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バナッハの不動点定理|完備距離空間の縮小写像の不動点

写像f:X\to Xを施しても変化しない,すなわちf(x)=xを満たす点x\in Xf不動点といいます.

不動点に関する定理は様々なものがあり,[Banach(バナッハ)の不動点定理]もその1つです.

[Banachの不動点定理]は完備距離空間X上の縮小写像に関する不動点定理で,別名[縮小写像の定理]とも呼ばれています.

例えば,常微分方程式の解の存在と一意性を証明する方法としてPicard(ピカール)の逐次近似法(Picard–Lindelöfの定理)がありますが,これは本質的に[Banachの不動点定理]です.

この記事では,[Banachの不動点定理]について説明したのち,この定理の証明をします.

なお,[Picardの逐次近似法]については以下の記事を参照してください.

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前提知識の準備

[Banachの不動点定理]を説明するために

  • 距離空間
  • 完備距離空間
  • 縮小写像

について定義を確認しておきます.

距離空間

距離空間の定義は以下の通りです.

集合Xに対して,関数d:X\times X\to\Rを考える.dが以下の全てを同時に満たすとする.

  1. 任意のx,y\in Xに対してd(x,y)\ge0 (非負値性)
  2. d(x,y)=0 \iff x=y (非退化性)
  3. 任意のx,y\in Xに対してd(x,y)=d(y,x) (対称性)
  4. 任意のx,y,z\in Xに対してd(x,z)\le d(x,y)+d(y,z) (劣加法性)

このとき,dX距離関数または距離 (metrix)といい,組(X,d)距離空間 (metric space)という.また,距離dが明らかな場合には,単にXを距離空間という.

なお,劣加法性の不等式を三角不等式という.

距離空間について,詳しくは以下の記事を参照してください.

完備距離空間

距離空間の完備性を説明するためには,Cauchy(コーシー)列が必要です.

距離空間(X,d)の点列\{x_n\}_{n=1}^{\infty}Cauchy列であるとは,任意の\epsilon>0に対して,あるN\in\Nに対して,m,n>Nならd(x_m,x_n)<\epsilonが成り立つことをいう.

大雑把に言えば,X上の点列\{x_n\}_{n=1}^{\infty}がCauchy列であるとは,「十分大きくnmをとれば,x_nx_mをいくらでも近くできる」ということですね.

さて,任意の収束列はCauchy列となるが,逆にCauchy列はX上に極限をもつとは限らないのでした.

例えば,有理数全体の集合\Qと写像d:\Q\times\Q\to\R;(x,y)\mapsto|x-y|の組(\Q,d)は距離空間ですが,この距離空間(\Q,d)でのCauchy列は\Q上に極限をもつとは限りません.

実際,\Q上の数列\{x_n\}

  • x_1=1
  • x_2=1.4
  • x_3=1.41
  • x_4=1.414
  • x_5=1.4142
  • ……

と実数全体の集合\Rの中で\sqrt{2}に収束するものとして定めると,\{x_n\}\Q上のCauchy列ですが\sqrt{2}\notin\Qなので,\Qに極限を持ちません.

これについて,完備距離空間を以下のように定義します.

距離空間(X,d)上の任意のCauchy列がX上に極限をもつとき,(X,d)完備(complete)であるという.

すなわち,m, nを大きくとってx_mx_nをいくらでも近くできるなら,その空間の中に\{x_n\}の極限が存在するような距離空間を完備というわけですね.

例えば,実数全体の集合\Rと写像\tilde{d}:\R\times\R\to\R;(x,y)\mapsto|x-y|の組(\R,\tilde{d})は完備距離空間です.

先ほどの完備でない距離空間(\Q,d)と距離の定義は同様ですが,(\R,\tilde{d})の方は完備になります.

余談ですが,実は(\R,\tilde{d})(\Q,d)上のCauchy列がすべて極限をもつように(\Q,d)を拡張したものとなっています.

このように,完備でない距離空間(X,d)に対して,これを拡張してできる最小の完備距離空間(\tilde{X},\tilde{d})(X,d)完備化といいます.

縮小写像

距離空間の間の写像fについて,fが縮小写像であるとは以下のように定義します.

距離空間(X,d)に対して,写像f:X\to X縮小写像 (contraction)であるとは,あるp\in(0,1)が存在して,任意のx,y\in Xに対して

\begin{align*} d(f(x),f(y))\le pd(x,y) \end{align*}

が成り立つことをいう.

なお,定義式はd(f(x),f(y))\le pd(x,y)であって,d(f(x),f(y))<d(x,y)とは異なることに注意します.微妙な差ですが,

\begin{align*} &d(f(x),f(y))\le pd(x,y) \\\Ra\ &d(f(x),f(y))<d(x,y) \end{align*}

は真ですが,この逆は成り立ちません.

d(f(x),f(y))\le pd(x,y)の場合には\frac{d(f(x),f(y))}{d(x,y)}\le pなので,比率の上限が1になることはありません

\begin{align*} \sup_{x,y\in X}\frac{d(f(x),f(y))}{d(x,y)}\le p<1. \end{align*}

一方,d(f(x),f(y))<d(x,y)の場合には\frac{d(f(x),f(y))}{d(x,y)}<1なので,比率の上限が1になることもあります

\begin{align*} \sup_{x,y\in X}\frac{d(f(x),f(y))}{d(x,y)}\le 1. \end{align*}

したがって,fが縮小写像であるとは,fによって単に2点の距離が縮まるだけではなく,2点の距離の拡大率があるp\in(0,1)未満となっているということをいう.

また,縮小写像の連続性については次が言えます.

縮小写像はLipschitz(リプシッツ)連続である.したがって,連続写像である.

完備距離空間(X,d)上の縮小写像fを考える.あるp\in(0,1)が存在して,任意のx,y\in Xに対して

\begin{align*} d(f(x),f(y))\le pd(x,y) \end{align*}

が成り立つとする.このとき,任意の\epsilon>0に対して,d(x,y)<\epsilonを満たす任意のx,y\in Xに対して,

\begin{align*} d(f(x),f(y))\le pd(x,y)<d(x,y)<\epsilon \end{align*}

だから,fはLipschitz連続である.

Banachの不動点定理

準備ができたので,[Banachの不動点定理]について説明します.

Banachの不動点定理の主張

以下が,この記事のメインの[Banachの不動点定理]です.

[Banachの不動点定理(縮小写像の原理)] 空でない完備距離空間(X,d)上の縮小写像fは不動点を唯一つもつ.

また,任意のx\in Xに対して\lim_{n\to\infty}f^n(x)が,このfの不動点である.ここに,写像f^nfn回施す写像である.

つまり,完備距離空間(X,d)上の縮小写像fに対して,f(x)=xを満たすx\in Xが存在して,それが唯一つに限るということですね.

例えば,Euclid距離空間(\R^2,d)は完備で,写像

\begin{align*} f:\R^2\to\R;\bmat{a_1\\a_2}\mapsto\bmat{\frac{1}{2}a_2\\\frac{1}{3}a_1} \end{align*}

を考えます.f(\m{0})=\m{0}なので,\m{0}\in\R^2fの不動点であることはすぐに分かりますが,他には存在しないのでしょうか?

\m{x}=[a_1,a_2]^T, \m{y}=[b_1,b_2]^Tとすると,

\begin{align*} d(f(\m{x}),d(\m{y})) =&d\bra{\bmat{\frac{1}{2}a_2\\\frac{1}{3}a_1},\bmat{\frac{1}{2}b_2\\\frac{1}{3}b_1}} \\=&\sqrt{\bra{\frac{1}{2}a_2-\frac{1}{2}b_2}^2+\bra{\frac{1}{3}a_1-\frac{1}{3}b_2}^1} \\=&\sqrt{\frac{1}{2^2}(a_2-b_2)^2+\frac{1}{3^2}(a_1-b_1)^2} \\\le&\sqrt{\frac{1}{2^2}(a_2-b_2)^2+\frac{1}{2^2}(a_1-b_1)^2} \\=&\frac{1}{2}\sqrt{(a_2-b_2)^2+(a_1-b_1)^2} =\frac{1}{2}d(\m{x},\m{y}) \end{align*}

が成り立つので,f(\R^2,d)上の縮小写像となります.

よって,[Banachの不動点定理]より点\m{0}\in\R^2が唯一の不動点となります.

縮小写像によって空間が全体的にキュッと集まるので,ある1点以外では同じ点に留まることができないというイメージですね.

Banachの不動点定理の証明

fは縮小写像だから,あるp\in(0,1)が存在して,任意のx,y\in Xに対して

\begin{align*} d(f(x),f(y))\le pd(x,y) \end{align*}

が成り立つ.

また,X上の任意の点x_0\in Xから,f(x_n)=x_{n+1}によって帰納的にX上の点列\{x_n\}_{n=0}^{\infty}を定める.

以下,3つのステップに分けて不動点定理の証明を行う.

[Step 1] 点列\{x_n\}_{n=0}^{\infty}が極限を持つことを示す.

任意の\epsilon>0をとる.任意のm,n\in\N (m>n)に対して,三角不等式より

\begin{align*} d(x_m,x_n) \le& d(x_m,x_{m-1})+d(x_{m-1},x_{n}) \\\le& d(x_m,x_{m-1})+d(x_{m-1},x_{m-2})+d(x_{m-2},x_{n}) \\&\vdots \\\le& d(x_m,x_{m-1})+d(x_{m-1},x_{m-2})+\dots+d(x_{n+1},x_{n}) \end{align*}

である.また,任意のk\in\Nに対して,

\begin{align*} d(x_{k+1},x_k) =&d(f(x_k),f(x_{k-1})) \\\le& p d(x_k,x_{k-1}) \\=&p d(f(x_{k-1}),f(x_{k-2})) \\\le&p^2 d(x_{k-2},x_{k-3}) \\&\vdots \\\le&p^k d(x_1,x_0) \end{align*}

である.これらを併せて,p\in(0,1)に注意すると,

\begin{align*} d(x_m,x_n) \le& p^{m-1}d(x_1,x_0)+p^{m-2}d(x_1,x_0)+\dots+p^n d(x_1,x_0) \\=&\frac{p^n d(x_1,x_0)\bra{1-p^{m-n}}}{1-p} \\\le&\frac{p^n d(x_1,x_0)(1-0^{m-n})}{1-p} =\frac{p^n d(x_1,x_0)}{1-p} \end{align*}

である.よって,n\ge\log_{p}\frac{(1-p)\epsilon}{2d(x_1,x_0)}となる最小のnNとすると,m,n>Nのとき

\begin{align*} d(x_m,x_n) \le\frac{\epsilon}{2} <\epsilon \end{align*}

となるから,\{x_n\}_{n=0}^{\infty}はCauchy列である.

距離空間(X,d)は完備だから,Cauchy列\{x_n\}_{n=0}^{\infty}は極限x:=\lim_{n\to\infty}x_nをもつ.

[Step 2] 極限xfの不動点であることを示す.

上の命題で示したように,fは連続写像だから,

\begin{align*} f(x_n)=x_{n+1} \Ra\ &\lim_{n\to\infty}f(x_n)=\lim_{n\to\infty}x_{n+1} \\\iff&f\bra{\lim_{n\to\infty}x_n}=\lim_{n\to\infty}x_{n+1} \\\iff&f(x)=x \end{align*}

が成り立つ.よって,xfの不動点である.

[Step 3] fの不動点が唯一つであることを示す.

x,y\in Xfの不動点とすると,

\begin{align*} d(x,y) =d(f(x),f(y)) \le pd(x,y) \end{align*}

だから,(1-p)d(x,y)\le0である.

また,もとより0\le(1-p)d(x,y)だから(1-p)d(x,y)=0なので,1-p\neq0に注意するとd(x,y)=0を得る.

よって,非退化性よりx=yとなって不動点は唯一つである.

[Banachの不動点定理]は不動点が存在することを示す定理ですが,加えて

  • 不動点が一意であること
  • 任意の点から不動点を近似できること

が優れています.後者については,任意の点にfを繰り返し施すだけで不動点を近似できるわけですから,例えばプログラミングなどでも活躍しますね.

冒頭でも紹介しましたが,この[Banachの縮小写像]が分かっていれば,常微分方程式の解の存在と一意性に関する[Picard-Lindelöfの定理]のイメージも湧きやすくなります.

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