ユークリッド空間
この
そこで距離空間での連続性の定義を距離を用いない条件に言い換えることができれば,その条件を位相空間上の写像の連続性を定義とすることができそうですね.
そこで,この記事では
- 距離空間上の写像の連続性の定義
- 位相空間の定義
- 距離空間の位相
- 位相空間上の写像の連続性の定義
を順に説明します.
距離空間上の連続写像
まずは距離空間上の連続写像の定義を確認しておきましょう.
ユークリッド空間の連続性
一般の距離空間上の連続写像の話に移る前に,ユークリッド空間
[写像
また,
ただし,
この定義[写像
この定義は距離空間の連続写像の特別な場合に過ぎませんが,連続写像
距離空間の定義
次に距離空間の定義を確認します.
[距離空間] 集合
であることと, であることは同値である(非退化性).- 任意の
に対して を満たす(対称性). - 任意の
に対して を満たす(劣加法性).
が成り立つことをいう.
このとき,写像
距離の定義に次の非負値性を含めることもありますが,非負値性は上の定義の3性質から導くことができます.
[距離の非負値性] 距離空間
この[距離の非負値性]の証明や距離空間の定義のイメージについては,以下の記事を参照してください.

距離空間の連続写像
通常,距離空間上の連続写像は次のように定義されます.
[距離空間上の連続写像]
が成り立つことをいう.
また,
具体的に距離空間
, ,
で定めると,最初に確認した定義[写像
位相空間と距離空間
次に距離空間を自然に位相空間とみなすことができることを説明します
位相空間の定義
まずは位相空間の定義を確認しておきましょう.
[位相空間] 集合
- 空集合
と全体集合 はともに に属する: の有限個の元 の共通部分 も に属する: の任意個(無限個も可)の元 の和集合 も に属する:
このとき,部分集合族
なお,
本来,位相とは開集合系を定めることによって定まる数学的構造のことを指しますが,簡単に開集合系
距離空間の位相
ここで距離空間の開近傍の定義を確認しておきましょう.
距離空間
を点
開近傍は単に近傍と呼ばれることも多いですね.
次の命題は距離空間と位相空間を繋ぐ重要な役割を果たします.
[距離空間の位相] 距離空間
位相空間の定義の(1)~(3)を確認すれば良い.
[(1)の証明]
[(2)の証明]
よって,
[(3)の証明]
このとき,
もとより,
学部1年生ではユークリッド空間
「1年生で学んだユークリッド
と学ぶことが学ぶことが多いですね.
以降,この命題[距離空間の位相]により定まる位相を距離空間の位相とします.
位相空間上の連続写像
それでは一般の位相空間上の連続写像を定義しましょう.
距離空間の開集合と連続写像
一般の位相空間には距離が定義されていないため,
また,距離空間は位相空間の一種なので距離空間上の写像の連続性に矛盾しないように定めなければなりません.そこで,次の定理がポイントとなります.
[連続写像の同値条件] 2つの距離空間
は 上で連続.- 任意の開集合
に対し, は の開集合.
[
をみたす.条件1が成り立っていれば
が成り立つ.すなわち,任意の
となって,
[
さらに,もとより
が成り立つ.よって,
これは任意の
を満たすことに他ならないから,定義から
位相空間の連続写像
ここで重要なことは,上の定理[連続写像の同値条件]の2つ目の条件は距離空間でない一般の位相空間にも通用するという点です.
つまり,一般の位相空間上の写像の連続性を定理[連続写像の同値条件]の2つ目の条件により定めれば,既に距離空間で定めていた写像の連続性の定義と矛盾しませんね.
[位相空間上の連続写像] 位相空間
このことは,標語的に「開集合の連続写像による引き戻しは開集合」ということが多いですね.
証明は省略しますが,この「開集合」を「閉集合」に変えた次の「閉集合の連続写像による引き戻しは閉集合」も成り立ちます.
[連続写像の同値条件’] 距離空間
は 上で連続.- 任意の閉集合
に対し, は閉集合.
この定理[連続写像の同値条件’]の2つ目の条件を連続写像の定義とすることもできますが,慣習的に開集合の引き戻しによって連続写像を定義するのが普通です.
参考文献
集合・位相入門
[松坂和夫 著/岩波書店]
本書は「集合論」「位相空間論」をこれから学ぶ人のための入門書です.
本書は説明が丁寧で行間が少ないテキストなので,初学者にとっても読みやすくなっています.
実際,本書は1968年に発刊されて以来売れ続けている超ロングセラーで,2018年に新装版が発売されたことからも現在でも広く使われていることが分かります.
具体例が多く扱われているのも特徴で,新しい概念のイメージも掴みやすいように書かれています.
また,各セクションの終わりに少なくない数の演習問題も載っており,演習書的な使い方もできます.
なお,本書については,以下の記事で書評としてまとめています.
【オススメの教科書|集合・位相入門(松坂和夫著,岩波書店)】
本書の目次・必要な知識・良い点と気になる点・オススメの使い方などをレビューしています.
集合と位相
[鎌田正良 著/近代科学社(現代数学ゼミナール)]
本書はすっきりと書かれた「集合論」「位相空間論」の教科書です.
簡潔な説明が多いので,集合と位相の基本の全体像をさらうのに適しています.
裏返せば簡潔すぎてかえって分かりにくい可能性もありますが,数学をきちんと学びたい人には是非読みこなして欲しいテキストです.
また,演習問題の解説も丁寧に書かれているので,この点は独学で学ぶ場合には重宝します.
背景にある位相の圏論的な性質も踏まえて解説されており,数学系の学生は是非とも理解しておきたい考え方です.
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