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ベクトル空間の基底とハメル基底の存在の証明

Zorn(ツォルン)の補題は選択公理と同値な存在定理である.

選択公理を認めないとする立場もあるが,この記事では選択公理を認めてZornの補題を用いることで様々なものの存在を証明することができる.

例えば,この記事で扱う

  1. ベクトル空間における基底
  2. Hamel基底

の存在は両者ともZornの補題によって証明することができる.すなわち,選択公理を認めれば

  1. \{0\}でない任意のベクトル空間は基底を持つ
  2. Hamel基底が存在する

を証明することができる.

なお,Hamal基底のイメージなどについては以下の記事でも説明しているので参照されたい.

【参考記事:ハメル基底とf(x+y)=f(x)+f(y)をみたす関数

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Zornの補題

最初にZornの補題について説明するが,その前にいくつか定義をしておく.

[順序集合] 集合X上に定義された二項関係\leが次の1〜3が満たされるとき,Xを「順序集合」という.

  1. 任意のa\in Xに対して,a\le aである.(反射律)
  2. a\le bかつb\le cをみたす任意のa,b,c\in Xに対して,a\le cである(推移律).
  3. a\le bかつb\le aをみたす任意のa,b\in Xに対して,a=bである(反対称律).

さらに,次の4が満たされるとき,Xを「全順序集合」という.

  1. 任意のa,b\in Xに対して,a\le bまたはb\le aである(全順序律).

Xが順序集合といった場合には,比較できないXの2元が存在してもよい.任意のXの2元が比較できるときに,Xを全順序集合という.

なお,全順序集合と区別するために順序集合を「半順序集合」ということもあるが,この記事で単に「順序集合」と書いた場合には比較できない元があってもよい集合を指す.

[帰納的] 順序集合Xの任意の全順序部分集合YXに上界を持つとき,Xは帰納的であるという.ただし,ここでのYの順序はXに定義されている順序である.

順序集合Xが空でないとき,Xの部分集合であって全順序集合であるものが存在する.実際,任意のx\in Xに対して,1つの元からなる\{x\}は全順序部分集合である.

このように,Xの部分集合であって全順序集合であるものが存在するが,それらのどの全順序部分集合もX上に上界をもつとき,Xを帰納的順序集合という.

すなわち,任意の全順序部分集合Y\subset Xに対し,任意のy\in Yに対して,y\le xとなるx\in Xが存在することをいう.

[Zornの補題] 空でない帰納的順序集合は極大元をもつ.

[Zornの補題]によって示される極大元は1つとは限らない.無数に存在することもある.

基底の存在の証明

[Zornの補題]を使って

  1. ベクトル空間の基底
  2. Hamel基底

の存在を示すが,その前に次の基本的な事柄を確認しておく.

集合族は包含関係により順序集合となる.

集合族とは,簡単に言えば「集合の集合」のことである.

さて,集合族は包含関係\subsetにより順序となる,すなわち二項関係\subsetが順序の定義を満たすことを示しておく(がほとんど当たり前である).

[証明]

\mathcal{X}を集合族とする.

任意のA\subset\mathcal{X}に対して,A\subset Aだから,反射律が成り立つ.

A\subset B,B\subset Cをみたす任意のA,B,C\subset\mathcal{X}に対して,A\subset Cだから,推移律が成り立つ.

A\subset B,B\subset Aをみたす任意のA,B\subset\mathcal{X}に対して,A=Bだから,反対称律が成り立つ.

[証明終]

ベクトル空間の基底とその存在証明

まず,ベクトル空間の基底の定義を見ておく.

[ベクトル空間の基底] ベクトル空間Vに対して,Vの部分集合Bが基底であるとは,次を満たすことをいう:

  1. 任意の有限個のb_1,\dots,b_n\in Bに対して,b_1,\dots,b_nは線型独立である.
  2. 任意のv\in Vに対して,有限個のb_1,\dots,b_n\in Bが存在して,vb_1,\dots,b_nの線形結合で表せる.

Bの元の個数が有限個である必要はないことに注意する.

ただし,この定義により,全てのベクトル空間が基底にもつかどうかは分からない.もしかすると,基底を持たないベクトル空間が存在するかもしれない.

しかし,[Zornの補題]を用いることによって,全てのベクトル空間に基底の存在が証明できるのである.

すなわち,[Zornの補題]により,次が証明できる.

\{0\}でない任意のベクトル空間は基底をもつ.

[証明]

Fを体,V\{0\}でないF上のベクトル空間とする.このVが基底をもつことを示す.

次をみたすVの部分集合Bの族を\mathcal{B}とする:任意の有限個のb_1,\dots,b_n\in Bに対して,b_1,\dots,b_nは線型独立である.

Step.1

\mathcal{B}が包含に関して極大元をもつことを示す.

集合族は包含関係に関して順序集合となることは,上の命題で示した.また,V\{0\}ではないから,v\in V\setminus\{0\}が存在する.このとき,集合\{v\}からとれる有限個の元はvのみであり,vは線型独立だから,\mathcal{B}は空でない.

よって,あとは\mathcal{B}が帰納的であることを示せば,[Zornの補題]により\mathcal{B}は包含に関して極大元をもつことが分かる.すなわち,任意の全順序部分集合\mathcal{A}\in\mathcal{B}に対して,\mathcal{A}の上界が\mathcal{B}に存在することを示せばよい.

A_{*}\subset V

A_{*}:=\bigcup_{A\subset\mathcal{A}}A

で定める.

このとき,A_{*}\mathcal{A}の上界であることは明らかだから,A_{*}\in\mathcal{B}を示せばよい.

任意の有限個のa_1,\dots,a_n\in A_{*}に対して,a_k\in A_{k}\ (k\in\{1,\dots,n\})となるA_{k}\in\mathcal{A}\ (k\in\{1,\dots,n\})が存在する.いま,\mathcal{A}は全順序集合だから,あるk_{*}\in \{1,\dots,n\}が存在してA_{k}\subset A_{k_{*}}\ (k\in\{1,\dots,n\})が成り立つ.

よって,a_1,\dots,a_n\in A_{k_{*}}が成り立ち,A_{k_{*}}\in\mathcal{B}だからa_1,\dots,a_nは線型独立である.

以上より,A_{*}\in\mathcal{B}が従う.

Step.2

\mathcal{B}の包含に関する極大元がVの基底となることを背理法により示す.すなわち,\mathcal{B}の包含に関する任意の極大元をBとし,Bの有限個の元の線形結合で表せないv\in Vが存在するとして矛盾を導く.

このとき,B':=B\cup\{v\}とする.B'から任意の有限個の元b_1,\dots,b_nをとる.

b_1,\dots,b_n\in Bなら,B\in\mathcal{B}からb_1,\dots,b_nは線型独立である.

あるk\in\{1,\dots,n\}に対してb_k=vなら,c_1b_1+\dots+c_nb_n=0\ (c_1,\dots,c_n\in F)のときc_k=0である.実際,c_k\neq0なら,両辺をc_kで割ってvを移項することにより,vBの元の線形結合で表せることになり矛盾するから,c_k=0である.

したがって,B'\in\mathcal{B}が従う.これは,B\mathcal{B}の極大元であることに矛盾する.よって,\mathcal{B}の包含に関する極大元はVの基底となる.

[証明終]

Hamel基底とその存在証明

まず,Hamel基底の定義を見ておく.

[Hamel基底] 次を満たすB\subset\RをHamel基底という:

  1. 任意の有限個のb_1,\dots,b_n\in Bに対して,r_1b_1+\dots+r_nb_n=0\ (r_1,\dots,r_n\in\Q)ならr_1=\dots=r_n=0が成り立つ.
  2. 任意のx\in\Rに対して,有限個のb_1,\dots,b_n\in Bと同数のr_1,\dots,r_n\in\Qが存在して,x=r_1b_1+\dots+r_nb_nと表せる.

すなわち,Hamel基底は体\Q上のベクトル空間\Rの基底ということができる.

【参考記事:ハメル基底とf(x+y)=f(x)+f(y)をみたす関数

ただし,いま「Hamel基底はこういうものである」ということを述べただけで,これが存在するかどうかは全く分かっていない.もしかすると,この定義はill-definedであって,Hamel基底など存在しないかもしれない.

しかし,[Zornの補題]を用いることによって,Hamel基底の存在が証明できるのである.先に見た「ベクトル空間の基底の存在の証明」でV=\RF=\Qと見ることにより,同様に議論を進めることができる.

Hamel基底は存在する.

[証明]

次をみたす\Rの部分集合の族を\mathcal{B}とする:任意の有限個のb_1,\dots,b_n\in\mathcal{B}に対して,r_1b_1+\dots+r_nb_n=0\ (r_1,\dots,r_n\in\Q)ならr_1=\dots=r_n=0が成り立つ.

Step.1

\mathcal{B}が包含に関して極大元をもつことを示す.

集合族は包含関係に関して順序集合となることは,上の命題で示した.また,x\in\R\setminus\{0\}に対して,rx=0\ (r\in\Q)ならr=0だから\{x\}\in\mathcal{B}となって,\mathcal{B}は空でない.

よって,あとは\mathcal{B}が帰納的であることを示せば,[Zornの補題]により\mathcal{B}は包含に関して極大元をもつことが分かる.すなわち,任意の全順序部分集合\mathcal{A}\in\mathcal{B}に対して,\mathcal{A}の上界が\mathcal{B}に存在することを示せばよい.

A_{*}\subset\R

A_{*}:=\bigcup_{A\subset\mathcal{A}}A

で定める.

このとき,A_{*}\mathcal{A}の上界であることは明らかだから,A_{*}\in\mathcal{B}を示せばよい.

任意の有限個のa_1,\dots,a_n\in A_{*}に対して,a_k\in A_{k}\ (k\in\{1,\dots,n\})となるA_{k}\in\mathcal{A}\ (k\in\{1,\dots,n\})が存在する.いま,\mathcal{A}は全順序集合だから,あるk_{*}\in \{1,\dots,n\}が存在してA_{k}\subset A_{k_{*}}\ (k\in\{1,\dots,n\})が成り立つ.

よって,a_1,\dots,a_n\in A_{k_{*}}が成り立ち,A_{k_{*}}\in\mathcal{B}だからa_1,\dots,a_nは線型独立である.

以上より,A_{*}\in\mathcal{B}が従う.

Step.2

\mathcal{B}の包含に関する極大元がHamel基底となることを背理法により示す.すなわち,\mathcal{B}の包含に関する任意の極大元をBとし,r_1b_1+\dots+r_nb_n\ (r_1,\dots,r_n\in\Q,b_1,\dots,b_n\in B)の形で表せないx\in Vが存在するとして矛盾を導く.

このとき,B':=B\cup\{x\}とする.B'から任意の有限個の元b_1,\dots,b_nをとる.

b_1,\dots,b_n\in Bなら,B\in\mathcal{B}からr_1b_1+\dots+r_nb_n=0のときr_1=\dots=r_nである.

あるk\in\{1,\dots,n\}に対してb_k=xなら,r_1b_1+\dots+r_nb_n=0\ (r_1,\dots,r_n\in F)のときr_k=0である.実際,r_k\neq0なら,両辺をr_kで割ってxを移項することにより,x

r'_1b_1+\dots+r'_{k-1}b_{k-1}+r'_{k+1}b_{k+1}+\dots+r'_nb_n

の形で表せることになり矛盾するから,r_k=0である.

したがって,B'\in\mathcal{B}が従う.これは,B\mathcal{B}の極大元であることに矛盾する.よって,\mathcal{B}の包含に関する極大元はHamel基底である.

[証明終]

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コメント

  1. ででどん より:

    \{0\}でない任意のベクトル空間は基底をもつって本当ですか?
    例えば実数の無限数列ってベクトル空間と見なせますけど、一般に基底のうち有限個を選んでも数列をその線型結合で表せないと思います。

    1. yama-taku より:

      ご質問をありがとうございます.

      例示して頂いた実数列の空間を\ell(\R)とすると,

          \begin{align*} A:=\set{e_n\in\ell(\R)}{n\in\N} \end{align*}

      は(無限和を考えれば全てのベクトルを表せそうなイメージではあるものの)もちろん\ell(\R)の基底ではありません(e_nは第n成分のみ1の実数列とします).しかし,Aの任意の有限個の元は線型独立です.
      ここで,Aa:=(1,1,1,\dots)と全ての成分が1の数列を付加した集合をA_{1}とします:

          \begin{align*} A_{1}:=A\cup\{a\}. \end{align*}

      このとき,A_{1}もやはり\ell(\R)の基底ではありませんが,A_{1}の任意の有限個の元は線型独立です.
      続いて,A_{1}b:=(1,2,3,\dots)と第n成分がnの数列を付加した集合をA_{2}とします.

          \begin{align*} A_{2}:=A_{1}\cup\{b\}=A\cup\{a,b\}. \end{align*}

      このとき,A_{2}\ell(\R)の基底ではありませんが,A_{2}の任意の有限個の元は線型独立です.

      基底の存在の証明にZornの補題(⇔選択公理)が必要となるのは,お気付きのように無限次元の場合ですが,今見たように無限次元の場合には線型独立なベクトルをどんどん付加していくことができます.
      Zornの補題(⇔選択公理)が必要な存在証明は具体的構成は一般に困難ですので,この\ell(\R)の基底を具体的に構成することは難しいです.
      しかし,「うまく線型独立なベクトルを(無限に)増やしていくことができれば,\ell(\R)の任意の元が有限個のベクトルの和で表せるようになる」と理解して頂ければ良いのではないかと思います.

      1. ででどん より:

        大変丁寧な回答ありがとうございます.量子論で無限次元の複素ヒルベルト空間が出てきたので気になっていました.
        有限次元の場合からの類推から、Aが基底になるはずだがならないので基底は存在しない、と思い込んでいましたが、単なる思い込みでした.確かに、うまくAに無限にベクトルを追加すれば基底になるかもしれない(実際になる)と思いました.
        有限次元と無限次元の違いが浮き彫りになる感じですごいと思います.

        1. yama-taku より:

          ご返信をありがとうございます.

          ご納得頂けたようで安心しました.
          有限次元の類推が無限次元にそのまま通用するとは限らないのは,無限次元の難しさでもあり,面白さですよね.

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