が定義できます.
ルベーグ積分を知らない方はリーマン積分と思っていても,この記事の本題に大きな影響はありません.
実際,ルベーグ可積分可能な可測関数$f$, $\xi\in\R$に対して
なので,$\dint_{\R}|f(x)e^{-ix\xi}|\,dx$が有限の値として存在し,$\dint_{\R}f(x)e^{-ix\xi}\,dx$も有限の値として存在することが分かりますね.
[フーリエ変換(1変数)]$\R$上の可積分関数$f$に対して,フーリエ変換$\mathcal{F}$を
で定義する.
フーリエ変換$\mathcal{F}_{x}[f]$は$\hat{f}$と表記することもよくあります.
ガウス関数とガウス積分
冒頭でも説明したように,一般のガウス関数$G:\R\to\R$は
ですが,この記事で扱うガウス関数$G$は
とします.
さらに$\eta=1$の場合は$G(x):=e^{-x^2}$となりますが,このときの$G$の$\R$上の積分をガウス積分といい,
と計算されることがよく知られていますね.
ガウス関数とフーリエ変換
いま説明したガウス積分と,変数変換$y=\sqrt{\eta}x$より
となって$G$は可積分と分かるので,ガウス関数$G$のフーリエ変換は問題なく定義できますね.
ただ,ガウス積分の値が$\sqrt{\pi}$であることを知らなくても,$G$が可積分であることを示すだけであれば難しくありません.
$G(x)=e^{-\eta x^2}$で定まる関数$G:\R\to\R$は可積分関数である.
$x\to\pm\infty$で負冪の指数関数は多項式の逆数よりも早く減衰するから,ある$R>0$が存在して,$|x|\ge R$なら
が成り立つ.
また,任意の$x\in\R$に対して(したがって$x\in[0,R]$に対して),$e^{-\eta x^2}\le1$だから
となるから,$G$は可積分関数である.
ガウス関数のフーリエ変換
まず1変数のガウス関数のフーリエ変換を計算し,その結果を用いて多変数のガウス関数のフーリエ変換を計算しましょう.
1変数の場合
$G(x):=e^{-\eta x^2}$で定まるガウス関数$G:\R\to\R$のフーリエ変換が
と再びガウス関数になることを示せ.
$\eta=\dfrac{1}{2}$のときは$\mathcal{F}[G]=G$とガウス関数の形までも不変ですね.
フーリエ変換の定義より
である.被積分関数の冪の部分は$x$に関して
と平方完成できるから,$\lambda:=\frac{\xi}{2\eta}\in\R$とおくと
となる.あとは$\dint_{\R}e^{-\eta(x+i\lambda)^2}\,dx=\sqrt{\frac{\pi}{\eta}}$を示せばよい.
複素関数と積分経路
複素関数$f$を$f(z)=e^{-\eta z^2}$で定め,$R>0$を任意にとる.$\lambda>0(\iff\xi>0)$のとき4つの経路$L$, $L’$, $L_{R}$, $L_{-R}$を
で定める.
$\lambda<0(\iff\xi<0)$のときも同様に下図のように4つの経路$L$, $L’$, $L_{R}$, $L_{-R}$を定める.
いずれの場合も$\dint_{\R}e^{-\eta(x+i\lambda)^2}\,dx=\lim_{R\to\infty}\int_{L}f(z)\,dz$である.
全体の積分と$L_{\pm R}$上の積分
$f$は$\C$上の正則関数で$L’\cup L_{-R}\cup L\cup L_{R}$は閉曲線だから,コーシーの積分定理より
が成り立つ.よって,
が成り立つ.また
だから$\lim\limits_{R\to\infty}\dint_{L_{R}}f(z)\,dz=0$が成り立ち,同様に
だから$\lim\limits_{R\to\infty}\dint_{L_{-R}}f(z)\,dz=0$が成り立つ.
ガウス関数のフーリエ変換$\mathcal{F}[G]$
よって,(変数変換$x=\dfrac{y}{\sqrt{\eta}}$を用いて)ガウス積分と併せて
が従う.以上より,
となって,確かにガウス関数のフーリエ変換はガウス関数である.
多変数の場合
多変数の場合のフーリエ変換は以下の通りです.
[フーリエ変換(多変数)]$\R^N$上の可積分関数$f$に対して,フーリエ変換$\mathcal{F}$を
で定義する.ただし,$x\cdot\xi$は$x\in\R^N$と$\xi\in\R^N$の標準内積である.
多変数のガウス関数$G$を
としましょう.ただし,$x=[x_1,\dots,x_N]^T\in\R^N$であり,$|x|^2={x_1}^2+\dots+{x_N}^2$です.
このとき,ガウス関数$G$のフーリエ変換$\mathcal{F}[G]$は,1変数の場合の結果を用いて
となって,確かにガウス関数のフーリエ変換がガウス関数であることが分かりました.
多変数の場合も$\eta=\dfrac{1}{2}$であれば$\mathcal{F}[G]=G$となりますね.
微分方程式による求め方
冒頭でも紹介しましたが,微分方程式を解くことで求める方法もあります.
これはガウス関数$G(x)=A\exp{\bigl(-\frac{x^2}{2\sigma^2}\bigl)}$のフーリエ変換$\mathcal{F}[G]$が,未知関数$u$, 変数$t$の微分方程式の初期値問題
の解となることを示し,実際にこの微分方程式を解くことで求める方法です.
この方法については以下の記事を参照してください.
コメント